向。

mariko 様




 「ゾロ、さっさと部屋に運んで」

 「てめ、これ荷物持ちがいるからって絶対必要以上買ったろ」

 「何言ってるの、私は無駄なお金は使わないわよ」



港につけたメリー号の甲板に上がったナミは、
後ろから大荷物を抱えて同じようにはしごから甲板に足を下ろしたゾロを睨む。



 「あーーいっぱい歩いたら喉渇いちゃったー。 サンジくんにドリンク貰おうか?」

 「賛成」



ゾロはふーっと大きな息を吐いて一旦荷物を甲板に置いた。
ナミがにっこりと笑って、キッチンへと行くために階段に足を向けたが、ふと違和感を感じて立ち止まる。



 「……何か、静かじゃない?」

 「あぁ…?」



2人は目を合わせ、口を閉じる。

確かに、ウソップが発明作業をしている音も、サンジがキッチンでおやつの準備をしている音も聞こえない。
もちろんルフィたちが騒いでいる音も。

ゾロはナミの隣に立ち、それからマストへと近づいた。



 「ゾロ?」




マストの前に立ち止まったゾロのあとをナミも追いかける。
ナイフでマストに突き刺されたその白い紙をゾロは千切り、目を通した。
ナミもそれを横から覗き込む。



 「……何の冗談?」

 「さぁ……でも今この船に人の気配が無いのは確かだ」



ゾロはその紙を握りつぶし、甲板をグルリと見渡した。

荒らされた跡も戦闘の形跡も無いが、いるはずの船番の気配も無い。


ナミはゾロの手からくしゃくしゃになった紙を取ってまた広げた。




 『残りのクルーは預かった。返してほしくば港倉庫A−12に来られたし』




ナミは声に出してそれを読み上げてから、またくしゃりと丸める。



 「海賊を誘拐するなんてふざけた真似してくれるわね」

 「しかし『残りのクルー』って…あいつらが大人しく捕まるとは思えねぇがな」

 「じゃあ罠?」

 「さぁな、まぁ行ってみっか」

 「そうね」












ナミの案内で2人は『A−12』と大きく書かれた倉庫の前に立った。

そろそろ日が沈むこの時間の倉庫街はしんとしており、A−12倉庫も物音一つしない。
2人は顔を見合わせ、それからゾロが錆びた音をさせて扉を開く。


窓という窓を閉じきった倉庫の中は暗く、
開いた扉から夕焼けの太陽の光が差し込んで、一人の人間の足元を2人の前に浮かび上がらせた。

ナミはじっとそれを見つめ、ゾロも険しい顔で片手を刀の鞘においてその人物を睨んだ。


扉を全開にしたゾロは、少しだけナミの前に出て立ち止まる。




 「思ったより遅かったですね」



暗さに目が慣れてきた2人は、倉庫の中に佇んでいる人物の姿を確認することができた。


コツリ、と高い靴の音をさせて、その人物は一歩2人に近づいた。




 「誰だてめぇは」




2人の前に姿を現したのは、男だった。
身長はあるが線が細く、まるで女のようなきれいな顔をしていた。
サンジより少し長めのブロンドの髪はさらさらとして、これでもう少し背が低ければ女と勘違いするものもいるだろう。



 「ルフィたちはどこ?」

 「彼らなら、うしろに」



ナミが尋ねると、男はにっこりと微笑んで親指で自分の背後を示した。

ゾロとナミが目をこらすと、倉庫の中央になにやら塊のシルエットが浮かんでいる。
よく見れば、ロープでひとまとめにグルグル巻きにされた仲間の姿がそこにあった。

ルフィ、サンジ、ウソップ、チョッパー、ロビンまでもがまとめて拘束されて座り込んでいる。




 「何やってんだ、てめぇら」

 「いやー、悪ぃ悪ぃ」



ゾロが呆れた声を出すと、ルフィは呑気にそう言って笑った。
サンジもその隣で肩をすくめ、ロビンはいつもの笑顔を向けてきた。
仲間のその姿に、ゾロとナミは大きく溜息をつく。




