1st lovers


                                もも 様



「ねぇ、あんたセックスしたことあんの?」


その日はナミの誕生日だという7月3日。
女好きのコックがナミのためにと作った料理は悔しくも絶品で、こんなにも楽しい晩餐は経験したことがなかった。
酒を飲むようになったのはいつだったかなんてこと忘れてしまったが、こんなにも自分のペースについてくる女なんてのにも出会ったこともない


「…ついに酔いがまわってきたか。もうガキは寝ろ」


「答えになってない!エッチしたことあんのかって聞いてんのよ!」


グイと胸倉を掴み、今にも触れてしまいそうなほどの距離でゾロを睨みつけると「あんの?ないの?」と詰め寄った。


「…関係ねェだろ」


「童貞なんだぁー!その顔で!?だっさー!」


「んなわけあるか!そういうお前は…」


「処女よ」




予想外の答えにポカンと口を開け目をパチパチさせることしかできなかった。


「…嘘だな。お前みてェな女が処女なわけねェ。ほらさっさと風呂入って寝ちまえ」


フン、と鼻で笑いながらプラプラ手を振った。
こういう「女」との面倒な会話は嫌いなのだ。ベラベラと一方的に好きなことを放つお喋りな女も苦手だし、男女の色恋なんつーモンには特に興味がない。
今まで抱いた女だって、誰一人名前も覚えていないし、教えられても呼んだ記憶なんてない。
女を抱くことに性欲処理以外の感情なんか持ち合わせたこともないのだ。




「あたしの処女、壊してくれない?」


「は…」


それは突然のことだった。
目の前には長い睫毛。フワリと纏う柑橘系の香水と先ほどまで飲んでいた強い酒の香り。
熱をもった柔らかな感触がさっきまでの酒盛りを物語っていた。強い香水は嫌いなゾロだが、不思議と嫌な気分にはならなかった。



 


「…ッふ…」


舌を絡めてやると体が硬直した。うっすら開けた目で見つめてやると、そこにいたのは顔を真っ赤にして力いっぱい目を瞑った『未経験』の女だった。


「……やめとけ。お前が処女っつーのは分かったから、もう寝ろ」


グイと肩を押して立ち上がり転がった空の酒瓶を拾いながらフゥと息を吐いた。




--まさか、こんなおままごとみたいなキスなんかで反応するなんて、おれもまだまだ修行が足りねェな…




「…じゃあいい。サンジ君に抱いてもらうから」


振り返るとナミはパンパンと服をはらい、飲みかけの酒瓶を手にゾロを睨みつけた。


「…そんなに捨ててェのか」



放っておけばいいのに。
別にナミが誰と寝ようが、誰に処女を捧げようが、興味なんてないのに。

なぜか苛ついた胸をそっと撫でた。






「…自分で脱ぐか、脱がされてェか、どっちにする」


「……」


この部屋には初めて入った。
中は想像以上に広くてあのむさくるしい男部屋とは大違い。
静かな部屋できれいに整えられたシーツに向かい合って座るとコチ、コチと時計の音が大きく聞こえた。


「…ナミ」


「え…あ、うん。じゃああんたが好きな方で」

ポリポリと頭を掻いた後また溜息をついた。

「じゃ、黙って脱がされとけ」



無駄に軋むベッドは手の場所を変えるだけでギシギシとうるさい。 そんなことが頭にある時点でまだ集中できていないことを自覚した。

「…ゾロ、あの…」

「…今更“やめよう”なんて女がすたるぜナミ?」

ナミの喉が動くのがわかる。緊張しているんだろうな。そりゃそうか。初めて男にこんな形で裸見られてるわけだしな…

「や、違うの…なんか思ってたよりも慎重だなって思って…」

「……」

ゾロは緊張していた。
こんなにも丁寧に女性を扱ったことなんてない。
目の前で頬を赤らめて横たわる女がいつもの雰囲気とは全く違うからだ。
しおらしく、色っぽい。それに加え時々漏らす甘い吐息が神経をくすぐるのだ。


この女、ナミが欲しい

初めて浮かんだ感情だった。


「…ほんとにいいんだな?」

「……何回も聞かないでよ」



キスは甘くとろけそうだ。
女の肌ってこんな感触だったか?
セックスってこういうもんだったか?

