その日の夕方は雨だった。

絡みつくようなしとしととした雨足に、つい無気力感を誘われそうになる。
そんな、今にも気の滅入りそうな天気がゾロは嫌いだった。
何もかも水底に沈められてしまいそうで、深い闇が口を開いて手招きしていそうな錯覚さえ覚える。

そこまで考え、ふと口許に苦笑が浮かぶ。
ゾロの暮らすアパートによく出入りしているナミは、全国でもちょっとは名の知れたスイマーだ。
幼い頃からスクールに通ってめきめきとその頭角を現し、今では押しも押されぬ存在になっている。


“人間は大半が水でできてるのよ。母さんのお腹に還ったと思えば、何も怖いものじゃないわ。”


そう豪語して憚らないナミに水関係の悪口など漏らせば、3倍以上になって戻って来ること請け合いだ。
そんな説教紛いの舌鋒も、歳を追うごとに綺麗になっていく外見が邪魔をして、だんだん説得力がなくなりつつあるのだが。

「・・・・・」

ゾロはゆっくりとした足取りで窓辺に近づき、カーテンへと手を伸ばした。
そのまま何気なく通りに目をやる。

そうして、ゾロの瞳は一点に釘づけになった。

外はどしゃ降りレベルの雨模様になっている。
その中を、見慣れた姿が走って来るのが見えたのだ。


「・・・何やってんだ、あいつ」






Mermaid
            

真牙 様



それは、見紛うことなくナミだった。
このひどい雨模様の中を、傘も差さずに走って来る。

(まったく世話の焼ける・・・)

ゾロは小さく溜息をついて肩を竦め、大判のタオルを掴んで玄関を出た。
そのまま大股で通路を抜け、中央の階段で3階からゆっくりと1階まで降りる。
丁度入り口まで降りて、ようやくナミと鉢合わせた。

「凄ェ格好だな」

「大丈夫かと思ったのよ、もう少し天気も持つだろうって。でも、ちょおっと甘かったみたい。夕飯用の買い物してたら途中で降って来ちゃって。傘だけ取りに帰るのも面倒でしょ?もう部活はないけど、鍛錬の意味も込めてそのままダッシュで走って来ちゃった」

軽く舌を出しておどけるナミに苦笑する。

持って来たタオルをナミの頭に被せてから、ゾロはその手の荷物を受け取った。
そのまま3階へと促し、濡れ鼠になってしまったナミを部屋へと上げる。

「いくら元水泳部のエースで水に濡れるのは得意だからって、時と場合にもよんだろ? お前が水に強ェのは知ってんが、この時期の雨は何気に冷てぇからな。さっさと熱いシャワーでも浴びて来やがれ」

「そりゃ判ってるけど、私着替えなんて持って――」

「だったらこれでも着てろ」

ゾロは普段あまり着ない黒い地のパジャマをナミへと放ってやった。

それを受け取ったナミは、暫くそれとゾロとを均等に眺めていた。
ややあって踵を返し、バス・ルームへと足を向ける。
ふと思い出したように振り返り、ナミは悪戯っぽい顔で舌を出した。

「――覗かないでよ?」

「くだらねぇこと言ってねぇで、とっとと行きやがれッ!」

ナミはくすくす楽しげな笑みを残してバス・ルームの中に消えた。


ゾロは大きく息を吐き、思い出したように買い物袋の中身を所定の場所へ片づけ始めた。

先刻まで読んでいた雑誌を無造作にラックに放り込む。
ふと外の雨音よりも、シャワーの水音の方がやけに大きく耳につき、慌ててテレビのスイッチを入れる。

今更何を意識しているのか――そんな無意識の抗議を、ゾロは憮然とした態度で無視した。




「ゾロ、シャワーとパジャマありがと。じゃ、一息ついたところで御飯作るね」
「――――――ッ!!」

相槌を打つつもりで何気なく上げた視界に飛び込んで来たものに、ゾロは危うくソファから転げ落ちそうになった。

このどしゃ降りの雨だ。
いくら重ね着をしていても、薄いキャミソール仕立てのシャツまで濡れてしまっただろう。
当然濡れた服は、そのまま洗面所の乾燥機行きで決定だ。

それは、判る。

ゾロは一応、パジャマを上下まとめて放ってやった。
無論それが当然で、何をどう期待していたわけではなかったのだが。

(おいおいおい・・・!)

