不戦敗の恋

            

プヨっち 様


2ヵ月後に控えた、年に一度の大学を挙げて盛大に行われる大学祭。
俺たちの演劇サークル「ONE PIECE」にとっては、初公演の舞台ともなる。

そこで、大事なのは場所の確保。
なるべく多くの人に観てもらうには、やはり第一講堂以外にはありえない。
そして狙うは午後2時から4時のゴールデンタイムだ。


いくらサークル長とは言え、まだ1年生であるルフィの代わりに俺が出席した実行委員会や他サークルとの会議で、俺たちの他にその場所と時間を狙う奴らがいた。

インディーズでは、ちっとばかり名の知れてるらしいロックバンド「シャンディア」。
正直言って、強敵だ。しかしここは、男サンジ。
シャンディアのリーダー、ワイパーとか言うイレズミ野郎の放つ威圧感に、やすやすと屈してやるほどヤワじゃねぇ。



「俺たちの大事な初公演なんだ!!あの場所と時間以外は譲るつもりはねぇ!!」
「俺たちも、スカウトの目に止まる為のチャンスなんだ。メジャーデビューがかかってる。昨日今日出来たばかりのサークルと比べられてたまるか!」


お互い一歩も譲らない展開となり、司会進行の実行委員は既にお手上げ状態になっていた。

「あの、あとは2人で勝手に決めてください・・・。ダメだったほうは、また違う場所と時間の候補を考えて、次の会議までに実行委員の方までお願いします。」



ワイパーとの話し合いの結果。
何がどうなったのか覚えていないが、勝負は今夜、俺とワイパーで「飲み比べ」。
いつもの短気が災いして、いつの間にか勝負を受けていた。
こんなことなら、ゾロを行かせておくんだったぜ・・・。
そう後悔したが、受けてしまったものは仕方がない。


部室へ戻ると、麗しの美女3人・・・ナミさん、ビビちゃん、ロビンちゃんと、ルフィ、ゾロがいた。

「サンジ!場所、確保できたのか?」
「いや・・・。これからシャンディアっつーバンドと対決だ」

俺の苦労も知らず、能天気に聞いてくるルフィを睨みながら言った。


「対決って・・・?どうやって決めるのかしら?」
「飲み比べすることになったんだ」
「うっし、俺が出る。勝ちゃーいいんだろ?」
「ちょっとゾロ!あんたより私のほうが勝てそうじゃない?」
「何言ってやがる、俺のが強ぇーだろうが」

すっかり乗り気になってどっちのほうが酒豪かと言い合いを始めるゾロとナミさんに、やっぱりどっちかを会議に行かせておくべきだったと改めて思う。


「それが・・・俺が行くしかねぇんだ。そういう約束で。」

苦々しく言い放つと、心優しいビビちゃんが心配してくれた。

「だ、大丈夫なの?サンジさん・・・。」
「やるからには勝つさ!俺に任せてよ」

レディを不安にさせるなんざ、俺には許されねぇことだ。


「よし、頑張れサンジ!大食い対決なら、俺が行くけどなぁ・・・」
「オイ、負けんじゃねーぞ」

正直、プレッシャーは大きいが・・・やるしかねぇ。


「とにかく勝つのよ、サンジくん!!相手を蹴ってでも」
「倒れたら、救急車は呼んであげるわ」
「サンジさん、しっかり!」

「恋の戦士サンジ、行ってきマ〜ス。」

来たる決戦に備えるべく、俺は部室を後にした。


こんなにかわいくて美しく、優しい女の子たちに応援されて、負けるわけにはいかないじゃねーか。




・・・それにしても。ナミさんやビビちゃん、ロビンちゃん然り。
俺の周りにはカワイイ&キレイな子がたくさんいるというのに。


なんで、誰も彼も、他のヤツのモンなんだ!?



