あの時は、びっくりした。

こんなに綺麗な青い海はドラム島にはなかったからさ。
なんだろ、おれはあんな実を食べてしまったから泳げないけれど。 泳いでいる魚が浅瀬にたくさん見えるとドキドキした。

だってさ、もうおれは海の中にいるみたいだったから。

「チョッパー」


ん?ドキドキしてたら、誰かがおれを呼んだ。
2回目でその声が誰だか、すぐにわかったけどね。


「おいで、チョッパー」









<キミノ オト ボクノ オト>

MOMO 様





どうして偶然見つけた小さな小さな無人島に寄ったのかといえば、答えは簡潔だ 。
この島の砂浜と浅瀬が続く海岸があまりにも綺麗だったからだ。

「うおっーー!でっけえ陸亀!おい、ナミー!亀を追うぞ!」
「追ってどうすんのよ」
「馬鹿だなお前、竜宮城ってのががあるに決まってんだろ!」
「・・そうね、ええきっとそうよ、決まってるわ」

同意している割に、ナミはどこか遠くを見つめている。

「そんでもって、きっとお姫様って奴が眠ってるんだよ!ワクワクすんな!
ビビみてぇにやっぱ髪の毛長いのかな!な!な!ってばよ!」
「・・・メルヘン馬鹿」

ナミがボソリと呟くと、おお!ルフィの新しいあだ名だ!と仲間達が歓声に沸く 。

ここはルフィが全速力で走れば、恐らく一時間ほどで一周りできる孤島。

小さなマングローブの森が砂地に密集しているくらいで、山も無い。


「すぐに発つわよーーーー!」


ナミの忠告にルフィとウソップの小僧コンビは手を振りながらも、長い長い砂浜を裸足で駆け出しすでに豆粒ほどの大きさになってしまった。
サンジは仕込み途中のコンソメスープから目が放せないのか、厨房に戻ってしまった。
いつの間にか、甲板にちゃっかりパラソルとロングチェアをセットして、バカンス気分なのは超マイペ ースのロビン。
ナミは「もう」と笑いながらやんちゃな小僧達を見送る。
そして、ふと傍で熱心に身を乗り出して海の底を眺める船医に視線を送った。





すごい!すごいよ!小さな魚もたくさん集まると大きな魚みたいに見える。
あれはエイかな、小さいけど群れで泳ぐんだ。空飛んでいるみたいだ。
ちいさい亀もいるぞ!すごい、おれ本当に泳いでる!

「おいで、チョッパー」

?なんだ、ナミか。
おれは傍に居ると思っていたナミの姿を探した。

けど、いない。どこから聞こえてきたんだ?

「こっちよ、下!下だってばー」

ナミはいつのまにか、梯子を降り、膝上ぐらいまでの浅瀬の海に足をつけて両手を広げている。

「?なんだよ」
「そこから飛び降りなさいよ、受け止めるから。浜へ行ってみない?」
「いっいいよ、梯子使う!」
「あんたの短い足だと大変でしょ、私を信じなさいよ」
「・・・・そのまま海に落とすなよ」
「ちょっと、随分な言われ様ね」

だってさなんだか・・・
結局ナミに抱えられて浜へ行くのは照れくさかったけど、すごく近くで
海面を見ると余計に綺麗で、おれは「凄い凄い」の連発だった。
きっとおれ、興奮して体をバタバタさせていたんだろうな、ナミが笑ってた気がする。

「はいー、到着!」
「ありがとな!ナミ!」
「いえいえ」

おれ達は熱くて白い砂浜へ着くと、早速たくさんのさんご礁の死骸や貝殻を拾った。
これはナミとおれが共同で製作中の貝殻のテーブルの材料だ。
古い小さなテーブルにたくさん貝を貼り付けるだけだけど、もう少しで完成するのでおれもナミもワクワクしてる。
前にゾロが「イボイボで気持ち悪い」と嫌がったから、二日間ナミに口をきいてもらえなかった。
いろんな島のいろんな貝殻でつくるテーブルなんて海賊じゃなきゃできないよな。
ゾロには「ロマン」ってものが無いんだな。

「今回は大収穫だわね〜」
「そうだな、これで完成するかな」

俺が脱いだ帽子に二人で両手いっぱいの貝殻を詰め込む。
さんご礁がシャラシャラと音をさせて気持ちいい。

しばらく、砂浜で座ってザザーンって音をたてる波をみていた。
上空を飛んでる海鳥がクーッって鳴いてる。
遠くでウソップの叫び声が聞こえた気がしたけど、気のせいかな。

「ねえ、なんて言ってるの?あの鳥」
「暑いなあって」
「・・・そのまんまね、つまんないの」
「ナミの村もこんな感じの海だったのか?」

おれのいきなりの質問に少しびっくりしたナミは、しばらく黙ってたけど笑って答えてくれた。

「そうね、私にとっては最高に綺麗で大好きな海と島よ」
「そうか」
「うん」

そう言うと、ナミは服なんて気にしないでゴロンと寝転ぶと両手を広げてうつぶせになった。砂浜に耳をつけて、おれの方に顔をむける。気持ちよさそうにしばらく目をつむっているから、おれも話すのをやめて、また波をみていた。
白波が次から次へと浜へ打ち寄せるのが不思議で面白い。浜までたどりつくと、消えてしまうのに、また後から新しい波が産まれてる。

すこし遠くで錨を下ろしているメリー号に赤いパラソルが咲いているのを見ながら、ただ波の音と時々鳴く海鳥の声だけを聞いていた。
いつも騒がしい中にいるから、こんな時間が少し不思議な感じがする。

