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その場を緊迫した空気が駆け抜ける。
誰もが息を止める中、ルフィの掛け声が響く。

「じゃーんけん、ぽん!」

一瞬の静寂の後、

「うわぁぁぁぁ!負けたーーー!」
「ちくしょう!なんでだ!」
「こんな新入りにオイシイ役を持っていかれるとは!」
「いいなぁぁぁぁぁ!フランキーーーーー!」

フランキーは生まれて初めて、ジャンケンごときでこんなに阿鼻叫喚する連中を見た。




航海士の誕生日

                                    四条




初めて参加した「ナミの誕生日・緊急対策会議」において、新しい船で迎えるナミの誕生日を如何に祝うかについての議論がなされた。
その結果、船全体にデコレーションを凝らし、ナミを驚かせて喜ばせようという案が浮上した。
そうするには、ナミを一定期間、船から遠ざける必要がある。準備の様子を見られてはいけないからである。そうでないと、ナミのヨロコビが半減してしまう。ナミの喜ぶ顔を見ることが第一目標なのだから、それはなんとしても避けたい。
絶対にナミを船に近づけてはならない。そして、準備が整う定刻には、必ずナミには船に戻ってきてもらわなくてはならない。
ということで、ナミ担当係が選任されることになった。
明日には島に着くことが分かっている。ナミ担当係は、ナミが船に残ろうとしたら陸上へ連れ出し、陸上ではナミを守りつつ、パーティーが始まる午後7時にはナミを船まで丁重にエスコートするという重要な任務を帯びていた。
しかし要するにこの係は、ナミと一緒にしばらく陸の上で過ごせるということ。早い話、ナミの誕生日の宴の時間まで、デートできるということだ。
その事実に気づいたクルー達は色めき立ち、担当係を決めるジャンケンでは、みんな決死の覚悟で挑んできた。
そして、勝利の女神はフランキーに微笑んだ。

「あんなオヤジにこんな大役を持っていかれるとは・・・!ナミさん、ゴメンナサイ!!!」
「オレのバカッ!バカッ!肝心な時に役立たず!!」
「なんで・・・なんで俺はあの時、チョキを出してしまったんだ〜〜〜!」
「オ、オレも、なんか耳で囁いたんだよ、チョキを出せばいいことあるよって。アレは悪魔の囁きか!?」

因みに、フランキーはグーで勝ちました。
ルフィは掌で床をバンバン叩き、サンジは壁に額を打ちつけ、ウソップは両手で頭を掻き毟り、チョッパーは地団駄を踏んで悔しがっている様を、フランキーは半ば呆気に取られて見ていた。
何を大げさに。たかが係り決めじゃねぇか。
ふと壁際に顔を向けると、フランキー同様に、ゾロとロビンが冷静に連中を見つめていたので、おっとお仲間がいたと思い込み、そばに寄ってみた。

「たかが係りくらいで、なぁ?」

と同意を求めたつもりだったが、

「なら代わるか?」

チャキッと音がして見てみると、ゾロの手元で刀の鯉口が切られていて、

「辞退したらどうなの?」

という声とともに、フランキーの両肩に手がニョキニョキと生え出したものだから、慌てて逃げた。




その後もナミの誕生日の当日まで、「係りを譲れ」「代われ」と様々な妨害や脅し、すかしを受けたが、こうまでされて譲っては返って男が廃るとばかりに、頑として受け付けなかった。

当のナミはというと、どうも今日が自分の誕生日であることを忘れてるっぽい。
それは返って好都合だ。気づいていなければ、そうと気づいた時の喜びは反動でなおいっそう大きくなるだろうから。
しかし一方で、フランキーの職務はその分重くなる。今日が誕生日であることを最後まで気づかせないまま、船から遠ざけないといけないからだ。事情を知っていてくれた方が、やりやすかっただろう。

買出しの組み合わせクジで決めた。もちろんフランキーとナミが組むよう細工がなされた。
ナミは特に何の疑問も持たずに、上陸を心から喜んでいるようで嬉しそうにいそいそと船を下りていく。
フランキーも倣って船を下りようとした時、呼び止められた。
振り向くと、ナミを除くクルーの面々が、両腕を組んでフランキーを取り囲むようにして立っていた。
その中からずいっとルフィが一歩前に出てきて、フランキーの胸倉を掴み、顔を寄せる。

