月明かりに照らされた甲板で、お互い照れながらキスしたり、お酒を飲みながら、酔ってるアイツの話を笑いながら聞いたり。

ずっとこのまま一緒に旅をして、お互いの夢を語り合って…仲間としてじゃなく、恋人として。
まだ見えない未来まで行けると信じていたのに。

どちらかの気持ちを誤魔化したまま、温度の違う愛を重ねていくなんてできない。

これ以上私を、惨めにしないで。


ただ、きっかけを待っていた。そう、今夜みたいに。





この胸の痛みが

            

プヨっち 様


ゆっくりと見張り台まで上り、手に持っていた物を無言で差し出した。


「おっ、お前コレ…!!?」

「ごめん、読んだわ」

「か、勝手に他人の日記読む…なんて…な…」


堪え切れず、目から涙が溢れた私を見て、その語尾が弱くなった。



1週間前の日付の日記には、「ナミのことは好きだ。でも最近は、今更かもしれないがカヤのことを懐かしいと思う気持ちを超えて、会いたいと思うばかりだ。」と、几帳面な字でそう書かれていた。


私への気持ちに、きっと嘘はなかった。
でも、私と一緒にいればいるほど、舵の取れない大波に飲まれた時のように自分の気持ちの流れに逆らえなくなっていたのね。

アンタがずっと想ってる、故郷のあの子の影に怯えていたくはない。


そんなアンタが本当に優しく熱く、故郷のことを話す顔に気付いたのが最初で。
日記を読むなんて卑怯だったけど…これが最後。


でも、そうでもしないと。
優しくて嘘つきのアンタは…誰よりも正直なアンタ自身に嘘をつかなくちゃならなくなるから。

アンタにはいつだって、最高の嘘つきで、そして最高の正直者でいてほしい。




「なぁナミ、俺たち…」

「もう、何も言わないで…言わせないでよ。もちろん、これからも仲間なんだからね」


潤んだ声で、一番伝えたかったことを何とか言うことが出来た。


「ほんと、ごめ…」

「謝ったりしないでよ!余計ミジメになるわ。…しばらくツライけど、すぐ立ち直るからさ」


「こんなこと、今、オレが言うのもナンだが…いい女、だよな」

「当然でしょ」


精一杯、ニカっと笑って見張り台を降りる。



恋を失うのはこんなにツライのに。
一緒に過ごした時間が、思い出が、あまりに綺麗だから。
あいつを憎んだり出来ないし、したくもない。



涙を拭ってから入ったキッチンには先客がいて、静かに晩酌をしていた。
私はグラスだけを取り出し、先客の酒を注いで一気に飲み干した。


「おい、オレの酒だぞ」

「いいじゃない。失恋して傷心なんだから…オゴってよ」


ゾロは片眉をピクリと動かし、何も言わず2杯目を注いでくれた。


「めちゃくちゃ贅沢者よね、アイツ」

「…あァ」


グラスの氷が、カランと軽い音を立てて溶ける。
ぬるいブランデーに浸っている氷は、別れの予感なんか知らない頃の自分のようで。
そんなことを思ってしまう自分に、また少し泣けた。



大好きなアイツの幸せを祈って、この愛を解き放す。


そんな淋しさと優しさを手に入れたけど、これからは慣れない独りの時間を持て余すなんて、やっぱり目眩がするほどに辛くて。



「ねぇ。これからしばらく、毎晩ヤケ酒に付き合ってもらうわよ」

「お前のオゴリならな」


フッと笑って、ゾロは私の命令のような頼みを引き受けた。


「じゃ、私がアンタのヤケ酒に付き合う時に3倍返しね♪」

「…ヘイヘイ」


ほんの少しだけ、この胸の痛みが消えた気がした。



<FIN>


(2004.04.07)

Copyright(C)プヨっち,All rights reserved.


<プヨっちさんのあとがき>
ウソップ愛が極限に達してしまったためか、突っ走って書いてしまった作品です。投稿するかどうかかなり迷いましたが、多くのゾロナミストの方々には受け入れがたいであろうこのカップリングSSを読んで下さってありがとうございました。実は、田村直美さん(懐かしい…)の「千の祈り」という曲をベースにしてます。かなり前のアルバム収録曲なのですがとても綺麗な歌詞で、大好きな曲です。初めて原作設定で書いてみたのですが、意外と書きやすい感じがしたのでこれからも挑戦していこうと思ってます。今度こそ、ゾロナミを(出来るかな?汗)!


<管理人のつぶやき>

プヨっちさんお初の原作設定のお話〜!なんとウソナミ+ゾロです!!
きっとウソップとナミはいい付き合いをしてたんだと思う。
ウソップの心の中にカヤがいなければそのまま成就したかもしれない。
潔く身を引くナミさんはカッコいいね。
失恋したナミを迎えるようにゾロがいたのがすごく嬉しかったよ。

とても印象的なお話でしたよ。プヨっちさん、書いてくださってありがとうございましたv

 

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