「チョッパー」

寝てしまったのかと思っていたナミが目をつむったままおれをまた呼ぶ。


「?」
「こうしてごらん」
「ナミみたいに?」
「そう、大の字に寝て、耳をつけて」

よくわからないけど、ちょっと気持ちよさそうだったから真似してみたんだ。

「・・・・」
「・・・・」

またナミは黙ってしまうから、おれはそのまま耳を澄ませて目を閉じる。












不思議だなあ・・・・







波の音が凄く近くて
まるでおれの中から聞こえてくるみたいだよ
それにおれの心臓の音なのか この砂浜の音なのか トクトクって聞こえる
なんだろ、この島の音かな
それにさっきより、ずっとこの島にいるって感じがする
砂は少し熱いけど、いろんなものと一緒になってる気もする


「わかる?」

ナミが小さく呟いた。

「・・・・うん」
「チョッパーの音も聞こえるわよ」
「うん、ナミの音も聞こえる」

いろんなトクトクって音がするよ

「こうやって島に挨拶するの」
「挨拶?」
「そう、はじめましてー、よろしくーって」
「また来るよって?」
「そうね」

ナミは目を開けて、少しだけ微笑んだ。


「一人だった時もね、こうやってこっそり挨拶するの。  
そうするとね、その島と仲良くやれるの。」
「仲良く?」
「そ、その島でのお宝盗みも成功したわ」
「・・・そっそうなのか」

おれが戸惑ったのが可笑しかったのか、ナミが笑う。

「この島の音がするでしょう?」
「いろんな音がするからなあ、どれだろう」
「チョッパーが決めればいいのよ」
「おれが?」
「そう、この音は私、この音はこの島、これはチョッパーって」
「ふーん」

今までにもナミに教わったことはたくさんある
航海術や天候のこと、みんなの性格や蜜柑のこと、地図のこと
海のことや、こんな島の音 たくさんあるなあ・・・
おれはその度に感心して、もっともっと教えて欲しくなって
もっともっとナミを好きになるんだよ

「ナミ」
「ん?」
「ナミの音は優しいな」
「やーね、口説いてるの?」
「わかんないけど、ありがとう」

すこし手を伸ばすと、ナミが答えるように握手をしてくれた。

「変なチョッパー」
「・・・うん」

そのまま おれ達はまた目をつむって島の音を聞いていた。
ルフィーとウソップがへんてこな蟹を捕まえたと走り戻ってくるまで。





*********





その夜の食卓にはコックご自慢のコンソメスープが並び、見事に赤くボイルされた蟹が花を添える。

「いやあ、お姫様はいなかったけどよ、蟹がいたからヨシとするか」
「おまえのヨシの判断はどこにあんだよ」

その蟹を獲る際に見事に鼻をハサミで掴まれたウソップが、恨みたっぷりに蟹に食いつく。

「うめえっ!」
「馬鹿、俺のボイル加減がばっちりなんだよ。ささ、ナミさん、ロビンちゃん召 し上 がれ〜」

一斉に騒がしいいつもの夕食が始まると、チョッパーは中央にある蟹を頂戴しようと短い手を懸命に伸ばしす。それに気づいてか、一本の太く長い腕がその蟹の足をひょいと取上げると、チョッパーの目の前まで持って来てくれた。

「あ、ありがとう・・・ゾ」

しかし、悲しきかな その蟹は見事に本人の口にバリッと音をたてて収まる。

「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」

その光景に一瞬、食卓の空気は凍る。
こんな事はルフィやウソップにやられる日常茶飯事だが、今日は相手が違うのだ 。

「ちょっと!」

ナミがゾロの腕をつねる。

しかしゾロは黙って、次々と蟹に手を伸ばし、負けじと参戦するルフィと競り合いになっている。チョッパーは今の仕打ちに唖然とし、むしろこんな騒動に叱咤する役のゾロの奇怪な行動に眉をひそめる。しかし、すぐにその原因は解明された。
呆れるナミの横で仏帳面の剣豪は、サンジの罵声などもろともせずに一番美味いはずの蟹の爪を口に放りこんだ。バリバリと恐ろしい音をたてて、酒と共に自分の胃袋に流し込む。そのヤケッパチの行為にさすがのルフィもその姿を凝視した。

「そっ・・そうだよな。イライラすん時は殻も食べたほうがいいぞ。な、チョッパー」
「う、うん」



―あの時、ゾロは甲板で日課の昼寝に没頭していたはずだけど もしかしたら



「・・・なあ、ヤキモチってこれのことか?」




爆弾のスイッチは押された。





ゾロが投げた皿の割れるおと

ルフィの笑うこえ

ナミがゾロの頭を殴るおと

おれが逃げる足おと

ロビンが吐くため息

ウソップが叩くフライパンの応援のおと

サンジとゾロがわめくこえ






みんなのおと



ちょっと こわかったけど たのしかった 





そんな一日








<おしまい>





 

<管理人のつぶやき>
チョパがたくさんのことをナミから教えてもらって、そしてとても素直に吸収していってるんだなって思いました。また、チョパのまっすぐなナミへの気持ちが、読んでる者の心にも流れ込んできます。
暖かい浜辺に寝そべって、耳をすます・・・なんて心和むひとときなんでしょう。
最後のやきもち剣豪が・・・・プププッ(^w^)。ゾロがこんな振る舞いに出るとは、意外や意外。

心にしみいる作品をたくさん書かれているMOMOさんが、投稿してくださいました♪MOMOさん、素晴らしい作品を、本当にありがとうございました!

MOMOさんの作品をもっと読みたい方は、『魔女と剣豪』様のナミ誕企画「
Nami Birthday Project」へ行ってみてね。

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