年齢制限
ばなな平井。 様
「誕生日おめでとー!!」 4月1日、狙撃手ウソップの18歳の誕生日だ。 テーブルにはところ狭しと皿が並べられていて、どれも豪勢な料理ばかり。 「いやいや、有り難う皆。こうして今日、この日を迎えられるのは 皆と、俺様の多大な功績あっての事。ここは一つキャプテンウソップ様の・・・」 「はい、かんぱーい!」 ナミが無情にもウソップの口上を打ち破り、皆もそれに習いグラスを鳴らした。 ガラスの澄んだ音が響いた。 「ごめんなさい。」 食事中、ウソップの隣に腰掛けていたロビンは、さも申し訳無さそうに呟いた。 「な、何だよ、急に。」 「だって私、何も用意していないわ。」 先ほど、他の船員はウソップにそれぞれプレゼントを渡していた。 誕生日の事を知らず、プレゼントを用意できなかったロビンは その事を気に掛けているようだ。 「気にすんなって。気持ちだけで十分だ。」 それはウソップにとって本心だった。 プレゼントは確かに嬉しいが、何よりも、 こうして誕生日を覚えていてくれる事だけで、十分なのだ。 「有り難うな、ロビン。」 得体の知れない部分はあるが悪い奴ではない。 こうして自分を祝おうとしてくれているじゃないか。 気持ちだけで。 ただ、それだけで十分。 恥ずかしくて声になんて出せないが、せめて少しでも 伝わればと思い、真摯に礼を返した。 「寛大な人ね。」 ロビンはゆったりと微笑んだ。 伝わったかどうかはわからないが、 その笑顔に安心して、ウソップはいつもの調子で話し出す。 「寛大?当たり前だろ。俺は『大人の男』だぜ?」 酒の入ったグラスを大げさに掲げ、ポーズを決める。 本人はニヒルにキメたつもりだろうが、 愛嬌のある顔立ちがどうしても滑稽さをかもし出す。 ロビンはくすくす笑いながら、 「そうね。もう大人ね。」 と、話をあわせた。 「誰が『大人』だって?」 二人、良い雰囲気で語るのが面白くないのか、 ウソップの向かいに座るサンジが会話に割って入ってきた。 「お前なー。18如きで『大人』を語るなよ。」 「何言ってるんだか。世間一般では『大人』の定義だ。」 「かーっ!女の一人もいねぇくせに何を言ってんだか!」 「何を言う!俺様の帰りを港で待つ女は数百、」 「へぇぇ〜〜。愛しいお嬢様はどうした?」 「、、、、、、、、、、」 サンジに攻め立てられ、口をぱくぱくさせるウソップ。 お嬢様の話を持ち出されてはいつものように舌が回らない。 それが彼の素直な所だ。 「ねえ?」 「何だ?」 ロビンの声を救いと判断し、話を中断させるウソップ。 「さっき、気持ちだけで十分、って言っていたわね?」 先程の、プレゼントの会話の事だ。 「あ?ああ!気にすんなって、」 「ええ。だから気持ちをプレゼントしようと思って。」 そう言って、ロビンは自分の指でウソップの顎を捕らえた。 ? 「目を。」 「あ?」 意図が全く掴めないウソップは間の抜けた声を出す。 「目を、伏せて。」 何で? ウソップが問うより早く、酷く丁寧な口調でサンジが問う。 「レディ。何をなさるおつもりですか?」 ロビンはサンジに微笑み、答えを出した。 「日頃の感謝を込めて、キスを。」 静寂が訪れた。 静かだ。 静か過ぎる。 ウソップは思うが、それは間違いだ。 ルフィとチョッパーは既に酔って騒いでいる。 辺りを転がったり踊ってみたりと騒がしい。 正しく言うならば、ウソップの脳内に、一切の音が無くなったのだ。 静かだ。 雑音の一切排除された静けさの中、ロビンの声が嫌と言う程聞こえてきた。 「貴方は狙撃手。けれども船大工もこなす有能な人よ。 発明や実験も怠らない勤勉な姿勢に加え、いつでもユニークで 皆をリラックスさせてくれる、とてもステキな人。」 「あ、あああありがとととう」 どもった。 どうやら静かなのは聴覚だけで、脳内は大変な騒ぎを起こしているようだ。 「こんなものではお礼にはならないでしょうけれども。 受け取ってくれるかしら?」 うん、と返事をするべきなんだろうか。 