son choix


            

hana 様






いつもより控えめの口調で私に告白をしてきたのはサンジ君だった。

船の上にいながらにして付き合う意味があるのかどうか、私にはいまいちよく掴めなかった。

けど、実際に私もサンジ君が気になっていたせいもあって、私は頷いた。

 

「仲良くしような。」

「うん。」

 

手を繋いでその日はずっと甲板に座ってたっけ?

 

 

 

 

本当の事を言うと私はそれまでまともに1人の男と付き合ったことが無かった。

だから付き合うと言われてもどう相手と向き合っていけばいいのか分からなかった。

 

そのせいもあって付き合いだしてからも、私とサンジ君は前とあまり変わらない関係だった。

本当に仲間から1歩だけ踏み出した感じ。

 

だから私は別にゾロと親しく話したし、夜は一緒に飲んだし

たぶんサンジ君と変わらない付き合い方だったような気がする。

 

 

 

 

そんないつもの夜、今日もまたゾロと一緒に飲んでる途中。

軽く1杯だけ。

お互いアルコールに強いおかげでグラス1杯なんて本当になめるような量。

喋るテンポも呂律もいたって日常と変わらない。

 

「だからなぁ、お前が俺にいくら金貸しても、俺は返すあてがねぇんだから仕方ないだろーが。」

 

「何よその言い方は。私の懐から毎月あげてるのに、それでも足りないっていうから貸してあげてるんじゃない。」

 

いつも大体お金の話になる。

けんか腰な喋り方だけど、お互いそれを楽しんでるから別に何とも思わない。

 

「何言ってんだ?俺らが船の金を稼いでんのに、何でお前の懐になるんだよ。」

「もううっさいわねー。船のお金を管理してるのは私なのよ?」

 

結局この結論になる。

上品にも似ても似つかない調子でゾロはお酒を飲む。

・・・どっちかって言うと流し込む?

 

「あぁそうだ、お前が管理してる。けどな、お前のケチな性格のおかげで俺は苦労してんだよ。」

「そんなのあんたの自己責任の問題でしょ?浪費が激しすぎるのよ、あんたは。」

「お前がもうちょっと寛大になれば俺は苦労しねーんだよ。」

 

無茶な注文は別にお酒が入って無くてもゾロはする。

いつも私のことを考えてくれるサンジ君に比べたら図々しいとしか言いようが無い。

 

「もうっ、あんたはそう思うかもしれないけどね、サンジ君は全然そんなこと言わないわよっ。」

「・・・」

 

いつもどこかゾロは楽しんでる感じがした。

ゾロが本気になるともっと怖い。

私には滅多にその本気の目は向けないで、ただ面白がるように見る。

 

けど私がサンジ君の話に触れると一瞬目が変わる。

 

いつものパターン。

この時、ゾロが内心でどう思っているのかが気になる。

 

どこか切なげで何かを悟ったかのような目。

今日こそ聞いてみようと思った。

ゾロの本音は一体何なのか。

 

「ねぇ、ゾロ?」

 

アルコールが高いお酒をゾロは口に含む。

下から見るような目で私に顔を向ける。

 

「何だ?」

 

ゾロは結構ちゃんと聞けば答えてくれる人。

割と込み入った話でも何でも答えてくれるから、今日こそ聞いてみようと思った。

 

「私がサンジ君の話するの嫌?」

 

そう言うと私を覗き込むようにゾロは黙る。

何かを探すような目で私を見る。

 

しばらくするとゾロはまた一口飲んで

グラスの中を覗いたまま、低いトーンの声で答えた。

 

「別に。話したいなら話せばいい。」

 

ゾロのその台詞を聞いて私は少し安心した。

柄にも無く自分の男を否定されなかったのが嬉しかった。

 

けど私がこの落ちたテンションを取り戻そうと話を変えようとすると

ゾロは「だが」って続けた。

一瞬でさっきの安堵感は吹き飛んでしまった。

その先に続けられるネガな話に私は少し怯えた。

 

「お前はあいつと一緒で幸せなのか?」

 

そう聞かれた途端私はすぐさま答えを返そうとした。

続けられる言葉に少し不安を抱いていたけど、案外答えは簡単に出せそうだったから即答しようとした。

 

