手紙
            

テモ 様

生まれたときからの幼なじみがいなくなったのは小学校1年生のときだった。

お別れのときはお互い泣きじゃくって、1年間だけ同じクラスだったサンジ君は困っていた。彼は引越し先からすぐに手紙をくれて、それから私たちはずっと手紙でやりとりしている。そしてその手紙は1通たりとも捨ててない。

くだらないことでも大事なことでもなんでもお互い書いていた。大きくになるにつれて剣道とか勉強とかでお互い忙しくなって手紙の回数は減ったけど、それでも私たちは手紙をやめることはなかった。

ナミちゃんへ 剣道を始めたんだ!

ぞーちゃんへ テストで一番取ったのよ!すごい?

ナミちゃんへ 大会で優勝したぜ!満足しちゃいないけどさ!

ぞーちゃんへ 今日は地図を書いたのよ、楽しかったわ。

ナミちゃんへ 150センチになったぜ!

ぞーちゃんへ それでも私のほうが高いわよ!

あたしたちは会ってなくてもあの時のまま一緒にいる。きっと彼は変わってなくて、笑った顔、すねた顔、怒った顔...すぐ想像できるわ。そうでしょ?



中学校に入学した。

周りが好きな人の話とか自分自身が告白されたり、(サンジ君が結構ジャマしてたみたいだけど)そういうのが多くなった。

でもあたしたちの中では恋とか好きなタイプとかそんな話は全くなかった。はたから見れば紙の無駄とも言えるようなふざけた手紙とか、ついた頃には解決している出来事とか書くことはたくさんあるし。というかそんな話をする以前にそんな出来事は全くなかったのだ。(友達のサンジ君は女の子を見るたびに目をハートにしていたけど)ぞーちゃんは私立の一貫の男子校だし。というか剣道で忙しくてあたしとの手紙も月1,2回なんだから、もし彼女がいたらはっ倒してやる。確かにまわりを見て騒いでいる女の子を見るとうらやましくならないわけでもなかった。でもきっともっと大人になればあたしも恋をするだろうと、そのときはそう言い聞かしていた。

でもそれは近いうちに簡単に壊された。





中学2年生のときだった。いつものように彼から手紙が来た。でも―――



ナミヘ―――



その瞬間、世界が変わった。

幼いあたしとぞーちゃんの世界に知らないあいつが入り込んできたのだ。



昔の写真を引っ張り出す。

この顔でナミちゃんと呼んでいた。だから今まで手紙の中のぞーちゃんはこのままだった。

内容はいつもと変わらない。

でも

あたしをナミと呼ぶぞーちゃんをあたしは知らない。





何日か過ぎた。

返事はまだ書いていない。何を書けばいいの?

<ゾロ>という人をあたしは知らないんだもの。



多分あの緑頭はそのままだろう。

困ればすぐ眉間に寄るしわも。

めつきも悪いまままだろう。

背は?

髪型は?

そういえばあけたいって言っていたピアスはどうしたの?

どんな声であたしの名前を呼んだの?

ねぇ、あんたは今どんな奴になってんの?







「ナミさんどうしたの?」

ビビが心配そうに聞いてきた。水色のきれいな髪を後ろで結ぶ彼女は中学校に入ってから知り合って、今は一番仲のいい友達になった。

「幼馴染が今どうなってるかをねーちょっと想像してたのよ」

「あぁ“ぞーちゃん”でしたっけ?ずっと手紙でやりとりしてるっていう...」

「そう。何か気になっちゃって―――」

「何の話ぃvv??」サンジ君だ。この3人でいることは結構多い。

「ナミさんが幼馴染さんのこと気になってるんですって。」

「ちょっと誤解するようなこと言わないでよ!ただどんな風になってんのかなーってぐらいなんだから!」

「......」

サンジ君はめずらしいことに無表情で黙ってる。そして―――

「見たいですか?」真剣な顔で言う

「...え?....あ...」そう言われてしまうと、何か...困る...。

「ナミさん?」ビビが心配そうに見ている。何か言わなきゃ・・・

「も、もちろんよ!」

するとサンジ君はいつものように笑顔になった。

「剣道の雑誌に時々載ってますよ◎」



放課後3人で本屋に寄って、剣道の雑誌を手に取る。

“期待の中学生ロロノア・ゾロ”おおきな見出しがついていた。

......なんで今まで気づかなかったんだろう。ページを捲る。息を呑む。

そして―――



―――あれ?

