夏初恋 −ナツハツコイ−
            

*みかん* 様

ぎらぎらと強い夏の日差しが、騒がしい教室に差し込む。
その中でひときわ目立つ、緑色の短髪の男子・ロロノア ゾロが、黄色い髪の毛がトレードマークの、サンジに声をかけられていた。

「なぁゾロ 知ってるか〜?この学校に新しい女の子、転校してくるんだって!」
「あそ」
「可愛い子かな?」
「興味ねぇ」
「お前は女に全く興味ねぇ奴だもんなぁ」
「てめぇみてぇな女好きの話題に俺を入れるんじゃねぇよ」
「はっ。つまらねぇ男だな」
「大きなお世話だ」

ゾロがそう言うと同時に、教室のドアが、がらりと開いた。

「お 来たみたいだぞ!」

サンジはそう言うと、自分の席に座った。
今まで騒がしかった他の生徒達も、皆自分の席に座った。

担任は足をカッカとならしながら教室にはいり、ゴホンと大きな咳払いを一つすると、ペラペラとしゃべりはじめた。

「えー・・・皆も知っているように、今日、このクラスに一人 転校生がやってきた。皆、仲良くしてやるんだよ。では、自己紹介をしてもらおう」

担任はそう言い終わると、教室のドアの方を向き、入ってきなさいと言った。すると、ドアから一人の女子が入ってきた。

「・・・今日からこのクラスの一員となります、ナミです。よろしくお願いします」

ナミと名乗る女子は あいさつをすると、ぺこっと頭を下げた。
ゾロはこの時も、外を見ていた。

女はオレンジ色の髪を揺さぶらせていた。青と白のセーラー服に良く映えている。半袖とスカートからは、細く白い手足をすらりと出していた。
担任は、再び咳払いをすると、ナミに言った。

「んじゃあ、ナミの席はぁ・・・・サンジの隣があいてるな。あの黄髪の奴の隣に座りなさい」
「・・・はい」

ナミは静かにサンジの隣に座った。

「・・・よろしく」
「んナミさん!!!!よろしくぅぅぅ!!!」
「・・・・・」

サンジは目をハートにしながら、ナミに向かって言った。
(一方ゾロは、この時もう寝ていた)

「では、授業をはじめる」


* * * * * * * * * * * * * * * *


夕方、ゾロは剣道部の部活を終え、荷物を背負って帰ろうとした。
が 誰かに背後から声をかけられた。

「ねぇ」
「・・・あ?」

振り向くと、そこにはオレンジ色の髪の女子が立っていた。
そう、ナミだ。(ゾロは初対面)

「誰だテメェ」
「?あら。私のこと知らないの?」
「知るか」
「あなたのクラスに転校してきた、ナミって言うのよ。あなた私の自己紹介の時、寝てたでしょ」
「・・・・おれは授業意外は寝る」
「ふふ。そうなんだ」

ナミはくすくす笑いながら言った。

「あなた 名前は?」
「・・・・ロロノア ゾロ」
「へえ。よろしくね。ゾロ」

そう言いながら、ナミはゾロに手を差し出した。

「・・・・」
ゾロは眉をつり上げ、口をとんがらせながら、手をだらっと差し出した。

「よろしくね!」

ナミは満面の笑顔を見せた。ゾロは一瞬、心臓が上下した。
ドキっという音が、ゾロ自身にも聞こえた。

「・・・お おう」

ゾロは はらうようにナミと手を放し、そのままスタスタと家へ帰っていった。

「・・・・」

ナミはゾロと握手した手を、ぎゅっともう片方の手で握った。



次の日ゾロは、気まぐれで朝早く起き、さっさと着替え、家を出た。
外には陽炎がジリジリと うごめいている。
ゾロはあくびをしながらだらだらと駅のホームへと向かった。

