君の意外な一面

            

プヨっち 様


日課であるトレーニングを終えて、水でも飲もうかとキッチンのドアに手をかけたゾロは、中から聞こえてくる2つの声に、ノブを回すのを躊躇った。


「ほら、コレ…イイ具合になってるわ…」

「うわ…ナミさん、…意外な特技だな…」

「ふふっ、でしょー?…これが…床上手…みたい…」

「あはっ…上手いな…ナミさ…」


ドア越しのため、声はくぐもって途切れ途切れであったが…ハッキリと聞こえてきた「床上手」の言葉に、身を固くした。

こいつら、何やってんだ!?この昼間から、しかもキッチンで…!!

さっき出し切ったと思われた汗が、額からまた流れる。
トレーニング後の気持ちのいい汗とは違い、いわゆる「変な汗」というやつだった。

昨夜、甲板で「どういうわけだか、お前に惚れたみてェだ」と告げた。

「どういうわけだかって、何よ。あたしだって、どういうわけか…惚れてるわよ」と。
ナミは、そう言ってくれたはずだった。



それなのに、この展開は一体何なのだろうと。
昨夜のことは、自分の夢の中での出来事だったのかと。
普段はあまり使わない頭の中を、一気に稼動させた。
そうこう思っているうちにも、キッチンからの声は聞こえ続ける。


「ん…上手いな、ナミさん…」

「この歯…が…たまらないのよね…」


歯!?なんだ、クソコックのアレの歯ごたえってことか?
歯なんざ立てるのかよ!痛ぇだろ、それ…。

悶々と駆け巡る己の妄想にツッコミながら、ドアノブから手が離せないまま直立不動の状態になった。


「あれ、ゾロ何やってんだ?俺たち釣りのエサになるモンもらいにきたんだが…入らねぇのか?」

ウソップとチョッパーが、バケツを持って呑気にそこに立っていた。

「バ、バカ!声がでけェ!今はダメだ…。お前らには刺激が強すぎる」

「…?なんかあんのか?キッチンに」

「何もあってたまるか!とにかく、後にしろ…いいな?」


魔獣の睨みにビビり、2人はすごすごと甲板に引き返した。
再び、キッチンの声に神経を集中する。


「オレ…全部…っちまいてぇ…」

「いいわよ、サンジくんなら…今日は特別に…あげるわ」

「え、マジ?サンキュー…ナミさん…」

「ありがたく…あっ…しなさいよね」


全部…いっちまうって言うのか…?
それに、コックなら…って何だよ!?
今日は特別?


「あら、剣士さん。どうかしたの?」

「次から次に…お前はどうしたんだ?」

「コーヒーをもらいに来たのだけど」

「そのコーヒーってのは、今しかダメなのか?飲まなきゃ死ぬか?アァ?」

「いいえ…そういうわけではないけれど…?」

「いくらお前がオトナの女でも、これはマズイ…後にしろ」


ゾロの異常な様子に、ロビンは無表情に首を傾げた。
その時、少し大きな声がキッチンから聞こえる。


「あー…これだけで…何回でも…イけそうだ…抜群の相性だし…」

「ん、イっときなさいよ。サンジくんはもっと…ったほうがいいわよ」


ロビンは眉をひそめ、ゾロの様子を伺った。
「変な汗」が顔中から吹き出ているのをゾロは感じていた。


((目抜き咲き ― オッホス・フルール ―))


「バカッ、お前…」


慌てるゾロに対し、ロビンは納得したような表情でゾロに微笑み、「剣士さん、中に入ったら?」と言って去っていった。


中に…さ、3人でってことか?!俺には無理だ…。さらりと凄いことを言ってのけ、中を覗きながらも動揺する素振りさえ見せない彼女に、さすがだと感心するが、そんな場合でもない。


