愛と料理と

            

ばなな平井。 様

 

「コックさんは、何が欲しいの?」
昼食時、唐突なロビンの発言で、ウソップとナミの動きが止まる。
ゾロとルフィは気にせず食べ続けている。
むしろこの二人は話など聞いてないのかもしれない。
チョッパーはロビン言葉を聞いていたようだが、
ロビンはただ、サンジに優しい微笑みを浮かべていて、
それ以上言葉が続かないので特に気にとめなかったようだ。
「ああ、急にごめんなさい。」
ロビンは自分に視線を向けるナミとウソップにそう言って、
また、サンジに微笑を浮かべた。
それを見て、サンジは少し照れたように微笑み返した。
「ゴメンね〜ロビンちゃん、気を使わせて。そこの皿、とってくれる?」
「これかしら?」
「いや、、、、ロビン、そう言う意味なのか?」
想像と違った展開が進み、ウソップは思わず突っ込みをいれる。
「何だよウソップ!俺とロビンちゃんの愛の掛け橋を壊す気か!?」
「いやいやいや、そうじゃなくてな。サンジ、、、、、、え?」
ウソップがロビンとちらりと見た時、一瞬だが確かに、ロビンが
人差し指を口元へ持っていくのが見えた。
秘密、ということだろうか。
堂々と聞いておいて秘密も何もあったもんじゃないだろうに。
どうしたものかとウソップが迷っていると、
「ごちそうさまー!」
ルフィの声があがった。
「あー食った食った!」
腹を満足そうにさすり、立ち上がろうとした矢先、
サンジは素早くルフィの背後に回りこみ、無理やり椅子に座らせた。
「何だよサンジ。」
「ルフィ、、、何処へ行く?」
「?何処って、飯食い終わったから、」
「今日はデザートがあるんだぜ?」
台詞自体は爽やかだが、どうしてかサンジは凄惨な笑みを浮かべている。
「、、、、デザートかぁ。」
「ああ、デザートだ。ゼリー7人分、きっちり俺が作ったんだ。」
「、、、、ゼリーかぁ。」
「ああ、ナミさんからみかんを、って何目ぇ反らしてるんだよ!」
二人のやり取りをみて、
全員、即刻納得する。
ああ、つまみ食いしたんだ。
これから手厳しいお仕置きを受けるだろうルフィを見捨て、
各自キッチンから脱出したのだった。