「ナミに手ぇ出すなよ?」

今まで見たことも聞いたこともない凄みの利いた目つきと声に、フランキーは圧倒された。



***



お嬢ちゃんのお守りなんてたわいもないことだと思っていた。

しかし予想外だったのは、上陸してのフランキー自身の浮かれぶりだ。
ウォーターセブンから船に乗り込んで以来、初めての陸の上。慣れない船上生活で、自分でも気づかないうちに相当ストレスが溜まっていたのだった。
しかも、この島には港から中心街まで列車が通っていて、それもフランキーの心を直撃した。
列車といえば、ウォーターセブンの海列車を彷彿とさせる。
懐かしい、今は遠くにあるウォーターセブン。
次はいつ帰れるかも分からない。
乗り込んだ列車の窓の移りゆく風景を目に映しながら、故郷を離れるとはこういうことなのだと思い、改めて涙がこみ上げてきた。
ズズッと鼻をすすった音に、自分で我に返った。慌てて対面に座るナミに目を向けると、ナミはフランキーが泣いているのをまるで気づかないでいるように、窓枠に肩肘をついて顎を乗せ、窓の外を眺めている。
いや、気づいてないワケがない。大の男がボロボロ涙を流していたのを見たはずだ。
でも、気づかないフリをしてくれている。
ありがたい。こういう気遣いは胸に沁みる。
車窓から吹き込む風でオレンジ色の髪が舞い上がるのを手で押さえるナミを、優しい女だと思った。

街に着いて、一通りの買出しを済ませると自由時間となる。
ナミは別行動を提案してきたが、フランキーは却下した。
自分の役目には、ナミのボディガードも含まれている。ここまで来るだけでも、ナミを一人にしておくのは危ないと実感していた。とにかく、道行く人々の10人中9人は振り返る。それこそ老若男女を問わずに。
今日のナミはオレンジのTシャツに膝丈の青いコットンのハーフパンツ。別段女っぽい格好というわけでもないのに、ただそこにいるだけで目を奪われる。
そして中にはガラの悪いヤツラもいるわけで、そういう連中を威嚇しながらフランキーは横を歩いていた。

「でも、私が行くとこへ行っても、つまんないでしょ?」
「別に構いやしねぇぜ。俺はアンタの行きたいところへ、どこへでもついていく。」

そう言うと、ナミはぽかんと口を開けてまじまじとフランキーを見つめた。
続いて、口元を手で覆い、ぷっと吹き出す。

「な、なんだ?」
「ううん。別に。さすが年の功ってところかしら。」

ナミはなおも楽しそうに笑っている。フランキーがワケが分からないという表情で見ていると、じゃあお言葉に甘えてと、ナミは先立って歩いていった。
洋服屋、小物屋、本屋と渡り歩いていると、どんどん荷物は増えていき、それらを全部フランキーが持った。別に持てと言われたわけではないが、なんとなく今日の役目柄、この女に荷物を持たせるわけにはいかないと思った。

(なんせ、今日はこの女の誕生日、だしな)

続いて行った先は、図書館と併設された博物館だった。
ナミは図書館の方へ入っていったが、フランキーはポスターの内容に惹かれて、ふらふらと博物館へ入っていく。
そこでは、蒸気機関車が丸ごと保存されていた。

「うおおおおーーー! こりゃ、D51じゃねぇか!」

かつて、世界中で最も多く製造され、走っていた型だった。地域によってはまだ現役のところもある。
この島は中心街まで鉄道を走らせてるだけあって、鉄道への思い入れは深いようだ。その他にも、歴代で活躍した客車も保存されていた。
フランキーは大興奮だ。展示されている蒸気機関車には自由に乗り込むことができたので、あちこち触っては、子供のようにははしゃぎ回る。見も知らぬ見学者を捕まえては、ウンチクを垂れたりする。
どれぐらいそうしていただろうか。

「ねー、フランキー、そろそろ帰らないー?」

はっと気がつくと、そろそろ閉館時間なのか、辺りは人がまばらになっていた。
振り向くとナミがロビーの椅子に座り、疲れた表情でこちらを見ている。
なんたる不覚。この女をほっぽって自分の方がはしゃいでいたとは。ナミ担当係り失格だ。
しかも、窓からは赤みを通り越して勢いを失った日の光が差し込んでいる。
それは明らかに夕暮れを示していた。
パーティーの開始時刻は午後7時。それまでにナミを船に戻さねばならないのに。

