等。

mariko 様




 「じゃ、ゾロ! あとよろしくねv」

 「へーへー」






ナミはにっこり笑ってそう言い残し、女部屋から出て行った。

残されたゾロは頭をボリボリ掻きながら見送り、それから部屋を見渡して溜息をついた。





昨日の夜のことだった。

2人でキッチンで酒を呑んでいて、何のきっかけだったか呑み比べになった。

ナミが持ってきたものはなかなか度数の高い酒で、
その日は嵐もあって、ゾロは結構な体力を使っていて――。

結果、ゾロはナミに負けた。
正確に言えば、翌朝にゾロよりも先にナミが目覚めたのだ。
どっちが先にオちたのかは実際は分からない。
だがナミの方がゾロに向かって笑顔でおはようと言った時点で、勝敗はついた。


負けたゾロには女部屋の掃除が言い渡された。

本棚の本を全て出して棚のホコリを拭いて、それぞれの表紙も空拭きして。
それをまた元のように綺麗に並べること。
続巻の順番がズレてたりしたら、気を利かせて並べ替えること。

ナミの命令にゾロはいやいや頷いて、こうして女部屋に一人残された。




しばらくは真面目に作業をしていた。
ゾロですら見上げるような高さの一番上から始めて、今ようやく腰のあたり。
それでも、この部屋にはまだ他に棚はたくさんある。

ゾロはまた深く溜息をつき、休憩だ休憩と一人呟いて勝手にナミのベッドの上に転がった。


頭に巻いたバンダナを外して放り投げ、目を閉じる。
嵐の中で働いて、強い酒をしこたま飲んで、その翌日にこの飽き飽きする作業。

その瞼が落ちてきても、責められる言われはなかった。

















頭に鈍い衝撃を感じて、ゾロは目を開けた。

視界にうつるのは見たことの無い景色。
天井がやけに狭い上に、両脇の壁のかなり狭い……。
あ?と小さく呟いて体を起こそうとするが、上手く動かない。

そこでようやく気付いた。

ベッドと壁の間に、挟まっている。



 「…………」



ナミの部屋の掃除をしていて、そのまま眠ってしまって、ベッドからずり落ちて頭を打って目が覚めた―。
なるほど、と納得してゾロが抜け出そうとしたところで、
ガタリと階段の上の扉が開く音がした。



何故か反射的にゾロは体を倒して身を隠してしまった。
入ってくるのがナミだった場合、サボっているのがバレるのが怖かったのだ。
だがこんなトコに挟まっているのが見つかればどっちにしろ怒られる。

扉を開けた人物はトントンと軽快に階段を下りてきている。

うーむ、と心の中で唸りつつ仕方なくゾロは気配を消した。




 「ゾロ?」



その人物はやはりナミだった。
ナミはキョロキョロと部屋を見渡し、ゾロの姿を探す。

素直に返事をすべきかどうしようかゾロが迷っている間に、ナミは「いないの」と勝手に結論づけた。



 「まったく…途中で放ってどこ行ったのかしら」



声にはさほど怒りは混じっていない。
これならイケるか?とゾロはこっそりと頭を覗かせた。


この日の朝は少し空気が冷たかったが、陽が昇るにつれ気温も上がってきたらしく、
いつものキャミソールの上にシャツを羽織っていたナミはうっすらと汗をかいていた。
ベッド側に背中を向けて立ち、手をパタパタと振って顔を扇いでいる。
その背に声をかけようとした瞬間、ゾロはすぐに頭を引っ込めた。

