上を向いて歩こう
            

うーたん 様




お互いの気持ちだけじゃ無理なのに気が付いた。
何もかも捨ててどこか遠いところへ逃げる程、若くないことにも気が付いた。
だから別々の道を歩むという結論に不本意ながら達してしまった。
いつか、また出会えたなら、それはもしかしたら運命なのかも知れない…。

とうとう、27歳の誕生日を迎えてしまった。
テレビでは、つまらない深夜の通販番組。
テーブルの上には空になったワインのボトル、誕生日だからと奮発して有名百貨店で買ったチーズ。
ため息をこぼして、自分に“おめでとう”と呟いた。

1年前までは毎年、ゾロと誕生日を祝った。テーマパークに行ったり、洒落たホテルのレストランに行ったり。
普段は出不精のゾロも誕生日だけは私の我侭を何でも聞いてくれた。

初めて会ったのは高校生の時。友達の紹介で付き合った。
なんでも有名な道場の一人息子だとか。
強面の顔の割には優しかったり、恥ずかしがって愛情表現の一つもしてくれなかったり、結構嫉妬深くて他の男が私を見てたりするとこれ以上見てたら殺すぞばりの睨みを利かしたり。
軽い気持ちで付き合い始めたけど、私たちはあっという間に将来を意識し合う仲になった。

初めてゾロの家に行き、両親に紹介された時、嫌な感じはした。
母親は愛想良く微笑みながら値踏みするような視線を何度も向けてくる。父親は自分が養子だということに負い目を感じているのか、母親の尻にしかれているような感じ。
こんな親から良くもまともな子が生まれたもんだと感心してしまった。

何度か家に行ったり、一緒に食事をしたが、どうしても私には合わず、足が遠のいてしまっていた。
今から考えるとそれが原因の一部なのかも知れない。努力しなかった私がいけないのかも。

お互い大学を卒業して、社会人になり、そろそろ落ち着いたから結婚しようか、という話になったのは昨年の誕生日。
そうとう勇気を出して、ジュエリーショップに行ったのだろう。
私のお気に入りブランドのエンゲージリングをプレゼントしてもらった。
気は進まなかったが、いずれは義父母になるのだからとゾロの家に行き結婚の報告をした。
母親から返ってきた言葉は“お付き合いしているだけなら問題はないですが、結婚は反対です”のひと言。
挙句に“この子には以前から決まっている婚約者がいるんです”とまで言われた。

何度か家に行ったり、ゾロは母親を説得したりしたが反対の一点張りで首を縦に振ることはなかった。
今日もだめだったか、と肩を落としながら部屋を出る際、“あなたとは絶対に結婚させませんよ。聞くところ、何でも片親だそうじゃない。それも本当の母親でもないんでしょ。そんな家と私たちが親族になれて?体裁ってものがあるんですよ。”と、私のほうも見ずに言った。

確かに私の家は、母と姉と私の母子家庭だ。
父親の連れ子だった私たちを本当の娘のように可愛がってくれた。
中学にあがる頃、父親は新しい女を作って出て行ってしまった。
それでも、母は私たちのために夜も寝ずに働いて、大学まで行かしてくれた。
その母を馬鹿にされて、頭に血が上り、当たり構わず物を投げつけてやりたかったが、ゾロとの将来の為と思い、黙って引き下がってしまった。
悔しくて涙が止まらなかった。
家に戻っても涙は止まらず、ゾロの母親もゾロも憎いと思わずにいられなかった。

それから数週間、ゾロには会わず、一人になって考えてみた。
このまま、駆け落ちでもしてしまおうか。母も姉も悲しむだろう。きっとゾロの母親は、母の所に乗り込んでわめき散らすに決まってる。
反対されたまま結婚してもそれがしこりに残り、きっとうまくいかなくなってくるに違いない。

ある日、ゾロを呼び出して別れを告げた。
ゾロは納得できず、別れるつもりはないと言ったが、お互いもうだめだと分かっている。


もう二人の道は繋がることはないのだと告げると、“ずっと繋がっていて欲しかった”と静かに言い、部屋を出て行った。
追いかけて、今のは嘘だから私たちのことを知らない遠い所へ逃げよう、と言いたかった。枯れるほど泣いたのに次々と溢れ出る涙もそのままに、ゾロの出て行ってしまったドアを見つめ、震える体を両腕で抱きしめた。

あれから一年…。
誕生日も一人寂しく家で過ごし、今だゾロを思い、枕を濡らす。こんな弱い自分なんか大嫌いだと、頭では分かっているのに心が言うことを聞いてくれない。

そして、ある日のこと、外回りから帰る途中、ゾロを見かけた。ベビー服を微笑みながら選んでいる。隣には黒髪がよく似合うお腹の大きな女性。
驚いて立ち止まり、食い入るように見つめていると、ゾロも視線に気づき、こちらを見返す。
彼女は何か告げて立ち去ると、ゾロはこちらへ歩き出した。
私は、手でストップと示すと、手を振り、声には出さず“バイバイ”と告げた。
ゾロが幸せなのが分かり、私は心から嬉しくて微笑んだ。ゾロも同じように手を振り、彼女の元へ戻っていった。
背を向け、涙が零れ落ちそうになりそうになったので上を向いた。

見上げた空は一つの雲もなく青く高く澄み渡っている。
もう涙は流さず、前を向いて歩いていこう。今はまだ心に残るゾロへの思いは消えないけど、きっと私の未来にも素敵なことが待っているはず。
彼が見つけたように、私も幸せを見つけよう。
そして、今度こそ幸せになろう。




FIN



(2006.08.03)

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<管理人のつぶやき>
結婚は二人だけの問題ではないとはいえ、好き合っているのにどうしてうまくいかないのかと、胸が締め付けられます;;。
ゾロの母ちゃん・・・おっかない人や〜〜。切々と綴られるナミの心情が切ないです。
でも、最後は少し希望も持てて。うん、きっと今度は幸せになれるハズ!

うーたんさんの初投稿作品であります。胸に迫るお話をどうもありがとうございました><。

 

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