ナミはゾロに借りたパジャマを、上しか着てはいなかった。
ただ単にサイズが大きかっただけなのか暑いだけなのか、その意図するところは判らない。

「ゾロ、あんたのパジャマでかすぎるわ。私のこの細腰に、ゾロ仕様のズボンが合うと思ってんの? ぶかぶかでお尻でも止まりゃしないわよ」

「悪かったな」

ぽんぽんと言い放つ悪口に顔を顰め、ゾロは深い溜息をついた。

それでも――男物の服から覗くすらりとした白い足は、その太腿の大半が惜しげもなくゾロの視線に晒されている。
何気ない仕草のひとつひとつが、いちいちゾロのなけなしの理性を攻撃する。
慌てて視線を逸らす焦りを悟られまいと、手元に残っていた情報誌を乱暴に広げる。

ナミは自分で自覚していないのだろうか。
彼女の繰り出す一挙一動が、いちいちゾロの理性を刺激して止まないことを。


「♪♪♪」

軽いメロディを口ずさみながら、ナミはいつも通り夕飯を作り始めた。

いつからだったろうか。
母親と姉とで3人暮らししているナミが、卒業後ひとり暮らしを始めたゾロのところに通うようになったのは。

ゾロが卒業したのは2年前なので、記憶違いでなければその時からだ。
現在ゾロは二十歳、ナミは高校卒業間近の十八だ。

ナミは今まで母子家庭の環境で暮らしていたので、若干強いられた苦労のせいか、時折それ以上に見える大人びた雰囲気を垣間見せた。
いや、雰囲気だけではない。
衣服に包まれた肉体すらいつしかまろやかさを増し、いつしか悩ましげな曲線を持つに至っている。
健康な若い男にとって、これ以上の目の毒はなかった。


「どしたの? 体調でも悪いの?」

つらつらと考え事をしていたゾロの目の前に、いきなりふくよかな胸元のアップが迫る。
どうやらゾロのぼんやりした様子を心配したナミが、熱を計ろうと額とくっつけに近づいたらしい。

だが、度肝を抜かれたゾロにとっては心臓に悪いだけだった。

「そうだ! ゾロお酒強いし、何だったらベルメールさん直伝の卵酒作ったげよっか? お酒お酒・・・どこにあったかな」

何の警戒もせず、ナミはゾロのすぐ横に座ってにっこりと彼を見上げる。


(駄目だ・・・)


危険信号だった。
ゾロの頭の奥で警鐘が鳴っているのが聞こえる。
思考が麻痺し始めていた。

ゾロは自分の性格を痛いほど良く知っていた。
理性的とは程遠い、感情と直感で生きて来たような男だった。
長年腐れ縁でつるんでいる友人に、女性至上主義とばかりに女に尽くす男がいるが、とてもゾロには真似できない。
それ以前に、自分がそこまでできた人間でもないのは判っていたが。

しかし――その直感力があったからこそ、今までいろいろな場面を乗り切って来られたようにも思う。
それは、解ってはいる。

解ってはいるが・・・。


「・・・・・ッ」

ゾロは高鳴る心臓を押さえて立ち上がり、棚のブランデーを取り出して乱暴にグラスへと注いだ。

「ゾロ?」

一気にグラスを呷り、無造作に口許を拭う。
その程度で酔える筈もなかったが、とてもまったくの素面ではやっていられなかった。

「ゾロ、どうかし――!」

どさりと人が倒れる音がして、ふたりの視界があっと言う間に90度変わる。
大きな3人掛けのソファに柔らかなオレンジの髪を散らして仰向けになったナミ。
そして、その肩を無骨な手で押さえつけているゾロ――そんな位置関係になっている。

「な・・・何、ゾロ・・・?」

間近で男の視線を受け止めるナミは、知らず頬を薄紅色に染めていた。
白磁の肌が淡く上気した桜色に染まる様は、どこか艶然とした光景に他ならなかった。
それを見たゾロは、自分の中にあるなけなしの理性の砦が崩壊するのを感じた。


(もう、駄目だ――!)