唐突な事態に全くついていけず、言葉を捜す。 「あら〜〜?ウソップ?」 言葉が見つからず黙っていると、 話を全て聞いていたらしいナミがあきらかな企み声で話し掛けてきた。 「ウソップ、女の気持ちを受け取らないってのは男として失格よぉ?」 きっと、ナミの顔はにやついている事だろう。 でも、顔を向けられない。 ロビンから反らす事が出来ない。 緊張している訳では無い。首だけが動かない。 いつの間にか自分の両肩から手が生えており、 がっちりと首の向きを固定されていた。 目を反らせない状況と言うことか。 「さあ、目を伏せて。」 先を促すロビン。 「よかったなぁぁぁあ長鼻ァっ!」 サンジ、いや、サンジの居た場所から、巨大な「負」のオーラが。 ウソップにはサンジから放出される「負」のオーラ自体が 声を発しているように思えた。 ちらりと目線だけずらしてその位置を確認すれば、 物凄い、まるで天使のような笑顔を浮かべたサンジが居た。 「最っ高のプレゼントじゃねぇかァ!ああ!?」 笑顔だ。サンジのこんな笑顔を見たことは無い。 今までにこんな慈愛に満ち溢れた笑顔を誰かに見せられた事があっただろうか? なのに辺りはどす黒く、サンジを取り巻いているように見える。 殺られる。 戦闘で感じた以上の恐怖感がウソップを包み込む。 やがて「負」のオーラは収束し、槍の如く俺の心臓を貫くだろう。 ウソップの思考は非科学的な妄想に蝕まれ始めた。 「私じゃ不満かしら?」 黙り込むウソップにロビンは悲しげな表情で問う。 「あ、、、、いや、、、、、その、、、、、」 不満は無い。 自分は男でロビンは女。 年上とは言え、かなりの美人。 不満は無いのだ。 あるのは不安と恐怖。 「長鼻ァ。女性の愛を無下に扱う気か?」 相変わらず「負」のオーラを纏いながらサンジは笑顔で問う。 フェミニストなコックはどうやら女性の意思を優先したいようだ。 けれども天性の女好きの性とでも言おうか、 このまま事が進むのは彼にとっては許し難い事態。 それ故、膨らんだ「負」のオーラを放出も出来ずにただ其処に留めているのだ。 「何か、私を拒む理由があるのかしら?」 理由はただ一つ。 傍に在る暗黒が。 思うが声にならない。 今その事を話題にしてはいけない。 きっと何かが爆発する。 そんな気がしてならない。 「あ、、、あの、、あのさぁ。」 「なぁに?」 「お、俺、、、、まだ、、そう!俺はまだ子ども、」 苦し紛れの言い訳をしようと試みるが、ロビンは笑顔でそれを遮る。 「あら。もう『大人』なんでしょう?」 迂闊! 先程の会話がこんなところで甦るとは! 「さあ、、、、、。お誕生日、おめでとう。」 顔を寄せるロビン。 膨らみつづける「負」のオーラ。 好奇の視線。 限界 「駄目だーーーー!!」 唇が触れる寸前でウソップは立ち上がり、 「キスは二十歳になってからーーー!!」 涙さえ浮かべながら捨て台詞を吐いて 脱兎の如くキッチンから逃げ出した。 「そりゃ酒だろうが。」 ゾロの冷静な突っ込みは、大笑いするナミの声にかき消された。 ちくしょー! 何で俺が俺の誕生日から逃避するような事に? あああああっ!神様のバカヤロー! 「長鼻ァ!愛を無駄にする気かァ!!」 「あああああっ!神様ごめんなさい!」 追ってくるサンジのあまりの形相に慄き、 ウソップは訳もわからず懺悔するハメになった。FIN
<管理人のつぶやき>
読んでる途中、心拍数がめちゃくちゃ上昇しちゃったよ。だって、ウソップの唇が奪われようとしてるんだよ?えらいこっちゃですよ。
サンジくんは嫉妬の炎メラメラ。でもどっちに対してだ?(笑)
オチが最高!そうか、キスはハタチになってからか。純情可憐なウソップくんが愛しいよ。
しかし、密かにウソップが「キス」って言うだけでドキドキしてしまう私であった・・・。
ビバ!罪無き神学者様で期間限定フリーのウソップ誕生日記念小説です!
ばなな平井。さん、またもや楽しい作品をどうもありがとうございました!