なんでだか、花屋の前に立っている。
どうしてこういうことになったのか。
ああ、昨夜の賭けのせいだ。





貴方に花を贈らせる方法





――― 負けたら、勝った方の言うことを何でもきくこと ―――


そうだった。ナミにポーカーで負けて。
あのヤロウ、「全然やったことない〜〜」とかなんとかぬかしてやがったが、どう見てもありゃ相当な場数踏んでやがるだろ!?


――― 私が負けたら、あんたの言うこと、なんでもきいてあげるから ―――


「なんでもきいてあげる」・・・・・・・これに思わず反応しちまった。
いや、別にナミにナニさせようとか思ったわけじゃねぇが。
とにかく、これでマジになっちまったのは確かだ。
で、負けちまったわけだが。


――― 花を、買ってきてくれる?部屋に飾りたいの ―――


花だぁ!?
んなもん、自分で買ってこい。
じゃなきゃ、クソコックにでも頼め。


――― だめ、サンジくんは明日は朝からチョー忙しいの。その点、あんたはチョー暇だし ―――


チョーチョーうるせぇよ。
だいたい海の上でどうやって花なんか買うんだよ。


――― 明日のお昼には島に着くはずなの。だから、ネ? ―――


めんどくせぇ・・・・。


――― まさか、約束破ろうってワケじゃないでしょうね? ―――


!!


――― 言っとくけど、ゾロが負けたんだからね?そこんとこ、お忘れなきよう! ―――


チクショウ・・・・。




***




そんなワケで花屋の前に立っている。
特に目指して歩いていたわけでもないのに、花屋にたどり着いた。
俺ってすげぇな。

「いらっしゃいませー。どんなお花がご入用ですか?」

明るい声で、若い店員が声を掛けてきた。


――― ここにメモした花を使って、 ―――


俺は、ナミから預かったメモを無造作に店員に渡した。
それから・・・。


――― 花束にしてくださいって言うのよ! ―――


「あー・・・花束に・・・。」
「はい、かしこまりました。ご予算はいかほどでしょう?」


――― はい、お金。これで買える分を買ってきてね ―――


腹巻の中に仕舞いこんでおいた1万ベリーを出し、それも店員に手渡した。

しばし待つ。

店員は赤い花(バラと思われる。それくらいは俺でも分かる)と白い小さな花の茎を、適当な長さに切り、束ねる。
桃色の柔らかそうな薄紙とセロファンで包み込む。
持ち手の部分にやはり赤いリボンが巻かれた。

見る間にバラバラだったバラの花(シャレではない)が、花束に生まれ変わっていく。

その手際の良さに、大したもんだと思った。
花束を整えつつ、店員は俺の方に向き直り、おもむろに言ってきた。

「今なら、メッセージカードを添えるサービスをいたしておりますが、いかがいたしましょうか?」

「・・・・!?」


おい、ナミ!メッセージだとよ。
これはどうすんだ?


――― ・・・・・・ ―――


いるのか、いらねぇのか、どっちなんだ!?


――― ・・・・・・ ―――


くそう、分からねぇ!

記憶の中のナミに問いかけても、沈黙が返ってくるばかり。
そりゃそうだ、そんなこと、ナミは一言も言ってねぇ。

何も言えないで固まっている俺を見るに見かねてか、店員が早口で、


「あの、カードは添えられない方も多いですから!」


そう言って、店員は花束の仕上げにかかる。

察しのいい店員で助かったぜ。
くそ、変な汗掻いちまった。


「お待たせいたしました。」

そう言って店員に花束を渡された。
おっかなびっくり手に持つ。
大きさといい、重さといい、なかなか持ち応えがある。

とにかく、これで任務(?)完了だ。とっとと帰ろう。
花束を片手で肩に担ぎ上げ、店員に礼を言った。

「こちらこそ、ありがとうございました。うふv 恋人へのプレゼントですか?」

「・・・・!?」

「ああっ、すみません!また余計なこと聞いてしまいまして!」


実に、察しのいい店員だ・・・・。




***




帰る道中、道を歩くヤツラがどいつもこいつも振り返るのには正直辟易した。
どうせ俺みたいな男が花束なんか持っているのが奇妙で仕方が無いんだろう。

文句を垂れてたが、よく考えてみりゃ賭けの代償にしては軽いもんだと、最初は思っていた。
もっと無理難題をふっかけられてもおかしくなかったのに。
しかし、今になってみると、間違いなく、ナミは俺への嫌がらせのつもりでこんなことさせたに違いねぇ。
まったく、二度とごめんだ、こんな役目は。

念じれば通ず。
またしても、どこをどうやってきたのか自分でもサッパリわからないが、港に戻ってくることができた。

港に見たことがあるヤツが立っているなと思ったら、なんとナミだった。
しかし、いつものナミと違う。
なんつーか、めかし込んでやがる。
Tシャツに短けぇ下のヤツとかでなくて、胸元が大きく開いてて、身体のラインにピタっと張り付くような黒い布地で、いつもより足が隠れている服だった。
その上、髪を後ろでまとめてやがるから、白い首筋がよく見える。
平たく言うと、よそ行きの格好だ。
なんでこんな格好してやがるんだ?

「なんだ、その格好―――・・・」
「あ、ゾロ、おかえり!花、買ってきてくれたのね!」

嬉しそうに手を振るナミの、その余りの屈託の無さに、俺も毒気を抜かれた。
「おらよ」と肝心の花束をナミに向かって無造作に放る。
ナミは両手でそれをキャッチした。

「ありがとう〜〜!うれしい〜〜!!」

本当に嬉しそうに花を見つめた後、匂いを嗅ぐために花に顔を近づける。
一通り香りを堪能した後、俺を見上げて満足そうに笑った。
にっこりと。
まるで、花が咲いたみたいに。

俺は急に照れくさくなって、すぐに立ち去ろうとした。

「ゾロ!」
「あ?」

呼び止められ、もう一度ナミを見た。

花束を抱えたナミ。
やっぱりこういう花束は、ナミみたいな女が持っている方が似合う。

自分で呼び止めておきながら、ナミは花束と俺を交互にを見つめ、妙にモジモジしていた。

「なんだよ?」

「あのね、」

一呼吸置いた後、ナミは一気に言った。



「今日、私の誕生日なの。」



「あー・・・そりゃ、」



こう言われちゃ、言わねぇワケにいかねぇだろ。



「おめでとう。」




ナミの笑顔が、満開になった。






しかし、どうもナミに踊らされたような気がしてならねぇんだが・・・。

記憶の中のナミが、ウフフと笑った。




FIN


<あとがき或いは言い訳>
ナミさん、ゾロから花を贈ってもらいたかったんです・・・。
ゾロに祝ってもらえてよかったね。
ということで、ナミ、誕生日おめでとう!貴女の永遠の幸福を祈る。

なお、この作品はDLフリーです。よろしければお持ち帰りください^^。




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