蝉時雨

            

*みかん* 様


「今日は暑いなぁ」
「・・・ああ」
「もっとプール、入っていたかったよな」
「・・・まぁな」

プール授業も今日で終わり。
おれとおれの友達はなんだか一つのイベントをやり終えた気持ちで、弁当を食っていた。

「あ、いたわよっ!ロロノアくん!」
「あ・・・」
「ほら、早く行きなさいよ!いま誰もいないからチャンスよ!弁当あげるんでしょ!」
「そうだけど・・」

また食堂の入り口で、大勢の女子が来ている。
いつものことだ。

「なあお前・・今日も女子の野次馬来てるぞ」
「うるせ。興味ねぇよ・・・女子なんか」
「分かってんのか?お前のためにみんな、弁当まで作ってきてんだぞ」
「だからなんだってんだ」
「ケッ つまんねぇヤツ」

友は吐き捨てるように言う。
おれはたいして女子なんか興味ない。
女って、ボソボソとなに言ってるかわかんねぇし。

「・・・おいおめぇら」

おれは弁当を抱えている女子の野次馬達を、細い目で見ながら言った。

「おれは弁当くらい自分で持ってきてる。よけいなことするんじゃねぇよ」
「え・・・」
「おれ、女とか恋愛とか、全然興味ねぇから」

おれは冷たい言葉を捨てて、その場を去った。
背後で女子がすすり泣いている声と、周りの女子が慰めているのが聞こえる。

おれは帰宅部だ。
部活と言うこと自体好まない。集団行動が、あまり好きではないからだ。部活をやるくらいなら、家でトレーニングをした方が、何倍も楽しかった。

だからそのまま家へ帰る途中のことだった。

おれは近くのコンビニに入っていった。
腹が減っていたからだ。

すると、一人の女子高生が、レジで会計をしていた。

俺の視線に気が付いたのか、女は俺の方に目を向けた。

女はオレンジ色の髪で、顔立ちは美しく、色白で細い手足を、制服から出していた。

見ると女の制服は俺の学校のやつじゃないようだ。
俺は少し、魅入ってしまった。

「・・・・」
「・・・・」

おれははっと我に返り、黙ってそのまま女の後ろに並んで、会計をすました。
そしてそのまま、コンビニを出ようとしたその時、女に声をかけられた。

「・・・ねぇ。あなた、ロロノア・ゾロ でしょ」
「・・・は?」
「モテるってことで家の学校でも結構有名なのよ」
「・・・テメェ、俺のこと知ってんのか」
「ええ」
「名前は?」
「ナミ」
「ナミ・・・?」

コイツ、知ってる。
俺の友達が、学校で話していた。あそこの女子校で、ナミっつー可愛い女子が居る、と。

聞きあきるほどこいつの噂を耳にしたもんだから、大体どんな人物かは想像がついていた。けれど、実物を見たのは今日初めてだ。
おれが想像していたのと、実物では、全く違った。

実物のナミは、おれの想像よりも、はるかに綺麗だった。

「・・・俺もお前のこと知ってる」
「!へぇっ こういうことって、本当にあるのね」

ナミという女はくすくす笑いながら、そのまま空を見た。

「・・・暑いわね。太陽が眩しい」

ナミは、目の上に手のひらをかざし、眩しそうに目を細めた。
首元で光る汗が、妙に目立っている。
その横顔は、漫画に出てくる女のように美しかった。
おれはその横顔を見ながら、適当に返事をした。

「夏だからな」
「分かってるわよ、そのくらい」

ナミはぷっと笑いながら、おれに視線をもどした。

「・・・なに買ったんだ?」
「飲み物。のど、すぐに渇くしね」
「・・・そうだな」

そのままおれらは、道路沿いの道を歩いていった。
歩きながら、色々なことを話した。
学校のこと、友達のこと、噂のこと・・・とにかくたくさんのこと。

ナミと話をするのは、とても楽しかった。
ところどころケンカ口調になったりしたが、それもそれで自然だった。

「・・・ね、知ってる?」
「は?」
「今、私達、けっこう大きめの声で喋ってるでしょ」
「・・・・あ、そういえばそうだな」
「それは周りがうるさいからでしょ?」
「・・・あ セミの鳴き声か」
「そ。セミよ」
「セミがどうかしたか」
「こうやって、セミがすごくうるさいことを、蝉時雨(せみしぐれ)って言うのよ。まぁ、知ってるわよね、そのくらい!」
「・・・・」

知らなかった。
せみ・・・せみし・・・?
・・・もう忘れた。

「で、その蝉なんとかがどうかしたか?」
「せみしぐれ!別にどうもしないわよ。・・・・・・ただ・・・」
「?」
「・・・この蝉時雨がなければ、ゾロの声、もっと聞こえるのになぁ・・・・なんて」
「!」

ナミは小さな声で言った。
普通なら蝉時雨でかき消されてしまうような声だったが、おれには聞き取れた。

「・・・・・っ」
「・・・・え、聞こえた・・・の?」

ナミは聞こえていないと思ったらしい。

「・・・聞こえた」

おれは素直に答えた。

「・・・や、やだ・・・冗談だからね!」
「・・・なんだ、冗談か」
「・・・・え・・・?」
「・・・冗談なんかじゃないほうが、よかった」
「!・・・・」

おれも、蝉時雨でかき消されてしまうほどの、小さな声で言った。
けれどそれは、確かにナミの耳に届いたらしい。

「・・・・・」
「・・・じょ、」
「は?」
「私もさっき言ったこと、冗談なんかじゃ、ないからね」
「!」
「・・・冗談なんか、あんたの前では言う気も失せるわ」
「・・・・アホ」

今そう言ったナミのその言葉だって、冗談何じゃねぇのか。

おれはそう思ったが、口には出さなかった。



ナミと喋っていると、蝉時雨があまり聞こえなくなってくる。

気のせいか?

いや・・・
たぶんおれらは今、あまり大きな声では喋っていないはずだ。



ナミと別れた後なぜか、蝉時雨が妙にうるさく聞こえた。




 −end−


(2006.05.07)

Copyright(C)*みかん*,All rights reserved.


<管理人のつぶやき>
女に興味のない硬派なゾロ。しかし、ひとたび恋に落ちてしまえば・・・。
蝉時雨を介してお互いの気持ちを伝え合うなんてすてきですね^^。
そして、ナミと一緒にいるときは蝉時雨が耳に入らないくらいになるのねv

*みかん*さんの9作目の投稿作品。どうもありがとうございましたー!!

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