顔わかんないじゃない。なんで防具をつけたままなのよ。

全然わかんないわ。顔を映しなさいよ。

―――でも身長はいつのまにか抜かされているのね。





あたしはその雑誌を元に戻した。



オレンジ色に染まった公園。

ビビは塾があるのでサンジ君と二人で歩く。べつに珍しいことでもない。

「結局顔わかんなかったわーなんか拍子抜け。どーしてくれんのよ、まったく」

「俺顔分かるとかなんにもいってないですよ?vv」

「何よサンジ君、珍しく意地悪じゃない?」いつもとは違うサンジ君。どうしたんだろう。

「心外だな〜でも怒ったナミさんも素敵だ〜vv」...別に変わってないや。

そしてあたしの家の前に着いた。また明日、と言おうとすると

「さてナミさん」サンジ君はまっすぐこちらを見てる。

「ゾロの顔見たいですか?」

沈黙

「本当に見たいなら、写真があります。今度は顔もちゃんと載ってます。」

「どうしますか?」

どうするったって見たいに決まってるじゃない。

さっきからずっと言ってるのに何言ってんのよ。

なんでそんな目すんのよ

サンジ君らしくないじゃない。



「見たくない」



やっとの思いで口にした想いは本音。



顔を見てしまえばきっと壊れるものがある。それが怖いのよ。

あぁもう涙が出るじゃない。

入ってこないでよ。あんたなんか知らないんだから。

顔なんか見たくない。

声なんか聞きたくないんだから。



あたしはその場にしゃがみこんだ。





どれだけ時間が経ったのか、サンジ君は動かない。

少し落ち着いて彼のほうを見ると彼は優しい瞳をしていた。

「今まで俺ずっと二人のこと見てたんだけど」

「ナミさんたちなら壊れないんじゃないかな?」

サンジ君は帰っていった。





サンジ君は全部分かってる口ぶりだ。壊すって何よ。どうすんのよ。わかんないわよ。

ねぇ、ぞーちゃん、どうすればいいの?

いつもならすぐに手紙を書けるのに。

便箋を前にペンを持ってみた。名前を書いてみる。

ゾロ

初めて見る名前

「やっぱ知らないわ...」

でも何だろう、呼んでみたい、この名を。

「ゾ」

「ロ」

一文字ずつ確かめるように。

「ゾ・・・ロ」

ちょっとつなげて。

「ゾ、ロ」

知らない人を思い浮かべて。







「ゾロ」









「・・・ゾロ」









「・・・ゾロ、かぁ」



笑みがこぼれた。

あんたに会いたいわ。









「ありがと」

「いえいえvvナミさんのためですからvv」

あいつの写真

古そうな家の前でサンジ君より少し背の高い緑頭の男の子。



きっと会いたかったのは、この想い。

「ありがと」この気持ちに出会わせてくれて。

「わかった?」

「あら。あたし頭はいいのよ?顔もだけどね」

「さすがナミさん!おっしゃるとおりですvvあ、マリモから言われてたんですけどね、ナミさんがこの写真見たら―――」











ゾロへ

あんたの写真見たの、あんなにでかくなっちゃって...かわいげないわ。

だから伝言どおりかわいいナミちゃんの写真をあげるvvかわいすぎて腰抜かしちゃうかもしんないけどね!



本屋に寄って本を買う。写っていたのは顔がわからないゾロ。

来月号は載るだろうか。







あいつのたった一言で、

昔とは違うと言う一言で

あたしは簡単に恋に落ちた。 

なんだか悔しいからまだ言わない。

覚悟しなさいよ、やられっぱなしじゃないんだから。

あんたが一番よく分かってるでしょ。

ね?ゾロ




FIN


(2006.01.24)

Copyright(C)テモ,All rights reserved.


<管理人のつぶやき>
手紙の中のたった一言が、ナミの心を細波をもたらし、その波紋は広がりやがては恋心へと・・・。そんなナミの気持ちの変化を見せていただきましたv
そして、ゾロはナミの写真見てどういう反応したのかが気になるところです(笑)。
それにしても、呼び方って意味あることなのだなと思いましたですよ。

テモさんの初投稿作品でした。どうもありがとうございましたーー!

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