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うきき 様




「汝、ロロノア・ゾロは、この女、ナミを妻とし、病める時も、健やかなる時も、これを愛し、これを慰め、死が二人を分かつまで、他の者に依らず、この女のみに添う事を誓いますか?」
「・・・」
「・・・ちょっと、ナニ黙ってんのよ」
「ぁあ!? 言えるか、この俺が」
「Yesくらい言えないの!?」
「言わなくても分かるだろ」
「こういう時くらいは言いなさいよっ」
「いいだろ、別に。そもそも形式なんてモンは・・・」
「ここまで来て往生際が悪過ぎるわよっっ!!」
「・・・あ、あの〜、お二人さん・・・」

突き抜けるほど空が澄み渡った昼下がり。
白亜の外壁と重厚なステンドグラスに囲まれた教会の中で、俺たちはいつもの如く口喧嘩を始めていた。
この結婚式を興味津々で見物している観光客や地元住民たちから、必死にこらえた笑い声が漏れる。
俺の横に立っている女は純白のドレスに身を包み、印象的なオレンジの髪を薄いベールで覆っている。
ほとんど装飾のないシンプルなドレスは、却って女の魅力を際立たせていた。


ある民間シークレットサービス会社の機密捜査員である俺が、裏情報専門のスパイ業を生業としていたナミと仕事上で知り合ったのは1年近く前のこと。
出会った当初から言い合いが絶えないのだが、何故か気が合い、互いの気持ちが固まるまでにはさして時間はかからなかった。
俺としては彼女と籍を一つにし、伴に生きる事が出来ればそれで充分だったのだが、ナミがけじめだからとか、ドレスくらい着せろとか言い出し、結局今日に至る。
初めのうちこそ抵抗を試みたものの、仮縫いのドレスに嬉しそうに袖を通すナミを見て、まぁいいかと思ってしまったのが運の尽きだった。


「とにかく、約束なんだから最後までちゃんとやってよね!! ゾロ、約束よ、や・く・そ・く!!」
「ぐっっ」
痛いところを容赦なく突くナミの一言で決着がつき、俺たちの剣幕に気圧されていた司教が安堵の息を漏らした瞬間・・・

ドゴーンッッ!!!

鈍い地響きとともに教会の外で凄まじい爆発音が鳴り響いた。
即座にナミと教会内の安全を確認してから近くの窓に駆け寄り、外をうかがうと、教会から一番近い街並みの方で黒煙が上がっている。

「お前のお知り合いでも追っかけて来たんじゃねぇのか?」
「失礼ねぇ。あんたと会って足洗ってから、アブナイ仕事はしてないわよ。こんなとこまで追いかけて来るなら、あんたの方のお友達なんじゃないの?」
「いや、最近は身に覚えがねぇぞ」

そんなことを言っている間も爆音と街の混乱は続き、教会の中も騒然とした空気に包まれた。
観光客が思い出したように点けたradioから流れる速報が、大手銀行の差し向かいにある完成間近のビルで爆破が起こったこと、近隣ビルは大混乱となっていることを繰り返し告げている。

「へぇ・・・ちょっと気になるな。俺たちとは関係なさそうだが、放っておく訳にもいかねぇだろ」
「どちらにしても、これ以上邪魔されるのは癪だわ」
「まぁ、そうだな。取り越し苦労ならそれで構わねぇし」
「仕方ないわね。じゃあ・・・」
「いっちょ、行ってみるか?」
上着の内側からコルトパイソンを抜き取りニヤリと笑うと、ナミもドレスをたくし上げて太腿からベレッタを取り出した。
オロオロしている司教に、ちょっとだけ留守します、と声をかけると二人同時に教会を飛び出した。


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案の定、行員が避難し人気のなくなった銀行では、混乱に乗じて忍び込んだ爆破犯たちが今まさに大金庫に手をつけるところだった。
「さあ、ゾロ、やっておしまい!!」
「テメェは黙ってろっ!」

相手を取り押さえて厳重に縛り上げ、残党がいないか行内を軽く見回っていると、制御室らしき無機質なドアが開いてナミが出てきた。
「そっちはどうだ? 何とか出来たのか?」
「ちょっとぉ、誰に向かって言ってんのよ。このあたしが、こんな素人手口に苦労するわけないでしょ!」
「へーへー」
「口座、残高、その他金融関係の類は全て元通りよ。現金も未然に防げたしね。それより今、セキュリティを回復したから一分以内に出ないとマズいわよ」
「それを早く言えっ! よし、裏から出るぞ」
駆け出す俺に、後ろからナミの声。
「そっちは逆!!」

行員専用の裏口通路から素早く外に出ると、辺りは未だ騒然としていた。
幸いオープン前のビルだった為、人影も少なく怪我人はそれほど出ていないようだった。
「向こうは大した心配はなさそうだな」
教会から飛ばしてきた白いコンバーチブルに乗り込みながら表通りを振り返ると、そうね、と相槌を打ってナミも助手席に乗り込んだ。
「さ〜て、早く戻って式の続きをやらなきゃ!!」
「こんな状況でまだやる気かよ。しかもこの格好で、か?」
俺の格好はもちろん、ナミのドレスもあちこち切り裂けて煤だらけになり、もはや純白と呼べる代物ではなかった。
ナミは、このドレス高かったのにぃ〜とボヤきながら、頬を膨らませて自分の格好を見下ろしていたが、すぐに明るい笑顔を向けてきた。

「いいんじゃない? これがあたしたち流でしょ?」


真っ青な空の下、太陽のように鮮やかに笑う女を、心の底から美しいと思った。




-おわり-


(2003.11.01)

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<管理人のつぶやき>
ちょっと、ちょっと!ご覧になりました?ゾロとナミの結婚式ですぜ、奥さん!(だれじゃ)
定番の誓いの言葉なのに、それさえも言うのを拒むゾロ。らしいというかなんというか(^_^;)。
さて、実はこの二人、ひっじょうにハードな職業についていました。
職業柄、事件が起こるとじっとしてられません。飛び出して事件解決に当たってしまう。
どちらかが止めるでもなく、二人一緒に行動するのが当然のような・・・素敵なパートナーシップですね!
ラストも、まさしくこれが彼らのスタイルなのでした♪

うききさん、素敵なお話をどうもありがとうございました!
この二人の馴れ初め編、ぜひ書いてね〜。もちろん覚悟できてますよ(笑)。両手広げて待ってますv

うききさんは現在サイトをお持ちです。こちら→
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