 「…さて、何が目的だ?」

 「身代金ならビタ一文払わないわよ?」



ゾロは男に目を戻し、睨みつけながら低く言った。
同時にチャキ、と音を立てて刀身を覗かせる。
ナミもその隣で腰に手を当て、にっこりとだが冷たい顔で微笑んでみせた。




 「……あなたですよ」



男は答えた。

2人をじっと見つめながら、頬を染めて。



その姿に、ゾロとナミは揃って眉間に皺を寄せて横目を見合わせる。





 「手配書を初めて見たときから、ずっと逢いたくて……」

 「「……はぁ?」」



2人は首をかしげるが、男は自分の世界にひたっているのか目を閉じてうっとりとし始めた。



 「オレその手配書何枚も持ってて、それこそ穴が開くほど見つめてて…。
  港の船に麦わらのマークを見つけたときは本当、嬉しくて死んじゃうかと思ったんだ…」

 「…………」




男が何やら陶酔して話すのを聞きながら、刀身をおさめたゾロは隣をちらりと見下ろした。
それに気付いたナミも目を上げて、肩をすくめる。
フンと鼻を鳴らしたゾロは顔を逸らし、いまだうっとり継続中の男を睨む。




 「もちろん、あなたにはもう相手がいるって知ってます…。 隣にいるその人ですよね」



男は目を開けて、ゾロとナミに向けて少し顎を出す。
2人はまた顔を見合わせ、片眉を上げた。



 「こんな乱暴なことして申し訳ないと思ってます。 だけど一目逢いたくて…」



男はそう言いながら顔を赤くして俯いた。

ポリポリと顎を掻いて、ゾロはナミの見下ろす。



 「……どうする?」

 「どうするも何も…どうしよう?」



困ったわね、と言いながらもナミはまんざらでもない様子だった。
それが気に食わなくてゾロはじろりと男を睨む。


それと時に男の目は鋭くなり、2人に向かって声を張った。



 「でも!! 隣のヤツよりオレの方がずっとずっとあなたに似合うと思う!!」

 「あぁ?」



ビシリと指を突きつけてくる男の発言を受けて、ゾロの顔がさらに険しくなる。
額に血管を浮かばせ、再び刀に手をやって凶悪なオーラを纏う。



 「まぁまぁゾロ、落ち着いて…」

 「ロロノア・ゾロ!!!」



ゾロの腕に触れながらナミが小声で話しかけるが、それをかき消すように男の声が倉庫に響いた。

男とにらみ合いながらゾロは再び刀身を光らせる。







 「あなたが好きだーーーーーー!!!!!」




 「「……………は?」」

















静かだった倉庫は、一転して騒がしくなった。

それに構わず、ナミは太腿に忍ばせていたナイフを出してルフィたちを縛っていたロープを切る。



 「んナミさんありがとぉーーーーvvv ごめんよ面倒かけてーーーvv」



ようやく解放されたクルーはそれぞれ伸びをしたり手首を回したりしながら立ち上がった。
サンジはいつものように目をハートにしてナミの前に跪いたあと、
今度はロビンの傍に行きロープの跡がついていないかその細い手首を入念にチェックしていた。


