「んっナミすわ〜ん、今夜7時ねぇー!待ってるよ〜ん!」
振り向いたのは、オレンジ頭。ゆっくりと、呆れたような表情で。
「解ってる……わ」と返事の声もだるそうに...
一瞬、時が止まった。





はじめて君としゃべった……。  −1−
            

CAO 様

「…るっせーな!一回言やー分かるつうのー!」
「いーや、お前のマリモ脳じゃ理解できる訳がねぇー。ナンテったって、あのナミサンとのデートを取り付けたんだぜっ!」
「何がデートだ!お前んちのパーティに来るだけじゃねーか。」
「…ぐっ。運命の出会いから、苦節半年...彼女は地上に舞い降りた天使…」
(うぜー。今俺は忙しいんだ!…あの女がそろそろ…)

去年の今頃だったよなー、あの女を見かけたのは。俺が二年になんとか進級して、新入生の部活勧誘に行けってたしぎのヤツに言われて、玄関前で一年生何人かを囲んでた時だった…。
「ふっざけんじゃないわよ!バカにするなっ!」
見ると、正門付近で3年の質が悪いと評判の野郎が怒鳴られてた...一年生らしき女に。
取り縋ろうとする男を尻目に、女は振り向きもせず、その鮮やかなオレンジ色の頭を1、2回ぶんぶんと振り、次にくいっと持ち上げて、正門をスタスタ出て行った。
(…すげー女。)
それが俺の第一印象。気の強そうなオレンジ色の後ろ姿、妙に目に焼き付いた 。
次に見かけたのは、一週間後だ。俺は昼飯食ったら、中庭のお気に入りの芝生の上で寝ることにしている。その日も渡り廊下を曲がり、俺の定位置を視界に止める。しかし、先客がいやがった!…オレンジ色の後頭部が見えた。
男からプレゼントらしきモノが、オレンジ女に渡されている。
(また男かよ…早く終わらせ…うぉっ、何か放り投げやがった!こっちに。)
慌てた男が俺の方へ走ってきた。俺に気付くと男は、拾ったプレゼントを懐に仕舞い、情けない顔で俺の横を通り過ぎた。
また女は頭を振り、振り向かないで行っちまった。
…あれからかな?あの女を意識して見るようになったのは…意識って程じゃねぇが、ちと探してみるって程度だ。何せ見付ける度に何かやらかしてやがる。
ある時は、半泣きのクラスメイトらしき女を引き連れ、上級生の男に喰ってかかったり、同級の男共から「兄貴ー!」と呼ばれ、殴り付けたり…なんて事は日常茶飯事。ついこの間なんて、何にも無い中庭のど真ん中で派手にこけやがった!…だが、あいつは何事も無かったかの様に、すくっと立ち上がり頭を少し上に向け、あっさり歩き出しやがった…ありゃ、相当痛そうだった。近くで見てたヤツらも、あっけに取られてたっけ。
唯、あれはいただけねぇ…去年の二学期末テストの最終日、俺のクラス担任の赤髪親父と甘える様に腕組んで教員室の前歩いてた…別にいいんだが、教師と生徒は不味いだろ…俺にゃ関係ないが...。
…まぁ兎に角見てて飽きねぇつうか、何か必ずやらかしてくれるし、期待を裏切らねぇ。要は、つまり面白れぇんだ!…正直言えば、何となく「話してみてぇ」とか思う事もある。まともに顔見た事もねぇんだがな…決して振り返らない女だからなっ。こっち向きゃ声の一つも掛けてやるんだがよ!最近は、気が付けば(振り返れ!)とか(こっち向け!)とか考えている自分がいたりする。

胴着に着替えた俺は、部活前の時間を格技場の入り口前で、こんな事考えながらここ一年程過ごしている。学校の昇降口から正門までの間にあるここは、絶好の観察ポイントだ…何をって、オレンジ女の。剣道の部活以外で面白い事っちゃ、これ位だろっ〜でなきゃ、高校なんて来る訳ない。それをさっきから、このエロコックが振られ続けた女とやっとデートにこぎつけたとかナントカ…煩せぇーったらねえ!
入学当初からムカつく奴ではあったが、何となく気が合う様な合わないような。で、3年になって同じクラスになった途端、人のこと゛親友"とか呼んで、毎日教室で女の話ばっかりだ。放課後はナンパタイムだろっ、どっか行けー!と思ってると…自称フェミニスト・金髪ぐる眉エロコックが、チョーいい女とやらの自慢話がしたくてたまんねぇらしい。勘弁しろヨーってな時、突然叫びやがった!
「んっナミすわーん、今夜7時…」俺はつられて、コックが声を掛けた方を見た。
「……」
一瞬、時が止まった。
(…この女の事かよっ。)
振り返った女も呆然としている。
(…結構いい女じゃねぇか?)
女が近づいてくる。一歩一歩ゆっくりと、そのオレンジの髪を揺らしながら。勝ち気そうな鵄色の瞳は、挑むような表情を浮かべ、俺を見ている。
(…へっ、上等だ。)
俺の頬が自然と弛む…目は女の瞳から逸らさぬまま…かなり凶悪な面になってる筈だ。
俺の目の前まで来た女は立ち止まり、そのオレンジの頭を少し上げた。…その時、腹を括った。コイツに話し掛けてやる。

「お前、俺の女にならねぇ?」

鵄色の瞳が一瞬驚きを見せたが、直ぐにその色は失せ、代わりに、ずる賢そうな光が宿り…

「いいわヨ、望むところ。」




2→


(2005.11.23)

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