Controversial utterance
            

雷猫 様



「なんで私が文化祭委員なのよっっ!!?」


流行りの風邪もやっと治り、4日ぶりに学校に来てみたら
面倒くさがって誰もやらない仕事を押しつけられていた

文化祭2ヶ月前――




「せっかく久しぶりに学校に来れるって喜んだ私がバカだったわ!よりによって、文化祭実行委員なんて・・・。」


お昼の時間に不満を愚痴る。喋ってばかりのせいで、1つ目のパンも食べきれていない。


「でもナミさん、きっと楽しいですよ!私も委員だし、放課後、委員会一緒に行きましょうよ。」

「いいわねビビは前向きで・・。羨ましいわ。」

「よく言われます。」


嫌味にならない笑顔を浮かべるその美少女は、隣のクラスで親友のビビだ。
キレイな水色の髪に整った顔。結構モテているのも事実である。


「でも絶対に大変な仕事よ!病人に押し付けるくらい誰もやりたがらないんだもの。」

「それはきっとナミさんが頼りになるからよ。」

「そうだといいけどね・・。」


やっと1つ目のパンを食べきれた。袋をくしゃっと丸めると、ナミは席を立った。


「ごめん、ビビ。この後先輩を会う約束してるの。じゃ、放課後ねv」

「はい、いってらっしゃい!」





「先輩!ごめん、待った?」

「全然待ってないよ!ナミさんなら、どんなに遅れてもかまいませんv」

どっちが先輩なんだか分からない会話だが、ナミが最近付き合いだしたこの男はサンジ。サッカー部のキャプテンを務めていて、女子生徒にモテモテだが、女たらしとしても有名だ。

「で、ごめんけど今日からあんまり放課後一緒に帰れないの。委員になっちゃって・・。」

「え〜、ナミさんと帰れないのっっ?そんなのヒドいですよ・・・・・。」

「ごめんねってば。埋め合わせはちゃんとするから。」

「いえいえ!レディーにそんな気を遣わせるわけにはいきません!お構いなくv」

「ありがと、先輩v」





ナミは高校2年生。ビビも確かに可愛いが、ナミも負けず劣らず、かなりの美人である。
オレンジ色の髪の毛に、それと同じ色の大きな瞳。スタイルもよく、この学校では結構有名な存在だった。
すっと迫られていたサンジに、やっと最近OKしたのだ。その時ばかりはサンジすら驚いたようで、今では毎日会うくらいの仲良しである。






「――・・・ということで、これから実行委員会を始めたいと思います。・・・3-1がまだ来てないな。誰か呼んできてくれ。」


そう言われて3-1の席を見ると、確かにそこだけ空間がある。
他のクラスは、ナミも含め10分前には席についていたのにもかかわらず、そこにはいまだに誰も来る気配はない。