「あ・・・ッ!」

ゾロは素早く、言葉を漏らしかけた赤い唇に自分のそれを重ねた。

「ん、んん・・・!」

言葉にならない抗議と肩を叩く手をものともせず、ゾロは口内に舌を滑り込ませてたっぷりとその甘い舌と唇を味わった。
真珠色の歯列をなぞり上げ、唇の端から漏れる吐息までをも吸い上げる。
そのままゆっくりと頬、耳朶、そして仰け反る喉元へと熱い吐息を這わせていく。
途中もたらされた口づけは、白い首筋に緋色の痣となって刻みつけられた。

「ゾ・・ゾロ、何す――」
「・・・ろくに自覚もねぇくせに――お前が悪いんだぜ、ナミ」

不意に耳元に、低く囁くようなゾロの声音が滑り込む。
熱に浮かされたような声は、掠れていていつものゾロらしからぬ空気を潜ませていた。

ゾロの身体を押し退けようとした両手を、男は呆気なく右手ひとつで押さえ込んだ。
残る左手がナミの襟元を掴み、勢い良く引き下げられる。
それにより、着ていたパジャマのボタンはすべて弾け飛んだ。

欲情に駆られる男の視界に、白くて張りのある柔肌が映る。
ナミはますます赤くなって身を捩ったが、力でこの男に敵う筈もなかった。

「や、やめ・・・ゾロ、やめて! こんなのはやだ、私――」

ゾロはその哀願を無視した。
そのまま胸元に顔を埋め、いつの間にか大人っぽくなった身体をゆっくりと、しかし有無を言わせぬ力で愛撫する。
強引ではあってもどこか繊細な指の動きに、ナミは目尻に涙を浮かべて嫌々をした。

「やあっ、あ・・・あっ!?」

掛かっていたパジャマを押し広げ、無防備になった乳房の片方を口に含んで舌を絡ませる。
もう片方も掌で押し包み、指の股に挟んでゆっくりと撫で上げる。
吸いつくように形を変えるその感触に、ゾロはそっとほくそ笑んでその突起に軽く歯をたてた。
それだけでナミの身体は大きく仰け反り、噛んでいた唇から甘い溜息が漏れた。

「何で! どうしてよ? 急にこんなことって、ゾロ――ああっ!? あ、あ、やあっ・・・!」
「――急じゃねぇだろう。俺が男だってこと、まさか忘れてたとでも言うつもりか? こんな格好で、男の前をうろつきやがって。挑発してると思われて当然だろうが」

甘い吐息の暴走に、ゾロは飢えた獣の勢いでナミへと襲い掛かった。


そんなゾロの豹変ぶりに、ナミはただただ驚いていた。
寡黙で極端に口数は少ないが、理に適わないことはしない男だと思っていた。

その男の暴走――狂おしいばかりの激情を正面から叩きつけられ、ナミは羞恥と混乱の中にただ翻弄されるばかりだった。

「い、いや・・・っ!」

無論、ナミとて女だ。
ゾロを特別な『男』として認識してはいた。
ただ、この男とどうしたいのか。そして、どうなりたいのか?
それが具体的な形として、ナミの中に存在していなかっただけなのだ。

