太陽の船の中で
ちゃたろう 様
航海日誌を書き終わり、紅茶でも飲もうと図書館を出たところでゾロと会った。
正確にはゾロを見た。
ゾロはメインマストに向かって、デッキに棒立ちになっている。
何をしているんだろうと声をかけた。
「ゾロ」
「ナミか、ちょうどいい」
呼びかけに答えて振り向くと、ゾロはいつもの仏頂面で言った。
「ダイニングにつれてってくれ」
「え」
「迷った」
「あんたこの船の中で迷ったって言うの?」
ナミは手のひらを額につけると、思わずため息をついた。
3歩歩けば上下もわからない迷子になるこの男が、
メリーの倍くらいの大きさのこの船で迷うのも無理はないかもしれない。
「仕方ないわね、こっちよ」
ゾロを先導しながらナミは声をかけた。
「まったく、こいつはなんでいつもこうなんだ!」
医療室で、サンジがルフィに向かって毒づいている。
「おれ、見張台にいたおれがもっと早く気づいて知らせていたら・・・」
ルフィを介抱しながら、身を消してしまいそうにしょんぼりするチョッパーに、ウソップは「気にすんな」と一言声をかけた。
「ルフィは結局サンジに助けられて無事だったからな」
「それにしても、サニーの船首から落ちるなんて・・・。
メリーの船首からもさんざん落ちてたのに、学習能力ってものがないのかしらこいつは」
ナミは本日二度目のため息をつきながら、ぱちりと目を開いて気づいたらしいルフィの額を小突いた。ルフィが「イテッ」と声をあげる。
「それにあいつもあいつね」
ナミの言葉に、みんなの目が一斉に医療室入口付近のゾロにいった。
「芝生の甲板っていう一番近い場所にいながら、船首まで迷って
キッチンにいたサンジくんに先をこされるってどういうこと?」
その口調にはやや非難めいたものが含まれている。
「・・・」
ルフィ以外の全員の視線の的となったゾロは、珍しく口ごもり右手で頭をかいた。
(迷う気はねえんだがな・・・)
居心地の悪い視線から抜け出すと、ゾロは芝生に寝そべりながらさっきのナミの言葉を思い出していた。
頭の後ろに組んだ腕に、芝生の感触がする。
それが心地よくていつしか深い眠りに入っていった。
体を包むひんやりとした空気に目が覚めた。
空が紅く燃えているようだ。
そろそろ夕飯の時間か、と立ち上がったところでやべっと思った。
どっちへいけばダイニングなのかがわからない。
とりあえずどっかへ行こうと、足を進めたところで階段下のプレートに気づいた。
←ダイニング
よく見ると、階段の横のドアにも
アクアリウムバー
と書いたプレートがかかっている。
ダイニングはこっちか、と階段に足をかけると、後ろから明るい声が降ってきた。
オレンジ色の明るい髪が、夕日に照らされて輝いている。
「どう?」
「これ、お前が・・・?」
「ウソップに造ってもらったの」
ナミはニコリとしながら、ゾロに近づいた。
「これくらいしか対処方法が浮かばなかったけど、みんな賛成してくれたから」
ゾロはまっすぐナミを見ながら少しニヤリとした。
「すげぇ助かる。ありがとう」
「お礼ならみんなにいうのね。何せサニー号の中、今は看板だらけなんだから。新品の船が台無しよ」
「わかった」
「それから、発案者として1万ベリーいただくわ」
トン、トンとリズミカルに階段を上りながらゾロの横を通り過ぎる時に耳元で囁くように言ったナミを、ゾロは呆然と見送った。
「結局金とるのかよ・・・」
しかしそのプレートは、ゾロが船内に慣れるまで十分な役割を果たしたという。
終わり
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