「おっ、郵便か?」
普段なら他のクルーも甲板に出ているのだが、偶然にも今はルフィ1人しかいない。
そして、海賊という職業柄、郵便もめったに来ないのだが、偶然にも郵便が届いた。
配達員のペリカンはキョロキョロと辺りを見回していたが、他に誰もいないことを確認すると、ルフィに小包を渡した。
ルフィにしては珍しくきちんと礼を言い(失敬だな、お前)、受け取った小包の宛名を見た。
「おぉっ!?珍しいな〜……」
やけにニヤニヤしながら今度は送り主の名を確認した彼は、あぁそうか、と納得して、船内にいるであろう人物に大声で呼びかけた。
狭いゴーイングメリー号のこと、甲板で叫ぼうものなら本人はもちろんクルー全員に聞こえるということを彼は知らない。
「おぉ〜〜〜い!!ゾロ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!お前にラブレターが来たぞぉ〜♪♪」
一週間遅れ
雪茶 様
「ねぇ、ママ。これってゾロお兄ちゃんだよね?」
リカが指差す先には、新聞記事の写真。
彼が彼女の住む町を圧制から救ってくれた日から、リカは毎日新聞を読む習慣がついている。
内容が理解できなくとも、とにかく探している名前が載っていないかチェックするのだ。
友達にオヤジくさいとからかわれても、彼が今どこにいて、何をしているのか気になって仕方がなかった。
最後に新聞に載ったのは確かアーロンパーク崩壊の時。
「あら、本当だわ。今はアラバスタにいるのね。」
記事はアラバスタの反乱の一部始終についてだった。
反乱軍と国王軍の全面衝突の場面から、クロコダイルの悪事の数々、王女の立志式の様子まで事こまやかに記載されている。
シェルズタウンはイーストブルーの中でも特にグランドラインから遠い場所にある。
よって、アラバスタから情報が届くまで時間がかかり、今朝ようやく現地での一週間分の情報がいっぺんに届いたというわけだった。
そして、少女の探す人物は、反乱軍と国王軍の闘いを撮った写真の中に小さくいた。
彼を探そうと思って見てみないとわからないであろう大きさだ。
「アラバスタってどこー??なんでお兄ちゃんがそこにいるのー?闘ってるのー??」
「グランドラインにある国よ。ここからとぉ〜〜っても遠いところにあるの。」
何故ゾロがそこにいるかの問いにはリリカは答えられなかった。
確実に反乱に関わっているはずだが、ルフィ一味についての言及は一切載っていない。
市民に危害を加えたというわけではなさそうだ。今までにもそのような内容の記事は見たことがない。
しかし、ルフィの賞金額は1億に上がり、ゾロも6000万の賞金首となった。
何があったのかわからないが、何かあったのだろう。
「そっかぁ…遠いんだー。お兄ちゃん元気かなぁ…ケガとかしなかったかなぁ…」
「あら、じゃぁお手紙書いてみたら? …そうだ、チョコもあげちゃおっか??」
カレンダーを見て何かひらめいたリリカはいたづらっぽく笑って言った。
『チョコ』という単語に過剰反応したリカは、一気に顔を真っ赤にして叫ぶ。
「えぇ〜っ!?そ…そんなの恥ずかしくってできないよぉ〜〜〜!!!」
「そうなの?リカからチョコ貰ったらお兄ちゃんも喜ぶと思うよ〜?」
リリカはあいかわらずニヤニヤしながら娘の反応を楽しんでいる。
リカがゾロのことをいたく気に入っていることなどお見通しの様子だ。
「そうかなぁ…お兄ちゃん喜んでくれるかなぁ…」
「喜んでくれるわよ。よし、じゃぁ頑張って作ろっか!」
「うん!!」
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ルフィの大きな声によって一時静かだったゴーイングメリー号に嵐が訪れる。
ゾロはルフィから小包を受け取り、送り主の名前を見て「あぁ、なるほど」と納得し、そのまま何事もなかったかのように船内へ戻ろうとする。
その冷静な反応が面白くなかったのか、クルーはブレーメンの音楽隊よろしく騒ぎたてた。
ウソップとチョッパーは野次馬根性丸出しで小包の中身を見ようとし。
サンジは「ありえねェッ!!」と叫びながら本気でゾロから小包をひったくろうとし。
ロビンは意味深な笑みを浮かべながらただ傍観し。
ナミはしばし呆然とした後ルフィに事の説明を求め。
