このお話は、びょりさんの投稿部屋での作品「おめでとうございます」の一種の裏話でございます。
「おめでとうございます」
第2話の中で、

中身が一流なら器も一流、人間国宝十四代牡蠣右衛門に特注して作らせた、花鳥風月の文様も見目麗しい丼は正に芸術品でお値段一碗850万ベリー・・絶品です!

という描写が出てきます。
この人間国宝十四代牡蠣右衛門こそ、これから始まるお話の主人公なのです!
たったそれだけの登場だったのですが、読む者に強い印象を植え付けていった十四代牡蠣右衛門。
彼は一体どんな人物だったのでしょう・・・・。

投稿部屋BBSで彼のことをびょりさんに振ってみると、

―初代『引越野坂井田牡蠣右衛門』が生み出した技法を父親より受け継いだが、若い時分は名家の出身を驕り酒と女に溺れる毎日、後老成し、代々挑むも誰もなし得なかった牡蠣のとれとれぴちぴち感を皿上に見事に描き出す事に成功―とか??

すぐさま反応が(驚)。
私も返しました。

す、すごい、ちょっと振っただけなのに、ここまでの文章を書いてしまうとは..!
この牡蠣右衛門、どこかでかつてシャンクスと接近遭遇してたりとか、
そういう裏話書いてみない?(←無茶言うな)
なんかこのまま置いておくには惜しい存在感を感じる十四代牡蠣右衛門…。


そうして誕生したお話が、「シャンクス VS 十四代牡蠣右衛門」なのです!!

さて、前振りはこれくらいにして、どうかお話をご堪能ください。









シャンクス VS 十四代牡蠣右衛門

びょり 様



あっしとシャンクスとの出会いを知りたいんで・・・?
よござんす、お話し致しやしょう。

若ぇ頃のあっしは、名家の生れと人よりちいとばかし秀でた才を持った事を驕る、世間知らずの馬鹿牡蠣あいや
ガキでやんした。
馴染の酒場で美女に囲まれ連夜の酒池肉林大豪遊・・・何時しか己の腕を磨く事なぞ頭からすっぽりと抜け落ちておりやしたね・・・。



「流石は初代から数えて400年の歴史を受け継ぐ牡蠣右衛門様!壺も大皿も鍋もどれもこれも溜息ものの逸品ばかりで御座いますな!」
「なあに、そう大したもんでもないさマスター、3品総額でたかだか570万ベリーだ。ま、あっしとしてはもっと相応の値を付けて欲しかった所だが・・・まったく世の中目の利かねぇ奴等ばかりで嫌になっちまうねぇ。」
「キャー♪この牡蠣柄の大皿素敵ィ♪アキナ、これも〜らい♪♪」
「ちょいと待ちなよアキナ!!ちゃっかり1番値の張る物ぶん取るなんていけ図々しいったらありゃしない!!第1級のお品は店bPのあたしが持ってこそ真価が発揮されるものさね!解ったら、こっちにおよこし!!」
「ヌカしてんじゃないよセイコ!人気も美貌も目下赤丸急下落中のクセしてよくもそんな台詞が吐けたもんだねぇ!!」
「きぃぃぃ!!言ってはならない事をズケズケとォォ・・!!ちょぉっと人気がUPしてるからって調子に乗るんじゃないよこのアマァ!!その手さっさと離してお皿をお〜よ〜こ〜し〜!!!」
「嫌〜!!離すもんか〜!!!」
「離〜せ〜!!!」
「離さな〜い〜!!!」
「ちょちょちょちょっと2人共!畏れ多くも牡蠣右衛門様作の大皿を大岡裁きよろしく引っ張りだこするなんて・・!よよよよよしなさいよしなさいったら!!割れたらどうすんの・・!!」


―ツルリン・・・


「「「「ああっ!?あああああっっ!?」」」」


―ガッシャーーーン・・・!!!