すると 見覚えのある女が、ホームのベンチに座っていた。

「・・・・!」

それはナミだった。ナミは静かに本を読んでいる。
ゾロは少し悩んでから、ナミの隣に座った。

「・・・・・よう」
「・・・・?」

ゾロは思い切って話しかけてみた。
ナミはその声に気づき、ゾロの方を向いた。

「・・・あ・・・ゾロ おはよう」
「・・・覚えてたのか。名前」
「・・・・まぁね」
「・・・・」
「・・・・」

沈黙。
ゾロはそれに耐えられず、何か話題を・・・と思いながら、ナミの手元を見た。

「・・・何の本読んでんだ?」
「あ・・・コレ?コレは・・・航海記って本」
「・・・・こーかいき?」
「うん。私、将来世界中の地図をかいてみたいと思ってるの」
「へぇ」
「・・・その時・・・ゾロも手伝ってくれる・・・?」
「!!」

ゾロはその言葉に驚き、ナミの方を見た。
ナミはゾロと目が合うと、急に顔を赤くして、目をそらした。

「・・・な・・・何てっ冗談よ!冗談!」

ナミは苦笑い状態でぶんぶん手を振った。
ゾロは黙って、顔を赤くしながらぽりぽり頭をかいた。

すると騒がしい音を立てて、ホームに電車がきた。

「・・・電車・・・来たぞ」
「・・・うん」

ゾロとナミは、ドギマギしながら電車に乗り込んだ。


学校に着くと、真っ先にナミのところへ、サンジが飛んできた。

「ナァミすわぁ〜〜〜〜んvvvおはようございますぅぅぅvvvv」
「・・・・おはよう」

ナミはあきれ顔で、サンジに返事をした。
しかしサンジは、ナミの隣にゾロがいるのに気が付き、ゾロの方を見て、くるくるマユゲをとんがらせた。

「ォイオイそこのクソ剣士!」
「・・・・・あ゛?」
「んでオメェがナミさんと登校してんだ!?え!?」
「・・・たまたま同じ電車だっただけだ」
「ぅぅぅウソつけェ!テメェも実は密かにナミさんを狙ってんだろ!?」
「何言ってやがるんだクソコック」
「あ゛あ゛!?」
「やめてよ二人とも!そういうサンジ君キライっ!」
「そ・・・・っっ!!!!!そんなナミさん!!!!」

サンジはその言葉ひとつで、背中に影を背負い、いつまでもしゃがんで 涙の洪水を溢れさせていた。

「ナミお前・・・結構言う奴だな」
「あら。もっとキツイこと言う女よ?私」
「そりゃ怖ェな」
「ふふ」

ナミは口に手を当てて微笑みを浮かべると、自分の席に座り、本を広げ、読み始めた。
ゾロはその姿を、遠くで眺めていた。


* * * * * * * * * * * * * * * * 


次の日ゾロは、ナミに逢うために早起きをした。
とにかく急いで朝食を済まし、棚から制服にだし、白いTシャツを着ると、ネクタイもちゃんとしめずに、家を出た。

走りに走って駅に着くと、時間はまだ6:30。
昨日ナミに会った時間は、7:00ちょうどぐらいだった。
ゾロは息をふぅ・・・と口から出し、ネクタイをきちんと締め、7:00になるまで待つことにした。

ゾロがナミを待つ間、2、3本の電車が 駅に止まったが、ゾロはナミが来るまで
一本も電車に乗らず、ベンチに座って待っていた。

しばらくすると、ホームに続く階段で、オレンジ色の髪が揺らぐのがゾロには見え、ナミだ、と思い、急いできたにがばれないように、胸が上下するのを必死に抑えた。

(ナミ、こっち向けこっち!ここだ!ぅおら〜〜〜!!!)

ゾロは必死に呪文をかけるように、ナミの方を向いて念力を送った。
(はたから見ればどこかを睨んでいるようにしか思えない光景)
しかしその思いが伝わったのか、ナミはゾロに気が付き、ゾロの方へ駆け寄った。

「・・・・ゾロ!おはようっ」
「・・・お おう。偶然だな」
「うん」

ゾロはわざと偶然会ったことにして、自然に会話を続けた。
ナミはゾロの隣にちょこんと座り、話をし始めた。

「あ・・・そう・・・ゾロ・・・あのね」
「・・・あ?」
「昨日・・・・クラスの男子に告白されたの」
「・・・・は?」
「サ、サンジくんじゃないのよっ?違う・・・男の子に」
「へ・・・・へぇ・・・すげぇじゃん」

