くいな お前のいる天国で・・・俺の名は轟いているか・・・?
「・・・勝てねぇよ」
*みかん* 様
「とりゃあっ!」
パァンッ
「うお!!」
もうずいぶん古ぼけた道場から、人間の頭部を竹刀で叩く音が響く。
「いってぇー・・・」
「弱いわね〜男のクセに!」
「うるせぇっくいな!」
細身で黒髪の女の子・くいなの前で倒れているのは、まだ小さなロロノア ゾロ。
「そんなに弱いのに、私に試合申し込むなんて、10年早いわよ!」
「うるせぇ!今日こそは勝てると思ったんだ!昨日徹夜で素振りを・・・・」
「それが何よ。素振りなんかしたって相手がいなきゃどうしようもないでしょ」
「なにをぅ・・・!なあ先生!何でコイツばっかバカに強いんだ!?」
「え・・・それは・・・私には分からないよ・・・」
道場の隅で、物の整理をしていた先生は、苦笑いでゾロに答えた。
「先生、おれたちに内緒でいつもくいなばっか練習させてるんだろ!」
「そうだそうだ!」
「そんなことはしていないよ!私はみんな等しく強くなってくれればそれで良いんだ」
「う・・・」
道場の小僧達は、先生の力強い言葉につい後ずさりした。
ゾロは歯を食いしばり、悔しそうに道場を飛び出した。
「ゾロ!」
「ゾロ君!?」
道場の子達は驚いて 走っていくゾロの後ろ姿を見ていた。
その中で、くいなだけ静かにため息をつき、ゆっくりゾロを追っていった。
「・・・!くいな?」
「どうした?」
「あんた達ちょっとここで待ってなさい。私ゾロ追いかける」
くいなはゆっくりゾロを素足で追いかけた。
しばらく走っていると、ゾロが近くの土手に座っているのが見えた。
「くそ・・・くそ!なんで勝てないんだ!」
ゾロは独り言を言いながら、近くにある石ころをでたらめな方向へ投げていた。
くいなはそんな幼稚なゾロを見て、くすっと笑うと、そっとゾロ日かずいた。
「・・・・ゾーロっ!」
「!!うわ!」
ゾロは驚き、後ずさりした。目には少し涙を浮かべている。
「な〜に泣いてんの!男でしょっ?なっさけない!」
「だ、だまれバカくいな!」
「なによそれ!むかつく〜」
「だまれぇ!」
ゾロは自分の涙を隠すために、一生懸命くいなに目を合わせまいとしていた。
くいなはそれに気づいていたけれど、その事については何も言わなかった。
「さ 帰ろ!私に勝ちたいのなら、私の10倍くらい練習しなきゃ!」
「じゅ、じゅうばい!?」
「そ!10倍!そのくらいやらなきゃ〜」
「そ、そうだけどよぉ・・・」
「ホラ、帰るよ!」
くいなはゾロをつれて、土手を上っていった。
すると、くいなが足を滑らせ、その場で転んでしまった。
「う、わっ!!」
「くいな!」
ゾロは咄嗟に転んだくいなに近寄った。
「いったぁ〜・・・」
「だ、大丈夫か??」
「う、うん・・・」
そうは言うものの、くいなは元から素足でここまでやってきたので、足が痛い、
と思うのは仕方がないことだった。その上、転んだ拍子に足をくじいたので、痛さは増していた。
「だ、大丈夫だよ、行こう!」
「・・・・」
ゾロには、くいなが無理をしていることくらい分かっていた。
くいなは微かに足を引きずって歩いている。
ゾロはそれを見ると、ひょいとくいなを持ち上げた。
「!?え!?」
「足、痛いんだろ?おぶってってやるよ!」
「え、え??でも、重いし・・・」
「うるせぇ!確かに重いよ!でも足痛いだろっ」
「わ!失礼ね!重いですって!?」
「それはお前が言ったんだろ!」
ゾロはくいなをおぶって、帰り道を歩いていった。
くいなはゾロの息が乱れてきたのに気づき、何度もおろして良いよ、と言ったが、ゾロは聞こうとしなかった。
くいなはその気持ちが嬉しくて、思わず泣きそうになってしまった。
「・・・・」
「!おい!?泣いてんのか!?なんで!?」
「何でもないよ〜・・・」
「・・・〜〜泣くなって〜〜」
ゾロは困り顔で、くいなを道場まで連れて帰った。
そしてその日の夜、本物の剣で二人は勝負したが、結局 ゾロはくいなに2001敗という結果を出してしまった。
そして次の日、思いも寄らぬ事故で、くいなは天国へ逝ってしまった...
今 ゾロは海賊として、広い海へと旅立っている。
「なぁゾロ〜」
「あ?」
「お前、昔 くいなって奴に2001回負けたんだろ〜?まだくいなが生きていれば、今のお前なら勝てるんじゃねーかぁ?」
「くいなにか・・・?」
「おう」
「・・・・」
ゾロは青い空を見上げて、一言 言った。
「・・・勝てねぇよ」
−end−
(2006.04.12)Copyright(C)*みかん*,All rights reserved.
<管理人のつぶやき>
幼い日の思い出・・・。時にはライバルとして、時には仲間として、こんな風な時をゾロとくいなは過ごしていたのでしょう。でも、くいなの命は途中で断たれて。だからくいなはゾロにっとては永遠に手の届かない存在になったんでしょうね。
因みに、最後に質問してるのはルフィだそうです(笑)。
*みかん*さんの4作目の投稿作品でしたー。ありがとうございましたっ!