しかしやはり、このまま踏み込んで…いや、いっそのこと斬り込むか…?
そう思いつつも、手はドアノブに触れたまま動いてくれそうにない。

ゾロはチッ、と舌打ちをして結局バスルームへ移動した。




夜、風呂上りのナミが甲板で晩酌するゾロの横に座った。
ニコニコと、満面の笑みを浮かべる彼女に疑惑の目を向けざるを得ない。
ナミはさすがにそれを訝しく思う。


「…今日、なんか変よ?どうかした?」

「自分の胸に聞いてみろよ」

「え?あたし、何かしたっけ?借金なら1ベリーもまからないわよ〜」

「ちげェよ!昼間、キッチンで…これ以上言わすな!」

「…はぁ?昼間…キッチンで?」

「と、床上手だとかぬかしやがって…」


そこまで言ったところで、ナミは「あぁ!」と頷いた。


「ゾロも食べたかったんだ〜?あたしの、ウマイわよ♪」

「おっ、お前はそーいう女じゃねぇだろーが!頭冷やせよ…」


ゾロは、男なら誰でもいいのかと思われるような発言に、目を剥いた。


「…え?何よ、あたしにちょっと位そういう一面があってもいいじゃない!」

「あってたまるか!」

「…? わかったわよ、じゃあ今度からそういうのは全部、サンジくんに任せるから」

「ぐっ…俺はもう、どうでもいいのかよ…」


ヤツに全部…そんなこと考えたくもねぇ。
昨夜の告白は一体、どうなるというのだ。


眉を顰め、ナミが言った。


「なんでアンタがどうでもいいのよ?アンタが嫌がるからサンジくんに任せるって言ってるのに」

「そういうのは、俺に任せろよ!」

「えっ!?ゾロ…できるの?あたしは、ちょっとやそっとのモノでは満足しないわよ?」

「できるに決まってるだろーが!望むところだ、満足させてやらァ!」


俺は、不能だと思われてたってのか…?!
んなわけねーだろ、この「至って健康な19歳、性別:男」の、どこをどう見たら…!?


ゾロのあまりの勢いに、ナミの目が大きく見開かれる。


「へーっ。ゾロが床漬け、漬けられるなんて意外ねー!」

「漬けられるに決まって…ん?床…漬け?」

「そうよ〜?床漬けって、ぬか漬けだけだとか思ってないでしょうね?甘いわよ!米ぬかの他に、梅床、パン床、味噌床…他にも、たくさんあるのよ?」

「あ…あァ…そうか…」

と、床漬け…。って、あの野菜を米ぬかに1晩漬け込む…あれか?
白い飯に、よく合う…あれか?


「この前上陸した島で、お米屋さんの百年床ってヤツが手に入ってね〜ノジコが上手いから、あたしも見よう見まねで」

「は…はは…」

「ついでに、梅床とパン床もやってみようと思って、作ってみたら大成功!」


嬉々として語るナミをポカンと見つめながら、ゾロは自分の混乱する頭を懸命に整理しようとしていた。

そうだ、だったらアレは…何回もイクとかって!!


「…何が、何回もイケるって?あの時…コックが言ってただろ」

「何回?…何のこと?」


床漬けの話を遮られたのが気に障ったのか、ナミは不機嫌に聞いた。


「いや、いい。と、とにかく…クソコックと何かあったわけじゃねェんだな?」

「何があるって言うのよ?それに、さっきから何をムキになってんの?ねぇ?何なのよ?」

「お、お前が紛らわしいこと言ってるからだろうが!!」

「…は?」




さて。昼間、キッチンで実際に交わされた会話とは…?

「ほらコレ、ちょうどイイ具合になってるわ」

「うわ…失礼かもしれないけどナミさんが床漬けなんて意外な特技だなぁ」

「ふふっ、でしょー?…これがホントの床上手〜みたいな?」

「あはっ。シャレもうまいなぁ、さすがナミさん」


「ん…このナス美味いな、ナミさん」

「この歯ごたえがたまらないのよね〜おいし〜い」

「オレ、これ全部食っちまいてぇくらいだよ」

「いいわよ、サンジくんなら。少ししかないし、今日のだけ特別に全部あげるわ」

「え、マジ?サンキュー、ナミさん。クソゴムに見つからないうちに食わなきゃ…」

「ありがたく味見しなさいよね、初漬けなんだから」

「あーオレ、これだけでメシ何杯でもいけそうだなぁ…白いメシとの相性抜群だね」

「ん、イっときなさいよ。サンジくんはもっと太ったほうがいいわよ?細すぎるわ」


ただ、それだけのことだったというのに。



問い詰められ、ついに自分の勘違いを白状させられたゾロは、この後ロビンが怒っていたナミをなだめてくれるまで口をきいてもらえなかったとか。




<プヨっちさんのあとがき>
どうしてこんな妄想が浮かんだのか自分でも不思議です(笑)。
明るい下ネタが好きなのですが、明るいを通り越してバカですね…。
夜のゾロとナミの会話が気に入ってます。
意味はまったく違うけど妙に噛み合ってる会話(笑)。
勢いで書いてしまったこんなお話を読んでくださり、ありがとうございました!



(2004.06.11)

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<管理人のつぶやき>
ワハハハハ!すっごい可笑しい〜(ジタバタ)
さてお立会い!昨夜、ゾロとナミは告白し合ってるんですよ、奥さん!
それなのに、サンジとのこのセリフのやりとりはナニィー!?ってなるわよね。
動揺しつつもチョパ達やロビンに律儀に応対してるゾロが可愛い(笑)。
それにしてもかなりキワドイセリフでしたよ。これをどうやって収拾するのかしらと思ってたら、「床漬け」ときたもんだ。素で「白い飯に、よく合う…あれか?」と言うゾロに大笑い。
お疲れ様でした、ゾロ。ナミとサンジがなんでもなくてよかったねv

楽しいお話をありがとうございました、プヨっちさん!ケッサクでしたよ。
そして、ウナゾ編、じっくりまったりと書き上げてくださいね。楽しみにしています♪

 

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