医療大国”ドラム”で船医”トニートニー・チョッパーを仲間に迎え船は行く。
砂の国”アラバスタ”へ






存在意義
            

ラプトル 様




幻想的な雪が舞っている。
船首にはナミが立っていた。三日前ナミは倒れた。瀕死状態。
船に医者がいない事は絶望的だった。
ビビが言った。ナミを治して
”最高速度”でアラバスタへ向かうと。
良い度胸だ。

ナミが治ったその夜は宴会。復帰したナミと新しい仲間に祝福の意を込めて盛大に行った。
それが終了したのはつい先程。
ゾロは全員が寝静まった頃合を見て再び雪見酒を洒落込もうとしていた時だった。
あの女何してやがる。
「おい、何してる」
病み上がりの女が。
「指針確認よ」
見て分からないのかしらね。
急がなきゃならないでしょ。アラバスタに。
「そういう事を言ってるんじゃねえ」
ぶり返したらどうすんだ。
何考えてる。
「大丈夫よチョッパーがいるもの」
心配無いわ。大丈夫よ。それより今はアラバスタへ行く事が先決。
休んでる暇なんて無いわ。
船の速度を狂わせてしまった償いではないけれど。
なるべく早くアラバスタへ向かいたいの。
「死にかけたんだぞ」
お前は。どれだけ全員を不安にさせたかわかるか。
お前が死にそうだと知った時どれだけ全員を不安にさせたかわかるか。
ルフィもコックもウソップもビビも。
どれだけ不安になったかわかるか。
「わかってるわ」
わかってるわよそんな事。だからこそじゃない。
だからこそ一刻も早くアラバスタへ向かわなければならないの。
ビビの想いが無駄になるの。遅かったじゃすまない事はあんたも理解してるはずよ。
一国が乗っ取られてしまうの。
「倒れないわ」
絶対に。倒れるわけにはいかないの。
「根拠がねえ」
根拠がねえ自信を信じられるわけがねえだろう。
しかも一度死にかけたお前が言うのなら尚更だ。
またお前がぶっ倒れでもしたらどうなる。
全員狼狽だ。例え船医がいてもだ。
そうしたら船の速度はまた狂っちまう。
お前はそれでもいいのか。
これ以上俺達を不安にさせるな。



「見てこいよ、いいから」
ったくあいつは…。
ナミが倒れた。原因不明だそうだ。船医がいればいいが生憎この船には船医がいない。
俺達には何も出来やしない。ただ見守ってるだけ。
ナミは瀕死。顔面紅潮。息が荒い。身体中が熱を持っている
額のタオルがナミの顔に被さった。見たことがある。この光景は。
”既視感”だ。
記憶が巡る。親友の突然の死。あの日見た親友の亡骸。その顔には白い布。
それが今のナミの姿に重なった。
思い出してしまった。だからタオルを額に戻した。
こんな姿は見たくなかったから。
「…ゾロ…」
ナミが気付いた。その声はかろうじて聞き取れるくらい。
「生きてるか」
それ以外の言葉は見つからなかった。
何と言ったら良いか分からなかった。
「…何とか…」
笑った。その笑顔が痛かった。
そんな顔をするな。
だが意識があるだけまだましだろう。
しかし危険な状態には変わりない。
島が見えたと言っていた。
なら医者がいるだろう。
「島が見えたらしい」
「…みたいね…」
まず人がいるかどうかだが。
人探しから始めれば良い。その中で医者を探せばいい。
ゾロは甲板に向かうため部屋の扉を開けた。
そして言った。
「生きろ」
そう言った。生きろと。
あいつと同じになるな。
死ぬな。生きろ。何が何でも。
生き抜け。
お前が死んだらこの船はどうなる。
間違いなく崩壊だ。
俺達を導くお前が死んだらこの船は崩壊だ。
そうならない為にもお前には生きてもらう。
導いてもらう。
俺達の為にも。そして
ビビの為にも。
ナミに聞こえていようが聞こえていまいがそんな事はどうでも良かった。
言わなければこっちの気が済まなかった。
あいつのこともあったから。
あいつの死を受け入れられなかった俺に。
何よりあいつ自身がもっと生きたかったと思うから。
あいつは強くそしてあまりにも脆く儚かった。
だからあいつと同じにはなって欲しくない。
これ以上目の前で死なれるのは御免だった。




