GIRL FRIENDS
            

れーな・K 様






みかん畑に腰をおろして、透きとおるような星空を見上げた。
夏の始め。
月が出ていないから、星が降るようだ。
まもなく日付が変わる時刻。



「楽しいわね、航海士さん」

不意に声をかけられて、前を見ると
ゆっくりと階段を上ってきた黒髪の女。

「そう?こんなもんよ。理由つけて騒ぎたいのよ奴らは」
「でも今日は特別」
「当たり前でしょ」
「・・・隣いいかしら」
「どうぞ」

みかん畑に上がってきたロビンが、クス、と微笑いながら
ナミの隣に座った。

「あんたも強いのね」
酒を煽る手真似をしながら、ロビンに問えば、

「適量を知っているだけよ。誰にでも限界はあるものでしょう?
それを越えないだけ」
「ここはそれを知らない連中ばかりだわよ」
「だから潰れるまでなのね」
「そういうこと」

顔を見合わせて、笑った。
ロビンもこの空気に慣れつつある。そう思った。
多少不可思議な感覚が残るのはどうしたって否めない事実なのだけど。
ほんの少し前までは、敵のトップのパートナーだった女だ。


「私には行く当ても帰る場所もないの。―――だからこの船において」


その一言で。
ルフィは受け入れた。「こいつは悪い奴じゃねェから!!!」。
ルフィがそう云うなら。信じてみてもいい。
多分なんだかんだと警戒しているにもかかわらず、クルー全員
そう思っているに違いないから。


「19になった、だなんてほんとに若いのね」
「何よ、そんな年寄りみたいに」
「私がその頃は何をしてたかしらって、少し思っただけ」


遠くを見ているようなロビンの横顔を見ながらナミはふと思う。
ビビがここにいたなら、なんて云うだろう。
彼女を彼女の国を追い詰め苦しめた張本人の、その片棒を担いだ女と。
ビビと共に命賭けて戦った彼らが、今はこうして一緒に航海をしているなんて。

泥棒時代には、とても望めなかった女友達。初めてのそう云う意味での友達。
ビビはナミにとって、今思えばそんな存在でもあった。

ロビンはどんな存在になるだろう。
年齢から行けばちょうど10年も離れている。
ここにいる経緯も考えてみれば特殊なケースだ。
ビビと同じで在りえる訳がない。
ビビならば、彼女の考えは手にとるように解った。
2つばかり年下。ロビンに比べれば紛れもなく同年代。
ロビンに関しては・・・まだ解らないことが多すぎる。


あの空色の髪の友達に、無性に逢いたくなる。






「なんだか、今こんなこと云うなんて変かもしれないのだけど」

突然ロビンが口を開いた。

「何?」
「貴女、私にお祝いされて嬉しい?」


真顔でそう云うから思わず吹き出しそうになった。

「可笑しいかしらやっぱり」
「可笑しくはないけど・・・そうね、ブツでもって示してくれたらもっと嬉しいわよ?」


そう戯けた調子で云ってみた。
突然のこの科白は、ナミにとってもフェイントだ。
それを聞いたロビンは小首をかしげて
「そうなの?」
と訊いた。

「そうよ」
「こういうとき、どうしたらいいかよく解らなくて」


そう云いながら彼女がその手に取り出したのは、
かなり大きなドロップカットのダイヤモンドペンダントトップ。

「乗船料、と云うことでもいいのよ。そう思ってくれれば
その方が貴女も気が楽でしょう」

相変らず読めない表情で、ロビンは云うとナミの手に
その宝石を乗せた。
これは、反則だ、とナミは思った。
これでは受け入れるしかないではないか。

「じゃ有り難く頂いておくわ。今回は乗船料、としてよ?
その代わり次はもっと期待させてよね」
「・・・ええ、憶えておくわ」

ナミの言葉をどう取ったのか。ロビンはまたフフ、と微笑った。

静かな空気が流れる。
こんなのもいい。
とそう感じたとき、上空に鳥の羽ばたきを聞く。

「?」

降下してきた郵便配達は、ナミの姿を認めたらしく
その手に向けて小さな箱を落とした。
そして横に舞い降りて、「クー」と嘴でもって受け取りのサインを求める。
ナミがその小さな紙切れにサインして手渡せば
郵便配達は再び空へ舞いあがった。