思い起こせば大学入学後、すぐに知り合った年上のおねーさん・・・ロクサーヌは。
はじめはイイ感じで遊んでたってのに、バイト先のバラティエに連れて行ったら、よりにもよって俺の兄貴みたいな存在のカルネに惚れちまい。
今や人妻、1児の母だ。いや、その時の傷は浅かったしすぐ癒えた。


次に合コンで一目惚れしたこれまた年上のソニアちゃんは、
数合わせに連れて行ったクソマリモの野郎といつの間にか付き合ってて。
ダチの彼女に手を出す趣味はねぇし、そん時も諦めた。


さぁ、次の恋!ってところで俺の前に、ボン・クレーとかいうオカマが現れて。
1年半もの間ずーっと付きまとわれて、周りの女の子はあらぬ誤解を抱いてしまっていたらしい。

「バレエでロシアに留学するのよ〜ぅ。でも、夢のためだもの、サンちゃんとのお別れにもあちし泣かないっ!あちしたちの愛は、フォ〜エヴァ〜よ〜ぅ!」

そう言って、汚い顔を涙でさらにグチャグチャにして言った時の嬉しさといったら・・・。
俺はあの時、信じられなくなってた神を改めて信じた。


ゾロを通してルフィに誘われて3年生になってからサークルに入って、ナミさんと出会った時はボン・クレーの留学直後だったこともあって、運命の人かと思った。
輝くオレンジ色の髪、大きな瞳にナイスなバディ。何もかもパーフェクト!
気の強いところもステキだー!と。
俺はいつでも本気で口説いていたのに、ナミさんもいつの間にかゾロと付き合いはじめた。
ソニアちゃんと言い、ナミさんと言い。あんなマリモのどこが!?


そう、そのソニアちゃんがバラティエでバイトを始めて、再会できて。
今度こそ運命かと思ったら、既に恩師の恋人になっていた・・・。


ビビちゃん・・・最初から君の瞳にはルフィの野郎しか映ってなかった。
ロビンちゃん・・・「私?秘書やってた頃の社長と付き合ってるわ」の一言。



・・・俺って、つくづく報われてねぇ!!




前に酔った勢いで、ゾロに聞いたことがある。

「お前、一体どんなテク持ってんだ?あぁ?教えろよ」
「は?テクって何だよ。お前のほうがけっこう遊んでるんじゃねーのか?」
「じゃあなんでナミさんみたいなカワイイ子が、お前の彼女なんだ?金もなけりゃ、甘い言葉の一つも言えないお前みたいな野郎の!」
「・・・心意気だろ」
「答えになってねぇよ!」


マジで、何でだ?




ワイパーとの飲み比べはバラティエでやることになっていた。
俺が店に行くと、ワイパーはもう来ていてシャンディアの他のメンバーも何人かついてきていた。


その中に、俺は女神がいるのかと思ったんだ。
綺麗な黒髪に厚い唇、まさにオリエンタルビューティ。


「あなたのような美しい方が、そちらにいらっしゃるなんて・・・。今日と言う日を境に、僕の勝利の女神になってくれませんか?」
「・・・はぁ?」

その女性・・・ラキさんは美しい顔を呆けさせている。


「あぁ。時が時なら、僕らは現代のロミオとジュリエット・・・。」
「あ、あんたには悪いけど、あたしはベースのカマキリと付き合ってんだよね・・・」

カマキリとかいうヤツの肩に手を置いて、すまなさそうに微笑むラキさんもステキだ・・・。
でも、またしても彼氏持ちかよ!
俺の運命の恋、今回は10秒で決着がついた。


「オイコラ、ワイパー。さっさと始めるぞ!自棄酒のパワーを甘くみるんじゃねぇ!!」
「あ、あぁ・・・」

そして、俺の頭からは勝負云々などすっかり抜け落ち。
マリモかナミさんかという(普通は考えられない)ピッチでグラスを空けていた。
ワイパーも、飲み比べ勝負を仕掛けるくらいだからかなりの酒豪なのだろうが、
今日の俺にはついて来れなかった。