多分この香水。
この匂いがダメだ。頭ん中がモヤモヤする。


頭がお前でいっぱいになっちまう。


「…ッ…!」

「悪…!痛かったか?」

「ハァ…ん、大丈夫…入った…?」

「…あぁ。動いていいか?」


お前は何なんだと問いたくなる。
この「おれを待ってました」と言わんばかりのフィット感。
中にいるだけで気抜いたら出ちまいそうだ。

「…っん、んんっ…」

「…声、出せナミ…じゃねェと苦しいだろ」

苦しいのはおれ自身。ナミの声が聞きたくてたまらなかった。
おれを求める声がその喉から、身体から発せられるのを見つめたかった。

「…あっ…ゾロッ…!も、ちょいゆっくり…」

「………無理…ッ」



『経験豊富』だなんていう自信はどこへ。
無惨にもいつもの半分にも満たない時間で放出してしまった白濁の液は、ナミの尻の下に溜まっていた。

「…ハァ、悪ィ…中で出してはねェけど、一応後でチョッパーに薬でももらっとけ」

「……うん」


体を起こさないナミに「どうした?」と顔を覗き込ませるとまた不意打ちのキス。

「…おま、、終わったんだから…終いだろこういうのは」

「!あたしを他の商売女と一緒にしないでよっ!いいじゃない!余韻ってものに付き合ってくれても!」

「あァ?じゃあどうすりゃいいんだよ」

口を尖らせ眉間に皺を寄せたかと思うと自身が寝そべるベッドの横を指さす。

「…ここ。きてよ」

面倒臭ェな…と思いつつもゴロンと横になってやり、なんとなく腕を出した。
目を丸くしたナミだったが、ポスンとゾロの腕に頭を置くと真似するかのように天井を仰いだ。

「…で、次は」

「目瞑って…」

「ハイハイ」

「あたしが言う事復唱して」

「…んだそれ…」

「わかった!?」

「いてっ!グリグリすんな!わかったよ!」

はー…こいつは今までの女の中で最高に面倒臭ェ。
家教えろだとかまた会いたいだとかはたまに言われたが、適当に流してその場を離れれば済んだ話。
だがこいつにはそうはいかない。


言われた通り目を瞑り「で、なんだ」と呆れた声で呟いた。

「ナミ」

「…ナミ」

「ほんとに復唱してよね」

「…ほんとに復唱してよね…って痛ェな!続きなんだよ!なぁ、もう寝ようぜ!?」

「……よ」

「あ?よく聞こえねェ」

「…おれの女になれよナミ」

「おれの女に……ってなんだそりゃあ!?」

ガバッと起き上がり寝そべるナミに目をやるととんでもない告白をしてきたにも関わらず可愛げのないシラけた表情。

「…おい、そこは照れとけよ」

「…なんでよ」

いやいやおかしいだろ。
愛の告白ならさっきみてェに頬でも染めながら可愛く伝えようぜ?なんだその顔…

「で、復唱は?」

「…いや、お前それは…」

「できないの?あたしの処女奪ったくせに」

「…ッおい待て待て。誘ったのはお前だろうが」

「乗ったのはそっちじゃない。あたしはサンジ君にって言ったのに」

なんだよこの一気に可愛げのない女は。こんな女見たことねェ…!
あーもう!と頭を抱えながら冷静になるべく頬をパチンと叩いた。

「お前おれの女になりてェのかよ?」

「…さぁね」

「あー…意味わかんねェ!ちょっとお前酒飲み過ぎの上にセックスしたから頭やられたんじゃねぇか!?」

イライラする頭を掻きながら立ち上がり脱ぎ捨てたTシャツを手に取る。
ややこしいことは嫌いだ。
今日のこともなかったことに…


「あたしとしか寝ないで」

「…あ?だから…」

「あたし以外の女を抱かないでって言ってんの…!」

「…!」


さっきまでの強気なポーカーフェイスはどうしたんだよ。
なにまたしおらしくなってんだ。

涙なんか溜めやがって。



「……あー…もう降参だ…」

「……ゾロ?」


「『おれの女になれよ、ナミ』」


初めての恋人は、とことん面倒臭い。
二重人格かと思うようなズル賢く計算高い一面があるかと思えば甘えたで不器用。


でも、飽きない女だ。





FIN




<管理人のつぶやき>
挿絵から分かるように、彼らは2年前のゾロとナミなのであります。出会って間もなく・・・ぐらいなのかな?強がってるけど、言うこともやることも超いじらしいナミさん;▽;。好きな男を落とすため、捨身の戦法に出ました。これにはさすがのゾロも陥落でしたね(笑)。

Pixivでご活躍中のもも様の2作目の投稿作品です。ステキなお話をどうもありがとうございました♪



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