「おい!!ロロノアはどうした!!出勤時間とっくに過ぎてるぞ!?」
「まだ来てませ〜ん」
何だろう……。いつもと違うこと……?
「何ィ?あいつはまた遅刻か〜?」
「いつもの調子なら昼頃には来ますよ」
あ、そういえば今週まだ1度もあいつの顔見てないかも。
金曜日の変化
ライム 様
「ロロノアめ、おれの八ツ橋どうしてくれるんだ――!!」
編集長がわけの分からない事を叫ぶ木曜日の朝。ナミはふとそんなことに気付いた。
通路を挟んだ隣の席は、フィルムやら写真やらが散乱しているが本人の姿はない。
「ねェウソップ」
ナミは、近くの席で眠そうにあくびをしていたカメラマンのウソップに声をかける。
「今週ゾロ見てないわよね?」
ナミがゾロに最後に会ったのは先週の土曜日の夜。
お酒を買いに行こうと自宅近くのコンビニに入ると、雑誌コーナーで旅行雑誌を立ち読みをしていたゾロにバッタリ。
ナミ達は旅行雑誌やグルメ雑誌を出版しているので、他社の雑誌を見てたまにあれこれと批評したりもする。
なのでそこへナミも寄って行き、2人でプチ批評会が始まった。
ところが、始めは単に他社の批評をしていただけだったのが、しだいに他社と比べてのお互いの写真や文のセンスの話に。
そしてしまいにはコンビニだということも忘れて大声で喧嘩。
結局堪りかねた店員に追い出され、お互い腹を立てたまま帰宅したのだった。
「あ?月曜日来てたぞ?」
ウソップは自分のデスクに置いてあるカレンダーを見ながら答えた。
「え、うそ」
「お前月曜日から1泊で地方の取材だったろ」
旅行雑誌のため泊りがけの地方取材なんかもよくある。
「あ、そういえばそうだったわ」
「あいつは火曜日から1泊で地方取材。だからナミは今週見てねェんだよ」
そう言って、ウソップも無人のデスクを見る。
「でも今日は出てくるはずなんだけど、どうしたんだろな」
「あいつの遅刻は日常茶飯事だから。昼には出てくるんじゃない?」
ナミはウソップに言いながら今日の自分の予定を確かめる。
「多分な。ただあいつ、午前中に取材入ってなければいいんだけどなァ…」
「あ!!!」
予定を確かめていたナミがいきなり声をあげた。
「最悪……」
その予定表には、“11時〜グルメ特集取材(カメラマン:ゾロ)”と書かれてあった。
「ゾロのやつ…!!よりによって私とペアの時に遅刻するなんて…!!」
カメラマンがいなくては取材にはいけない。だが、だからと言ってゾロが来るまで待っていては約束の時間に遅れてしまう。
代わりを探さなければならないが、急に言って引き受けてもらえるかどうか…。
「そうだ、ウソップ!!」
思いついたようにウソップの肩をがっしりと掴むナミ。
「な、何だよ…」
「あんた今日の予定は?」
「今日は取材なしで現像とか…ってまさか!!」
ナミの言わんとしていることを察し、逃げ腰のウソップ。だがナミにしっかりと掴まれていて逃げられない。
「11時からの取材、ゾロの代わりに私と行ってくれない?」
「ちょっと待て!!おれにもやらなきゃなれねェ仕事があるんだ!!第一このグルメ特集の取材って、1日がかりだろ!?」
ウソップは首を横に振って思いっきり断る。
「あんた…この前風邪で休んだわよね?」
「へ?」
ナミが言っているのは、以前カメラマンが全員欠勤してゾロが仕事をやるはめになった日のことだ。
ウソップもその欠勤者の1人で、翌日ゾロに半殺しにされた。
「その日、頼みに頼んでようやく取材許可が取れたお店の取材が入ってたのよ。カメラマンはウソップ、あんただったわ」
ナミは続ける。
「なのにあんたは休んで、オマケに他のカメラマンもいない。仕方ないからものすっっごく謝って別の日に変えてもらったんだから!!」
「いや、あの日はほんとうにすまなかった…」
ウソップは緊張と恐怖で汗ダラダラ。
「あの時のお礼、まだだったわよね?」
そんなウソップにナミは満面の笑みで言う。
「………わかりました。昼の取材、お供させていただきます」
「そvじゃあ頼んだわよ〜v」
こうしてこの日ナミは、半強制的にウソップを連れて取材に行った。
翌日。
「え、昨日ゾロ来なかったんですか?」
「あァ。連絡しても出ないんだよなァ」
昨日ナミは取材が終わると直帰したため、ゾロが出勤したかどうかを知らなかった。
「めずらしい……。遅刻はよくするけど休んだことはなかったのに」
「今もう1回電話してるんだけどな、出なかったらお前帰りにでも様子見てきてくれないか?」
編集長は2人が同じマンションに住んでいることを知っているため、ナミに頼んだ。
「はい、わかりました」
“ピーーンポーーン”
結局ゾロと連絡が取れなかったので、仕事帰りにナミが様子を見に行くことになった。
“ピーーンポーーン”
だが、さっきから何回チャイムを鳴らしても何の反応もない。
「おかしいわね…。出かけてるのかしら」
ナミは何となくドアノブをひねってみた。
“カチャ…”
「うそ、開いてる…。まったく、無用心ねェ」
そう言いつつも部屋に入る。
「ゾロ〜?」
部屋の中は真っ暗。ナミは電気を探しながらゆっくりと奥に進む。
すると突然、ナミは何かにつまずいた。
「きゃぁああ!!何!?」
びっくりして大声を上げ、ちょうど見つけた電気を急いで付ける。そして下をみると……。
