今そこにある危機!             

マッカー様






白い雲 青い空 そしてこの大海原にぽつんとひとつの海賊船
船の中は物音ひとつせず 人の気配が感じられない
船尾の甲板に回ると簀巻きにされて 干からびている麦わら帽子の少年
そのまま上段に視点を移すと みかんの花咲くその陰で生きているのか死んでいるのか
コケが生えたような頭の男が一人うつぶせになって倒れている ‥いやあれは本当にコケかもしれない
ぐるりと回り船室を見ればなにやら話し声がぼそぼそと聞こえてきた

「おい‥」

「なんだ‥?」

「その ‥‥ 画材ってのは食えるのか?」

「食えネ〜だろ‥ お前医者のくせに‥何クソおそろしいこと言ってるんだ‥」

「その‥ 絵を消すの ‥アレだろ‥ パンだろ?」

「あぁ‥デッサン用の‥か‥」

「食え‥ないのか?」

「‥もう‥ダメだろ‥ お前‥は ‥トナカイなんだ‥紙でもいいんじゃねぇか ?」

「そりゃヤギだぜ‥ サンジ‥」

「ヤギも‥トナカイも一緒だろ‥ 大体‥なんで紙なんか‥食うんだ‥? 味‥しねぇだろ」

「ゼンゼン‥違うよ‥ヤギとは‥」

「‥一緒だ」

「どっちも食えるしな‥」

「食える‥な」

「やめろよ〜 そんな目でオレをみるなよぉ〜」

「‥は‥ははは‥そうだな」

「ふ‥ふふ‥ そうだ‥な 食うなら あのクソゴムだろ‥」

「‥まずそうだ‥な‥」

「だな‥」

「あぁ‥‥よりによって‥今日はよぉ‥」

「ナミか‥」

「あぁ‥」

「だな‥」

テーブルに突っ伏したままの三人が空を見つめるその目はよどみ 時折息切れすらも聞こえてくる



そのまま階下へと耳を澄ますと女性らしい声がする

「‥今日で何日?」

「私たちは
5日目‥ だけど上の連中はもう7日は超えてるわ ゾロなんて10日は過ぎてるんじゃないかしら?」

そういえば以前ゾロは
9日くらい捕まっていたからまだ大丈夫かもね などとぼやく

今までの連中とは違いまだ意識がはっきりしている女性二人
一人は黒髪のエキゾチックな女性
もう一人はその女性より幾分 年若い橙色の髪の女性
二人とも普段は間違いなく溌剌と美しく輝いているだろうことは想像できるが
今は疲れた様子で思いつめた表情をしていた

