君中毒
ふぅ 様
ふと思った。
今日、私は一度もゾロを見てないんじゃないか…って。
ゾロに会ってないと気づいたのは、お昼を過ぎてからだった。
2日前に小さな村のある島に着き、ログが溜まるのが1週間ということで、各自好きなように過ごしていた。
しかし、ルフィが1日目の夜に食べ物(肉)を馬鹿みたいに衝動買いしたせいで食事と寝床は船で、ということになった。
だから2日目の今日、いつもどうり朝食を食べて、いつもどうりミカンの手入れをして…。
ここまで普段と変わりない行動をとっているのに、何故か妙な違和感を感じる。
そのとき気づいた、ゾロがいないことに。
朝食を食べるときもミカンの手入れをするときも、そうだ間違いなく傍にはゾロがいた。
別に言葉を交わしたりするわけじゃない、ただ単に傍にいるだけ。
それでも、いつも傍にはゾロが一緒にいてくれていた。
ナミとゾロは1か月ほど前から、いわゆる「恋人同士」という関係だった。
みんなに直接言ったわけではないが、何故か数日後には完璧にばれていた。
ルフィは「今日もラブラブか、お前ら!」とからかうのを楽しんでいた。
最初はナミもゾロも妙に赤くなって照れていたが、それが毎日続くと正直うっとうしい。
だからこの間、からかってきたときに2人が殺気が混ざった目で思いっ切り睨んでやったら、本当に死ぬと思ったのかそれ以来言わなくなった。
ロビンにいたっては、お前は母親か!というぐらいのこれ以上ない優しい笑顔を送ってこられるので、対応に困ったが賛成してくれているのかと良い方に考えて気にしないことにした。
唯一サンジだけが大激怒していたが、付き合い始めてからのナミがとても明るかったようで「ナミさんがそれで幸せなら...!」と泣きながら言ってきた。
そして以外だったのが、ウソップとチョッパーだけは2人に対する態度が全く変わらなかったこと。
ナミとゾロ的にはそれが一番楽だったので、2人はウソップとチョッパーに対して小さく感謝をしていた。
そんなことより、ゾロはどこに行ったのだろう…。
周りを軽く見渡してみるが、いない。いや、少なくとも船の中にはいないだろう。
もしいるとしたら、朝か昼食のときに誰かが呼びに行ってるはずだ。
しかし誰一人そんなそぶりを見せなかったし、誰もゾロのことを気にしていなかった。
もしかしたら、みんなはゾロが船にいないことや、もしくは今どこにいるのか知っているのだろうか。
しばらくミカン畑でうーんと考え込んでいると、あることに気がついた。
ウソップ、サンジ、ロビン、チョッパーの4人が一定の時間で船から出て行き、入れ違いに帰ってくるのを。
これは、何かあるわね…。そう直感した。
約10分後、ロビンと入れ違いにサンジが帰ってきた。
やっぱ聞くならこの人でしょ!と確信し、さっさとキッチンに入っていくサンジの後を追いながらナミもキッチンへ入った。
キッチンに入ると、サンジは何事もなかったかのように少し遅いおやつの準備を始めた。
ゆっくりと入ったため、サンジもナミの存在に気づいていない。
が、何故かいつもよりも少しテンションが高いように見える。
どこのどんな歌なのか分からないが、鼻歌なども歌っている。
いつ聞くべきなのかちょっと迷いがあったものの、もしかして聞くなら今がチャンスなのかしらと思い、おそるおそる話しかけてみることにした。
「サンジくーーん……。」
「あっ!んナぁーーミさあああん!おやつまだなんだよ、ごめんね?」
「え、ううん、そうじゃなくって…」
「あ!もしかして何かリクエスト?ナミさんが食べたいものなら今すぐにでも…!」
「ううん、そんなことはどうでもいいの。」
「……え?」
「サンジ君、さてはゾロの居場所を知ってるんじゃないでしょうね…?」
「……!!!」
この反応…やっぱり何かあるわね……。
「サンジ君、正直に教えてちょうだい。」
「……え!?なんのことかな?ナミさん、俺にはさっぱり…」
「お願いサンジ君!嘘つかないで!ちゃんと答えて!!」
あまりに唐突に、そして真剣に頼み込んでくるナミに、サンジは驚きを隠せなかった。
何故バレたのだろうというよりも、本当に必死に頼み込んでくるナミがいつもの態度とは違いとても小さく見えたから。
一瞬正直に答えそうになって少し口が開いた。しかし、またすぐに閉じた。これだけは言ってはいけない…。
みんなが私に隠し事をしてるのは、すぐに分かった。
私には言えない何かを、しようとしていることが。
でも、そんなことどうでもいい。
とにかく、私は……
今すぐゾロに会いたい。
会いたい。
しばらく沈黙が続いたが、少し泣き出しそうになっているナミを見てサンジは慌てて話し出した。
「ナミさん」
「……」
「確かに、俺たちはゾロの居場所を知ってるよ、でも…理由は教えられないんだ。」
「……」
「でもね、ナミさん。これは……」
そこまで話した瞬間、バン!とものすごい勢いでキッチンの扉が開いた。
2人は驚いて、ビクッと体を震わせドアのほうを見た。
するとサンジは長い溜息をつき、ナミはポカンと口を開けて言葉が出なかった。
「遅いんだよ。」
「………悪ぃ。」
そこにいたのは、ゾロだった。
ゼェゼェと肩を揺らしながら、ナミを見る。
「……急げ。」
「………え?」
「いいから!行くぞ!!」
ナミの腕を掴み、ぐいぐいと引っ張っていく。
甲板に出ると、さっきまでいなかったロビンがいた。