「うるせェ……。頭に響く……」
床にへばりついているゾロを発見。
「ちょっと!!いるなら出てよ!!びっくりするじゃない!!」
「人のうちに勝手に入り込んどいて何言ってやがる……」
ゾロの返事にいつもの覇気がない。心なしか顔も赤いようだ。
「…ねェ、もしかしてあんた……」
ナミはしゃがんでゾロを見て言う。
「…風邪引いたの?」
「…………かもな。なんか頭いてェし」
「体力バカのあんたが風邪!?どうしちゃったの!!」
ゾロは例え社内の人間が全員風邪を引いたとしても、絶対に1人元気に仕事をしている奴だ。ナミはそのことをよ〜く知っていたため、ゾロが風邪を引いた事が信じられない。
「知るか。取材から帰ってきたらいきなり足元がふらついてぶっ倒れたんだよ」
「信じられない…。あのゾロが風邪ねェ…」
ナミはまじまじとゾロを見る。
「ところであんた、いつまでそこにへばりついてるつもり?」
話してる間中も、ゾロはずっと床にへばりついたまま起き上がろうとしない。
「……腹減った」
「はァ?」
「腹減って動けねェ……」
「あー、うまかった!!」
「当たり前よ、私が作ったんだから。これでまずいとか言ったら代金10倍にしてやるわ」
結局ナミは、出張中取材があまりにもハードでろくに食事も取れていなかったゾロにおかゆを作ってあげた。ゾロにはさんざん文句を言われたが、一応病人らしいのでおかゆ。
「お前病人から金取るのかよ」
「あんたのこの姿見て誰が病人だって思うのよ」
今のゾロの状態は誰がどっからどう見ようとも健康体。ナミもおかゆをつくりながら、“倒れたのは風邪じゃなくて、単にお腹が減ってたからなんじゃ…”とも思ったほどだ。
「大体熱とかあるの?」
「測ってねェ」
「じゃあ測ってみて。一応」
「めんどくせェ」
ナミの問いかけに手短に返すゾロ。
「あっそ。それじゃあ病人じゃないってことで、代金しっかりいただこうかしら」
「…測ります」
これにはゾロはおとなしく従った。
そしてナミは、ゾロのありえない体温を聞いて驚く。
「41度!?あんた41度もあるの!!?」
「何だ、そんなにあったか」
41度もあるのにゾロは平然としている。
「ほんとに風邪引いてたのね…。けど普通の人ならこんなに平然としてられないわよ?さすが体力バカ、尊敬するわ」
「…うれしくねェよ」
と、ここでナミはふと時計に目をやる。なんだかんだでもう10時近かった。
「やばっ!!私今日中にやらなきゃならない仕事があったんだ!!ゾロ!!ちゃんと寝ておくのよ!?明日も休まれたらほんとに困るんだから!!」
ナミはそうゾロに言って玄関へ向かおうとした。
「おい、ナミ」
だが、そんなナミをゾロが呼び止めた。
「何?」
ナミが振り向くと箱のようなものを投げつけられた。
「何これ、八ツ橋?」
「やる。取材で行って来た京都の土産だ。本当は編集長に頼まれて買ってきたんだけどな」
ナミはそれを聞いて、昨日の編集長のわけの分からない叫びの意味を理解した。
「八ツ橋ってこれのこと…」
「あ?何だって?」
「ううん、何でもない。けどこれ私が貰っていいの?編集長に頼まれたんでしょ?」
するとゾロは頭を掻きながらそっぽを向いて言った。
「……いろいろ面倒かけた詫びだ」
「…そう。なら遠慮なくもらっとくわ」
そしてナミは玄関のドアを開ける。
「ナミ!!」
だがまたしてもゾロに呼び止められた。
「もう、今度は何!?」
ゾロはナミの姿が見えるところまで歩いて来て、少し照れくさそうに言った。
「……その、何だ。……………ありがとな」
「…………どういたしまして。じゃあ」
“パタン…”
「び、びっくりしたァ〜…」
ゾロの部屋を後にしたナミはすぐに自分の部屋に戻り、帰ってくるなりその場にへたり込んだ。
「まさかゾロにあんな風に素直にお礼言われるなんて思ってもみなかった……」
そしてさっきのお礼を言った時のゾロを思い出す。するとみるみるうちに自分の顔が火照ってくるのが分かった。
「なっ!!?何で私赤くなってんのよ!!」
そして慌てて顔を手で覆う。
「お礼言われただけじゃない…。そうよ、ただお礼言われただけなんだから!!」
ナミは自分にそう言い聞かせ、終わらせなければならない仕事の事も忘れてベッドに潜ってしまった。
ナミの気持ちが微妙に変化した金曜日。だがナミがそれを自覚するのは、もう少し先になりそうだ。
ちなみに。
次の日、ゾロは前日まで40度を越える熱があったとは思えないほど元気に出勤した。
一方、ナミはゾロに風邪を移され、自宅のベッドでうなされていた。
-おわり-
(2004.03.05)Copyright(C)ライム,All rights reserved.
<管理人のつぶやき>
カラスシリーズのゾロとナミ、恋愛に向けて半歩前進です!
まずはナミがゾロのことを意識し始めたようです。うふふふふふ♪
また、会社の同僚としてウソップが登場。ゾロと同じカメラマンです。
段々と二人がいる編集社の様子も分かってきましたね。
病気のゾロをナミが看病する・・・ああ、なんて美味しいシチュエーションなんだv
しかし、41度の熱って本当に危ないですがな。ナミは救世主だよ(^_^;)。
ライムさん、ステキなお話をどうもありがとうございましたvvv
二人の次なる一歩も楽しみにしていますよー♪