だから、ナミ自身ゾロに抱かれることがいやなわけではなかった。

ただ、もう少し予兆が欲しかった。
甘い言葉のひとつも囁いて欲しかった。
それさえあったなら、ナミもここまで驚きも抵抗もしなかっただろう。

しかし、無意識のうちに繰り出される言葉も所作も、ゾロを止める手立てにはあまりにも役不足だった。
ゾロの手が、ナミに掛かっていたパジャマを強引に引き剥がす。
下半身を包む薄い下着のみになったナミを、ゾロは容赦なく理性の淵から追い立て始めた。

「は、あ、あう・・・はあ、あ、あ、ああっ・・・!」

そんな言葉を言うつもりもないのに、唇が勝手にそんな言葉ばかりを紡ぎ出してしまう。
初めて知る感覚に、ナミは大海原を翻弄される木の葉のように流された。
歯を食い縛ることも、熱い疼きを貪ろうとする身体を止めることもできず、ナミはただひたすら逆巻く熱に身を捩った。

「あっ!?」

ナミの身体が、思いがけず強張る。
ゾロの手が、ゆっくりと下腹部の方へと下りて行くのが判ったからだ。

「や、やめ・・・やだ、お願――あっ!」

必死に閉じようとした足を、呆気なくゾロの右膝が割る。
最後の砦と言うには脆すぎる、薄い下着を呆気なく奪われ、ナミはその肢体のすべてをゾロの視線に晒すことになった。
その隙間に、微塵の躊躇いもなく無骨な指が侵入する。
ナミのもっとも柔らかで敏感な部分を確かめるよう、その動きは執拗で、また熱かった。

「あ、あ、ああっ・・・や、やめ・・ああっ!」

ますます頬が、そしてゾロの弄ぶ秘部が熱くなる。
花芯を擦り上げられた瞬間など、思わずゾロを押し上げる勢いで仰け反るほどに。

それは、ナミの胸元を中心に緋色の花びらを散らしていたゾロに、愉悦の笑みをもたらす何よりの反応だった。

「は、ああっ・・・!」

不意に、鈍い痛みと共に背筋をぞくりとする感覚が走る。
ナミの柔らかな肉壁を押し分け、とうとうゾロが指先を彼女の肉体へと割って入らせたのだ。

性急に動かしたい衝動を抑えながら、その動きはナミの反応を見てどこか愉しんでいるようだった。
浅いところや深い場所。
たった1本の指にさえねっとりと絡みついて来る内壁の熱さに、ゾロ自身も堪らない欲望を掻き立てられる。
やわやわとした肉体の、どこにどんな刺激を与えればナミが色好い反応を示すのか。
初めての筈なのに、あまりにもいい声で啼くナミを試しているようでもあった。

「ひっ・・あっ、あっ、ああっ! だ、駄目、そこは――ひあ! や、やああ!」

ゾロの指がおいでおいでをするように、無造作に上に向けられた瞬間――ナミの中に、暴力的なまでの痺れが奔った。
それは雷に打たれたような衝撃を伴ってナミを打ち据え、激しい嬌声を上げさせずにはおかなかった。

「へえ・・ここがイイのか・・・」

その反応に口の端を上げたゾロは、囁くようにナミの耳朶に舌を這わせた。
息を呑んだナミの身体が小さく跳ねる。

それに増長したゾロは、今まで1本で弄っていた指を2本に増やし、たった今嗅ぎ当てたナミの弱点を荒々しく突き上げた。
熱い蜜を滴らせるそこは若干の抵抗を見せたが、充分に潤っているためそれらを締めつけるように呑み込んだ。

「や、やああ! あ、あ、ああっ!」

あまりの嬌声に調子づき、ゾロは膝で割っていた足を強引に押し開いた。
無骨で強引ではあるが、ナミは知らず全身でその愛撫に応えてしまっていた。
皓々と灯った灯りの下で、淫猥な色に染まったナミの秘部が鋭くも舐めるような視線に晒されている。
ナミは微かに残った理性で、最後の抵抗とばかりにその指を押し退けようともがいた。
が、完全に力を失ったナミには、未だ陵辱を続けるその使者を打ち払う力は残っていなかった。