「今、何時だ!?」
「6時よ。」

ほっと息をつく。それならまだ余裕で間に合う。
街から港まで、確か列車で20分ぐらいだった。


駅は、多くの人々で混みあっていた。切符売り場へ行くにも一苦労だ。人を掻き分け掻き分けして切符を買い、次は改札口へ向かう。そうするにも人々の荒波に飲み込まれそうになる。

「なんでこんなに人がいんだ〜〜〜!!」
「仕方ないわよ、ターミナル駅なんだから。」

ここはこの島の中心街だ。多くの列車がこの駅に集い、また方々に去っていく。

「それにしても多すぎないか!着いた時はこんなんじゃなかったぞ!」

すると、改札口の方から若い女の嬌声が聞こえてきた。それとともに、たくさんカメラのフラッシュもたかれる。
人々が口々に誰かの名前を言っているが、定かには聞こえない。

「なんだぁ!? どうした?」
「なんか有名人が来てるみたいよ。」
「ったく、人騒がせだぜ。よりによってこんな時に。」
「あ、あの人、見たことあるわ!この前、雑誌の表紙飾ってた人!」
「え?どれどれ?」

急いでいることも忘れて立ち止まり、嬌声の上がる方へと顔を向ける二人だった。


ようやく列車に乗り込んで席につくやいなや、アナウンスが流れ始めた。

「お医者様はおられませんか?おられましたら、車掌までお申し出ください。」

それを聞いて、

「チョッパーがいればよかったわねー。」

と、ナミが言った時から列車は徐行を始め、やがて完全に止まった。

「なんだ?なんで止まったんだ?」

駅を出てからまだ5分も経っていないだろう。もちろん、次の駅に到着したわけでもない。

「急病人の手当てに当たってるんじゃない?」
「やっぱこういう時はアレじゃねぇか、車内で誰か産気づいたとか。」
「まさか。そんなドラマじゃあるまいし。」

フランキーの冗談に、クククとナミが笑う。
しかし、30分後、再び流れたアナウンスは、

「只今、車内で元気な男の赤ちゃんが生まれました。ご協力ありがとうございました。」

というもの。
うわあぁぁぁ!マジかよ、当たったーー!すげー!と、フランキーは拳を突き上げて、列車中に轟かんばかりの大声で叫んだ。
続けてアナウンスは、母親と赤ちゃんを病院へ搬送するため、いったん前の駅に戻ると告げた。
列車が戻っていく間、窓から空を見つめるナミの表情がどんどん曇ってくる。
そうこうするうちに、ポツポツと雨粒が落ちだした。また風が非常に強くて、車内に雨が吹き込んでくる。フランキーも他の乗客も、慌てて窓を閉める。雨は、やがて窓ガラスを叩きつけるように降り出した。

駅についたらトンボ帰りかと思いきや、なかなか列車が発車しない。
やきもきしていると、再びアナウンスが流れた。それによると、風雨の量が規定値を超えたので、運転を見合わせているという。

「なんだと!今、何時だ!?」
「え?7時だけど。」
「NO〜〜〜〜!!!」

7時って、パーティー開始時刻じゃないか。
ち、遅刻だ・・・・・!

「歩くぞ。」
「え?」
「列車を降りて、歩いて船まで帰るんだ。」
「なんで?こんなに降ってるのに。」
「なんでもだ!」

なおも反論しようとするナミに取り合わず、フランキーはナミの手首を掴んで強引に立たせた。そのまま列車の昇降口へ向かう。扉を開けた途端に、予想以上の風雨が中に入り込んできた。慌てて扉を閉める。

「おそらく、一晩中こんな降り方だと思うわ。だから列車も運行しない。諦めて、今夜はこの街で泊まりましょう。」
「と、泊まるだぁ〜〜〜!?そ、それはダメだ!」
「どうして!」
「どうしてもこうしても、」

ふと、脳裏に蘇る、凄んだルフィの声。

“ナミに手ぇ出すなよ?”