「コックさん、何が欲しいのかしらね。」
「それって、、、、やっぱり誕生日のことよね?」
「ええ、そうよ。」
「じゃあ、何でさっき俺を止めたんだ?」
「本人が覚えていないんなら、内緒にしたほうが楽しいんじゃないかしら?」
昼食後、何となくロビンの言った事が気になり、
ナミとウソップはロビンと話す。
甲板で三人で話していれば自然と目立つ。
やがてチョッパーも会話に参加した。
大きく円を描くように床に座る。
「それにしても、よく覚えていたわねぇ。」
ナミがそう言うと、ウソップは全くだと言わんばかりに頷く。
「、、、、、貴方達ひょっとして、」
「いやいやいやいや!俺は覚えていたぞ、うん。」
「そうよ!仲間の誕生日忘れたりしないわ!絶対!」
「、、、、、そう。」
実の所、二人は本気で忘れてしまっていたが、
最近乗船したばかりのロビンが覚えていたのに自分が覚えていない、
というのは気まずいのか、必死でその事を否定した。
わかりやすい反応だ。
「俺、サンジの誕生日、知らないぞ。」
チョッパーは首をかしげる。
「そういやチョッパー、前の誕生日はまだ仲間じゃなかったからなぁ。」
「何時なんだ?」
「ああ、3月2日だ。」
「あと三日じゃないか!!」
今日は2月28日。
誕生日は目前だ。
「俺、俺、サンジに何あげたらいいんだろう、、、、。」
「彼、あんまり物に執着しないタイプだとは思うんだけど、、、、。」
考えこむチョッパーとロビン。
「悩むことないんじゃないの?」
真剣な二人とは対称的で、ナミは楽観的だ。
「サンジ君だからね。何あげても誰かさんよりいい反応してくれるわよ。」
「誰かさんって?」
「誰かさんよ。」
ナミはため息一つついて、腕を組み一気にまくしたてた。
「寝てばっかりでクソの役にも立ちゃしない上に  人のお金で酒はガバガバ飲む甲斐性無しで  筋トレグッズで船体が軋んでいるってことにそろそろ気づいて  欲しい感じがするけど相変わらず自覚ゼロのバカ男よ。」
ゾロのことだ。
なかなか酷い言われようだ。
ウソップはナミの言葉を隙あらば制止しようとするが、
ナミは隙など見せずに不平を並べていく。
「人が折角誕生日に気を利かせてプレゼントしても  『ああ。』の一言よ!?そりゃあ、サンジ君みたいに  愛の賛美歌をフルで聞かされるよりはマシかもしれないけどねぇ。  何かもっとあるでしょう?態度ってものが。  大体何であんなに顔怖いのかしらね。いかにも悪人面よね。  前は賞金稼ぎで名を馳せていたけど、むしろこっちが天職じゃない?」
「本人が聞いてたら怒るんじゃないかしら?」
「ああ、全くだ。その辺でやめておけ。」
「聞いてる訳ないわよ。」
ちらりと、ナミは視線を床に落とす。
四人で組んだ円陣の真ん中。
ゾロが寝ている。
「ゾロは今寝てるのよ?精神は遠い世界にいるのよ?  私たちの話なんて聞いてる訳ないじゃない?」
「いや、、、俺には、、、、ゾロが起きているように見える。」
ウソップの言葉どおり、ゾロはあきらかに起きている。
目は閉じているものの、眉間にシワを寄せ、不機嫌オーラを出している。
しかも先ほどのナミの口上の途中、『くそっ』という小さな呟きが聞こえたのは
何もウソップの気のせいではないはずだ。
「何言ってるのよ、ウソップ。起きてるはずは無いわ。」
「、、、、、、そうか?」
正直、ロビンとウソップはゾロが起きて反論しない理由はわかっていた。
ナミに口で勝てる訳が無い。
ならば黙って寝てる方が得策、とでも思ったのだろう。
そして、その事はナミ自身も気づいている。
その上で雑言を並べ立てているのだ。
鬼だ。
誰もが思ったが、誰も口に出せる訳がない。
ナミは船最強なのだ。
「まあ、仮にゾロが起きてるとしても、真実を言っているんだから、  別に問題なんて無いんじゃないかしら?」
「、、、、、、、、、いや、真実っていうか、、、、、悪口、」
「真実はいつでも綺麗とは限らないでしょ?  悪口に聞こえるかもしれないけれど、  ゾロが寝太朗で酒飲みで筋肉バカで甲斐性無しで  人類でもっとも偉大な迷子ってことは事実でしょう?」
「手前、、、、(怒)」
「あら、ゾロ。やっとお目覚め?」
迷子、の一言に反応したか、
あるいはいい加減我慢しきれなくなったのか、
こめかみに血管浮かせて、ゾロが体を起こす。
「手前は人が寝てるの良い事に言いたい放題言いやがって、、、、」
「別に言いたい放題だなんて。私はただ真実を言っただけなんだし。」
「誰が偉大な迷子だっ!!」
「迷子でしょ!自分の家がわからないって事は迷子よ!  いい年こいて村に帰れない辺り偉大よ!偉業よ!  剣士として名を残すよりそっちで名を残すほうが早いんじゃないの?」
「ナメんなよお前!大体なぁ、まいご、、、、、方向音痴ぐらいで名を残せるかぁ!」
もはや日課となった二人のケンカを止める者はいない。
ロビンはただ微笑み、「仲良しね」なんて呟くだけだ。
ウソップはゾロの安否を祈ってか、手を合わせて僅かに頭を垂れた。
「そう言えば、、、、、。」
暫く、沈黙していたチョッパーが、小声で語りだす。
「お?どうした、チョッパー?」
ケンカからチョッパーへと視線を移し、ウソップは問う。
「俺、前に聞いたことあるんだ。」
「何をだ?」
「サンジ、食べたいモノがあるんだって。」
「コックさんが、食べたいモノ?」
「作りたい料理じゃなくてか?」
チョッパーからの意外な言葉に、ロビンとウソップは当惑する。
「ああ。食べたいモノって言ってたぞ。」
食べたい物。
意外だ。
意外、というより、違和感を覚えた。
ゾロとナミもどうやら違和感を覚えたのか、一持久戦し、話へと舞い戻った。
「ねえチョッパー?サンジ君が、食べたいって言ってたの?ルフィじゃなくて?」
ナミの問いにチョッパーは頷く。
「サンジだ。俺がサンジに嫌いな食べ物を言った時だ。」

チョッパーの話はこうだ。
サンジに嫌いな食べ物を告げた所、『アレルギーが無いなら文句言わず食え』と怒られた。
それで、サンジにだって嫌いな物ぐらいあるだろうと聞いたら
『俺には食えない物は無い』という答えが返ってきた。
本当かと念押しすると、思い出したかのように、
『食べたいけれど食べられないモノならある』とサンジは言ったとか。