「夜なのに・・・見えるの?あれ」
「速達専門便ね。すべての鳥が鳥目とは限らないのよ」
「差出人・・・」
「なあに?」



それはたった今しがた、逢いたいと願った友達の名前。
封を開く手ももどかしく、外装を開ければ
また綺麗にラッピングされていて。
ロビンが心持ちナミから離れるのを横で感じる。
薄いオレンジのリボンを解いて、淡い光沢のある包装紙を取り除く。
中から現れた小箱のふたを開ける。


「あ・・・」


中には、一見して上質の翡翠ジェイドと判る、
しかもおそらくはROUKANと呼ばれる最上級の翡翠細工のバレッタ。


同封された一枚のカード。
短い文面。
もっと書きたいこともあったろうに。






ナミさん お誕生日おめでとう。
約束の10億ベリーには程遠いけれど、
ナミさんに似合うもの探しました。
喜んでもらえれば嬉しいけれど・・・。
みんなによろしく伝えてください。
私も頑張っています。






ビビ。


涙が出そうになるなんて柄でもない。
宝飾類のグレードを見る目はある。これはおそらく50万ベリーは下るまい。
その数字が頭に浮かんだとき、思い出した。



あの子ったら。


でもビビらしい。


「・・・いいわね」

少しの間その存在を忘れていたので、その声にふと我に返った。
ロビンは静かに微笑んでいる。

「・・・あんたのときにも張り切る人がこの船にはいるわよ」
「でも貴女以上ではないでしょ?」
「当然よ」

また顔を見合わせて笑う。

「じゃ女同士で飲み直す?」

ナミがそう云うとロビンは笑みを引きつつ首を横に振った。

「そうしたいのは山々なのだけど」
「何よ」
「これ以上邪魔をするとあとが怖くて」
「?」
「あっちでずっと待っているわ。私を一番警戒している誰かさん。
ちょっと意地悪もしたかったのよ」

ロビンはそう云うと立ち上がった。

「私は後片付けしているコックさんのお手伝いに行くわ。
貴女はここにいなさいな」
「ロビンあんたって」
「何かしら」
「気にいったわよ」
「あらありがとう」

そう云って手を振り彼女はみかん畑を離れていった。
ほんの少し間をおいて、入れ替わるように
不機嫌そうな顔をした剣士が階段を上がってくる。

ゾロはナミの顔を見るなり苦虫を噛み潰したような表情で云った。

「魔女が二人になっちまったな」
「じゃあ天使になってあげようか?」
「・・・やめとけ。柄じゃねえ」

そう云ってさっきまでロビンが座っていた隣に
どっかりと腰を下ろして、ゾロは手に持っていた酒瓶と
グラス二つをナミの目の前に振って見せた。

「飲み足りねェだろ」
「気が利くじゃない」
「素直に喜べよ」




軽口を叩きながら、いつものようにいつもの相手とグラスを重ねる。
今ここにいるもしかして友と呼べるかも知れない彼女。そして遠くにいる彼女。
ナミは今日だけは女同志の酒盛りも良かったかな、とも思いながら
抱き寄せられた男の厚い肩に頭を持たせかけて、再び星空を見上げるのだった。






FIN

 

<管理人のつぶやき>
遠くにいる友達ビビからの贈り物と、近くにいる、友達になるであろうロビンからの贈り物。
「乗船料」といってやり取りするところが、ナミとロビンらしくて、かっこいい。これからは本音でいこう、お互いにって感じですね。
ビビもまた、ウィスキーピークで言っていた、自分の貯金50万ベリーと同額のものを贈ってくるなんて小粋です。
ワンピースでは男同士の友情がクローズアップされがちですが、ここに女達の友情を見た気がしました。

いつも大変お世話になっている「FEINT−21(閉鎖されました)」の管理人のお一人、れーな・Kさんがご投稿くださいました。
れーなさん、素晴らしい作品をどうもありがとうございました!

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