月の向こう
            

ラプトル 様




満月。蒼白く輝く月。その月光の下、甲板に男が一人。
月を肴に月見酒。相手は、親友の形見の刀”和道一文字”。
「お前は何処にいる」
互いに強さを求めて。互いに競い合って。その中でいつしか友情が芽生えた。
あいつが死んだと聞いた。信じられるわけがなかった。
あれだけ自分の前にいたのに、あれだけ勝負したのに。
それなのにあいつが死んだだと。
ふざけるな。あの夜約束したはずだ。どちらが世界一になるか。それをお前は逃げるのか。
幼い頃はそう思っていた。あいつの亡骸を前にそう叫んだ事もあった。
「ガキだな、俺も」
その日から夢は野望へと変わり世界一になると決めたのだ。


「綺麗ね」
静かに酒を呑んでいたらふと後ろから声がした。
「綺麗ね、月が」
「ああ」
女は横に立って月を仰いだ。
「その刀も」
女は月から刀へと視線を動かしそう言った。
「そうか」
どうしたのと女が聞いてきた。
「あいつの、命日だ」
女は静かに、そう、とだけ呟いた。
日付感覚など持ってはいないが、不思議な事にあいつの命日だけは覚えている。
何故だか分からない。分からないが覚えていなければいけないと思っていた。
なぜなら。あいつが目の前から突然消えた日だから。


形見を持って立ちあがって女にならんだ。
「失くす傷みなら私も知ってるの」
女が言った。前を見ているようでしかしその眼は遠くを見ているようだった。
女の故郷で母親が死んだと聞いた。
「そうか」
こいつも同じなのか。
「俺は誓った。世界一になると」
あいつに誓った。哀しみと共に。
「これがあんたの約束なのね」
女は持っていた刀に優しく触れた。 
自分の約束を見透かされているような気がした。
「そうだ」
果たさなくてはいけない。約束を。
眼を閉じるとあいつの顔が、声が、姿が、鮮明に思い出される。
あいつの。くいなのそれらが。全て。
「彼女はそれを望んでるわ、きっと」
眼を閉じて聞いた。
眼を開いて月を見上げた。自分でも気付いた。

「雨が、降ってきたな…」
男は泣いていた。静かに。涙が一筋流れた。
「雨?降ってな…」
女は最後まで言葉を言えなかった。
男が静かに泣いていたから。
「そうね」
女は月を見ながらそう言った。


くいな。お前は何処にいる。そこにいるのか。
あの月の向こうに…




FIN


(2005.03.19)

Copyright(C)ラプトル,All rights reserved.


<管理人のつぶやき>
しっとりとした落ち着いたゾロナミが魅力的。二人とも、大切な人を失くした痛みはよく知っています。くいなのことを今も大切に想っているゾロ。ラスト、ゾロが涙を流し、そんなゾロをそっとしておくナミ。良いシーンでした。

ラプトルさんの初投稿作品です。どうもありがとうございます!
この後、ラプトルさんは連続投稿してくださってます。さぁ次行こう、次〜!(笑)

 

戻る
BBSへ