食べたいけれど、食べられない。
またも意外な言葉に皆考え込んだ。
コックの彼ならば、どんな料理でも自分で作れる筈。
食べたいのに食べられない。
よほど高価な食材を扱う料理という事か?
「あ、そうだ。その時、『ナミに作ってもらいたい』って言ってたぞ。」
高価な料理を?
ナミが何か口を開きかけた瞬間、
ゾロが急に笑い出した。
「、、、、、何笑ってるのよ。」
「いや、、、確かに『食べたくても食べられない』よな。」
「どういう意味よ!」
「つまりはお前の手料理が食べたいって事だろう。お前に料理は無理だろうからな。」
「、、、、普段やってないだけで、やれば出来るわよ。」
「何が作れるんだ?」
「、、、、、、、、、、、、、目玉焼き?」
「そりゃあ俺にだって作れる。」
「、、、、、、、、、、、、、炒り卵?」
「料理の内に入んねぇよ、そんなの。」 「、、、、、じゃあ、アンタは何が作れるのよ!!」
「はっ!悪ぃけどそれなりには作れるぞ。」
「だから何を!!」
再びケンカが始まらんとするその空気を、チョッパーはうち破る。
「ゾロ、、、それは、違うと思う。」
「何がだ?」
「サンジ、ちゃんと料理名も言ってたんだ。」
料理名?
「あの、だから、、、、ナミに作ってもらいたいのは本当だろうけど、  ただ単に『手料理』が食べたいって言う意味じゃないと思う。」
「チョッパー、クソコックは何て言ってたんだ?」
「うん、、、、俺も食べた事無いモノだったんだ。」
食べた事の無いモノ。
「あ、聞いた事も無かったんだけど、、、、。」
聞いた事も無いモノ。
やっぱり高価な食べ物なのか?
皆、真剣に、チョッパーの言葉を待つ。
「確か、、、、確か『ニョタイモリ』って言ってたな。」



沈黙。


全員が、凍りつく。
チョッパーの発言を、皆一瞬にして脳内で変換したことだろう。
『女体盛り』
確かに、普通に生活すれば食べたことなど無くて当然だ。
女好きのサンジならではの発言と言える。
ナミに作ってもらいたい、というのも頷ける。
野郎に作ってもらった所で嬉しくともなんともない。
むしろ気色悪かろう。
「俺そんなの食べたことないよ。ナミはソレ、知ってるのか?」
純真なチョッパーの問いに、ナミは答えず、ただ怒りで肩を震わす。
怒りは正当だ。
サンジの脳内で、裸体に色とりどりのフルーツや
前菜が乗せられて悩ましげなポーズをとるナミの姿が鮮やかに映っていたことだろう。
ナミの怒りは正当だ。
けれども、あくまでもチョッパーからの伝聞。
直接言われた訳ではないので真っ向から怒鳴りつける訳にはいかない。
ナミがやり場の無い怒りを握り拳という形で表していると、
「ふふっ」
ロビンが笑い出した。
「ふふ。面白い人ね。彼。」
心底楽しそうに、目を伏せて笑う姿に、他の面々は少々戸惑う。
ナミにしては面白いという次元では無い。
人の気も知らないで、と怒鳴りだしそうになるが、
ロビンは心底楽しそうに、少女のように笑う。
あまり感情を出さないロビンがこんなにも楽しそうなのは珍しく、
その様子に戸惑い、皆何を言ったらいいのかわからなくなる。
ロビンは暫く目を伏せて笑い続け、自分の腕を少し交差させた。
「"クラッチ"」



沈黙。


誰がどうなったか。
想像は容易い。
「航海士さん?」
「え?」
「いい天気ね。洗濯でもしましょうか?」
「、、、、、そうね。」
「あ、、ああ、俺様も、洗濯しよーかなぁー」
「、、、、、そうだな。たまにはな。」
極上の笑顔を浮かべるロビンと、
何故かぎこちない3人を見て、
チョッパーはただ首をかしげたのだった。






FIN

 

<管理人のつぶやき>
サンジの「作りたいもの」ではなく、「食べたいもの」って?
何やら最初は哲学的ですらある問いだと思ったのですが、答えはなんと「女体盛り」ときたもんだ!
しかもロビン姉さん、一体何する気ですかーーー!?
それにしても、ゾロは頑なに「迷子」という言葉を忌み嫌うのね。「方向音痴」は受け入れられるのか・・・。

ビバ!罪無き神学者様でフリーで出されたサンジ誕生日記念小説です!
ばなな平井。さん、楽しい作品をどうもありがとうございました!

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