ゾロがいないと思ったナミは、ふぅと息を吐きながらそのシャツを脱ぎ始めたのだ。


脱いだところでいつもの服装なのだ。
別に戸惑うことではないのだが、自分の存在を知らない状態でとなるとまた話は別だ。
何となく…悪いことをしている気がする。

アホかおれは、と心中でツッコミをして、今度こそゾロは立ち上がろうとした。
だがそれを制するナミの独り言が耳に飛び込んできてしまった。



 「着替えよっと」



その声に続き、じぃ、とファスナーを下ろす音がする。



ヤバイ。
出るタイミングを失った。

ゾロはベッドと壁の間で気配を殺しつつ、頭を抱えた。


静かな室内に、パサリと布が床に落ちる音がする。

どう考えても、あのバカみたいに短いスカートを脱いだ音だった。



ヤバイヤバイ。
今起きた、というフリをして出ることもできなくなった。
スカートを脱ぐ前だったらそれでイケたのだが、最早手遅れ。

ゾロが一人後悔している間に、さらに布の音が部屋に響いた。








こうなったら、寝よう。
あいつが着替えて出て行くまで、おれは目を覚まさなかった。
よし、それでいこう。

ゾロがそう決意して固く目を閉じると同時に、ギシリとベッドが軋む音がした。
それから頭上がふっと暗くなる。

嫌な予感を抱きつつ、ゾロはゆっくりと目を開けた。





 「……あんた、ソコで何やってんの?」

 「…………」




上下とも黒い下着姿のナミはベッドに四つん這いになって、壁との間で不貞寝しているゾロを見下ろした。

ナミを見上げたゾロはその格好に気付いて慌てて目をそらし、壁の1点を睨むように見つめる。



 「てめぇが着替え始めるからだろ…」

 「てか、ずっとソコにいたの?」

 「うるせぇ」

 「狭いトコのが好きなの? ネコみたい」

 「うるせぇ! 悪いか!」



ずり落ちたとは言いづらく、クスクスと笑うナミにゾロは誤魔化すように声を張った。

チラリとベッドの方を見ると、やはりナミは下着姿で座り込んでいる。
ゾロはクソ、と呟いてまた壁を見る。



 「さっさと着替えろ!」

 「あ。 あんた見たわね」

 「てめぇが勝手にンな格好でいるんだろうが! 早く着ろ!」



腕を下ろしてツンツンと頭を突付いてくるナミの指を払いのけながら、ゾロは顔をうっすら赤くして目を閉じた。



 「あんたも見せなさいよ」

 「…………は?」



その言葉にゾロは思わず目を開け、下着姿のナミを思いきり見上げてしまった。

相変わらず巨乳だな、などと思う暇もなく、
細腕からは想像もできない力でゾロはズルズルとナミの手によってベッドの上に引きずり出された。

目を丸くして言葉も出ないゾロを無視し、ナミはその上に馬乗りになる。
もちろん、下着姿のままで。



 「私だけ見られて、あんたはそのまま帰るつもりなの?」

 「いや見ては……」

 「今もまさに見てるじゃないの。 いいからさっさと脱ぎなさい!」

 「おゎ!! ちょ、待て!!」










 「……何してるの、貴方たち?」

 「あ、ロビン」

 「おい!! こいつ止めてくれ!!!!」




女部屋に下りてきたロビンが目にしたものは、
ベッドの上でナミに押し倒されて、腹巻ごとシャツを捲り上げられているゾロの姿だった。

頬に手を当て首をかしげ、ロビンは2人の姿をまじまじと見つめた。
ナミは顔を上げて、ゾロの上に馬乗り状態でズボンに手をかけたまま楽しそうに笑った。




 「ロビン、手伝って! ゾロがナマ着替え見せてくれるってー!」

 「あら、面白そうね」

 「おい!!!!?」



ロビンはふふふと笑って、両手を胸の前で交差させる。

床からにょきにょきと咲いた手に両手両足を拘束されたゾロを見下ろして、ナミはニヤリと笑った。



 「お、おれはどっちか言うと、押し倒されるよりは押し倒したいタチなんだが…!!」

 「そんなの知らないわよ、観念しなさい」

 「イイコだから大人しくしててね?」

 「やーーーめーーーろーーーーーー!!!!」





珍しく、ゾロの悲鳴がメリー号に響き渡ったある日の午後。




FIN




 

<管理人のつぶやき>
タイミングがどんどん悪くなって、出るに出れない、言い出すに言い出せない状況って実際にありそうですよね(笑)。
それにしても・・・想像してみましょう。壁とベッドに挟まれてるゾロ。しかもナミにそんなところを見つかるまいと息を殺してるゾロ。・・・・・可愛すぎる!!ナミとロビンがいじりたくなるのもワカルよ(笑)。

海賊の隠れ家様のゾロ誕企画『緑祭2006』では、恒例の小説のリク募集をされました。
私のリクは「ナミの生着替えを覗き見しちゃったゾロ」。なんつーかもうー(笑)。
これをまた見事に書き上げてくださったmarikoさん、どうもありがとうございました!!

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