BRILLIANT☆PINK

cherry 様




 なんだか得体の知れないもんが、唇の上を這い回ってやがる・・・。
 意識の奥の奥の方で、ゾロはそう思った。
 ・・・あんまり気持ちのいいもんじゃねぇな・・・。
 そう思ったところで、ゾロははっと目を覚ます。目の前に、ふふん、と笑う女がいた。
「あら、起きちゃったの」
 そう言うと、その女・・・ナミは、持っていたその・・・ピンク色の口紅の、おしりのところをクルクルと回して口紅を仕舞うと、カチャリと蓋を閉める。
「・・・何やってんだ?お前・・・」
 寝起きでまだボーっとしながら、ゾロはナミの仕草をじっと見遣る。ふと、先程の感触を思い出して、ゾロは慌てて手の甲で唇を拭った。手の甲が、ピンク色にキラキラと輝く。
「馬鹿っ、何塗ってんだよお前はっ」
 怒るゾロを尻目に、ナミはすまして答える。
「何って、口紅。サンジ君にもらったの」
「・・・そういうこと訊いてんじゃねぇんだよ」
 ナミに悪態を吐きながらも、心の中で、ゾロは小さく呟く。
 ・・・しかし、よくやるなアイツも。俺だったら、店の前で3時間悩んでも絶対に買わねぇ・・・。
「つーか、もらったもんなら俺に使わねぇで自分で使えよ」
「あら、失礼ね。もう塗ってるわよ」
 そう言うと、ナミは自分の唇を指差す。ピンク色にキラキラと、それは光を浴びた果実のように輝く。
 が。
 ・・・いつもとの違いがわからねぇ。
 ゾロにしてみればその程度。
「それに、私ちゃんと言ったわよ?『起きないと塗っちゃうわよ』って」
「わかるかそんなもん」
 ゾロはそう言うと、昼寝を続けようと壁に凭れかかる。
「こらこら、待ちなさい」
 再び目を閉じようとするゾロを、ナミが軽く小突いた。ゾロは面倒くさそうに片眉を上げてナミを見る。
「・・・あ?まだ何かあるのか?」
「あんたねぇ、私が何でサンジ君からこれもらったと思ってんの。今日は私の誕生日なのっ」
「そうか、そりゃおめでとう」
 言ってから、ゾロの体にゾクッと悪寒が走った。ものすごく嫌な予感。
「で?あんたからは?まさか何もないなんて言わないわよねぇ?」
 ・・・こういうときのこいつは悪魔だな。
 ゾロはぼんやりと思う。
 大体、自分の誕生日もろくに覚えてねぇのに、俺が人の誕生日を覚えてると思うか?つーか、こいつはそれを知ってて言ってるな・・・。
 そして何もしないとどうなるかくらいも、ゾロは容易に想像がついた。
「まぁ、ゾロにこういうものは期待してないけどね」
 持っている口紅をひらひらと揺らしながら、ナミはふふん、と笑う。
「あんただったら、店の前で3時間悩んでも絶対に買えないでしょ?」
「・・あぁ?」
 その言葉に、ゾロがぴくりと反応する。
 自分でもそれをやらないことはわかっているし、やろうとも思わないが、あのコックにできて自分にできないと言われると、なんだか腹が立つ。
「・・・買えないんじゃなくて買わねぇんだ。つーか、3時間もまず悩まねぇ」
「はいはい」
 ナミは、それで?とでも言わんばかりにゾロを見遣る。
 ・・・この女・・・。
 自分を皮肉めいた・・・いや、ある意味期待に満ちた目で見つめるナミを、ゾロは恨めしそうに見た。
 なんとかこいつを出し抜いてやりてぇ・・・。
 ゾロはしばらく不機嫌そうな顔でナミを見ていたが、ふと、何かを思いついたように、「おい・・・」とナミに小さく声をかけた。
「ん?何・・・?」
 声をよく聞こうと、ナミがゾロの方へ耳を傾ける。
 その瞬間、ナミの頬に、何かやわらかくあたたかなものが触れて、ナミは思わずそこから飛び退くと、自分の頬を手で押さえた。
「ちょ、ちょっと何?今の」
 頬を押さえていた手を退けると、手のひらに、僅かにピンク色が光っていた。頬にはくっきりと、ピンク色のキスマーク。
「何って、誕生日プレゼントだろ?」
 壁に凭れかかったまま、ゾロがにやりと笑う。
「それとも、頬より唇の方が良かったか?」
「馬鹿っ」
 僅かに頬を紅潮させながらも、ナミはじろっとゾロを睨むと、すくっと立ち上がる。
「プレゼントくれなかった分と、私のほっぺを無断で奪った分、締めて10万、借金にしっかり上乗せさせていただきますからねっ」
 捨て台詞を残して、そのままくるりとゾロに背を向けると、ナミは大きな足音を立てながらすたすたとキッチンの方へ向かう。
「あ、おいこら、それプレゼントだっつったろ?」
「却下っ」
 慌てるゾロを尻目に、ナミはひらひらと手を振って去っていった。
「つーか、そのまま戻ったらバレバレだっつーの・・・」
 キスマークがついたままのナミの頬を思い出しながら、ゾロは呟く。
 ・・・あ〜、クソ、10万足したらいくらになるんだ?
 律儀に借金の額を計算してため息を吐きながらも、ゾロはなんとなく、美味しい思いをしたような気がしてならないのだった。




FIN







<管理人のつぶやき>

ゾロってば・・・・!! オイシイ、君はオイシ過ぎる!!
唇に口紅を塗る動作はどこか官能的。そんなことナミにしてもらえるなんて羨ましいゾ(←私情含む)。
そしてただヤラれてるゾロではない。ナミを出し抜こうと取った行動がナミのほっぺへのキスv
唇の形のついたほっぺを見たみんなはどう思ったでしょうね^^(特にサンジは複雑やろうなぁ・汗)

【cherryのおとぎ話】のcherryさんが投稿してくださいました。
cherryさんは3年前のナミ誕でも投稿してくださってるのです^^。
このたびも投稿してくださって本当にありがとうございました!!





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