「お願・・見ない、で・・・!」

目に涙を浮かべ、恥辱に頬を染めながらナミは弱々しく訴える。
それに微かな笑みを見せたゾロは、傍らにあったスイッチに手を伸ばした。
不意に灯りの量が落ち、室内は一転して淡い闇に支配された。

「そうじゃ、な・・・もう、やめ・・・」

肩で息をつきながら、喘ぐように哀願する。
それを耳にくすぐったく思いつつ、ゾロに攻撃の手を緩める気はまったくなかった。

「それで、本気で抵抗してるつもりか? なら、これならどうだ――」

切れ切れに喘いでいたナミは、一瞬何を言われたのか判らなかった。
だが、それはすぐに判った。
内股の柔らかな部分にねっとりと吸いつく感触――ゾロの口づけに、ナミは微かな凶事の予兆を感じ取った。

「や、やめ・・そんなとこ――やあっ!」

ぞくぞくとした感覚が、太腿から身体の中心を打ち抜いていく。
初めはゆっくりと、鋭敏な部分には一切触れずに焦らす。
細かく打ち震える花園から溢れる蜜にほくそ笑み、ゾロはペロリと唇を一舐めする。
そうしてゾロは、飢えた獣の勢いでナミの秘密の花園への入り口へと舌と唇を這わせ始めた。

「あ、ああ! やああっ、やだ、やっ・・・あっ、あっ、ああっ!」

花芯を嬲るように、尽きることのない蜜の溢れる泉に押し入るように、ゾロは執拗に舌先を使ってナミを舐めねぶった。
身悶えて痺れる脳裏にも届くように、わざと淫猥な音をたてて聞かせる。
ナミが、更なる羞恥心に身を捩るように。

寒気にも似た感覚に翻弄されながら、自分の身体がたてているとはとても信じられない音が耳に届く。
粘質系の水音をたてさせながら、それでも一向に解放しようとしない強引な男の髪を、ナミは震える細い指で掴んだ。
その反応ですら愉しむかのように、ゾロはナミのもっとも敏感な部分をきつく吸い上げた。

「ああ! も・・やめ・・ゾロぉ・・・!」

柔らかい足が、ゾロの頭を抱きしめるように組まれる。
それをもう一度広げ、ゾロはその内側にそっと口づけた。
たったそれだけのことに、ナミの身体がびくりと大きく跳ねる。
それに気づいたゾロの肩が、愉悦の笑みを漏らすようにくつくつと揺れる。
ゾロは再び口づけの嵐を腹部から胸元、首筋へと移行させていった。

「も・・・許して・・お願、い・・・」

恥辱と悦楽に激しく翻弄され、息をするのもやっとの状態で、ナミは切れ切れにゾロに哀願した。
幾筋も残った生理的な涙の跡に、ゾロはそっと唇でそれを拭った。

初めての愛撫を、これでもかというほど全身に刻みつけられたナミ。
これでもうナミは、どこに触れられても飛び上がるような反応を示すようになるだろう。
そう変えたのは自分なのだという背徳じみた悦楽感に、ゾロはひとり満足げにほくそ笑んだ。

ほんのりと桜色に上気した頬、ほつれかかったオレンジの髪、力なく放り出された白い肢体。
薄い闇の中で、それらは男の劣情を更に煽り立てる。
艶然とさえ見えるその様にまた激しい潮の昂りを感じ、ゾロはナミの首筋に貪りつくような口づけを与えた。

「あっ? あ、やめ・・・ふうん!」

嵐の再燃に更なる熱を感じたナミは、再びもたらされたうなじへの口づけに、以前より激しい疼きがあることを自覚せずにはいられなかった。


(どうして――!?)


