俺は、ナミさんを「ナミさん」と呼ぶ。
…本当は、「ナミ」と呼びたい。
だから、何気なくナミさんを「ナミ」と呼ぶアイツに腹が立つ 。
いや、他の船員だってナミさんを「ナミ」と呼んでいるんだが…。
アイツにだけ、腹が立つ。
何故だ?
そんなのは簡単な事だ、自分でも解ってる。
ナミさんが、アイツを好きだからだ。

ナミさんも俺だけを「くん」付けで呼ぶ。
何だか俺だけ、君との距離が遠いみたいだな…。

解ってる、解ってるさ。
嫉妬だって。
でもこんなに人を好きになったのは、初めてなんだ。
こんなに本気になったのは…。

せめて、心の中でだけは呼ばせてくれな。
なぁ、「ナミ」?
俺の想いは、君に届かないのか?
俺の想いを全て伝えるには、どうしたらいい?





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apple 様






お気に入りの船首の上に座って釣りをしているルフィ。
すぐ側には、新兵器開発に勤しむウソップ。
チョッパーは男部屋で医学書でも読んでいるんだろう。
ロビンちゃんも読書かな。
蜜柑畑では、ゾロが昼寝。
そしてキッチン、熱心に航海日誌を書いているナミさんと、彼女のためにおやつを作っている俺。
いつもと同じ、昼下がりのゴーイング・メリー号の風景。

「出来ましたよvvナミさ…」
出来上がったオレンジシャーベットを持って振り返ると、ナミさんは宙を見つめて、何か考え事をしているようだった。
考え事をしているナミさんの横顔は、美しい。
白く透き通るような頬、憂いを帯びて時折伏せられる大きな瞳、長い睫。
こんな顔でする考え事なんて、決まってる。
「ゾロ、ですか?」
「…わかっちゃうのね、サンジくんには」
君の事なら、なんでもね。
「そんな悲しそうな顔をしないで。さ、これでも食べて元気出して下さいよ」
「ありがと、サンジくん」
サンジ「くん」、か。

「おいナミ、ウソップが指針が変だって騒いでるぞ。行ってやれよ」
折角二人でいい感じだったのに、昼寝していたはずのゾロが突然キッチンに入ってきやがった。
「またぁ?ほんとにもう、“偉大なる航路”の気候ってのはわかんないわね」
そう言うとナミさんは立ち上がって、
「サンジくんご馳走様、美味しかった。また作ってねんvv」
と、小悪魔的な笑顔を残してキッチンを出て行った。
クソッ、コイツさえ来なけりゃ…。

「なぁコック、ナミの奴何か変じゃなかったか?」
「よく見てるんだな、ナミさんの事は」
皮肉たっぷりに俺は言う。
何言ってやがる、お前のせいだってのに。お前もナミさんが好きなら、ナミさんの気持ちくらい気づいてやれってんだ。
「…別にいいだろ。それよりお前」
「あ?何だよ。用が済んだら出てけよ」
「前から思ってたんだけどよ、何でお前ナミの事『さん』付けで呼ぶんだ?」
…不意を衝かれた。
「ビビは確か『ちゃん』付けだったな。ロビンもそうだろ。ナミだけ『さん』なんて変じゃねぇか?大体『さん』だの『ちゃん』だの付ける事自体まどろっこしいだろ」
よりによってなんでコイツが、普段他人の事(増してや俺の事)なんてどうでもいいようなコイツが、こんな些細な事に気づいてやがるんだ。
…俺にとっちゃ、些細な事でもないけどな。
「俺の好きなように呼んで悪いかよ?」
「あ?いや別に悪かねぇが…」
「だったらほっとけ、クソ剣士」
「…お前…」
ゾロは何か言いかけたが、黙って出て行った。
アイツでも、俺の気持ちを察したのかね。アイツにもそんな事出来るんだな。

「…さて、ロビンちゃんにもこれ、持っていかなきゃな」
もうひとつのオレンジシャーベットを持って、俺もキッチンを出た。
ふと目をやると、
蜜柑畑の影に、じゃれあってる二人が見えた。
ナミさんの頭を小突くゾロと、はにかんだような、嬉しそうな笑顔のナミさん。
なんだ、アイツ俺の気持ちを察したわけじゃねぇのか。やっぱり、アイツにそんな事出来るわけないな。

…あんな顔させてやれるのは、結局ゾロだけって事か。
俺が君を「ナミ」と呼ぶ日は、きっと来ないんだろうな。
そして、君が俺を「サンジ」と呼ぶ日も…。






FIN




(2003.10.09)

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<管理人のつぶやき>
冒頭のサンジくんの「ナミ」という心の中での呼びかけにドキッとしました。
なんだか妙に色気があると思ったのは私だけ?(笑)
サンジが想いを寄せる当のナミは緑頭の人を想っていて・・・。
ゾロは分かってるのか、分かってないんだか、鋭い問いかけをしてきたものですね。
最後は切ないサンジくんでした(TwT)。

投稿作品第1号はappleさんでした。
投稿部屋を作ってすぐに投稿をいただけるとはなんという幸運でしょう。
ほんとにね、「投稿ぜんぜん無かったらどうしよう〜(ぐるぐる)」って思ってたので、すごく嬉しいです♪
appleさん、素敵なお話をどうもありがとうございました!

 

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