・・・と、

ガラッ

と戸が開く音がした。


「おい、遅いぞ。」

委員長がそう言ってから振り向くと、そこにはあくびをしながら立っている男がいた。

みんながそいつを見た瞬間、少しだけ教室がざわついた。


こいつ・・・知ってる

剣道部部長、ロロノア・ゾロ
緑色の髪に校則違反のピアスをしかも3個もつけている、有名な問題児。
でも剣道はめちゃくちゃ強い。・・・ケンカも強い。

そんなヤツが実行委員だ。教室どこを見渡しても驚いた顔しか見えない。


みんなの視線ももろともでず、ゾロは目をかきながら席についた。


委員会中、ゾロは話も聞かずに机につっぷしてずっと寝ていた。
みんな寝ているゾロをチラチラ横目で見ていたが、注意しようという者は誰もいなかった。


「・・・・はい、じゃぁ今日の委員会はこれで終わります。また明日、同じ時間に。」


委員長がそう言った瞬間、生徒は誰もが一斉に立ちあがり、教室の外へ出ていった。


「はぁ、やっぱり面倒くさいわ・・。」

すっかりくたびれたナミは、混雑している教室の中に残って少し休憩していた。


「おい。」


いきなり声をかけられ、ナミの身体は少しビクッとなる。


「え?」

そこには、人相の悪い顔を上げてこちらをみているゾロの姿があった。


「今日は何話したんだ。」


拍子抜けだわ
そりゃ寝てたんだもん、聞いてるわけないわよね

「実はー・・・、私もあんまり聞いてなくて。」


エヘ、とかわいげに言ってみるが、それは事実だった。
元より不本意ながらの委員だ。真面目にする気などなかった。

ただひとつ忘れていた。
こんな会話委員長に聞かれたら・・・。


「そこの二人!」

「・・え?」


「委員会出る気ないんなら、二人に特別な仕事をお願いしたいんだけど・・。」


案の定、委員長は怒っていた。



「だからって、文化祭の飾り付けをたった二人で作れなんて酷すぎるわよ・・。」



『二人でも2ヶ月あれば全部できるだろ。これからは放課後ずっと図書室で黙々と作業しろ!話し聞くよりはいいだろ?』



「あ〜もう、できるわけないじゃない!」

そう言って、作っていた輪っかを机に投げつけた。

「うるせぇな、黙ってやれよ。」

「先輩が私にあんなこと聞くから悪いんでしょ?」

「俺のせいかよ!?」


そんなこと言いながらゾロの手元を見ると、なんとも綺麗に輪っかが作り上げられている。


「うっそ、意外!先輩こんなに手先器用なの?」

「意外ってなんだよ。うるせぇ女だな。」


いつもの事ながらの眉間のしわの数が、少し増えた。


「・・・先輩、なんで委員なんかになったの?」

「知るか。久しぶりに学校来たらなってた。」

「えっ、それ私と同じじゃない!奇遇ねっ^^」

「あっそ。チクショー委員なんかになったら学校サボれないじゃねぇか・・。」


そう愚痴るゾロの顔を見ると、人相は悪いが輪っか作りに対しての一生懸命さも感じられる。
そんな意外な一面を見てて、耐え切れずナミは噴出してしまった。

「・・・・っアハハハ!!!先輩おかしー!」

「なっ、なんだよ!!?」

「先輩がそんな一生懸命になるなんて、剣道以外にないと思ってた・・!!」

「初対面の野郎にそんなに言われる筋あいねぇよ・・・。」

そうは言いつつも、ゾロの顔は少し赤くなっていた。



なんだ、もっと怖いやつかと思ってた・・・・



少し安心して、ナミは投げつけた輪っかを拾って作業を再開した。





どれくらい時間がたっただろう。
輪っか作りに夢中になって、気がついたら7時すぎになっていた。


「やっだ、こんな時間・・。もう真っ暗だし・・・・。」


「ふーん・・。お前、家どこ。」

「え、4丁目・・・・。」

「仕度しろ。送ってやる。」

「って、いいんですか?」

「もしお前が襲われたら後味悪いだろ。」



空はもう暗く、月も出ていなかった。
ポツポツといくつか星が出ているだけで、外灯がないと歩けないくらいだ。


「先輩もこの辺ですか?」

「あぁ・・、まぁな。」

「見たことないけど。」

「俺は外でキャッチボールなんてしねぇ。」



ぷっ、と笑ってしまう喋り方だ。
低い怒ったような声とは対照的に、笑える話をする。
もちろんナミとゾロが話すのは始めてだったが、会話が絶えることはなかった。



「あ、ここです。ありがとう先輩。」

「おう。明日からはもっと早く帰れよ。」

「先輩もね。」


その時、ナミは始めて見た。



笑った!!



歩いていく彼の背中を見ながら、何度も思い返した。
あんなに人相悪いのに・・・
あんなに優しく笑うんだ


心の中でずっと渦巻いている今の出来事に、
ナミはずっと玄関に立ち尽くし驚いていた










「あっ、おはようナミさん!!・・・・・すごい顔ですね。」

「う〜・・、ちょっと寝不足。」


ちょっとではない。かなり寝不足だ。
昨日は全然眠れなかった。それが疲れのせいなのか、彼の笑顔のせいか、それともただの不眠症か・・

とにかく目の下には大きなクマ
どこからどう誰が見ても、寝不足だ



「それはそうと、ナミさん昨日は大変でしたね。これからずっと飾り作りですか?」

「そうよ。まぁ先輩もいるからヒマしないけどね。」

「あぁ、ロロノア・ゾロ先輩でしょ?私、家近所なんです。」

「えっ・・・て、ビビ家どこだっけ。」

「ナミさんとは遠いですよね。3番地なんです。」




『先輩もこの辺ですか?』

『あぁ・・、まぁな。』




「3番地って・・・、学校からウチの方回ったら・・すごい遠回りじゃない!」

「そう・・ですね。あまりそういことしませんよね。・・・どうかしたんですか?」


「いや・・、なんでもない。」









その日の作業では、今日のこともあったからか、少し緊張してしまう。
ゾロは何も気にせず黙々と作業を続けているのだが、どうもナミは落ち着かず、作業がまったく進まない。

