オレンジ色のワンピース
cherry 様
昼間から続いていた騒ぎもすっかり収まり、甲板には静寂が訪れていた。
散らばった酒瓶と、始めから何も載っていなかったかのように綺麗に片付いた料理皿、そして花火の残骸。それらを囲むようにして、船員達が輪を作って眠っている。
お腹をいっぱいに膨らませて真ん丸になったルフィと、その上で大の字になっているチョッパー。「ナミさん・・・」と寝言を言うサンジ。そのサンジに左手を掴まれているのは、自作の花火を抱えて時々「ふふん」と笑いを浮かべるウソップ。さっきまで一緒に酒を飲んでいたゾロも、酒瓶がすべて空になったとわかると、1秒も立たないうちに眠ってしまった。
「睡眠切換スイッチでもついてんのかしらね・・・」
眠ってしまったゾロを覗き込んでナミがそう呟くと、「そうね」とロビンはにっこり笑った。ナミはそのまま、ロビンの隣に座り込む。
「うちの男共ったら、まるでなってないわ」
ひざを抱えて、ナミは少し膨れっ面で言う。
「そうね」
ロビンはまたそう言うと、「ふふっ」と可笑しそうに笑った。
ナミは立ちあがると、オレンジ色のワンピースを翻す。
「こんなに可愛い女がここにいるっていうのに、ホント、なってないわね」
そうしてナミは、悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
「ナミといえば、みかんっ」
相談開始から5分。単純な船長が何の迷いもなくそう言い放ったのは、朝食後のことだった。
港に立ち寄る少し前。ナミが指針を確かめる為に甲板に出ている間に、船員達はキッチンで相談を始める。
「船にでっかいみかんの木が立ってるつーのに、みかんプレゼントしてどうすんだよっ」
ウソップがツッコミを入れる。
「誕生日って、何あげたら喜ぶのかな」
なぜだかわくわくしながら、チョッパーが呟く。
「みかんみかんっ」
ルフィはさっきからそればかり言っている。
「お前は少し黙ってろ」
ゾロがルフィを宥めようとしたとき、隣でロビンがふと呟いた。
「みかん色の洋服なんて、似合うんじゃないかしら・・・」
その言葉に真っ先に反応したのは、当然というべきかサンジだった。
「さすがロビンちゃんっ。ひらひらでフリフリのワンピースを翻すナミさん!可愛いだろうなぁ・・・」
「それはお前の趣味だろうが」
ハート型の煙をふかすサンジに、ゾロがツッコミを入れる。
「けどそれならまぁ、あいつも喜ぶんじゃねぇか?」
ゾロとサンジの喧嘩が始まる前に、ウソップが横槍を入れた。
「やっぱり、似合うわね」
月の光にワンピースを翻したナミを見て、ロビンは呟いた。
「そう?ありがと。こういうの着ると、なんだか心がウキウキするわね。少女の頃に戻ったみたい、なんてね」
そう言ってナミは、飛び跳ねたりくるくる回ったりしてみる。
ロビンは、昼間のナミを思い出して、太陽の光をいっぱいに浴びたオレンジを想像する。
船が港につくと、これも当然というべきか、唯一女であったロビンがプレゼントを買いに行くことになった。
何軒か洋服屋を回った後、とある店の店頭に、オレンジ色のワンピースを見つけた。サンジの言葉を思い出して、少し苦笑いする。ロビンはそのまま店を通り過ぎようとしたが、思いなおしてもう一度店頭に立った。
サンジが言うような"ひらひらでフリフリ"とは程遠いし、これならあの気の強い航海士に似合いそうだ。
少し迷ってから店に入り、店員に「お嬢さんならこのドレスの方が・・・」と青いドレスを勧められるのを軽くかわして、ロビンはそのワンピースを買って船へと急いだ。
「あら、あんたたちにしては気が効いてるじゃない?」
プレゼントの包みを開けた後、ナミはいつものように悪戯っぽくそう言って、それから少しはにかんだ。
いつもは気の強い航海士が、少しだけ、少女に戻る瞬間。
こんなときに男の人たちは恋をするのかしら・・・?と、ロビンはふと思った。
「さ、ナミさん、サンジ特製、ナミさんのお誕生日の為のフルコースをどうぞ」
「おい、酒もありったけ持って来いっ」
甲板に料理が並ぶと、色気より食い気の男達は、主役より先に一斉に手を伸ばしはじめる。サンジはそんなのにはお構いなく、オレンジ色のワンピースに着替えたナミに見とれている。
オレンジ色のワンピースは、太陽の光を浴びて一層きらきらと輝いていた。
ウソップの抱えていた花火が、ひゅうっと音を立てて空へと舞い上がると、ぱんっと夜空ではじけた。
「あら、まだ残ってたのね・・・」
ナミが月の光る夜空を見上げて、小さく呟く。
「ななな、なんだ?大砲か?」
「敵ぃぃぃぃっ!!??」
「お、朝か・・・」
眠っていた男達が、花火の音に一斉に目を覚ます。
まだ眠い目をこすっている男達に、
「あんた達、こんな可愛い女をおいて先に寝ようなんて100万年早いわよ」
と、ナミはワンピースを翻しながら楽しそうに笑い、ロビンは花火に火をつけるために咲かせた手をそっと引っ込めた。
FIN
<管理人のつぶやき>
仲間達が相談した結果、ナミにみかん色の洋服を贈ることに。お見立て役のロビンが選んだのはオレンジ色のワンピース。プレゼントを貰った瞬間、嬉しそうにはにかむナミが可愛いよvvv(ほふぅ・・・)
花火はロビンの仕業でしたか。でもおかげでみんなが起きたよ。まだまだ楽しい誕生日の夜は続きそうです♪
「ナミ誕生日2003」の投稿第一号はcherryさんでした。
「誰も投稿してくれなかったらどうしよう〜」とメソメソしてたので(笑)、投稿を頂いた時は本当に嬉しかったです(>_<)。
cherryさん、素敵なお話をどうもありがとうございました!