魔女の守護
            

れーな・K 様






占いとかまじないとか、よく考えたら何の根拠も
無い話が好きなのはたいてい女だ。
とは云え、そう云った無駄なものが俺も結構好きだったりする。
他人から見たらガラクタにしか見えねえ、こまごました雑貨の類、
古道具。何に使うのか判らないどっかの島の奇妙な代物。

そんなモノから、想像力と創造力を思いっきり働かせて
「何か」を作り出すのは俺の最大の特技だ。
そして、最大の楽しみでもある。

だから上陸したらまず雑貨屋を探すのは常。

グランドラインの島々の、港町には
特に面白いモンが揃ってる。



昼過ぎに入港したこの島の港町は、どうやらこの航路の
拠点の一つらしい。今までにないほどでかく賑わっている。
そうだ、ちょうどローグタウンに似た雰囲気だ。

どうやらみんなそう思ったらしい。
ローグタウンを知らないのはチョッパーだけで
ロビンは、ああそうね、と頷いてたから、
行ったことあんのかー、さすが年の功だなあ、と云っちまって
サンジに船首の下からマストの見張り台を越えて
後甲板のナミのデッキチェアーの隣まで蹴っ飛ばされた。

口は災いの元だとしみじみ思った。



今回は全員で上陸して、ナミから
「とりあえず夕方6時!時間厳守で一旦船に戻ること!
遅れたら10分につき100ベリーの罰金よ」
と云うごく一部にはとても厳しいお達しが出たあとに、
自由行動になった。

迷子になる確率がほぼ100%のゾロにはチョッパー、
ルフィにはサンジがついて、ナミとロビンは女二人でコンビを組んだ。
久々にお守り無しでのんびりできる。

ぶらぶらとメインストリートを歩いて、興味を引くような
雑貨屋を探しているうちに、いつのまにか大通りから
ちょっと外れた小路に入り込んでいた。


ピン、と来た。


こんな感じの小路の奥には何やらきっと掘り出し物がある。



勘は当った、と云うべきか。
まだ中に入らなくては判らないが、少々妖しげな
奇妙な、一見して咒道具のような装飾が施された両開きの扉。


「魔女の守護」


そう看板にある。
魔女、と云ったらうちの船には、最強の魔女がいるよなあ、と
不意にオレンジの髪を思い出した。
もうひとり、これもまた魔女の部類に入りそうなのが増えているし。
女が強いほうが平和だと云ったのは誰だったか。

店の名前も変わってる。

ちっとばかし開けるには勇気が必要な扉だったが
思い切って手をかけた。

ぎぎ・・・と、軋む音と一緒に開いた。



そおーっと首だけ中に入れて覗いてみた。



「ごめんくださーい」



云っとくが小声なのは怖いとかの所為じゃねえぞ。


中は、意外に明るかった。
窓はあるにはあるが、重たいカーテンが引かれて役に立ってない。
その明るさは壁のいたる所に掛けられている半端じゃない数のランプの為だ。
GM号のラウンジくらいの広さがある。
五つの大きなテーブルがあって、その上には全部金属製の皿が並べられていた。
入口からはよく見えないが、その皿に何か細かいものが乗っている。

邪気、みたいなものは感じられなかった。
こう云うときの俺の勘は当るんだぜ。
そっと後手に扉を閉めて中へ入る。

きょろきょろと周りを見回した。


「何かお探しかい」


後ろから声をかけられて、文字通り飛び上がった。
客なんだからビビる必要は何処にもないんだが、
悲しくも身に付いた習性みたいなもんだ。
そおおおっと振り向くと、さっきまだ気配も無かったそこに
小柄な黒服の婆さんが立っていた。
きっちりまとまった白髪に黒いベールを被って、
温和そうな笑顔はぱっと見は「良い魔法使いのおばあさん」だ。


「い、いや、別に欲しいものがある訳じゃなくて
ただ、面白そうな店だなーと・・・」
「兄さん、旅の方だね?ああひやかしだって構わないよ、
ゆっくり見てお行きな」
「すんません」


婆さんはそう云うと、滑るみたいにして移動した。
ほんっとに魔法使いみたいな婆さんだ。


ひやかしでもいいなら、まあ見るだけ見せてもらおうと
気になる皿の中身を一つ一つ覗く。
そこで気がついた。殆ど「石」だ。
ただそこらの小石じゃないことだけは判る。
透けていたり、綺麗な淡い色をしていたり。
頭に「?」マークが出ているのを婆さんは見抜いたらしい。


「それは、パワーストーンだよ」
「ぱわー・・・すとーん?」
「そうだよ。持つだけで持つものを様々な災いから守ってくれる
お守りみたいなもんさね」
「へええ・・・」
「名前は宝石と同じでも、それにゃ程遠いクズ石だけどね、
効果はちゃんとあるんだよ」


