空は快晴。
普段騒がしいGM号も、時折すっぽ抜けたように静かな時間がある。
島を見つけて騒ぎ出す船長に付随するメンツの目的は食料調達、薬品調達、その他諸々。
よほどのことがない限り、「必要なもの」のない男は大抵、自動的に船番を引き受けることになることが多かった。

なにか事が無ければゾロの生活パターンは判で押したように決まっている。
食事と睡眠と鍛錬。
その他と云えば、時々ナミに(借金を楯に)なにやら力仕事を手伝わされるか
暇を持て余した船長のお守り程度で。
彼一人いれば船が襲われる心配は皆無。船番にはうってつけの人材。
本人もそれについて全く不平不満は無い。

彼を除くクルー全員が上陸してしまえば、
あとは船長が戻るまでは平和でゆったりした時間が彼のものになる。
サンジ辺りに云わせれば「惰眠を貪っている」だけなのだが、そんな科白は聞く耳持たない。







午睡



れーな・K 様


本日も空は快晴。
いいタイミングで昼食後に寄港した島の港町はそこそこの大きさだった。
返ってくる返事は予想しているだろうに、
ナミがゾロに訊く。


「ゾロ!何か用ある?」
「・・・ねェな」


この一言の返答で、今回もゾロの居残りは決定した。
好奇心が服を着て歩いている船長は、
着岸するなり猛ダッシュで町並みに消え、食材や医薬品等の生活必需品買出し派と気10年の年齢差はあれどもの合い始めた女性陣は女同士のショッピングにと、船を下りていく。

「寝てていいわよー、夕方までには多分みんな戻るから」

云われなくてもそのつもりだ。





ゾロは殆ど場所を選ばずに何処ででも爆睡可能な男だが、それでも船長に特等席があるように、彼にもGM号における「昼寝場所」にはいくつかの「お気に入り」がある。

天気は上々。気温も快適。風は微風。
船を舫って彼を除く全員が上陸したあと、
ゾロはふあー、と気の抜けた欠伸をしつつ船首の下辺りで寝転がるつもりで、階段を上った。




「・・・?」


正に船首の真下。
メリーが丁度いい具合に影を作る辺り。
見慣れた色をした、見慣れない物体。
航海士の髪の色に良く似てはいるが、
ややそれよりは淡い色合い。
微妙に白い縞が入っている。
ふわふわした柔らかそうな毛並みの。

船の上では絶対に見かけない筈の生き物。




「みー」




「・・・どっから入ってきたんだお前・・・」

ゾロは思わずヤンキー座りで、その不法侵入者の前に屈み込む。
人に慣れているのか、それとも怖いものと思わないのか、それは逃げもせずゾロを見上げてまた「みー」と鳴いた。


「みー、じゃねェよ・・・こんなトコにいるとクソコックに非常食にされちまうぞ」

いやその前にルフィに食われちまうか、とかなんとか呟きながら手を伸ばして小さな頭を撫でてみる。
あまりクルーには知られたくない話だが、
実は彼はこのテの小さくてふわふわして柔らかい系統のモノにかなり弱かった。

ほんの子猫と―そう、猫である―成猫の、丁度あいだくらいの微妙な大きさの子猫。

また「みー」と鳴くので人差し指の横腹で顎の下を擦った。
ゴロゴロゴロと小さく咽喉が鳴る振動が指に伝わって面白い。
つい暫く遊んでしまった。

いや俺は寝るんだよ。

しかし猫はそこから動きそうにも無い。
まあこのまま放っておいてもそのうち勝手に何処かへ行くだろうと踏んで、ゾロは猫を構うのを止めて立ち上がった。
三振りの刀がガシャリと音を立てる。

この場所はとりあえず早い者勝ち、と云うことにしておこうか。

なんだか闘わずして負けたような気もしないでもないが、猫相手にムキになるのも馬鹿らしい。
それなら蜜柑畑の下にでも、とゾロは首の後ろを掻きながら階段を下りたのだが、
マストの下辺りで妙に気になって一度振り向いた。



「?」



気配を感じたが気のせいか?



気のせいじゃねえ!



「みー」



足元にいつのまにか先ほどの猫がちょこんと座っている。

こんな近くに来るまで気がつかないとは
修行不足・・・と思わず頭を抱える。
てかそれより。



「旨いモンなんて持ってねェぞ・・・」



コックかせめてナミがいれば、「きゃああ、かわい〜〜い
vvv」とか何とか叫んでミルクでも出しそうなものだが、勝手に冷蔵庫を漁るのは(酒以外は)あとが面倒なので避けたいところだ。


「・・・・・・・・・・」



とりあえず無視して、後甲板へ上がる。



「みゃあ」



なんかいい匂いでもついてるのか?
まあ確かに昼食後から大した時間はたってはいないが、それにしたところでさほど匂いの染み付くようなものを食した覚えはない。

しかし。

何故か、足元から離れない猫。

理由は不明な溜め息が出る。

蜜柑畑の階段の下で刀を外すと、どかりと座り込んだ。

ここまで懐っこいと間違いなく飼い猫なんだろうが、さてどうしたもんか。

しかし考えてみれば煩い訳でも邪魔なほどでもないと云うことに思い当った。
胡座をかいた膝の辺りで彼を飽きずに
「みー」と見上げる子猫の両前脇を両手で持ち上げる。
そのままゴロンと横になり腹巻の上に猫を乗せた。
頭の後ろで腕を組んで枕にした。
子猫は大人しくしている。しかも欠伸までして腹のうえで丸くなっている。

「さっきは俺が譲ったんだからな?ここは
譲らねェぞ。あとは好きなようにしてろ」

人間相手のように話すのもどうかと思うが、周りに誰もいないのは幸い。
これ以上は面倒くさい。
あとは野となれ山となれと眼を閉じる。
子猫の色とその重さがまるで何処かの
誰かの頭でも乗せてるような錯覚を呼ぶ。
そんなことをつらつらと考えている間もなく
睡魔はやってきた。


初志貫徹。・・・・て云うのかこれ?







数時間後。

一番最初に、良質な物資の補給に上機嫌で戻ってきたチョッパーとウソップは、
腹巻に戯れつき爪に糸を引っ掛けて遊ぶ子猫を乗せたまま寝こける未来の大剣豪という滅多に見られない光景を目撃することになる。



―――その後、帰って来たルフィに子猫が追いまわされたこととか、
爪に引っ掛けられて目ががたがたになった腹巻の修理にナミが「1万ベリーよ」と吹っかけてきたこととか、
結局ウソップに頼むことになったこととかは、
また別のお話。






FIN

 

<管理人のつぶやき>
ゾロの昼寝場所取り勝負の相手はなんと子猫♪しかも子猫に軍配が上がりましたよ!このゾロ、かわええ〜vvv あなたが動物好きなのも、妙に動物に好かれるのもよく存じてましたよ、えぇ。

いつも大変お世話になっているFEINT−21様(閉鎖されました)のゾロ誕内連動企画『Get You』におけるれーな・Kさんの作品です。ダウンロードフリーとされましたので、頂いて参りました。
れーなさん、かわいいほのぼの作品をどうもありがとうございました!

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