思い出し、フランキーはぶるりと身を震わせた。

「そんなことしたら、連中に殺される!」
「は?」
「あ、いや。」

ナミと一泊したなどと分かったら、あの殺気立った連中に何をされるか分からない。
たとえ不可抗力であっても、ナミと別々の部屋で泊まったと主張しても、ただでは済まされないだろう。
とにかく、この航海士のことになると、あいつらは理性の箍が簡単に外れるらしいのだから。

「とにかく!船まで帰るぞ。絶対だ!」
「だから、どうしてよ!」

ああ、できれば言いたくなかったが、この期に及んでは仕方がない。

「今日は、アンタの誕生日だろうが!」

そう言うと、はっとしたようにナミが口をつぐんだ。

「連中が、アンタのために宴の準備をして待ってやがるんだ!ヤツラのためにも、アンタを今日中に連れて帰らなくちゃならねぇ!」
「みんな・・・・・覚えててくれてたんだ。」
「なんだ、アンタも気づいてたのか?」
「そりゃあ、自分の誕生日だもん。」

ナミは苦笑いを浮かべる。

「でも、みんなは忘れてると思ってた。この頃、いろんな大変だったから。」

この頃だけでなく、麦わら一味には大変でない時がないくらいだが。

「みんなもそんな素振りも見せなかったから・・・・。」
「アンタ、頭がいいようでけっこう抜けてんな。俺から見りゃ、みんなバレバレだったぜ。」
「フフ。」
「今日の俺は、アンタを船から遠ざける係だった。その間に、みんな誕生パーティーの準備をするために。」
「だから文句も言わずについてきてくれたのね。」
「というわけで、どうしてもアンタを船に帰さなくちゃならねぇ。それが俺の役目だ。そうみんなと約束した。だから、雨が降ろうと、槍が降ろうと、アンタを抱えてでも船に帰る。」

そう宣言すると、ナミも意を決したように顔を上げた。

「分かったわ。帰りましょう!」
「おう、そうこなくっちゃな。」

フランキーとナミは顔を見合わせニヤッと笑い、パンッと互いの手のひらを打ち鳴らした。



***



土砂降りの中を二人は駆け抜けた。途中、何度も強い雨風に身体を煽られながら。
結局、予定より2時間オーバーして、フランキーとナミは船まで帰りついた。
天候のせいで、船の外部に施されたデコレーションは台無しになっていたが、船内は色とりどりのバルーンや電飾、モールで飾り付けられ、戻ってきたナミを歓迎した。それらをナミも目尻に涙を浮かべながら嬉しそうに眺めていた。
二人ともずぶ濡れだったので、ひとまずは風呂に入って着替えを済ませた。
それからあらためてナミの誕生パーティーは始まった。

宴はメインの食事が終わり、場所をアクアリウムバーに移して行われていた。仲間達に囲まれて、ナミが笑っている。その姿を見ていると、それにつられてフランキーも知らず知らずのうちに口元が緩む。
フランキーは仲間の輪から少し離れたところに座り、酒をちびちびやりながら今日一日のことを反芻していた。
最後はなかなかハードだったが、それを除けば楽しい一日だった。久しぶりの陸上を満喫した。
最初はガキのお供なんてと思っていたが、航海士は綺麗で可愛くて、多くの男達が振り返った。連れ立つフランキーにも羨望と嫉妬まじりのまなざしが向けられるのは、悪い気はしなかった。
そのうえ航海士は明るく気立てもよく、そんなにおしゃべりでもなかった。モズとキウイといる時と同じような気持ちになった。新しい妹分ができたというところか。
ブティックだなんだと女物の店に入るのは恥ずかしかったが、その辺は役目と割り切れるぐらいには老成している。
それに、博物館は楽しかったし―――今から思うと、あそこへ連れて行かれたのは、ナミの自分への気遣いだったのかもしれない。
一日、ナミに付き合ったから、最後はフランキーの好きそうなところへ連れて行ってくれたのかも。

(よくできた女だぜ)

ぐいっと酒を煽り、フランキーは口の端を持ち上げた。
時折、仲間の中心にいるナミが確認するようにフランキーに目を向ける。その度にウィンクを返してやると、ナミは可笑しそうに笑う。今日一日一緒にいたことで、お互いに今までよりずっと親近感が湧いていた。

