変わらないのね
yoppy 様
「今行く」
それだけ書かれたメールを見て、ナミは小さく溜め息を吐きながらパタンと携帯を閉じた。
いつも通り。いつもそうだわ。
こいつの「今行く」は、つまりは「あと30分後に行く」だ。
もちろん今すぐ来れる距離で待ち合わせてはいる。
迷わなければ、すぐ来れるのだ。
「迷わなければ」…だ。
今日は今度行われる友人の結婚式のための、ナミのドレスを見に行く予定だ。
昼12時きっかりに、駅前のカフェで待ち合わせ。
何度か行ったことのある場所ではあるが、そんなことはあの御方には関係ない。
重度の方向音痴であることを自覚していないのが、あいつのタチの悪いところだ。
30分、いや1時間前にでも!家を出ていれば間に合うというのに。
結局あいつはいつも、私を待たせる。
あいつは昔から変わらない。
中学に入って出会い、15歳から付き合いはじめ、その付き合いはもう6年にもなる。
変わったことといえば、身長が伸びて、男らしくなって、大人の色気を持ち始めたこと。
中身はさして15歳の時から変わってはいない。
クールで顔色を変えず、いつも余裕で。
そのくせ鈍くて、女の子にモテてても気づいてないし、それをわたしが気に入らないってことにも気づかない。
違う大学に進学して、会える時間が少なくなったのに、あいつからメールなんてほとんどこないし、電話なんてまずありえない。
わたしは、やっぱりさびしい。
それにすら気づかないのが、あいつなんだけど。
「悪い。待ったか」
「時計見たら待ったか待ってないかくらい分かるでしょ」
いろいろ考えていると、予想通り30分遅刻したあいつが、一応申し訳なさそうに声をかけてきた。
わたしのちょっぴりキツイ言葉に少しだけバツが悪そうに、わたしの横のイスに腰を下ろした。
「何か食ったか?」
「食べてないわ。おなかすいてないの」
そうか。と一言言うと、あいつはメニューを開いた。
元々口数の少ない男だ。
口下手なのか、特に何も考えていないのか、自分の思いをあまり表に出さない。
そういうところも、昔から変わらない。
そんなだからわたしたちの関係は、悪くなってもないし、進展もしていない。
6年、もうわたしたちは21歳になった。
わたしはもちろん変わった。
いろんな人と出会って、考え方も、夢も、変化したと思う。
こいつは ―ゾロは、変わらない。
進んでいるのはむしろわたしの方のはずなのに、置いていかれる感覚になる。
「ビビが結婚か。早いな」
メニューから目を離さないまま、ゾロは口を開いた。
「若くして結婚…。いいわよね〜」
ビビは親友であり、中学の同級生なのでゾロも知っている。
おしとやかで女の子らしい彼女が結婚すると聞いたときは驚いた。
だが幸せそうに結婚の報告をしてきたビビの顔を見ていると、こちらも幸せな気分になった。
今では結婚式が楽しみでたまらない。
「今日は素敵なドレスを買わなくちゃ」
ニッコリ笑って言うと、ゾロがチラリとこちらを一瞬だけ見てすぐにメニューに視線を戻した。
「地味なドレスにしろよ」
「あら、どうしてよ?ビビの結婚式なんだから、ちゃんとした綺麗なヤツ…」
「他の男が見るだろうが」
「…そっか」
ニヤける顔をごまかすように頬に手を当てた。
そうやってたまに人が喜ぶようなこと言うところ
やっぱこいつは変わらない―
end
(2011.07.17)