「まずいわね‥」

「あぁ〜〜 もうこのあたしがいながら‥ ルフィめ〜〜〜!!」

そう この船はいまだかつて無いほどの食料危機に陥っていたのである
今からその元凶となる15日ほど前にちょっと遡ってみよう





そう あのいつもの変わらないはずの15日前
船は航海士ナミの指示のもと順調に帆を張って航海していた

「おかしい‥」

事の始まりは優秀なコックのつぶやきから始まった

「どうしたの サンジくん?」

その一言が気になり仕事の手をふと止める航海士
その隣にはトレーニングを終え一息ついた剣士が片手にジョッキを持って立っていた

「いえね‥ナミさん‥ この鍋の中身が‥入れたはずなんスけど‥」

「ないの?」

「つくってねぇんじゃねぇか?」

「うるせぇ クソまりも 間違いなく出来上がってここに入っているはずなんだ 見ろこの鍋の中を」

そう言いコックは空の鍋をテーブルの上に置く

「本当だわ‥ 今日はシチューだったのね」

確かに鍋の縁にはシチューが冷えて固まったかのような跡があった

「なんでねぇんだよ?」

「そりゃこっちのセリフだ」

そこまで言うと三人はふといつもの結論に達する

「ヤツね‥」

呆れたように船首で釣りをしている容疑者を一瞥する

「いや それが」

慌ててコックが止める

「今朝から‥このシチューが出来てから あそこから離れてないですよ ヤツは 」

「ならテメェがボケただけだ どっかに移し変えたんだろ」

「何を‥ おめ〜には言われたかねぇよ 迷子君が! ‥
それに そんな事してね〜から おかしいんだよ!」


前兆はここからだった

結局コックは一戦交えつつシチューを作りなおし 昼に備えることとなった


次の事件は夕方

ロビンは倉庫の前でウソップとチョッパーの釣り談義に耳を傾けていた (正確には聞かされていたのだが) 船首の特等席に船長

「あら?」

「なんだ? 何か質問か?」

「違うわ 倉庫のドアから何か出てるわ‥?」

「? ホントだ 何だありゃ?」

「‥動いてる‥何かしら‥太い‥紐みたいだけど」

その物体は倉庫のドアから海へと続いていた
ロビンは近寄りそれを触ろうとしたそのとき
目の前の物体は一瞬で海の中へと潜ってしまった

「新しい生物かもしれないわ‥」

なにやら感慨深げなロビン
この新生物発見の情報は瞬く間に船内に広まったが
ま グランドラインだからな
ということで片付けられていた


その夜
明日の仕込みのための食材を取りに行ったサンジが見たものは‥
空っぽの食材の空き箱が無数散らばる現場であった
勿論すぐさま 非常召集がかけられたのだけはいつもの事であった

「てめぇが犯人だってのはわかってるんだぜ ルフィ‥」

まるで取調室のようなキッチン

「お オレは何もしてねぇ!!」

にしては目が泳いでいる最重要容疑者

「ウソつけ! おめぇしかこういうことはしねぇんだよ!」

「オレがしたっていう証拠があるのか!」

「『証拠』なんて高級な単語つかうんじゃね〜よ!
大体な! あの食材は特別モンだったんだぞ!! 今回は絶対許さん!!」


「なぁなぁ 今日見た新しい生物が食ったのかもな!」

とチョッパーがロビンに尋ねる

「そうね‥」

「しかしよぉ〜 そんな話今まで聞いたことねぇよ」

「グランドラインだからな!!」

いばる船長

「てめ〜は黙ってろ!」

その様子を寡黙に見つめていたナミとゾロ

「‥おかしいわね」

「何がだ?」

「今日に限ってあいつ一度もサンジくんのところにつまみ食いに来なかったわ‥ 」

「そういやそうだな あいつ今日釣りに熱中していたみたいだからな」

そのゾロの一言に何か思うことがあったのか

「‥ねぇサンジくん もういいわ 今日のところはルフィを帰してあげましょう
残った食材はまとめてキッチンの床下に入れておけばいいし」

「くっ クソゴムめ‥ ナミさんに救われたな‥」

不承不承 ルフィの襟口からサンジが手を離すと なにやら口元によからぬ笑みを浮かべ さっさと船室に戻る船長


その夜 草木も眠る丑三つ時

「もうそろそろね」

「なぁナミ本当に来るのか?」

「絶対来るわ」

真っ暗なキッチンに潜むナミとチョッパー

キィ‥

ドアがかすれる小さな音と共に 太い紐のような物体がキッチンの床に這ってきた
キッチンから外を見ると その物体はどうやら男部屋へと続いている

「やっぱり‥」

自分の勘が当たってしまった事にうんざりしながらため息をつく
そして その紐が床下のハンドルを握ったところで ナミは立ち上がりキッチンの明かりをつけた
その瞬間 気配に気づきあわてて引き返そうとする紐 
が 数十本の床から生えた手に取り押さえられる

「さっきは逃がしてしまったけど 今度はそうはいかないわ」

キッチンへと入るロビン


そしてここは男部屋
階上から聞こえてきたチョッパーの床を叩くひづめの音を聞くと
ゆらりとたちあがる数人の人影

ハンモックでその影を背後に感じつつ体をこわばらせる ある人物

「クソ‥てめぇ これで現行犯だ!」

そう言ってコックが船長の肩をつかみ 向き直させたその顔は‥!!!





