彼が買うのは決まって

肉っ気の多いカルビ弁当と

右から2番目のマルボロ





11:45
            

雷猫 様



コンビニは、11時を過ぎると急に人が来なくなる

お客さんがいる時とは違う緊張感が、夜のコンビニにはある

静けさと、中が明るいせいで闇のよう見える外


ここでナミがバイトを始めてから、もう4ヶ月経った。

専門学校に通っているため、平日勤務のナミはどうしても夜にしかバイトに来れない。
だから、ナミは5日間9時〜明け方までいなくてはならないのだ。
朝は家で3時間程しか寝れず、午後からの講習に参加しているため、休む暇などナミにはない。




気がついたら、「そいつ」は来ていた



いつも一人で暗闇から現われる。
時計を見ると11:45。
日付が変わる直前に、そいつは決まって来る。

そいつは迷うことなく、残り少なくなったカルビ弁当と、
レジの横にあるタバコ棚に並ぶマルボロをついでのように取って、
私に無言で差し出すのだ。

そして「ビニールはいい。」と小さく言って、
コンビニの出入り口の横の薄明かりの中で
ひとり買ったばかりの弁当を食べている。


彼は12:15までの30分、
そこで過ごしてまた闇に消えていく。



その毎日の30分が、ナミにとって、何故だか1日で1番心が安らぐ時になっていた。


名前も知らないけど、空気のようにそこにいる「そいつ」が、
とても気になる存在になっていたのだ。







今日も、来た。


「いらっしゃいませー。」


ドアが開くと同時にお決まりのセリフを言う。

彼はこちらをチラリとも見ず、一直線にお弁当まで歩いていく。

最近思うことがある。

私とこいつ、思えば1回も目が合ったことない気がするのよね。


ふと、ここで思いついた。




いつものように弁当とタバコをレジに出してきた。
彼は下を向いたまま。そのせいで目を瞑っている様に見える。

「タバコは体に良くないですよ。」

思い切って言ってみた。
関係ないだろ、とか言われるだろうが、別にそんな事どうでもいい。だから目を合わせたい。


しばらく続いた沈黙のあと、彼はやはり下を向いたままで、


「俺もそう思う。」


そう言いながら、代金をピッタリ静かに置いてコンビニを出ていった。






・・・・・・なら食うなよ





生意気なその背中に、心の中で捨てゼリフ




・・・・・・・いつか死ぬわよ
           病気でね














話しをしたのはそれきりで、またいつも通りの毎日が続いた。

名前も知らない彼が買うのは相も変わらずあの2品で、眠たそうな顔で毎日欠かさず来る。


そんな彼の様子が、今日は少し違った。

風邪気味か、腹痛か、とにかく顔色が悪い。


それでも彼はいつもの2品をレジに出し、とっととコンビニから出ていった。




・・・・・・・そりゃぁ、あんな栄養が偏りそうなモノ食べて、毎日タバコ吸ってれば体調ぐらい崩すでしょうね。








コンビニの戸をギィ、と引く。

もう秋になりつつあるだけあって、風は結構な冷たさだ。


ナミの気配に、彼は横目でチラリと見た。


「・・・・・・寒っっ!!よくこんな所で食べてられるわね。」

彼はそんな言葉は聞こえない、とでも言うように黙々と食べつづけている。

「・・・・・・・・・あのさ、これ、良かったら食べたら?」


そうナミが差し出したのは、サラダとあったかいお茶だった。


「少しは体の事も考えなさいよ。これはサービス!黙って受けとって。」



彼は、遠慮がちに手を差し出し、受け取った。
そして冷えた手でお茶のフタを開け、ぐいっと飲んでから、ハァと息をついた。



「・・・・あったけぇな。」



そしてナミの方を向いた。

初めて、目が合った。




「サンキュ。」




あ・・・・

笑った






「ねぇ、名前教えて。」


気付けば隣に座ってしまっていたナミは、冷えないように体を丸めて彼に聞いた。

そう、一番聞きたかったこと――


「・・・・なんで。」

「貸し1よ。返してもらう時のためにっ。」

「さっきサービスっつったろ!!?」

「スマイル0円!!!!あれは私の優しさってことよ。サラダとお茶の分は、返してもらうから。」

「・・・・・・・・」


あきれた表情の彼は、わざと大きく溜息をついた。


「・・・・・ゾロ。」

「・・え?」



「俺の名前。ロロノア・ゾロ。」

いきなりの言葉に、少しばかりナミは戸惑ってしまった。


「あ・・・・そぅ。ありがと。私の名前はねっ・・・」


「ナミだろ。」




「へっ!??なんで・・・・。」


「名札あんじゃん。」




「あ・・・・・、そゆこと。」





ハー、と息を吐く。
目を凝らして見ると、息が少しだけ白い。



「寒ー・・・・。」




「・・・あのさ、さっきの貸し、返すよ。」

「え?・・あぁ、お金のコト?」

「いや、違う・・・・・。」


そう言って、ゾロはアスファルトに置かれたナミの冷えた手を、上から握った。


「・・・・なに・・・。」

「優しさだよ。自分で言っただろ。」

「優しさって・・・・。」

「あったけぇだろ。」


いたずらっぽくゾロは笑った。


確かに、ゾロのたくましい分厚い手は暖かかった。

よく見るとその手は傷だらけ。


「あんた・・、何やってる人。」

「俺?俺は大工やってんの。つっても俺21だからまだ見習いだけど。」

「へぇ・・・、タメだね。」

「あっそ。」



「なんでいっつもこんなに遅いわけ。」

「いろいろやることがあんだよ。大工さんって仕事は。」

「見習でしょ。」

「うるせぇ。」



「マルボロ好きなの?」

「うん、上手いよ。吸ってみるか?」

「いいわ。あたしガンだけにはなりたくないのよね。」

「お前なぁ、そうゆうのを偏見っつーんだぞ。」



「あんたさぁ、さっきあたしの名札見て名前分かってたけど、まさかあたしの胸元見てたんじゃないでしょうねぇ。」

「んなわきゃねーだろ。バーカ。」

「バカっていうほうがバカなんじゃん。」










彼が買うのは決まって

肉っ気の多いカルビ弁当と

右から2番目のマルボロ




そして彼は決まって言う




「バーカ」






おわり


(2005.09.19)

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<管理人のつぶやき>
A girl meets a boy・・・・コンビニで働いてるとこういう出会いがありそうであります。
二人のセリフのやりとりや、優しさのお返しをするゾロがいいですな〜。

雷猫さんの18作目です。どうもありがとうございました^^。

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