想い
            

ラプトル 様




男は白い刀を持っていた。闇の中で月だけが照らす世界で。
”和道一文字”男はそれを持って何かに耽っていた。
想い出か、約束か。


後ろから女が歩いてきた。静かに。
「そんなに忘れられないのね」
「そんなに恋しいのね」
彼女が。
男は目を瞑って黙っている。
その手には刀。
「どうしてそんなに想えるの」
どうしてそこまで彼女を想うの。
それは想い出にすぎないの。
男は目を開けた。そして言った。
「もういない女を想う俺を」
「お前は笑うか」
男の顔を見た。月を見ていた。
哀しい眼を、哀しい表情をしていた。
そうか。何故この男がそこまで彼女を想うのか分かったような気がした。
笑うかと男は聞いてきた。
いいえ。
「笑わないわ」
どうして笑うの。そこまで想ってるあんたをどうして笑う事が出来るの。
「そうか」
口の端だけで男は笑った。
私はどうすればいいの。あんたを想ってる私はどうすればいいの。
勝てるわけ無いじゃない。そんなに綺麗な彼女に。
わかってるの。過去に嫉妬するなんて無意味だと言う事を。
でも悔しいわ。
「あいつに惚れていたのかもしれない」
男が静かに口を開いた。ひそやかなしかし強い彼女への想いを口にした。
「今更ね」
あんたは馬鹿よ。想いが強すぎるわ。
「そうだな」
私が踏み入る場所なんてないじゃない。
「ずるいわ」
ぽつりと言った。
「何が」
男に聞こえたらしい。
こうなったら言ってしまえと決めた。
「彼女を想い続けてるあんたも」
「いつまでもあんたに想われ続けてる彼女も」
男は女が何を言いたいのか分からないようだ。
「あんたを想ってる私はどうすればいいの」
さっき想っていた事を男の目の前で言ってやった。
男はうろたえる様子は無い。
「あいつは死んだ」
男が女の顔を見て言った。
「お前は生きている」
女は黙って聞いていた。
「お前は俺の傍にいればいい」
男が言った。優しく強く、真剣に。
「お前は俺と共に生きればいい」
あいつを想っていても仕方ない。忘れる事など出来はしない。
しかし今隣にいるのはこの女。約束に導く事が出来るのはこの女。
「そうするわ」
女が頷いた。綺麗な笑顔で。



あんたは彼女を想ってればいいの。でも私がいることを忘れないで。
あんたの隣にいるのは私。彼女を忘れては駄目。忘れたら本当にいなくなってしまう。
だから、彼女を想いつづければいいの。振り返っては駄目。立ち止まる事は許さない。
あんたは前を向いて刀を振り続けてればいいの。後ろは私に任せておけばいいの。

私が導いてあげるから。世界一に。




FIN


(2005.03.19)

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<管理人のつぶやき>
くいなのことを忘れられないし、忘れはしないゾロ。そんなゾロを想うナミ。
切ない構図です。でもゾロは、「生きている」ナミの存在を大切に思ってくれてる。それが分かって救われる思いがしました(^.^)。

ラプトルさんの3作目の投稿作品でした。実はもう次作も到着してたり(^_^;)。アップ作業、ちょっと待ってね。ともかくも、連続投稿ありがとうございましたーー!

 

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