ゾロは内心ショックなのを抑えて、ナミの話を聞いた。

「でも・・・私・・・好きな人が・・・いるから・・・断ったんだ」
「・・・・好きな・・・・奴?」
「う・・・うん・・・」

ゾロは 頭上から巨大な石が落ちてくる感覚を覚えた。
胸も、今までになく痛かった。

剣技で胸をやられるよりも どこかを思い切りケガするよりも

ずっと痛い感覚だった。

「・・・・ゾロっ あのね、私の好きな人って言うのは実は・・・!」
「もういい」
「・・・・え?」
「・・・もう・・・それ以上言わなくていい」
「・・・・・な・・・・ゾロ・・・?」
「俺・・・先行くから」

ゾロは黙ってベンチを離れ、ちょうど来た電車にゆっくり乗り込んだ。
ナミはその様子を、ショックを受けた表情で見つめていた。

しばらくしてゾロは 学校に到着し、自分の机に荷物をどかっと下ろした。そして自分も椅子にどかっと座り、外を眺めた。

「・・・・」
(ナミの奴・・・好きな奴いるんなら・・・言ってくれりゃあよかったのによ・・・そうしてくれりゃあ俺が・・・お前のこと好きになることはなかったんじゃねぇか・・・・)

「っあ゛〜〜〜〜」

ゾロは頭を抱えてうなった。

しばらくそうしていると、教室にナミが入ってきた。
ゾロは顔を上げ、ナミを見た。
ナミはゾロに目を向けたが、すぐまた逸らし、自分の席に着いた。

その日一日、学校でナミとゾロは、一言も喋らなかった。
話しかけようとしても、話しかける勇気がでなかった。

放課後、ゾロは学校に最後の最後まで残っていた。
ナミも珍しく遅くまで残っていたが、少し前に黙って帰っていった。

「・・・・・・?」

すると、ナミの机から何かが落ちる音がしたのに ゾロは気づいた。
見ると、ナミの机から落ちたのは、あるノートだった。
見たこともないノートだったので、きっと個人で使う物だろう、とゾロは思い、つい中身が気になり、1ページだけ見ることにした。

「・・・・・」

ゾロはパサっとページを開くと、それは日記だった。

「・・・・・!」

ゾロはその日記を見て、目を丸くした。

『○月×日 今日、ゾロに話しかけられた。嬉しかった。今日からは駅のホームで、ゾロが来るのを待つことにする!』

「・・・・・!」
(じゃあ、ナミの好きな奴ってのは・・・)

ゾロはノートをナミの机にしまうと、急いで荷物を持ち、学校を飛び出していった。

(俺は・・・ナミにひでぇ事したんだな・・・)

ゾロはそう思いながら、ナミがいつも帰る道を、超特急で走っていった。

するとナミらしき人が、駅の近くの川辺に座っているのが ゾロには見えた。

「ナミ・・・!」

ゾロは急いで川辺におりると、ナミのそばまで駆け寄った。

「・・・はぁ・・・・ナミ・・・・・」
「・・・!ゾロ・・・」
「・・・・えと・・・悪かった・・・・」
「え・・・?」
「・・・だ・・・だからその・・・アレだ、アレ・・・」
「・・・・・」
「・・・・っあー・・もうめんどくせぇ奴だなお前は!」

ゾロは一人逆ギレをして、はぁっと一回息を吐くと、一言言った。

「・・・お前が将来かく、世界地図・・・・手伝って欲しけりゃおれと付き合えっ!」


とても暑い夏の日のことでしたとさ




−end−


(2006.04.07)

Copyright(C)*みかん*,All rights reserved.


<管理人のつぶやき>
このゾロの早とちり!最後まで話を聞いてけー!(笑)
あ〜〜途中ハラハラしたじゃないですかっ。
奇跡的に落ちてきたナミの日記に感謝です><。
そうでなければもっとすれ違ってたかもしんないものね。

*みかん*さん、なんとここまで3連投。誠にありがとうございます^^。

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