私は私と生きていく
迷う訳にはいかないわ
今までありがとう
そしてさようなら
恋心よ
サウダージ
ラプトル 様
季節は巡り巡って今は何処か物寂しい秋。
人恋しくなるのか想いが離れていくのかそれは人それぞれ。
いつか別れはやってくると知っていたのにいつまでも縋り付いていたいと願うのは女の我が儘なのか。
時の流れはあっという間で、男は何も言わずに女の元から去ろうとしていた。
二人の関係は互いに依存し合わず適度な距離を保っていたクールな関係だった。
決して嫌いになったわけじゃない。決してこの関係に疲れたわけじゃない。
それなのに男は去ろうとしている。
愛情は確かに存在してた筈なのに、それを表す術を知らずにいた二人の皮肉な結末なのか。
理由は知らない。
そんなもの知りたくもない。
男が自分の元から去っていく。
それだけは事実。
女は引き止める事はしなかった。
「行くのね」
淡々とした口調で言う。涙は見せない。私はそこまで弱い女じゃない。
「ああ」
表情は変わらない。
悲しそうな表情をするわけでも寂しそうな表情をするわけでもない。
「勝手ね」
いつもいつも。そうやって私の心を掻き乱す。
依存なんてしてるつもりはなかったけれどいつの間にかあんたに依存してたのかしら。
みっともないわね私とした事が。
「そうだな」
どうしてあんたはそうなの。
理由さえ言わないで。
“お前に疲れた”とか
“お前をもう好きじゃない”とか
そういう事を言ってくれればいいのに。
そんなあんたに腹が立つのよ。
「私はあんたがわからないわ」
もう何もかも。
悲しいんじゃないの。
寂しいんじゃないの。
ただ悔しいの。
「泣くな」
どうして抱きしめるのよ
どうして今更抱きしめたりなんかするのよ
ズルイわよあんたは。
「泣いてなんかないわよ」
男は親指で頬を伝う涙を拭いた。そうよ、泣いてなんかないわ。
あんたが居なくなるからって泣くわけないじゃない。
「離して」
急に強く抱きしめられた。
これ以上抱きしめないでよ。私が惨めになるじゃない。
拒否したにも関わらず抱きしめたその腕の強さは変わらない。
「離してって言ってるでしょ!!!」
その厚い胸板を力一杯に拳で叩く。しかしそれでも男は離さない。無駄な抵抗だとは思いつつも叩き続けた。
「済まない」
小さな声だった。しかし抱きしめられていたからはっきりと聞き取れた。その言葉と同時に抱きしめる腕は強くなっていく。
苦しいくらいに哀しい謝罪の言葉だった。
やっとの事で絞り出されたであろうその声は、気のせいかもしれないけれど、幾分潤んでいるように聞こえた。
「バカ…」
バカよ、大バカ。
離れて行くのに私を抱きしめたり謝ったりしたりして。
もうわけがわからない。
だけど。
本当は薄々気付いていたのかもしれない。わかっていたのかもしれない。
去っていってしまう事を。
そういう自分を認めたくなくて、そういう自分の気持ちに蓋をしていたのかもしれない。
「もう…行きなさいよ…」
うまく声を出せただろうか。
厚い胸を両手で押して男の身体から自由になった。
引き止める事はしない。縋り付く事もしない。
「元気でな」
また何処かで会えるかもしれない。もしかしたらもう二度と会えないかもしれない。
でも今はそんな事どうだっていい。
せめて最後は笑顔で飾らせてよ。
「さよなら」
笑ってやった。
あんたが隣に居なくても私は生きていく。
もう私は迷わない。
泣いてやるものか。
「ああ」
男も笑った。あの憎たらしい笑みで。
背を向けてゆっくり歩き出す。
その広い背中を見るのはこれで最後かもしれない。
その背中が大好きだった。
逞しくて何処までも連いて行きたいと思った。
もう見れなくなるけど思い出すぐらいはいいでしょう?
そう、遠ざかる背中に呟いた。
空は夕焼けに染まっていた
届かぬ愛に火を灯す
あの背を忘れずに済むように
この恋に
消えてしまわぬように
FIN
(2006.06.27)Copyright(C)ラプトル,All rights reserved.
<管理人のつぶやき>
なぜ別れなくてはいけないのか詳細はわからないのですが、この状況が切ない〜;;。
別れるくせに優しいなんて罪作りだよ・・・でもこういう終わり方も二人らしいのでしょう。
サウダージはポルトガル語で哀愁の意味だそうで。確かに哀愁漂ってるっ><。
ラプトルさんの11作目でした。どうもありがとうございました^^。