「ロクサーヌ・・・ソニアちゃん・・・ナミすゎ〜ん。ビビちゃ〜ん、ロビンちゅゎん・・・ラキさんも・・・。みーんなみんな、俺には振り向いてくれないんだぁ〜」


俺はいつの間にか、ワイパーに愚痴を吐いていた。


「お前、そんなに何人も・・・。そりゃツライな。俺も昔、経験はあるが・・・」
「なぁ、なんでだ?なんで俺じゃダメなんだぁ〜?」
「いや、俺に言われてもな...」


だんだん、泣きが入ってきてワイパーはすっかり慰め役と化していた。
傍から見たら、俺たちは親友同士に見えるかもしれない。


「・・・ギブアップだ。俺たちは屋外ステージを使えるように交渉するから、お前らの初公演、第一講堂使えよ」
「ほ、ホントかっ?!サンキューな!!」

面目が保てたことと同時にワイパーの心意気に感謝して、泣きながら礼を言う俺なんざサークルのメンバーにはとてもじゃないが見せられないが。

こうして場所取り合戦に、俺は勝利した。



「さて、と。俺はそろそろ帰らねば・・・」

いつの間にか時刻は午後9時半を回り、ワイパーがそう口を開いた時。
カラララン・・・と大きく店のドアが鳴った。


「アイサちゃん、ダメよ!子供が来るお店じゃないんだから!」

元気のいい小さな女の子と、それを追いかけてきた・・・天使。
白い肌に、ブロンドの髪、意志の強そうな瞳。
今日はキレイな人に出会うための日なのか・・・?


「あっ!ワイパー見〜つけた♪」
「アイサ!!もう寝る時間だろ?どうしたんだ?」
「コニスが、ワイパー迎えに行くって言うからついてきちゃったの・・・」
「ごめんなさい、ついてくるって言って、聞かなくて。」


なんだ、この身内みたいな会話は・・・。


「おいワイパー、この小さな姫と美しい天使はいったいどちらさんで?」
「アイサは俺の妹で・・・コニスは・・・妻だ」


つっ、妻だとぉ〜???


「て、てめー学生結婚してんのかよ!」
「だから早く、メジャーデビューをだな・・・」
「天使は人妻かぁ・・・はあぁ・・・」

さっきの言葉、訂正だ。
今日はキレイな人に出会って、失恋する日、なのか・・・。


またしても、恋の勝負は不戦敗となった。
俺の春は、いつになったら来るんだろうか。



「ねぇねぇ、あたいがアンタの彼女になったげてもいいよ?」

ガックリと落ち込む俺に、小さな姫君が慰めのお言葉を。


「10年後、また考えさせてくれ・・・」

ワイパーをはじめとするシャンディアのメンバーの忍び笑いが店内に響いた。



************



その2ヵ月後、学祭でロミオを好演したサンジ。
彼を目当てにバー・バラティエへ来る女性客が増えたというのは、また別のお話。



<FIN>


(2004.03.02)

Copyright(C)プヨっち,All rights reserved.


<プヨっちさんのあとがき>
信じていただきたいのですが、私はサンジくんのこともちゃんと好きなんです〜。
なんだか苛めてるみたいになってしまい、全国のサンジスキーさんに
申し訳ない気もしてますが、書いてて楽しかったです。
このサンジくんの、次の恋はきっと実りますように...(笑)。
読んで下さった皆様、ありがとうございます!


<管理人のつぶやき>
プヨっちさんの演劇サークルシリーズ(すぐにシリーズ名をつける・笑)の第3弾。
今回はサンジくんメインのお話でした!
サンジくんの鮮やかな恋の戦歴が披露されます。ああ〜ことごとく敗れているのね〜。
こうなるとボン・クレーの一途な想いがありがたいような気も・・・してこないか(笑)。
ゾロに2人も奪われているのが痛恨の極みですな。
でも、サンジくんは失恋にもめげず、拗ねず、ひねくれず、常に軽やかなに受け流す。
だから傍からは全然悲壮な感じには見えないのよね。
この辺がサンジくんのすごいところ。そして、損なところなのかもしれません。

プヨっちさん、素敵なお話をどうもありがとうございました〜!
ちゃんとサンジくんの誕生日にアップしたよ。褒めて〜(笑)。

 

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