それがゾロという男に刻まれた、女としての烙印だとナミに気づく由はない。
再び燃え上がる欲情の炎に身も心も焼かれ、ナミはしどけない姿に身体を開かれながら、熱を帯びた喘ぎ声を漏らした。

ナミは不意に、自分の身体への重みが半減したことに気づいた。
先刻まで髪や頬、身体中を愛撫していた手が、いつしかナミの太腿を抱いている。
それが一体何を意味しているものなのか、思考の麻痺したナミにはすぐは理解できなかった。
だが、答えはすぐにもたらされた。
指先で、舌で、唇で、これでもかというほど攻撃を受けた秘部に、いつの間にかゾロが熱く屹立する己が分身を押し当てていたのだ。
そしてそれは、滴らんばかりの潤いに任せて力ずくの侵入を開始した。


「あ、あ・・・あああっ!」

ナミの身体がびくん、と大きく仰け反る。
それは今までとはまったく違った、激しい痛みに近い感覚だった。
思わず震える手がゾロの逞しい首を抱き、ナミは声にならない声で呻いた。
ゾロはそれを詫びるように、そっと耳朶を噛んでうなじに口づけた。
熱い侵略者の侵攻は止まらず、ナミにますます圧迫するような感覚を与え続けた。

「あ・・・ああ、あ・・・はあっ・・・」

更に深い場所まで繋がろうと、ゾロはナミの細い肩を抱き寄せる。
繋がった部分が痛みを伴って火のように熱く、ナミは喘ぎながら何とか肩で息をついた。

だがその余裕も虚しく、最奥まで繋がったと確信したゾロは、ナミを抱きしめたまま徐々に腰を揺らし始めた。
その動きに、ナミも即座に反応していた。
痛みだと思っていた感覚がいつしか熱く激しいうねりに変化し、ナミの身体の中で荒れ狂う嵐となったのだ。

「ああっ! や、やだ、やだぁ、ゾロぉ! やめて、や・・・あ、ああっ!」

逃れようとくねらせた腰は、正にゾロの思うつぼだった。
それに合わせて更なる追い討ちを掛け、ゾロはナミの退路を断つようにもっと深い快楽の中へと突き落とした。
座っていたソファを利用し、ナミを対面で抱き竦めたのだ。
当然ふたりの繋がりは限界まで深くなり、ナミは堪らずゾロの首に縋りついたまま足を引き攣らせて悲鳴を上げた。

「きゃああ! あ、あ、ゾロ・・! 駄目、わた、し・・壊れちゃ・・やああっ!」
「・・・壊れてみろよ。俺の、腕ん中で・・・!」

ナミの両膝の下にあった腕がそのままナミの背に回り、力任せに引き上げられる。
再度緩められた瞬間、ナミは目の前で火花が散ったような気がした。
局部から最大級の快感が駆け抜け、ナミの全神経を激しく揺さぶったのだ。

「やだ、やだぁ! あっ、あっ、ああっ! 許して、許してゾロ! あ、あ、あああ――ッ!!」

がくがくと絶頂に達するナミに刺激され、危うくゾロまで上り詰めてしまいそうになるのを堪える。
今こうしている瞬間も、ほんの少し気を抜けば一気に己を解放してしまいそうになる。
胸の奥に、苛烈なまでの欲情の炎が燻っていた。
ふっくらと実った双丘に口づけるように顔を埋めながら、ゾロは今まで以上の潮が荒れ狂うのを感じていた。

(ずっと、欲しかった・・・)

脳裏の呟きに、ゾロは黙って敗北を認める。

(ああ、そうだ――ずっと、こうして抱きたかった。滅茶苦茶にして、壊しちまいそうなくらい滅茶苦茶にして、俺の印を全身に刻みつけて、俺だけのものにしたかった・・・)

だから、まだ足りない。
もっともっと、劣情にも似たこの内なる炎でナミを焼き尽くすまで、ゾロの暴走は止まりそうもなかった。

一度ゾロはナミから抜け出し、そのまま柔らかな身体を抱き上げた。
あられもない格好を眼下に晒され、ナミは微かに身動ぎした。
が、その程度で躊躇するほどの迷いなどゾロにはとうになかった。
そのまま隣の部屋まで運び、ナミをベッドの上へと下ろす。
ナミは慌てて傍らの毛布で身体を隠したが、これで終わりでないことくらい彼女も判っていた。