ルフィはそれぞれのクルーの反応を一通り楽しんだ後、ニカッと笑いながら至極もっともな事を言った。
「ラブレターぐらいゆっくり読ませてやれよ、送ったヤツに失礼だろ?気になる
こ
とがあるならその後ゾロに聞けって。」
しばらく騒ぎは続いたが、そのうちほとぼりも冷め、夜にはいつもの状態に戻っていた。
普段どおりトレーニングを終えたゾロは、後甲板で酒を片手に先ほどの小包に入っていた手紙を読んでいた。
「ゾーロッw」
いきなり呼ばれて振り向くと目の前にナミが立っている。
なぜかいつになく上機嫌の様子だ。にっこりと笑いながらゾロの隣に座った。
「どうしたんだよ。」
「それ。気になって気になって、さっきルフィに聞いたの。」
小包を指さしながら甘えてくるナミを自分の方に抱き寄せて、ゾロは座ったまま後ろからナミを抱きしめた。
先ほど風呂に入ったばかりなのだろう、石鹸の香りがする。
「聞きたいことは俺に聞けってルフィが言ってたじゃねェか。」
「だって気になってしょうがなかったんだもん。いいじゃん〜。
ふふっ、砂糖入りのおにぎり食べてあげるなんてやさしいのね。甘いもの大嫌いなクセにッ♪
しかも泥まみれだったんでしょ〜??それともゾロって実はそういう趣味なの〜??」
「んなワケあってたまるかッ!!っつーかあん時は腹へって死にそうで、甘いおにぎりでも泥にぎりでも構いやしなかったんだよ」
どこかぶっきらぼうに言うのは照れ隠しの証拠だとわかっているので、ナミは「素直じゃないんだから」と苦笑した。
パッと見とっつきにくそうな雰囲気のこの男は、実はものすごく優しい。
あの食欲魔人のルフィでさえ気持ち悪くなるようなモノだったらしいが、それでも食べて、お礼を伝えたのだ。
そもそもその子を助けるために捕まったというのだから、本当にすごいと思う。
「で、何が入ってたの?」
「チョコと手紙。」
「なんでまたこんな時期に??」
「そりゃ…ほら、こっからイーストブルーって遠いだろ?だから…」
何かごにょごにょとはっきりしないゾロに首をかしげながら、ナミは必死に頭をめぐらせて、あぁとひらめいた。
そうか、今日は2月21日だっけ。
「ここに届くまで一週間かかったのね。」
一週間前に自分もこの男にチョコをあげたなぁとナミは思い出した。
そういう関係になってからちゃんとした贈り物をするのは初めてだったので(だって誕生日プレゼントは『ナミ自身』だったし←おい)、それなりに緊張したものだ。ゾロはあっさりと受け取ってくれたが。
それにしても、そんな少女の心まで射止めてしまったのか。何て罪作りな男。
でも、そんな天然で女を落とす彼がとても愛しい。そう思ったナミは、我ながらなんてベタ惚れしてるんだろうとくすくす笑った。
「愛されてるのね〜?」
「…なぁ、ナミ。」
「うん?」
「このチョコ、俺には甘すぎるんだよ。お前残り食べてくんねェ??」
からかったつもりだったのに、ゾロは言ったが早いか、顔だけ振り向かせて、ナミの唇をふさいだ。
お互い、舌に広がるチョコの甘さが脳まで痺れさせそうだと思いながら熱いキスを交わす。
「んっ……んふっ…………っはぁっ、ねぇ…溶けちゃいそうな甘さね。」
「いっそ溶けちまえよ。」
いつもなら絶対言わない甘いセリフ。
透き通るような夜の空気のもと口付けをかわす恋人。
バレンタインデーからちょうど一週間、甘い時間は当分続きそうだ。
「んっ……ところで、ゾロ君。あなた当然ホワイトデーにはお返しするのよね?お手紙つきでww」
「!?」
『海賊狩りのゾロ』が、少女にお手紙を書く。
『人の姿を借りた魔獣』が、お手紙に頭を悩ませる。
『未来の大剣豪』が、少女と文通する。
想像するだけで楽しい光景が見られるのは、まだもうちょっと先。
FIN
(2005.02.25)Copyright(C)雪茶,All rights reserved.
<管理人のつぶやき>
ゾロ初登場の時、磔にされてるゾロに差し入れしたリカちゃんです。あの時ゾロは、砂糖入りで、しかも泥だらけで踏み潰されたおにぎりを全部食べてお礼まで言ってた。あの瞬間、ルフィはゾロを気に入ったと思う。そういう意味で非常に重要なシーンでしたよね。
リカの優しい気持ちと、ゾロナミの睦まじさが、一週間遅れのチョコとともに届けられましたv
雪茶さんの初投稿作品でした!甘い甘いお話をどうもありがとうございました^^。