Squall
            

ラプトル 様



外は快晴。
天候が崩れるなど誰が予想出来ようか。
家路へ向かう途中に雨に出遭ってしまった。
最寄のコンビニでビニール傘をそれぞれ買って防波堤沿いを並んで歩く。
海を見れば降る温い雨が海面に刺さる。
それを歩きながら見つめていたナミは少し拗ねながら呟いた。
「何で降ってくるのよ…」
せっかくいい気分でこいつと散歩してたのに…。
傘にぶつかる雨の音が今は憎たらしい。隣を横目で見れば右手をポケットに突っ込んで呑気にも、あーしかし参ったなこりゃ、などと独り言を言う。
大して雨は降ってはいないが傘が無ければ濡れてしまう事は確実。
ナミはこの憂鬱さに溜息を吐いた。




ふと傘を避けて空を見上げれば雲の切れ間から陽の光が差し込んでいる。気付けば傘越しに聞こえた不愉快な音は聞こえなくなっていた。
どうやら通り雨だったらしい。
気紛れな天気ねぇ、と空を睨んで呟いた。
すると隣から傘を閉じる音が聞こえてナミは自分のそれも閉じた。呆けて歩いていたからなのか羽織っていたシャツの右肩部分がぐっしょり濡れていた。
「買ったばかりなのに…」
肩の部分を摘んで言うと
「脱げ」
突然間違って捉え兼ねない言葉をゾロが言った。
「は!?」
「だから濡れたそれを脱げ」
ああそういう事、ようやく理解したナミはシャツを脱ごうとして手が止まった。
「脱いでどうすんのよ。この時期にこのかっこうじゃおかしいでしょ!?」
脱いだらキャミソール一枚。冬になりつつある秋にキャミソール一枚は妙に違和感がある。
「おら」
乱暴に自分が羽織っていたシャツを渡す。とっさにそれを受け取ったナミはゾロの顔を見た。
「着ろって事?」
そう言った途端にゾロは歩くペースを上げた。
少しだけど顔が赤くなっていたような気がした。
自分が羽織っていたシャツを脱いでゾロのシャツを羽織った。
ちょっと大きい、と呟いて微笑みながら通した袖を摘んでみた。
同時にちょっと嬉しくもなった。からかってやろうとペースを上げてゾロに追い付く。
「ねえ、ちょっと大きいわよ?これ」
さっきのように袖を摘んで見せた。
「なら返せ」
ぶすっとした顔で言う。
「着ないとは言ってないじゃない」
バカね、そう付け加えた。
「ありがとうの一つも言えねェのかてめェは」
ますますゾロはぶすっとした顔になった。
別に言えないわけじゃなくて。
ただこいつの前だとどうも素直な女になれないだけであって。
今だってそう。
心の中では、こういう乱暴だけど不器用でさりげない優しさを見せてくれたこいつに嬉しく思う。
やっぱりこいつが好きなのよねぇ。
「ねえ、ちょっと座らない?」
少しだけ前を歩いていたゾロを呼ぶ。
防波堤を指差すナミにゾロはああ、と答えた。

防波堤に二人で腰掛ける。
ナミは両手を後ろについて空を見上げた。
茜雲がフワフワと流れているのがわかる。
足をパタパタさせるナミを見て、ゾロはあの憎ったらしいこいつと女らしいこいつと、どうしてこうも極端なんだと頭を抱えた。
素直じゃない、口は悪い、気は強い、かわいくないわでどうしようもねェなと笑う。
それなのに俺はこいつに惚れてんじゃねえか、と苦笑した。
「惚れた弱みってヤツか…」
フッと笑ってナミと同じように空を見上げた。


後ろを通り過ぎる学生やカップル。一面には蒼から橙に変わる海。潮風が髪を掠っていく。それがひどく心地いい事にナミは知らずと笑みが零れていた。


すると突然膝上に重みを感じた。ゾロが頭を乗せてきたのだ。
ちょうどひざ枕の形。
「借りるぜ」
下からそう言って目を閉じた。
「高いわよ」
その広い額をペチンと叩いた。
「だろうな」
クッと笑っていい枕だぜ、そう言ったきりゾロは何も言わなくなった。
ただゆっくりと過ぎるこの時間が落ち着く。
たまに空を飛ぶカモメを見えなくなるまで見つめていたりだとか、波の音が耳に残るなぁと思ったりだとか。
ナミは膝上で寝る緑の髪を時に撫でたり指の間に挟んだりした。


髪を弄ばれているのはちょっと腹立たしいが嫌じゃなかったから好きにさせた。
片目を開けてナミを見る。
見上げたナミの顔は夕焼けに染まって柄でもなく、へぇ、と唇が緩むのを感じた。
ナミの鮮やかなオレンジの髪と夕日が同じ色なんだと気付いた。
それこそ柄でもなく、綺麗じゃねェか、と心の中で言った。



「そろそろ帰る?」
ナミは膝上で寝ているゾロに問い掛けた。
「んあ?」
器用に片目を開けて間抜けな声を出した。
「か・え・る?」
額を言葉と一緒にペチペチペチと叩いてやった。
「ああそうだな…」
むっくり起き上がるゾロに着ていたゾロのシャツを投げ渡す。
バサッといい具合に頭にかかる。「…ありがと」
ちょっと照れ臭くなってもう乾いた自分のシャツを羽織る。
と同時に防波堤から降りた。
「ほら!もたもたしてると置いてっちゃうわよ!」
もぞもぞとシャツを羽織るゾロに少し大きな声で言う。
「やれやれ」
頭を掻きながら防波堤から降りる。
先に歩いているナミに微笑んだ。素直なあいつもたまにはいい、そう思った。
ナミに並ぶついでに言ってやった。
「素直に言えるじゃねェか」
皮肉めいた口調でナミを見た。
「ふん、あんなのただの気休めよ。別にそこまで気にしてなかったし。余計なお世話だったのよ」
とことん憎まれ口が得意らしい。ゾロの顔がどんどんしかめっ面になっていくのがわかる。
「てめェは…んっとにムカつく女だなおい」
「褒め言葉として受け取っとくわ♪」
これだぜ。いっそ綺麗なくらいの笑い方。
まあそれが本当にこいつらしいのかもしれない。
「そうしてくれ…」
口では勝てないゾロはナミの口撃に降伏。

ナミは楽しかった〜と笑い、ゾロは今ので気分台無しだぜと文句を垂れる。




二人を茜に染める夕日を一羽のカモメが横切った





FIN


(2006.07.11)

Copyright(C)ラプトル,All rights reserved.


<管理人のつぶやき>
想い合ってはいる。でもまだ気持ちは伝え合ってはいないみたいな・・・そんな微妙な関係がこの短いシーンでよく表れているなぁと思いました。好き合ってるから、どんなに憎まれ口を叩きあっていても、どこか気持ちいいんですよね。それが雨上がりの爽やかな景色と重なって見えました^^。

ラプトルさんの13作目の投稿作品です。前作に引き続いてテーマは『雨』でした。
ご投稿どうもありがとうございました〜〜。

 

戻る
BBSへ