約束だ、と。
言ったのはちょうど黄昏時で。
彼の涙が見えなかった時でした。





誰そ彼
            

雷猫 様



「なぁ、ナミぃ。たそがれってなんだ?」

「はぁ?ルフィ・・、あんたよくそんな難しい言葉知ってるわねぇ・・・・。」

「サンジがぼやいてたぞ。『たそがれとわれをとひそながつきのつゆにぬれつつきみまつわれを』とか。」

「あんた全部覚えたの!?」

「うんにゃ〜?何回も聞かされてたら覚えちまった。で、たそがれってんなんだ?」


ニィ、と笑うその無邪気な顔を見て、ナミはおかしそうに笑った。


「あのね、ひらがなで言ったら読者に読みにくいでしょ。それは・・・・。」


「『誰そ彼と われをな問ひそ九月の 露に濡れつつ君待つわれを』・・だろ?」


「ゾロ!おめぇしってんのか!!?すっげぇなぁぁ〜!!!!」

「ゾロ・・・・、馬頭らしい奴が難しい言葉知ってるのねぇ・・・・・。」

「あのな・・。『誰そ彼は』っつって人の顔も見分けにくい時間を『黄昏』。」

「へぇ・・・・、よく知ってるじゃない。見直した。」

「万葉集・・・恋の歌?」


あはは、と笑いながらゾロは言った。


「恋の歌・・・。そうだね・・。黄昏時に恋しい人を待つ・・・かぁ・・・・。」

「いい詩だな。」

「でもそれは多分、片恋ね。」

「なんでだ?」

「顔も分からない時に・・待ち人は来なかった。ふられたんじゃん?」

「そうだな・・・。」

「恋なら・・・美しいのにね。」

「そうか?」

「え・・・・?」


「片恋だから、美しーんだよ。」



夕日に隠れた彼の笑顔は、とても美しかった。


「・・・あんたは顔に似合わずロマンチストね。」

「お前は意外と楽観主義者だな。」



2人は海を見ていた。
黙って見ていた。
それぞれの想いを抱きながら。

「あ・・・・・・。」

「何・・・・・?」

「黄昏・・・・・・。」


彼の顔がよく見えなかった。

「ねぇゾロ・・・・。」

「何・・・・?」

「私の片恋は・・・・美しいかな・・?」

「誰そ彼?」

「あんたの顔見えないけど・・・、私はあんたとずっと一緒にいたい。」



「黄昏は・・・美しーんだよ。」



彼の腕の中は、とても温かくて。
黄昏の不安を全て、無くしてくれるようだった。




「もう・・・・、どこにもいかないでよ・・・・・・・・・。」

「片恋も美しいけど・・・・・。」

「・・・・・・・・??」

「・・・・・両想いもいいかもな・・・・・///////。」





彼の顔は見えなかったけれど、彼は私の耳元で。
約束だ、と。
優しくいいました。





END


(2004.03.18)

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<管理人のつぶやき>
ルフィが万葉集の歌を暗誦したことに驚きましたが、その意味をゾロが知っていたことにもっと驚きましたよ(笑)。
「片恋」が美しいというゾロ。アンタ、片恋してるね?それ、自分のこと言ってるのね?
でも、片恋してるのはゾロだけじゃないと、黄昏時に判明したのでありましたv
(それにしてもサンジくんは、誰を想ってこの歌を口ずさんでいたのかな?)

雷猫さん、ロマンチックなお話をどうもありがとうございました(^.^)。

 

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