「部屋に戻れ」
さっさと戻れ。部屋に。
「いや」
「戻れ」
「いや」
苛立ちが湧いた。ナミにではない。
ナミが死にかけたという現実に今更恐れた自分にか。
分からない。
ゾロは苛立ったまま船首へと歩いた。ナミを強引に振り向かせ自分の後ろへ突き飛ばした。
「何すんのよ!」
ナミがいる場所は丁度壁だった。
ゾロは近づいて両手をダンッとナミの顔の両側の壁についた。
「生きていく気があんのかてめえは」
意地を張って強がって。
お前はこの船の最重要ポジションだろ。
ビビの為にという気持ちは分からなくもないがそこまで無理をする必要が何処にある。
「ええ、少なくともあんたよりはね」
そんな事を冷静にナミが言ってくるから。
ますます苛立ちが募る。
「何だと」
ゾロの顔が険しくなった。
あんたよりは生きていく気はあるわ。
自分で腹を斬ったり、両手両足縛られて自分から水中へ飛び込んだり、瀕死の状態で魚人と戦ったり、自分の足を斬り落とそうとしたり、滅茶苦茶なあんたにそんな事言われる筋合いはないわ。
自分のことを棚に上げてどの口下げてそんなふざけた事を言うのかしらね。
私は偶然そういう結果になったけれど。
でもあんたは違う。
全て自分から。そうでしょう?
「以前のお前はまるで生きようとしてねえ様に見えたがな」
何故古い話を持ちこんだのか。
それはナミがあまりにも真剣な眼をしていたから。
ナミが言おうとしている事を少なからず察したから。
その言おうとしている事に自分は否定できないから。
だから故意に話を逸らした。
馬鹿な事を言わないで。それはあまりにも以前の自分の的を得ていたから。
たとえそれが一時そう思っていた時期があったとしても。
事実は事実。
そう思ってしまうのが悔しくて。この男の言った事が図星だった事が悔しくて。
だから言った。悔しいから。
「私にはあんたは死に急いでるように見えるわよ」
だってそうでしょう。今までのあんたを見てきてそう思うのが普通でしょう。
「俺とお前の生き方は違う」
お前はとっくにわかっていたと思っていたが。
お前は生きていなければ夢は叶えられない。だが俺は違う。
俺は約束を果たすため命を捨てた。
果たすためには命など惜しくはない。
生き急いでいるのか、死に急いでいるのか。
そんな事はどうでもいい。
俺は立ち止まるわけにはいかない。


暫く沈黙が続いた。お互いの眼を逸らさずに。
ナミは言った。
「あんたに私の気持ちがわかった?」
ナミはそう問うた。
「何がだ」
ゾロはさして聞きたくも無かったがナミが真剣だったから。
「目の前でみすみす命を危険に晒すような、命を捨てるような真似をされる気持ちよ」
ナミもまたひどく苛立っていた。
どうしてわからないのだろう。この船で一番死に近いのはこの男だというのに。
この男は必ず傷を負う。それも大量の出血を伴う傷を。
その度にやるせない気持ちになる事にこの男はきっと気付いてないだろう。
失くす事が怖いのは私も同じだとあんたは気付いてるのかしらね。
「ああ、わかった」
よくわかった。
だがお前はもう十分だ。


不意に女が男の顔を両手で掴んだ。


「どうしてあんたはそうなの」
どうして。結局。
「あんたはどうでもいいのね、何もかもが」
何を見ている、何処を見ていると云っても
恐らくこの男は約束しか見ていないだろう。
きっと。
「俺は俺の好きな様に生きる」
文句は言わせねえ。
俺は俺のやりてえ様にやる。
「俺は強くなりたい」
誰よりも。鉄をも斬れるような。
その為には命懸けで高みを目指す。
「知ってるわ」
あんたはそういう奴よ。

女が男の脇をするりと抜けてまた船首に立った。
男が女の横に並ぶ。
「あんたは何処へ行くの」
夜風がナミの髪を撫ぜた。
「俺は何処までも行く」
辿りつく先など知らない。辿りついたその先に何があるかなど知りたくもない。
何処に流されても何処に流れてもそんな事はどうでもいい。
この世に全てを委ねる。





「あんたは私の何」
教えて。わからないの。
「俺にもわからない」
お前が俺の何なのか。
俺がお前の何なのか。
だが
「これから見つけて行けばいい」
俺達を。
「そうね」
私達を。


雪はいつまでも舞っていた…




FIN


(2005.03.26)

Copyright(C)ラプトル,All rights reserved.


<管理人のつぶやき>
自分を大切にしない行為は傍で見てて腹立たしい。それは心配だから。でも、ゾロとナミの生き方が違うのもまた事実。ゾロは約束を果すためには「そう」せざるを得ないわけで・・・。

ラプトルさんの5作目の投稿作品でした。少しずつ二人のドラマは進んでいく・・・今回はドラム島を出た直後のシーンでした。ご投稿ありがとうございました〜。

 

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