会話も続かず、気まずさと沈黙の重さにまいってしまった、その時。


「んナ〜ミさぁ〜んvvvv」


ガラッと戸が開いたと思うと、2人きりで静かだった教室にサンジが入ってきた。


「先輩!先に帰っててって言ったのに・・。」

「やっぱり寂しくてv・・・って、コイツ・・・・・・。」


サンジの動きが止まったので、不審に思いサンジの目線を追ってみる。
その先には相変らず作業に没頭するゾロがいた。


「あっ、先輩、誤解しないで!これはロロノア・ゾロ先輩で、いろいろあって委員長に無理やり・・。」


「知ってる。」


「そ・・、そりゃそうよね!同じ学年だし。私ったら何あせって・・・・。」


そう愛想よく笑ってみると、いつもなら笑顔のサンジが、珍しくこちらを向かずゾロをじっと睨んでいる。


「な〜んでおめぇがナミさんと2人きりなんだクソマリモマン!!!」

「・・・・・・うっせぇ。」

「これから2ヶ月お前とナミさんを2人きりにしておくわけにはいかねぇ!これから俺は毎日ここに来るぞ。」


その言葉を聞いた途端、ゾロは輪っかを置き、机に投げだされた鞄を無造作につかむと、ドアの所まで一直線に向っていった。


「ちょっと、先輩!?」


そう言い寄ると、ゾロは首だけを振り向かせ、睨むようにこちらを見た。


「やる気が失せた。勝手に2人でやってろ。」


それだけを吐き捨てるように言うと、ゾロはドアをバタンと閉めて行ってしまった。



「・・・・・・・先輩・・。」



「さ、これで邪魔者はいなくなりましたvvナミさん、俺が手伝いますよっっ!」


サンジはナミの肩にポン、と手を置いて言った。


「・・・・・・先輩。」

「ん?」


下を向いたままのナミの顔をのぞきこむと、大きな目からは大粒の涙が溢れていた。


「ナミさん!?っどうしたの??俺・・何かした?あぁ・・・、じゃぁもう女の子と遊ぶの止めるから!ね?あ・・大丈夫?」


「ごめん先輩・・・。ごめん!」


そう言ってサンジをふりきると、ゾロが出て行った方向に走り出した。


「先輩っ!!!」

見ればグラウンドの中心辺りを歩いてる緑頭が見える。

上靴のまま校庭へ出る




なんで?

なんで私は走ってるの?

サンジ先輩が嫌いなわけじゃない

不満があるわけでもない


でも


今彼を追いかけないと

一生後悔する



なんで?

なんで私はそう思ったの?






「先輩っっっ!!!!」



思いっきり走り出したので、勢いで転んでしまった。
校庭の砂に膝がすれて、少し血が滲んでいる。


顔を上げると、ゾロがすぐ前まで来ていた。


「大丈夫?」


そう手を差し伸べられ、反射的にその手を握る。
分厚い、頼りになる手だった。


「なんで来たんだよ。お前ら2人でやるのでそれでいいっつーのに。」


ナミを優しく立たせて、ゾロは真剣に言う。


「だって・・・・。」


「だって?」


「先輩といるのが楽しいんだもん!私は先輩と一緒にいたいの!!なんでか分からないけどそう思っちゃうの!!」


叫んでる間にも、涙が零れ落ちるのが自分でも分かった。


「先輩が、私に優しくなんかするからいけないのよ!家遠いのに送ってくれるし、優しく笑うし・・・・、変に期待なんかさせるから・・、自分でも勝手だって分かってても、先輩に惹かれてくのがどうにもならないんだよっ!」





全部言った

自分の本当の気持ち

正直な気持ち

卑怯な気持ち

真剣な気持ち


全部言った


もう悔いなんてものないわ






決心して、ゾロの目をじっと見詰めた





「・・・・とりあえず。」


言いながらナミの腕を優しくつかんだ。




「アイツに殴られるところからな。」





学校に戻っていく彼の姿は、どうしようもなく愛しかった。




end


(2005.04.15)

Copyright(C)雷猫,All rights reserved.


<管理人のつぶやき>
心の動きはいかんともしがたい。付き合ってる人がいても、ナミの心はゾロへと引き寄せられてしまった。ゾロへの絶叫告白に、ナミの気持ち全てが詰め込まれていました。
ゾロの答えは「アイツに殴られるところからな」だって!くぅぅぅ〜vvv(悶絶)
学校へ戻っていくゾロの後姿はね、私もどうしようもなく愛しかったよ!!(笑)

雷猫さんの16作目でございます。これからもどうぞよろしくお願いいたします!!

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