ローズクォーツ、ムーンストーン、アクアマリン。
ラピスラズリ、ロードナイト、ブルーレースアゲート。
オニキス、タイガーアイ、ヘマタイト・・・・数え切れない石の名前が
皿ごとにちゃんと書いてあった。
丁寧なことに効能も。金額もそこそこのものばかりだ。
婆さんが云った。

「兄さん、大事な人がいるなら、ラピスをお持ちよ。
あんたが持ってるだけで、その石はあんたの大事な人を守る力がある」


ああ、そりゃいいな。カヤはどうしてるかなってこの婆さん結構商売上手だよ。
ひとつひとつ、手にとって翳してみたり、掌で転がしてみたり、
なかなか楽しい店だ。
そして俺の目は一つの皿で止まった。

その皿だけは乗せてあるのは石じゃなかった。


コインだ。
何か妙だ、と思って掌にとって見る。
見たことの無い通貨だから特殊なものなのか。
奇妙な感じはその形にあった。
いち、に、さん・・・・七角形だ。
こんな形の通貨は見たことも無い。


「ああそれかい。それはね・・・」


どうやら意外に話し好きな、「良い魔法使い」のような婆さんは
俺の様子を見てまた足音も立てずに寄ってきた。
俺が訊きもしないのに立て板に水のように話し始める。


「ウエストブルーにある小さな島国の通貨さ。表にその島の女王の
レリーフがあるだろう?このコインも幸運のお守りなんだよ」

「その海域は【七】と云う数字が一番ラッキーとされているんだ。
それで七角形のコインを作っちゃったんだよ。見たこと無いだろう?
まあ価値的にはベリーで云えば100ベリーもしないんだがね。
ただこの形のコインは最大最強の幸運のお守りと云われているんだよ」

気に入った。これはいい。こんな珍しいものはそうそう手に入らない。


「婆さん、こりゃあ面白いな。頂きだ」
「はいはいはい、気に入ったんだねえ。兄さんあんた
きっといいことがあるよ」


商売上手な婆さんは、俺が云う前にニコニコと
皿からコインを一枚取り、小さなお守り袋のような布袋に入れる。
海の色みたいな深い藍色に金粉を散らばしたような
「ラピスラズリ」も頼んだ。


「お待ち、兄さん遠くから来たようだからちょいと負けとくよ」
「おー、悪ィなあ婆さん」
「いいともさ。そうそうおまじないを教えてあげよう」
「?」
「いつもポケットの中にコインを入れておくんだよ。
そして夕暮れの西の空に細い三日月を見つけたらね
ポケットの中でコインを裏返すとお金が増えるってね」


金が増えるって?
それを聞いて、またうちの航海士の顔が浮かんだ。
ナミが聞いたら喜びそうだ。


・・・そうだ。
あいつにやろう。このコイン。
突然思いついた。

俺たちの中の多分誰よりも長い間、キツい思いをしてきたナミに。
そのキツかった時代の分の幸運があいつに行けばいいんだ。

単なる云い伝えでも気休めでも、最大最強の幸運のお守り。
俺たちの航海士が災厄から守られているならば、
その船に乗る俺たちも守られていることになるじゃねェか。

そのうち来るナミの誕生日。
今婆さんから聞いたまじないもつけて。
きっと胡乱な顔で見られそうだ。それでもいいよな。



「婆さん、いい買い物させてもらった、ありがとうな」
「そうかい、そりゃあ良かった」



短い言葉を交わして、しわがれた、ありがとうございました、の声を背に店を出る。
「魔女の守護」か。ピッタリだ。


俺はコインとラピスの袋をしまいこむと
大通りへ戻る道をゆっくり歩き始めた。



陽も高い。約束の時間まではまだまだある。
もう少しぶらついてみよう。ここはいい島だ。
とは云え、油断して航海士に100ベリー徴収されないように
気をつけないとな。







FIN

 

<管理人のつぶやき>
「ごめんくださーい」が小声なのは、怖いからやろ!と裏手ツッコミ(笑)。
店名に相応しく、店主は魔法使いのようなお婆さん。売り物は不思議な雰囲気の石がいっぱい・・・。「ラピス」の持つ意味を聞いて、すぐにカヤのことを思い起こすウソップがいいですねー
また、七角形のコインの謂われはなかなか興味深いですね。本当にありそう。
そして、コインにまつわるおまじないを聞いて、今度はすぐさまナミを思い起こしました。うん、それはある意味当然だね(汗)。

いつも大変お世話になっているFEINT−21(閉鎖されました)の管理人のお一人、れーな・Kさんが当サイトのナミ誕へ投稿しようとされてた作品だそうです。
ナミ誕には間に合いませんでしたが、ありがたく頂戴してきましたv
れーなさん、素敵な作品をどうもありがとうございました!

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