「人一人も見殺しにできねェような小物が・・・粋がってんじゃねぇぞ!!!」
            

雷猫 様



楽しかった船旅を終えて、また戻ってきた。

『アーロンパーク』

二度と思い出したくないあの過去。現実。
全て夢であってほしいと願った。
どんなに金があって、どんなに好待遇を受けていても、あの危険な船の上のほうがいっそマシだと思った。




「おお!帰ったか長旅だったな・・!!」

見なれたプールサイド。テラスのようになっているところに、アーロンはいつもいる。

「相変らず不用心ね、この屋敷は。」

「フン・・・このおれを誰だと思ってる・・・・・・・!どうだった今回の収穫は!?」



作り笑いをして見せる。



「上々!・・・でも、なんだか胸にポッカリ穴があいたみたい。」




その穴を埋めることが出来るのは、お金なんかじゃない。
あいつじゃないとダメなんだろう、と少しだけ思った。











いつも通り、自分の部屋に戻って残っていた海図を次々と完成させる。
ここの環境にも随分慣れた。でも楽しいとはひとつも思えない。それだけだった。
トントントンとドアをノックする音がした。



「どうぞ。」

「ナミ!人間が捕まったぞ!」

「・・・どんな奴よ。」


「珍しい緑色の髪してたなぁ。包帯なんかぐるぐる巻きでさぁ・・。」


そいつが言い終える前に私は部屋から飛び出た。
なんだか分からないけど、いかなければと思った。関係ないのに。忘れたかったのに・・!

息を整えてからアーロンのもとへ向かった。ちょうど話している最中らしい。


「だから女を一人探してるっつってんだろ!!半魚野郎!!!」


聞きなれた声。数ヶ月前私を「アンタ」と呼んだ、あの男。




「シャハハハハハ・・・まんまとダマされてたわけだな。こいつは金のためなら親の死さえも忘れることのできる、冷血な魔女のような女さ!!」



そのことに一瞬顔が曇る。それをあいつは見逃さない。
気付いて欲しかったのかもしれない。少しの望みがあったと、いうのは本当だ。



「!」


いきなり海に飛び込んだ。
みんながザワザワと驚きだす。


「じゃ、自殺か。」

「あのバカ・・・」



思わず後に続く。
死ぬ?フザケないで。私の目の前で死のうなんて、それだけは絶対にいやなのに。



「何のつもりよ・・・」

息が途切れ途切れになりながら、必死にアイツを見る。
アイツもむせながら私を見上げた。

「てめぇこそ何のつもりだ。」





「人一人も見殺しにできねェような小物が・・・粋がってんじゃねぇぞ!!!」





全てを見抜かれた気がした。
悔しかった。
こいつに何が分かる。




「ブチ込んどいて!私が始末するわ。」





ちょうどアーロンはココヤシ村に行ってしまった。
ウソップが見つかったらしく、ゲンさんも危ないかもしれない。でも今はどうすることもできない。
ノジコに任せるほかなかった。

スキが出来たのを見計らって、牢屋に向かった。

行くと背を向けたアイツがいた。



「・・・・随分なザマだったじゃない。あいつらはまだ気付いてないけど・・・、海賊狩りのゾロが自殺未遂だなんて。」


あいつは振り返らずに笑った。


「その情けねぇ野郎を助けたアーロン一味の幹部・・、ってのもなかなかのモンだと思うぜ?」

「助けたんじゃないわ。余計なことされるのが面倒だっただけよ。」


                 ・  ・
「そのやっかいものをそれで刺そうってか。」

気が付くとアイツは振りむいて私の右手にある短刀を見ていた。

「・・・・そうね。それもいいかもね。」

私はそう言ってあいつの後ろに来た。

ブチッという音がして、あいつを不自由にしていた縄を切り落した。


「・・・・ナミ?」


「逃げて。」



「ん?」

「さっさと逃げて!アーロンが帰らないうちに。」



あいつはそうか、と言って立ち上がり、服の汚れた部分をパンパンとはたき落とした。そして1本の刀を腰につけた。


「お前はどうするんだ。」

ふいに聞かれた。

「私はここに残るに決まってるじゃない。」

「ルフィはお前のためにここまで来るって決めたんだ。それでもここに残るか。」

「あいつがどう思ってようが関係ないわよ!アンタ達のことなんかもう忘れるから!ていうか忘れかけてたのに!なんでついて来るの!?そんなに私はいい奴じゃないし、役にも立たないのに・・・・!!!」


「じゃあ、なんで泣くんだ。」


自分でも気がつかなかった。涙があふれていた。


「だってお前ルフィ達のことすごく好きだろ。」


言葉が出てこない。それだけ真っ直ぐ、視線を向けられる。


「そうやって強がったり、バカみてぇに作り笑いしたり。全部そうしてねぇとつらいからだろ。」



涙が。

頬を伝うのが分かった。


「つらいのは、好きだからだろ。」



夢中になって、アイツに抱きついた。




ずっと

ずっとずっと

泣きたかった

けどいろんなことがあって

何に泣きたいのかわからなくなって

泣けなくて


私は


ただ

みんながいなくなっていくのが怖かった




END

<雷猫さんのあとがき>
なんかこいつらだけハッピーエンドぢゃん。
って思った方も多いと思います。(てかその通りだろ。
まぁ、これから大きな事件になっていくわけですよ。
前回の「女一人に何人がかりだ」から微妙に続いてますけど、連載でゎないんで!まぎらわしいけど分かってやってくださいな。。
でわ^^読んでくれてありがとう!

(2004.08.12)

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<管理人のつぶやき>
この辺、ゾロナミストならたまらんシーン満載ですよね〜v
原作では牢屋の場面は1コマだけですが、こんなやりとりがあったことを希望(笑)。
行間を丁寧に読み解くいていくかのようなお話ですね。
わたしゃ既に「セリフシリーズ」と命名してしまいましたが(気が早い?)
雷猫さん、どうもありがとうございましたー♪

 

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