七夕
智花 様
「何してんだおまえら」
水を飲もうとゾロがダイニングに向かうと部屋にいた全員が机にかじりつくようにして何か書いていた。
「今夜七夕するから短冊書いてるんだ」
チョッパーが答え、ゾロも書けよとウソップが言うと、入口に一番近く座っていたロビンが椅子を勧める。
「別にいい。おれは神には祈らねェ」
「違ェよゾロ、オリ姫と星ヒコに頼むんだって」
「彦星だっつーの」
「どっちでもいいわ。神頼みはしねェ」
船長と狙撃主の漫才を受け流してキッチンで水を汲むと、コップはちゃんと洗って元の場所に戻しておけよとゾロを見もせずにサンジが言った。
そんなに必死に書くような願望がこいつらにあったのかとゾロがコップ片手にテーブルを覗き込むと、様々な文字が沢山の色紙に書き込まれている。
『どんな病気も怪我も治せる医者になりますように』
『世界中の女性を幸せにできますように』
『勇敢な海の戦士に<s>なれますように</s>なる絶対』
『海賊王!!』
「最早頼んでねェな」
赤い紙に大きく書き込まれた文字を見て呆れると、ロビンが微笑みながら短冊を指で摘まんでゾロの前に差し出した。
「あなたも参加しておいたら?特に無いなら…お金持ちになりたいとか」
「ナミかよ」
「なによ?」
突然背後から声をかけられて表情には出さないが驚いたゾロが振り返ると、不機嫌な顔をしたナミが立っていた。
書いてきたわよ、と短冊を机に叩きつけるように置く。
『大金持ちになりたい』
『他の追随を許さない変態』
『待っていて下さいラブーン今度こそ必ずお前に逢いにこの海超えて→』
「あんた大剣豪とか書かないの?」
ナミがゾロを睨んで訊ねると矢印に従って短冊の裏を確かめていたゾロが言い捨てる。
「他人に頼むことか」
「あっそ。でもお金は私とカブるからだめよ!」
「同じ願掛けは無効なのか?」
「それなら世界中のいい女はおれの予約で埋まってるんだからな!」
「それは間に合ってるから別に」
いい、と続けたゾロは、慌てて顔を上げたサンジにも、顔を真っ赤にしたナミにも気付かずチョッパーからペンを借りていた。
「あんたは迷子が治りますようにって書いてなさいっ」
握り締めていた短冊をゾロの背中に叩きつけてナミはキッチンから慌てた様子で出て行く。
「…何だ?あいつ」
去って行くナミの後ろ姿を怪訝に睨んでいたゾロは、ロビンが咲かせた腕が拾った短冊を見せられて顔をしかめた。
『誕生日を忘れない恋人が欲しい』
「……あ?」
「おまえまさか…ナミさんの誕生日を…」
この世ならざるものを見るような目をするサンジに苛ついて柄に手を掛けたゾロを、ロビンは苦笑してそれより、と止どめた。
「謝るなら今よ」
「はあ?何故だ」
「こういう時に、理由が分かるようなら逆に許してもらえないものよ」
微笑を浮かべるロビンを不気味に思いながらも大人しくゾロもキッチンを後にする。
「素直に頭下げてナミさんのご機嫌取って来いよ!ナミさん次第でミカンの木に短冊飾らせて貰えなくなるからな」
サンジの声に舌打ちだけ残してゾロが去ると、ペンを返してもらったチョッパーは机の上の短冊を探る。
「ゾロのは?書いたのか?」
ウソップやルフィも一緒に漁り出し、見つけたルフィはおーいと声を上げた。
「ゾロ!願い事は一枚に一個だけなんだぞー?」
「しかも『無病息災』?変哲もない…」
「裏ということが重要なんじゃないかしら」
ルフィの肩越しに覗いていたサンジは、ロビンの微笑みと短冊の鮮やかな橙色に、あなたの幸せがおれの幸せですと項垂れながら呟いて、自分の願い事に専念することにした。
FIN
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