「しかし‥ありゃぁ 一生忘れねぇ」

時間は今に戻り再びやつれた3人組のいるキッチンに場所は移る

「ルフィか‥」

「‥いくらゴムだからって ひひっ」

「言うなウソップ‥ また笑っちまうだろ‥余計なエネルギーはもう使えねぇんだ」

「くっ、くく‥だってよぉ」

肩を振わせ始めるチョッパー

「‥エッエッ‥」

「あんなトコが伸びるなんて‥」

「くっ、くく‥クソ‥また思い出しちまったじゃね〜か‥くく‥」

「ひひ‥ひっひっひっ‥」

「エーッエッエッエッ」

「ひひ‥」

もうまともな思考がない三人はそのときのルフィの顔を思い出し
またもテンパってしまった

そう
犯人は自分が伸縮自在の体という利点を生かし
伸ばしていたのであった

口 そのものを
正確には鼻から下というものだが
それもチューvvなどという可愛らしいものではなく
数十メートルも唇とその周りを伸ばすという新技を開発したのだ

それは例えるなら顔面掃除機 または人間バキュームカー‥
この技は本体は動かずこの一部分のみの移動によって自己のアリバイを確立するという
ルフィにしてはかなり高等知的(?)な技である
しかも口が動けばそのまま食物を飲み込むだけであるワケで
サンジのシチューもキッチンの窓から侵入したソレが吸い上げ
倉庫の食料もわざわざ本体の位置をごまかすため一度海にもぐってドアから侵入 したのだ
素晴らしい肺活量とその筋力‥

本人によれば これは元に戻るときの衝撃の痛みに耐えての男気ある技らしいのだ‥
しかも 吸い込みすぎると少々過呼吸を起こしやすいという欠点がもれなくついてくる
犯行を現行犯で捕らえられサンジに首根っこを抑えられたルフィの顔は
鼻から下を異常なほど伸ばしきった なんとも情けないその姿で
何人かが笑い転げる中

「‥ひょっとこだ」

というゾロのげんなりとしたマニアックな感想そのものだった


「私‥あんなところ掴んだの始めてよ‥」

「そう‥これからはちょくちょくあるかも そのときはお願いね」

「あなたも苦労するわね‥」

その晩は悪夢のように過ぎたが結局食料は大幅に減ってしまい
かといって進路を戻し海軍ひしめくアルバーナに戻るわけにはいかず
こうして次の島に望みを託してただ前進するのみであったわけで
残り少ない食料を女性陣優先にと考えたコックの案により
ルフィはその罪深い口で全身ををぐるぐる巻きの上固結びもされてしまい
その見張り役にゾロを立てていたのだが流石に迫り来る空腹には勝てず
両人ともに力尽き干からびてしまったのだ
勿論ゾロ的には非常に不本意だったのだが 彼に発言権は無く
魚も釣れない 鳥も飛ばない みかんもなってないという大恐慌の中
今のこの現状にいたったわけである





さて クルーの体脂肪率どころかIQまで低下しつつある船に
今メッセージとともに大荷物をペリカン数羽が運んできた



グランドライン ゴーイングメリー号行き


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ナミさん お誕生日おめでとうございます
このメッセージがちゃんとお誕生日に届くかどうかちょっと心配ですが
こちらを出たばかりなので 何とか着いてくれるだろうと思います
今ごろきっとみんなからバースデーを楽しく祝ってもらっているのかしら?

本当におめでとうございます ナミさん
素敵なバースデーでありますように


PS.一緒に送らせていただいたプレゼント
ちょっとパーティをにぎやかにするお手伝いをさせてください
旅の安全を祈ってます 皆さんにもよろしくお伝えください
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やさしい流れるような筆記と文章 差出人は書かれてはいないが 
カードの裏のX印にナミは苦笑する

「そうか あたし誕生日だったんだ」

荷物の中身は 特大のケーキとアルバーナの保存料理
そしてコックが踊りだすほどの食材



このゴーイングメリー号始まって以来 最凶のアクシデントを救ったのは
この時期にバースデイを授かったナミに対しての
やさしいどこかの国の王女のあたたかな贈り物だった





ただケーキばかりは食べられたものではなかったが‥





END




 

<管理人のつぶやき>
衰弱しきっているクルー達。イッちゃってる会話(笑)。一体何が起こったのか・・・?というところから物語は始まり、段々と食料危機なのだと理解できますが、それでも、その原因は何なのかは分からない・・・。
申し訳ないですが、ルフィの人間バキュームカーには大笑いさせていただきました(T▽T)。謎の究明にはナミの機転がキラリと光っていましたね。ロビンも大活躍!
そして何よりもこの危機を救ったのは、今は遠くにいるビビの、ナミの誕生日への贈り物でした。

当サイトでカウンタを踏んでくださったことでお知り合いになったマッカーさんが、投稿してくださいました。私、けっこうそそのかしたかな?(笑)
マッカーさん、楽しい作品をどうもありがとうございました!

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