「ゾロ・・・?」
「ここなら、遠慮はいらねぇ・・・」

最初から何ひとつ遠慮などしていないくせに、素知らぬ振りで言ってのける。
その言葉に頬を紅潮させたナミは、思わず身を翻そうとした。
だがそれはゾロの手の方が一歩早く、ナミは呆気なくその腕に捉えられた。

「あっ・・・」

半ば力の入らない腰ががくりと砕け、いとも簡単にゾロの腕に絡め取られる。
背後から抱き竦める形になったゾロは、無防備になっていたナミの両胸をわし掴みにした。
指の間に尖った先端を挟み、扱き上げるように転がす。
それだけで最初とはまったく違う色好い反応を見せるナミに、ゾロは大いに満足感を覚えた。

「きゃ・・あ、あ、ああ! も、もう許・・やあん!」

それでも最後の力を振り絞り、ナミは這ったままの姿勢で何とか逃れようとする。
ゾロはそれを待っていたかのように、無造作にその腕を払った。
がくりと顔を伏せたナミは、いつしか高々と臀部を上げた四つん這いの体勢になっていた。

それに狼狽したのはナミだった。
これでは下半身はまったくの無防備になってしまう。
両手で庇うことはおろか、邪魔をされれば足ひとつ閉じることさえできなくなってしまう。
だが、そのことに気づいた時にはもう遅かった。
ゾロはしっかりとナミの腰を抱き、彼女の逃れる術を封じていたのだから。

「や、やめ・・何を・・・ひっ? あ、あ、あああ! や、やだ、やだぁ! そん、な・・ああ!」

ねっとりと局部にまとわりつく感触。
濡れきった花園の蜜をもう一度味わおうと、ゾロが再びナミの敏感な部分へと舌と唇を這わせて来たのだ。
しかし、今度は手加減なく激しく舌がのめらされ、ナミへの入り口へと尖らせた舌先を激しく捩じり込んで来る。
無骨な指で犯されるのとはまた別の快感に、ナミは震える手でシーツを握り締めた。

「ああっ、ああっ、あああ! や、やあ! そ、そんな・・・ああ―――ッ!」

舌先の攻撃に指まで加えられ、ナミは更にしどけない声を上げた。
頭の中で白い泡がいくつも弾け、がくがくと全身が震える。
幾度目かも判らない絶頂に翻弄され、ナミはもう言葉ですら抵抗できなくなっていた。

「はあ、はあ、あ・・ああ・・・も、駄目、私・・・」
「壊れちまえよ、ここで・・・!」

言ったが早いか、ゾロは限界まで張り詰めた荒々しい分身を、愛液の滴る肉壁の狭間へと打ち込んだ。
溢れる水音が恥辱の限りを尽くして臀部に叩きつけられる。
ナミは喘ぐようにシーツの海を掻き抱いた。

「いやっ、いやっ、あああ! い、いい・・あ、あ、ああ! だ、駄目、そこは・・あああ! ゾロ、お願い、もう・・・!」
「・・・イイんだろ? なら、やめるこたぁねぇだろうが」
「そ、そんな・・・ああっ? あ、あ、ああ! あふ、ふうっ、ん、んんん!」

逞しい分身に荒々しく貫かれ、ナミは悲鳴とも嬌声ともつかない声を上げた。
白桃のような臀部をわし掴みにされ、前にも増して激しく腰を叩きつけられる。
ナミはゾロが突き上げる度訪れる、局部から頭に向かって走るえも言われぬ快感に涙を流した。