「・・・・・かかか牡蠣右衛門様作の・・・280万ベリーの大皿が・・・バラバラの粉々に・・・。(呆然)」

「アアアアキナのせいよ!往生際悪く何時までも離さないから・・!!」
「なな何よ!!セイコが意地悪く急に力抜くから手ェ滑らせたんでしょォォ!?」
「ぅお黙り!!!!・・ああ貴女達はしでかした罪の重大さが解っていないのかね!?えええええっっ!!?」

「・・まったくだよマスター・・・丹精込めて創り上げたあっしの逸品、この世に2つと産出せぬ傑作を、よくもまあ此処までバラバラの粉々の木端微塵子にしてくれたもんだ・・・。」
「すすすす済みません!!牡蠣右衛門様ぁぁぁ!!!平に!平に!御容赦を〜!!」
「おおおお願いします!!牡蠣右衛門様!!アキナを!アキナを許して下さい!!」
「セイコが悪かったんです牡蠣右衛門様ァ!!お願いだから許してェ!!!」
「許せと言われてもねぇ・・・至高と呼ばれしあっしの作、値段にして280万ベリーの宝を無くしたとあっちゃあ・・・あっしが許しても世間が許してくれるかどうか・・・。」
「ひぃぃぃぃぃ!!どうか!どうかお許し下さい牡蠣右衛門様ぁ!!!お許し下さいませぇぇぇ!!!」

「だあっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはぁ!!!!その皿が280万ベリーたぁぼったくり過ぎってもんだろうよ!!精々28ベリーが関の山じゃねぇのかい!?」

「誰だ!?横から無礼な事抜かす奴ぁ!!?」


「ああ、こりゃ済まなかった・・・隣の席で呑んでた海賊の者だが、派手な騒ぎについつい興味が惹かれちまってね。」



そう言いながらひょいと顔を出したは、麦藁帽を被り左眼に3本傷の付いた赤髪の若い男―その軽そうな風貌はおよそ『海賊』らしからぬものでやんした。



「何処の海賊の御仁だか知らねぇですが・・・世に名を轟かす牡蠣右衛門の作を掴まえて28ベリーの値を付けなさるたぁ、素人目過ぎるにも程が有るってもんじゃねぇですかい?早ぇ所視力検査を受けに行かれた方が良い。」

「確かに俺ぁ器に付いて何も知らねぇ素人だが・・・その牡蠣の絵は俺から言わせりゃ真っ赤な偽物、生気の欠片も感じられねぇ、何の魅力も無ぇ物さ。」


・・・・こ、このガキ・・・言わせておけばクソ生意気な・・・!!


「・・・何も知らねぇ素人風情のクセして、随分御立派な意見出してくれるじゃねぇか・・・そうまで言うんなら、今この場で本物の牡蠣の絵とやらを描いて見せて貰いましょうかい!!ああん!!?」

「おいおいおい、あんた、名の知れた名人さんなんだろ?そんな熱くならずに、一介の海賊の戯言と聞き流しちまえば良いじゃねぇか・・」
「描いて差し上げたらどうです、お頭ぁ?」


奴の子分と思しき、黒髪を後に束ねた男が言う。


「その御方の言う通り、あんだけ大見得切ったからにゃあ、是非ともお手本見せて貰わなきゃなぁ!」


同じく子分と思しき、鉢巻をデコに巻いた男が言う。


「そうだお頭ぁ!此処は1つびしっとナイスな絵を頼んますぜぇ!!」


ハンプティ・ダンプティが大きな骨付き肉を齧りながら叫ぶ・・・こいつも子分なのか・・?


「やれやれお頭ぁ!!」
「行け行けお頭ぁ!!」
「「「「「おぉ頭♪、おぉ頭♪、おぉ頭♪、おぉ頭♪、おぉ頭♪・・・・」」」」」


沸き起こる、それ行けやれ行けお頭コール・・・ふんっっ人望お厚い様で羨ましいこった・・!!
面白ぇ!可愛い子分達の前で目一杯恥掻きやがれ!!


「・・・まいったねどうも・・・此処で俺がノラなきゃ話進みそうに無ぇし・・・しょうがねぇ・・・マスター!筆と墨汁と白い無地の皿1枚くれるかい!?」
「は、はい!只今御用意致します!!」


マスターから筆と墨汁と真白い皿を受け取った奴は、店内中の注目を浴びながら皿上澱み無く筆を滑らせて行く。


―さらさらさらさらさらさらさらさらさらさらさらさらさらさらさらさらさら・・・・・・(洒落で無)


・・・中々達者な筆捌きじゃねぇか・・・ちと見くびってたぜ。



「出来たぜ。」



程無く筆を置いた奴は、描き上げた皿をあっしによこしました。



さぁて・・・お手並み拝見といこうじゃねぇか・・・!
あんだけ大言しといてつまんねぇ絵だったらただじゃ置かねぇ・・・・ん・・・?