ゾロはというと、逃げ回っていた。




 「近寄んな!!! 叩っ斬んぞ!!!!」



倉庫の中を走るゾロの後ろを、男が満面の笑みで追いかけていた。



 「斬るって、その刀で!? あなたがいつもその口に咥えてる刀で!!?」

 「だから近寄んなって!!!」



ゾロは急停止し向きを変え、和道一文字を抜いて男を睨みつけた。

並みの神経の者ならそれだけで腰を抜かせてしまうようなその姿を前にしても、
男はひるむ様子も無く胸の前で手を組んでうっとりとゾロを見つめる。




 「あなたの半身とも言えるその刀がオレの服を切り裂いてオレの肌に触れて肌をなぞって……
  あぁ是非とも斬ってくださーーーい!!!!」

 「……寄るなーーーーー!!!!!」



ぞわぞわと全身に鳥肌を立てたゾロは、ひくりと口元を引きつらせて再び走り出した。








 「ところであんたら、何でこんな大人しく捕まってたの?」



ナミはゾロの逃げ惑う姿からルフィらに視線を戻し尋ねた。
ルフィらはそれぞれ顔を見合わせて肩をすくめる。



 「だって、なぁ…」

 「なぁ……」

 「…何なの?」

 「泣くんだもんよ、あいつ」





男はさめざめと泣きながらメリー号に現れた。

この船のクルーに一目惚れをした。
どうこうなりたいとは思わない、ただこの想いを伝えたい、と訴えた。

あの人を想うと胸が苦しくて夜も眠れない、食事も喉を通らない。
自分の乗っている商船が寄ったこの港で偶然出逢えたのは運命だ。
だから船が港を離れる前に一目逢って想いを伝えたい。

恥ずかしげもなくそう語る男を見ながら、ルフィらは戸惑っていた。
相手がナミだと思ったサンジは激しく抗議したが、女のような顔でしくしくと泣く男の姿に気勢をそがれてしまった。
結局伝えるだけならまぁ…と流されたクルーたちに、男はお礼を渡したいと言って倉庫に連れ出した。


窓という窓を開放したその倉庫の中は明るく、怪しい空気など微塵も無かった。
ただ倉庫内の中央にあからさまに置かれた肉や本や目新しい食材にはどう見ても違和感があったが、
麦わらクルーは基本的にあまり危機感を持たないのであっさりと中に入ってしまった。
彼らが肉や本に夢中になっている隙に、男は長いロープを取り出して素早くクルーをまとめて縛り上げた。

当然、麦わらクルーがそんなモノで拘束されるわけはないし、
その気になれば一瞬で縄を引きちぎり男をノすこともできた。
だが男はこのときも豪快に泣きながらグルグルと彼らを縛り、しかも「ごめんなさいごめんなさい」と謝ってくるので、
結局クルーは抵抗する気力が失せ大人しく捕まっている事にした。

どうせ残っているのはゾロとナミ。
ある意味、メリー号最強コンビなのだ。
もしこの男がウソをついていて単なる賞金稼ぎだったとしてもゾロとナミの2人なら何とかするだろうし、
当然そういった状況になればこんな拘束など彼らには何の意味も持たないのだ。





 「で、美味しくお肉をたいらげたあと大人しく待ってたってわけ?」



まわりに散らばる骨を見下ろして、ナミは溜息をついた。



 「全く、面倒ごと増やさないでよね」

 「だってしょうがねーじゃん、アイツが告白したいっつーから」

 「……告白、ね…」




ナミは再びゾロに視線を戻す。

いくら刀を見せ付けても男はひるむ様子もなく、
最早『一目逢いたい』のレベルを超えてゾロに襲い掛かろうとしている。

ゾロは青ざめた顔で相変わらず全身鳥肌を立てて逃げ回っている。






本を抱えて微笑んでいたチョッパーは、とことことナミの傍に駆け寄ってその顔を見上げた。



 「……助けないの、ナミ?」

 「……何かムカつくから、しばらくいいわ」




傷ついた女のプライドが癒えるまで、ナミはゾロの助けを求める声を聞いて聞かぬフリをした。




FIN




 

<管理人のつぶやき>
ゾロとナミが二人で出かけてる間に、最強を誇る麦わら一味が攫われた!
一体なにが起こったのか、何者の仕業なのか・・・・と思いきや、ワハハハハハ!た、たまりません、なにこの可笑しさーーー!!
なよっとした男がいきなり現れて、さめざめと泣きながら懇願してきたら、そりゃルフィ達でなくても困惑したことでしょう(笑)。

海賊の隠れ家様のナミ誕企画『橙祭2007』では、今年も小説のリク募集をされました。
このたびの私のリクは「ゾロとナミが協力して仲間を助ける話」でした。。
サイコウに面白かったです!marikoさん、どうもありがとうございました!!

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