「ああ、ああ、あっ・・ああ! あ、あ、ああん!」

快感と激情の嵐に翻弄され、ナミは恥辱の限りを尽くして身悶えた。
それにますます欲情の炎を焚きつけられるゾロも、また一段と激しくナミを求めた。

いつしか外の雨が激しく窓に叩きつけている。
ゾロは時間の流れすら忘れて夢中でナミを求め、ナミもまた、その荒々しい求めに全身で応え続けた――。





「ん・・・」

いつの間にか、カーテンの隙間から朝日が覗いていた。
昨晩の雨に洗い流され、外はすっきりと眩しい上天気らしい。
だるい頭をゆっくり振り、ゾロは自分が裸で眠っていたことに気づいた。
いつもなら、パジャマかスウェットの下だけは履いている筈なのだが。
――そこまで考え、ふと昨夜の狂おしいまでの情事を思い出す。

(やばかったかな。雨が降ってんのをいいことに夢中で抱いちまって、結局帰し損なっちまったから・・・)

何気なく辺りを見回すが、ナミはゾロの隣にはいなかった。
開いているドアの向こう――キッチンに立って、コーヒーを淹れている。
ゾロが目覚めたのを察したのか、不意にナミは振り返った。
そのまま淹れたてのコーヒーを持って寝室へとやって来る。

「・・・おはよう、ゾロ」
「お、おう・・・」

やはり夢ではなかった。
その証拠に、たった今目の前にナミがいる。
何より、ゾロのカッターシャツから覗くナミの首筋には、数え切れないほどの緋色の痣が残っている。
いや、首筋だけではない。
シャツを脱がせて見ればおそらく一目瞭然だ。
うなじから胸元や乳房、滑らかな腹や太腿に至るまでその痕跡は残っているだろう。

「ねえゾロ・・・ひとつだけ、聞いてもいい・・・?」
「――何だ?」
「一度でいいの。もし私のこと、嘘じゃなくホントに好きなら、一度でいいから・・『愛してる』って、言ってくれる?」

オレンジの髪を揺らし、ナミはポツリと呟くように言った。
間近で聞こうと思ったのか、ナミはゾロの座っているベッドサイドに腰を下ろした。
それ以前に、昨夜相当無茶をしたので立っているのはかなり辛い筈だ。

嘘か誠か――そこの言葉に真摯な想いを悟り、ゾロは俯くナミの唇が微かに震えていることに気づいた。

嘘などでいい筈がない。
事実、自分の心の奥底を垣間見たゾロは、狂おしいばかりの己が本音を知っている。
渾身の勇気を振り絞って告げたナミに、真摯な気持ちで応えなければならない。
そっとナミの頬に手を伸ばす。
指先が触れた瞬間、ピクリとナミの頬が強張るのが判った。
それを宥めるように、その大きな手でそっと耳元を包む。
大切なものを慈しむように。

「・・・嘘なんかつく必要はねぇ」
「え・・・?」
「嘘じゃねぇ。俺はずっとお前が欲しかった。力ずくでも、お前のすべてを手に入れたかった。・・・昨夜のアレが、俺の答えだ」
「バカ・・・順番逆・・・」

狂おしいまでに愛しい――口にはしなかった想いが伝わったのか、ナミはふわりと涙ぐんだ。
そのまま飛びつく勢いで、逞しいゾロの胸へと飛び込んで来る。

そんなナミを、ゾロは力一杯抱きしめた。




 <FIN>

《筆者あとがき》
イングラム初号機、何とか起動しました。
ハッパを掛けられた皆さん、勘弁して下さい。
これが精一杯です・・・(涙)。


(2004.06.20)


<管理人のつぶやき>
ゾロの身の回りの世話を焼きに通うナミ。いつでも二人っきりではあったのですよ。
あとはきっかけだけ。そして、それは雨の日に突然訪れた…。
上だけパジャマって・・・悩殺ポーズだよ、それは。それに頓着しないナミが無邪気でかわいいといえばかわいいが、ゾロにしてみれば堪ったものではないですね(汗)。
事実、理性プッツンでした。

床部屋作品第一号は真牙さんでした。がんばって書いてくれてありがとう〜vvv
さて、第二号は誰になるかにゃ?

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