「ちょっと心配だけど、すごく頑張ってたから大丈夫よ。」
「……え?」
「時間的にも間に合うと思うから、気をつけてね。」
「え?ちょ、ちょっと!どこに……」
全く意味が分からなかったが、ゾロがロビンの言葉も無視して引っ張ってくので結局されるがままについて行った。
船を降り、村を抜け、森の中に入っていく。
方向音痴のはずなのに、一本道しかないようにすらすらとゾロは進んでいく。
まさかこれも勘で進んでるんじゃ…と思ったが、それにしては早足に進んでいる。
まるで、何かに逃げてるように…、または何かを逃がさないように……。
時間的には10分弱程度だっただろう。
しかし2人の肩はやけに上下に動き、息はやけにあらい。
ナミはただただゾロに引っ張られているだけだったか、急に止まったのでその勢いでゾロの背中に衝突してしまった。
「……間に合った。」
「ちょっと!急に止まらない…で……。」
そのとき、目の前の光景に気付いた。
たどり着いた先には、海の地平線に頭を隠そうとしているとても大きな夕日が見えた。
手を伸ばせば届くんではないだろうかというほどの、本当に大きく真っ赤な夕日だった。
見渡す限りの広い海に、ただ1つだけ赤々と燃え上がっている。
これほどまでに美しい夕焼けを、今までに見たことがあるだろうか…。
「…………きれい…。」
「……これを、お前に見せたくて。」
「………え?」
「お前、明日何の日か知ってるか?」
「……明日?」
その日は、11月10日。
つまり明日は、11月11日になるわけで…。
「……ゾロの誕生日。」
……?どういうことかしら?
明日がゾロの誕生日なのはもちろん覚えていたけれど、だからゾロが私にこの夕日を見せたいって言うのは…つじつまが合わない。
それに明日が誕生日で、私と一緒にこれを見たかったんなら、明日の宴会の前にでも来て2人で見るほうがいいんじゃないのかしら…。
「……あのぅ、」
「なんだ?」
「全く意味が…分からないんですけど…。」
首をかしげながら聞いてくるナミに、ゾロは長い長い、それはもう途轍も長い溜息をついた。
その態度に、ナミはおもわず頭にきた。
「なによ!そんな溜息つかなくても…!」
「あのな、」
「……?」
「明日は俺の誕生日だが、夜には何がある?」
「……ゾロを祝う宴会じゃないの?」
「そうだ。んじゃ、ナミの誕生日には何したよ?」
……あ、そうだ。思い出した。
私の誕生日、大きなシケが来たんだ。
みんなが何をくれるのか、内心わくわくしながら宴会を待っていたけど、その夜予想より大きなシケが来て、結局みんな疲れ果てて寝ちゃったんだった…。
でも、私自身疲れていたから、そんなことすっかり忘れていた。
「何も…してない…。」
「俺の誕生日を祝う前に、お前の誕生日を祝っとかないとおかしいだろうが。」
おもわずはっとゾロを見た。
つまり、これは…私への誕生日プレゼントってこと……?
お金じゃないというショックなんかより何より、嬉しさが湧き出てきた。
私自身忘れていた誕生日を、みんながずっと気にして、覚えててくれたなんて…。
急に泣きそうになって、その顔を見られないようにゾロに思いきり抱きついた。
しかしゾロはそれをちゃんと分かったようで、一瞬驚いていたが、すぐ背中に腕をまわして頭を撫でながら言った。
「…んで?このプレゼントについての感想は?」
「………最高。」
「上出来だ。」
2人で笑いあう。そのバックには広い海に大きな夕焼け。
まるで、2人の顔が真っ赤に染まっているよう…。
その、夕日で赤く染まっているゾロを見て可愛いと思いつつ、もう1度ゾロの胸に頭を寄せようとしたとき、ふと思い出した。
私が今日一日不安に思っていたこと。
「ゾロ!」
「あ?」
「ゾロやみんなは、今日1日何してたの?」
「………あー…。」
少し困ったように片手で口を隠してそっぽを向く。
しかしナミが興味心身で見つめてくるので、ゾロは諦めたように話し出した。
「……あのな。」
「うん。」
「みんなは、俺とナミをここで2人っきりにさせるってのをプレゼントにしたんだよ。」
「うん。」
「…で、俺はここまでナミを連れて来てこの景色を見せようと思ったんだが…。」
「…だが?」
「……クソコックが“こいつじゃ一生ナミさんをあの場へは連れて行けねぇ!”とか言い出してな…。」
……つまりは迷わないようにずっと道案内をやってたってことか。
でも、ゾロと誰かの2人だけがいないんじゃ怪しいから、交代で教え込んでいたと。
今まで考えて勝手に落ち込んだりしてた私は、馬鹿みたい。
「なぁんだ。」
「あ?」
「心配して損したってことか。」
「…?何を心配してたんだよ。」
「んー?内緒。」
すっかり安心して、またゾロにおもいっきりしがみついた。
やっぱり、ゾロもみんなも、私のこと大事でたまらないのね…。
しかし、1つ気付いてしまったことがある。
たった1日ゾロを見ていないだけで、ここまで自分は不安になってしまうのか…。
……しまったわ。
すっかりゾロがいないとダメな人間になっちゃったのね……。
これって、“中毒”ってやつかしら?
どうしよう、チョッパーにでも相談してみようかしら…?
ギュッとしがみついてくるナミが喜んでいるとおもいきや、うんうんと急に悩みだした理由は、
その原因のゾロは気付いていない………。
FIN
(2007.11.25)