感謝

            

けい 様






今日の夕飯はいやに豪華だった。

「ナミさん!誕生日おめでとう!!」

サンジくんに言われて、思い出した。
昨日の夜、ペンをとっている時は『ああ、明日誕生日だ』と
覚えていたのに。

あたしが、生まれた日。
産んだ人は、どんな人だったんだろう。
どんな人と恋をして、ううん、しなかったのかも。
どんなふうに産まれてきたんだろう。

今となってはわからないけれど、私には確実に『母』がいる。
姿も、声も、私の中で生き続けている、『お母さん』が。

甲板で手摺にもたれていると、昔の事が思い浮かぶ。
ベルメールさんの事、ノジコの事、ゲンさんの事。
…アーロンの事。

様々な事が思い出される中で、
ふと一つの出来事を思い出した。


いつだったか、舞台を見た。
歌劇というのか、ミュージカルというのか。
様々な衣装で飾った男女が歌い、踊り。
華やかでコミカルな内容だったその上演中、となりの初老の女性が
顔を覆って身をかがめたので、私は声を掛けた。
大丈夫ですか、と問うと、女性は何度も頷き、笑ってみせた。

「あそこで歌ってるのが、私の娘なんです…」

女性はそう言った。
身体が弱く、長くは生きられないと言われた娘さんが芸の道を
選び、まさに命の尽きる程の努力をして、このステージに乗ったのだと言った。
あの子の母親でよかった、と、女性は消え入りそうな嗚咽で呟いた。
その一言が、何故だか浮かぶ。

ベルメールさんが生きてたら、今の私を見て何て言うのかな。
私の母親でよかったって、言ってくれるかな。
私は、ベルメールさんの娘で、ホントによかったと思ってるよ?
だから、今の私がいるの。


「ナミ?」

ふとロビンに声をかけられてビックリする。

「…考え事?」
「ちょっとね。」

ロビンの細い肩からちゃんと生えている手が、私の髪を梳く。

「せっかくシリアスになってるところでなんなんだけど…」

言ってロビンが振り返る。
私も促されるように振り返ると、麦藁が、緑髪が、黒スーツが
オーバーオールが、トナカイが。
それぞれ手に宴会道具を持って構えていた。

「宴だ!!!!」

船長の号令と共に、有無を言わさず宴会が始まる。
飲めや歌えや踊れや騒げやの馬鹿騒ぎ。
ホント、馬鹿ばっかり。

でも。

こんなふうに、心から笑えて。
誕生日を祝ってもらってありがとうって心から言えて。
ホントに、嬉しい。

今の私があるのは、コイツらのお陰でもあるよね。

「主賓のナミさん!!生誕記念日の宴に、一言っ!!」

ウソップにあおられて、仁王立ちする。

こほんとひとつ、咳払い。


「あんたたち!!!」


大声で怒鳴ると、全員が静まる。

「大好き!!!!」


指笛が、笑い声が、拍手が。
船の上に7人しかいないとは思えない騒ぎの中で、7月が
4日目を迎えようとしていた。







FIN

 

<管理人のつぶやき>
親にとって、子供を誇らしく思えることは最上の喜び。そして、子供にとっても親にそんな風に思ってもらえるのは、どんなに嬉しいか。
ベルメールさんも今のナミを見たら、きっと誇らしく思うでしょう。
そしてそれは、こいつらのおかげでもあるんだな。
ナミの「あんたたち、大好き!」は本当に素敵な言葉ですね!

odds and ends」様の管理人のけいさんが、投稿してくださいました♪
けいさん、素晴らしい作品を、どうもありがとうございました!

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