―こ・・・・・これは・・・!!!


「確かに絵は素人らしく稚拙ではあるが・・・この、伝わって来る牡蠣の躍動感はどうだ・・!!」

「なんと見事な牡蠣・・・血沸き肉踊るとは正にこの事・・・!!」

「素敵・・・まるで今にも泳ぎ出しそうな気配すらするわ・・・。」

「この艶やかな描線に較べれば、牡蠣右衛門様の絵なんて子供の落書程度にしか思えない・・・!!」


「あっしの・・・完敗だ・・・!」



敗北を喫し、あっしの体からは力が抜け、皆の前でくず折れる様にして床に手を着きやした。



「ちくしょう!!この十四代牡蠣右衛門、ガキの頃から30と数年、親父に付いて厳しい修行に明け暮れて来た!・・・確かに此処10年は放蕩していて腕を磨く事を怠っていたが・・・だからって、こんな素人野郎に何で・・・!!」

「ドラえもんさんとやら・・・。」

「・・・・・・・牡蠣右衛門だ。」
「済まねぇ、牡蠣右衛門さんとやら。」
「あんた、今わざと間違えただろ!?」

「牡蠣右衛門さん・・・あんた、海に出た事無いな?」

「・・・・あ、ああ・・。」

「俺達は海賊、海に生き海と共に暮す人種だ。陸に生きてる者よりちいとばかし海に在る物を知っていても不思議は無ぇだろ?」

「・・・あっしの絵には、リアリティが無ぇと・・・?」

「せっかく親から貰った才能、ほっぽってちゃあ勿体無ぇ・・・『井の中の蛙、大海へ出ろ』ってな!」



麦藁を被りにかりと笑う奴の顔は、まるで少年の様に晴やかでしたよ。



・・・成る程・・・今のあっしは『井の中の蛙』か・・・。


「っつう訳でマスター、俺達の此処の払い分はドラ・・もとい牡蠣右衛門さんにツケといてくれ!俺の勝ちっつう事で!!」
「は!かしこまりました!」
「待ってくれ!」


「・・・何か不服でも・・・?」


「・・・著名な海賊の頭とお見受け致しやした・・・願わくば、名前を教えて頂きたい。」


「『赤髪のシャンクス』・・・生憎未だ知られちゃいねぇが・・・覚えといてくれよ、何時か必ず世界中に轟く名前となるだろうからな!」


「・・・・赤髪の・・・シャンクス・・・!!」



奴との出会いを機に、あっしは海に出てグランドラインを渡り、何時しか『人間国宝』の地位まで昇り詰めていやした。
奴も大した有名人になったらしいじゃないですか、人様に「知り合いだ」っつって話すとこっちまで尊敬の眼差しで見られたりしてね、へへっ、ちいとばかし鼻高々ですぜ。

ねぇ、あんた・・・もしシャンクスの居場所を御存知でしたら・・・
10年前のあの日、あっしにツケた飲食代、
早ぇ所払って貰えねぇかって伝えておいて頂けますかい・・・?




【終劇】


 

<管理人のつぶやき>
いかがでしたでしょうか?
まさかまさか、あのシャンクスと牡蠣右衛門様にかつて関わりがあったなど、誰が知っていたでしょうか!(←そりゃ知らんて(^_^;))
若き日、己の技に奢っていた牡蠣右衛門が、後年に人間国宝の地位にまで昇り詰めることができたのは、シャンクスのおかげと言えましょう。ああ、なんて粋なお話だッ。とーちゃん涙が出てきたよ(誰じゃ)。
そして、何気ない一言に反応して、ちゃんと書いてくれたびょりさんが一番粋だよね(笑)。
ヨッ!にっぽんいち!

びょりさん、貴重な時間を割いて製作に当たってくださいまして、本当にありがとうございました♪

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