疲れたのだろう、普段ならそう簡単に酔わないナミが早々とダウンしてしまい、女部屋に戻っていった。
それでパーティーはお開きとなった。
疲れたのはフランキーとて同じで、大きな欠伸をしながら両腕を上げて伸びをした。
と、その腕を捕らわれた。しかも後ろ手にして捻り上げられる。

「イデデデデデ・・・・・ッ!!!」

顔をしかめて喚いていた口もすぐに閉ざされる。喉元に冷たい刃を押し当てられたから。
見ると、今日下船した時と同じように、一味の面々が険しい面持ちでズラリとフランキーを取り囲んでいた。
ロビンが手を交差させて構えているところを見ると、フランキーの腕を捻り上げてるのは彼女らしい。そして、刀の持ち主は言わずもがな、だ。

「フランキー、約束破ってもらっちゃ困るなぁ。」

冷めた声でルフィが言い放つ。

「約束だぁ?それならちゃんと守ったろうが!あのねーちゃんを連れて帰ってきた!!」
「そっちじゃねぇ。ナミに手ぇ出すなっつったろ?」
「それだって破ってねぇ!」
「じゃあなんで二人で帰ってきた時、なんかイイ雰囲気だったんだよ?」
「そうだそうだ、手ぇ繋いでたし!」

確かにそうだが、それは最後の方、ナミがバテてしまい、フランキーが彼女の手を引いて歩いていたに過ぎない。

「それにナミさん、パーティーの間中、お前のこと意識してたしさー。」
「視線合わせて、お前なんかウィンクしてたろう!」
「絶対、なんかあったよな?」
「無ぇ!無ぇったら、無ぇ!!」

フランキーは必死に弁明を繰り返す。

「ま、いいさ。身体に訊いてみれば分かるから。」
「は?」

おい、やれと、ルフィがチョッパーに目配せすると、注射器を手に持ったチョッパーがフランキーの前に立った。
次にゾロ、サンジに肩を掴まれ、無理矢理座らされる。
目線が合ったチョッパーが手に持つ注射針から何か怪しげな液体を滴らせながら無邪気に言った。

「チクッとするけど、すぐに気持ちよくなるからね。」
「な、なにする気だ!?」
「うん、ちょっと自白剤をね。」

ちょっとの使い方が明らかにおかしい!そう心の中で叫ぶも、案外あっさりと腕に注射を打たれてしまった。
なんなんだこいつら、ここまでするか。
こいつらこそ、何か薬でもやってんじゃねぇのか。
こんなの正気の沙汰じゃねぇ。
たかが航海士のことで。
いや。
航海士のことだからか。
あの女がみんなをおかしくしてしまうのだ。
みんな、あの女を愛しむあまり盲目になってしまっている。
止めようとしても止められないのだ。彼女を愛しく想う気持ちは。
身体の内から湧き上がる、駆け抜ける、ほとばしる。
それが彼女の誕生日という日には更に嵩じて、暴走を始める。
普段は胸の内に秘めている気持ちが、この日は堰を切って溢れ出す。
仲間達の熱い想いが合流し、あらゆるものを飲み込んで大河となり、全ては航海士へと注がれていく。
それはもう誰にも止められない。

(これが、航海士の誕生日というものかッ・・・・!!!)

やがて薬が効いてきて、段々と気持ちがよくなってきた。
心も身体もフワフワする。
寄せては返す優しい波に攫われていくようだ。
フランキー自身ももう抗う気は起きなくなっていた。
その流れに身をまかせようと全身の力を抜く。
そうすると、ますます心地よい気持ちになり、目を閉じる。
まるで、白くて暖かくてふんわりと柔らかいものに包まれたような・・・・
目蓋の裏に、輝くようにナミの姿が浮かび、こちらに笑いかけている。
その笑顔があまりにまぶしくて。

(ああ、なんて美しいんだ・・・・)

彼女を称えるように、手を伸ばす。
フランキーもいつしか笑顔を浮かべていた。




この日、フランキーはようやく真の仲間となった。




FIN








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<あとがき或いは言い訳>
なんか怖い話になったな・・・・。麦わら一味はナミのことが大好きです、それは新入りのフランキーとて例外ではない、たった一日でナミに陥落という話(うーむ)。
実はこの話を7月3日に上げようと思っていました(でも間に合わなかった^^;)。

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