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味海苔 様
鍛練、鍛練。鍛練、鍛練。そればかり。寝たり食べたりは他とも同じ。
眩しい。世界一の剣豪というたったひとつの夢に向かって、ただひたすらに走り続けるあなたが。世界一の夢ならルフィとも同じ。でも、違う。ルフィはあまりにも大きくて、あまりに一直線で直視できないし、男として見るにはまだ幼すぎる。ウソップやチョッパーも幼い。サンジ君?いえ、彼はロビンに夢中よ。それに、我が儘過ぎる私といたら、彼が擦り減ってしまうわ。
ねぇ、こっちを向いてよ。それとも、夢を目指すあなたには、私はただのお荷物でしかないの?
壁にもたれて眠る彼を見下ろす。無防備な寝顔。彼の前に膝をつき、彼の頬の輪郭をつ、と指でなぞる。彼は今、何をその瞼の裏に見ているのだろう。剣の夢か、苦しい過去の夢か。顎を伝い、首のラインをす、と下りる。厚い胸の、ゆっくりと波打つところに手を当てる。彼の心は、私をどのように見ているのだろうか。
突然空気が変わって、彼が目覚めたのが分かった。薄く開けられた瞳が、かっと見開かれる。
「ちょ、お前、何してんだ」
手に伝わる、心地良い振動。それに流されないように、いつも通りに振る舞う。
「そんな無防備な格好晒してると、何されるかわかんないわよ」
「あぁ、現に何かされたんだしな。俺だって男だ、気を付けろ」
「あら、変に取ってる?ま、当然ね。目の前にこんな美女がいるんだもの」
「誰がだ…」
余計な一言につき、脳天チョップ1回。
夕食を告げるサンジ君の声を聞いて、食堂ヘと向かう。彼の広い背中を見ながら思う。頬が赤く見えたのは、夕日の仕業かしら。
ねぇ、こっちを向いてよ。あなたの行く道に、私はいるの?もしいたら、拾って連れて行ってくれる?
今夜の見張りは私。内心では否定しつつ、毛布をもう1枚と、お酒を何本か持ち出す。もしも、のために。
舞のようなものを演じる彼の練習用の刀が、時折月光を鈍く返す。私は考える。何故、あんな鈍感な体力バカに惚れたのか。仲間内での恋愛は、仲間との関係にひびを入れるだけなのに。一体、何故。
気が付けば、時刻は11時57分。とうとうこの年も何もなかったと、憂鬱になり、毛布に身を沈める。前方の星空を見るともなしに、うつらうつらしていた。
‘ミシ、ミシ、ミシ…’かすかな足音がした。こちらに上ってくる。誰よ、こんな時に。今は構っている余裕なんてないのに。
「わりぃ、遅れた。」
思わず立ち上がった。途端に足が痺れてよろめき、バランスを崩す。落ちる!本能的に目を閉じた。
あれ、落ちてない?何で温かいの?頭の中をハテナだらけにして、目を開ける。
目の前に、3連ピアス。目の端を追えば、手すりを掴む彼の腕。全身に感じる温かさ。ひょっとしなくても、これは…。心臓が喉まで飛び上がる。
「きゃあ!」
思い切り叫んで、すぐに見張り台に戻る。案の定、前には顔を赤くして最後の段に足を掛けた、彼がいた。
「あ…の……ありがと。」
「ん?あぁ。ったく、気を付けろよ」
彼はそのまま見張り台に上り切り、顔を赤くしたまま私の横に立った。私の左腕と彼の右腕が、軽く触れる。
「あー、と。…誕生日、おめでとう」
!?!?!?
今、おめでとうって?そう、ならば。
何も言わずに、彼を毛布ヘ押し倒す。なぜか軽かったのは、彼も“その”気だったからだろうか。 ねぇ、やっと分かった。あなたには、私が必要。絶対に連れて行ってくれる。だって、私がいなければ、あなたは道から外れてどこかに行ってしまうもの。
…え、その後?それは、ヒ・ミ・ツ♪
FIN
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