七武海のクマに、大気の爆弾を落とされて気を失った。
あの後何が起こったかわからないけど、目覚めたら皆無事で。
ただ、アイツの姿だけが見えなかった。

混沌とした意識の片隅に、聞こえていたんだ。

「……おれの命………勘弁して………」

もう、会えないかと思った。







星降る夜に
            

hio 様




「好きだ。」と言われたのはいつだったかな。
つい言ってしまった、というように、何気なく言われた。
そして、気にしないでくれ、と。
自分は剣の道を極めるのが一番大事。もし思い返してもらっても二の次になる。
女はそれじゃ不満になるだろ?

「女を知り尽くしたようなセリフね。」なんて返したっけ。


「チョッパー、少し休んだら?かわるわよ。」
ゾロの傍でうつらうつらしていたチョッパーは、悪戯を見つかった子供みたいにビクっとなった。
「オ、オレは、寝てないぞ!オレは船医だからな!」
「船医だから、よ。チョッパーが倒れたら誰もゾロの治療ができないでしょ?
 何かあったら呼ぶから。チョッパーは寝てきて?」
オタオタと言い訳をするチョッパーの頭を撫でながら、ナミは微笑んだ。

その笑顔があまりにも悲しそうで心配になったけど、
ゾロのことが心配なのはチョッパーも同じだ。
ゾロなら大丈夫だ、なんて、言わなくてもみんなそう信じてる。
結局ナミの気持ちを軽くするような言葉がみつからなくて、何も言わずにおいた。

「じゃあ、頼んでもいいか?そっちの隅にいるから、何かあったら呼んでくれ!」
「わかったわ。おやすみ。」


いつもは「寝れば治る」なんて言ってるゾロも、今回は眠りっぱなしだ。
きっと、ルフィの代わりに自分の命を差し出そうとしたんだろう。
何の迷いや、躊躇もなく、己の信念に従って。

もちろん、もし自分が同じ立場でもそうする。
がんじがらめだった過去から、現在から、助け出してくれたルフィ。
私や村の皆にも、自由に生きていける未来をくれたルフィ。
その命を助けるためなら、何でもする。
ルフィへの想いの形は皆それぞれ違うけど、
うちのクルーは全員そう思ってるだろう。


若草色の髪にそっと触れる。
思ったより柔らかい感触から、さらっとした頬を辿って、少しかさついた唇へ。

「ブルックが仲間になったのよ。
 念願の音楽家が入って、また賑やかになるね。」

ツンツン…と突きながら、小声で話す。

「ガイコツになる前の、だけど、賞金首だったんだって。」

「これでうちには剣士が二人いるのね。
 でも、ブルックの剣はゾロのよりちょっと細身だわ。」


「…隙だらけよ、大剣豪さん。」

そっと、手を取った。


アーロンから解放されて、海に出て、夢や航海のことで頭がいっぱいだった。
自分の為に時間やお金を使えるのが楽しくて。
毎日を笑って過ごせるのが嬉しくて、恋とか考えていなかった。
ゾロが「気にしなくていい」と言った事に甘えて、そのままにしていた。

ゾロはあの後、どういう気持ちだったんだろう。
本当は考えて欲しかったりしたのだろうか。
それとも、あれは一瞬の気の迷いで、今は何でもないかもしれない。
私は…

「……ミ…?」

うっすらと目を開けたゾロと目が合う。


傷だらけで

ボロボロで

血の気のない顔して…


安堵で胸がいっぱいになった。


「良かった。」

微笑むナミの目から零れた涙が、ゾロの手を濡らす。
頬を滑り落ちていく雫が、月の明かりに照らされてキラキラと輝いて。


(綺麗…だな。)


俯いてしまったナミの頬に当てられた手から、涙と震えが伝わってくる。
心配をかけたんだろう。
握る手に力を込める。大丈夫だと。


「…ルフィも、皆も、無事よ。」


ありがとう。守ってくれて。

ありがとう。生きててくれて。


恋をしているのか、
これからしていくのか、
ただの仲間なのか。
まだわからないけど、今はあんたが生きていてくれただけでいい。

これから、また一緒に過ごしていけるから。


「おやすみ」


そっとその指に口付けた。



FIN


(2012.08.26)


<管理人のつぶやき>
思わずというようなゾロの告白がいい!! こんな風にゾロに告白されてみたいものです。
まだナミの中では答えは出ていないよですが、クマとの対決の後で傷ついたゾロのそばに寄り添う姿にナミの優しさがにじみ出ていて、ステキだと思いました^^。

hioさんの初投稿作品でした。初めてのご投稿ありがとうございました!!!

 

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