けど答える間際になってゾロの顔を見ると

心配そうな目で私を見ている事に気がついて、私は言葉を濁してしまった。

 

「・・・何で?何でそんなこと聞くのよ。」

 

幸せだと言えばいいのに。

実際そうなんだから、そう一言言えばいいだけなのに。

私の口から出てきたのは、何故ゾロがそう私に尋ねるのかという疑問だった。

 

そう聞く私にゾロは怯みもせずに答えた。

 

「あいつといる時、お前いつもぎこちないだろう?何か無理してそうに見えた。」

 

自分でも驚くぐらいに私はすぐ口から答えが出た。

 

「無理なんかしてないっ。」

 

これじゃただの自己防衛。

ゾロは何でも見透かしてしまう。

私が心の底で隠していることをはっきりと口に出す。

言われてしまった途端に焦りが私に生じた。

 

怒鳴ったような口調になってしまったから、私はゾロに言い訳を考えていた。

でもゾロの方が早かった。

また何かを悟ったかのような目で私を見ると「ならいいんだ。」と薄い唇を上げて苦笑した。

 

返す言葉が見つからなかった。

 

グラスにゾロは指を入れてかき混ぜる。

氷がグラスの縁に当たって音を立てる。

普段ならサンジ君がいるキッチンに2人、曖昧な関係の私とゾロ。

 

しばらくして、沈黙が濃くなってくるとゾロは声を出した。

 

 

 

 

 

「お前が望んだんならいいじゃねぇか。」

 

 

 

 

 

その言葉を聞いて私は分かってしまった。

言葉の奥にあるゾロの本音が一瞬漏れたような気がした。

 

 

 

ゾロは私に気があったのかもしれない。

 

 

 

 

 

そう思った途端聞き返してしまった。

 

 

 

「・・・いいの?それで。」

 

 

 

 

つい本音が出てしまう。

 

ゾロは驚いた顔で私を見た。

けど、そんなのは一瞬でまた少し苦笑すると呟くように答えた。

 

「あァ、別にいい。」

 

もしかしたらばれたかもしれない。

私が気づいてしまったこと、しかもそれがたぶん当たっているっていう事。

それを確信付けるかのようにゾロはもう少し言葉を足した。

 

ゾロの声だけがキッチンに響いた。

 

 

 

 

 

「お前が幸せならそれでいい。」

 

 

 

 

 

強い目だった。

心の底から何かが込み上げてくるような感覚に襲われた。

私達がくっついても、否定しないで、肯定的に私の幸せを望む。

 

言葉のニュアンスが私の心を揺れ動かした。

 

 

 

ゾロは最後の一口を軽く飲み干すと無言で立ち上がって

そのまま何も言わずにキッチンのドアノブに手をやった。

 

 

 

 

 

音を立てずに閉まる扉を私はいつまでも見つめ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テーブルの上に置かれたままのグラスには

まだ溶けきれていない氷がカランと音を立てて転がった。

 

 

 

 

 

ゾロが選んだのは私の幸せ。

たとえ自分から与えられなくても、私が幸せならそれでいい。

それがゾロが望むものなんだと思うと、何だか少し胸が痛かった。









FIN




 

<管理人のつぶやき>
ナミの想いを否定したりせずに受け入れて、なおかつナミを気遣い、幸せを願うゾロ。「お前が幸せならそれでいい」って…。くぅ。こんなことゾロに言われてみたいよ(T_T)。

ナミ誕終了の挨拶のためにフラフラと彷徨っていた時に、
Orange Submarine様の5000打を踏み抜きました。ひゃっほーー♪ しかし、そこはサンナミサイトさま。ハテ?リクしたものか?と迷いました。迷いながらもご報告したところ、リクを受けてくださることに。しかもゾロナミストの私に気遣って、「カップリングはサンナミじゃなくてもOKですw」とのお言葉。うう、やさしいお方だ、hanaさんv
で、私がリクしましたのは、「サンナミ←ゾロ」。ゾロがナミを想っても報われないというゾロがちょっと切ない(そして、ナミスキー好みの)お話を所望したのでした。ちなみに、「son choix」とは「選択」という意味だそうです。

hanaさん、素敵なお話をどうもありがとうございました!途中、メルの返信がことごとく遅くてゴメンナサイでした(泣)。

戻る