海賊達の休日

            

のお 様






今夜は豪遊だ。

たまたま立ち寄った港町で、サンジの買いだしにつきあってやってた俺サマが、暇に任せてぶらりと入ったパチンコ屋で大当たり〜〜!!出るわ出るわの大フィーバーで(さすがに俺、パチンコと名がつけば、負けるわけにはいかねえしな)急に懐があったかくなった我がメリー号のメンバーは、久しぶりに陸に上がって揺れない寝具で休むことになった。

もちろん、当てたのは俺、キャプテンウソップだが、元手はナミから出ている。というか、ビギナーズラックに興奮して、帰船後ついペラッと口をついて出てしまったのが運の尽き。みんなで喜んでくれたのもつかの間、すぐさまナミにばくちに手を出したとか何とか因縁をつけられて、元手をしっかり回収された上にもうけまで全額没収されそうになったので、そこを何とかとひらにひらにお願いして、ようやく自分の分の借金返済に少しは回してもらえることになった。

しかし、今日のナミは妙に機嫌がいい、そして(これが一番重要なことだが)いつになく気前がいいのだ。

コレ幸いとルフィを語らって、街に今夜の宿を取ることにした。サンジが、ここなら愛しのナミさんや麗しのロビンちゃんをお泊めできると太鼓判を押したのは、大きな庭に玉石を敷き詰め、大型観光船を専用桟橋にいくつもつないだ大旅館だ。いつもならその門構えを見ただけで眉をひそめるナミが、目を輝かせて喜んでいる(チョッパーに、あんた子ども料金なんだから、絶対おっきくならないでよと念を押すことは忘れないけど・・・)フロントに向かう俺たち7人を、愛想良く迎える和服の女性達(サンジはメロリ〜ン電波をたれ流しっぱなしだ)・・・上がりがまちでスリッパに履き替えると(子供用の絵のついた可愛らしいスリッパを出されて、チョッパーの嬉しそうなことと言ったら!)長い廊下を誘導されて、部屋に向かう。

「こちらが大浴場となっております。ご利用の際はお部屋のタオルをお持ち下さいませ」
ちょっとトウの立った仲居さんの言葉に、ルフィのワクワクが限界に達しそうだ。

「なあ、おい、大浴場ってどんなとこだ?えっ風呂?アラバスタのヤツみたいなのか?」
「しっ、声がでけえ。多分あんなに豪勢なんじゃねえが、よく似たようなのだろうな」
そっとゾロがたしなめる声も、なぜだか妙に期待に満ちている。

部屋は二間の続き部屋をひとつだけにしたから、主寝室を女性陣に提供すると、もう一間は男5人にはちょっと狭いが、ナンのことはない。畳敷きの、海に面した綺麗な部屋じゃねえか。

「ちょっとアンタ達、こっちのフスマは開けないでよ!」
「んなモン、誰が覗くかよ!」
「大丈夫です〜〜んナミさ〜ん。不埒なヤツがいないよう俺がしっかり見張りますから〜〜」
「でも、あなたが一番心配なんだけど・・・コックさん」
「ゾロ、何か余計なコト言ったかしら・・・」
「ああ?ナンか文句でもあんのか」
「ねえ、二人とも〜よしなってば〜」
「すっげ〜すっげ〜すっげぇ〜〜〜!」

ルフィの声に振り向くと、部屋のあちこちを探検していたルフィが、作りつけのタンスの中にあるユカタを見つけて、格闘中だった。

「おい、コレどうするんだ?ウソップ知ってるか?」
「これはだな、こうしてこうして・・・アレ?」

早速みんなで着替えにかかった。ゾロとサンジが一番でかいサイズのユカタをどっちが取るかでもめている。しかし、ゾロはさすがにこういう格好がサマになるな。サンジはちょっと短めの裾から骨っぽいスネが覗いてて、こいつはこいつで意外に似合ってる。ルフィはまだオビと格闘中で、チョッパーは・・・

「オッ、オレのもあるぞ!!」

自分サイズの小さいユカタを見つけて感動でウルウルしている。愛らしいヤツだぜ、全く。しかもこれが可愛いの可愛くないのって、もう!

隣の部屋からは、ナミとロビンのきゃっきゃとはしゃぐ声が聞こえてくる。ナミはともかく、ロビンの楽しそうな声なんぞめったにお目にかかれない。そして、カラリとフスマが開くと、ユカタをさらりと着崩したナミの大声が響いた。

「ねえ、見て見て!素敵でしょ!」
「女性用はいろんな柄を選べるのね」

確かにすげぇ。女性用のユカタは男物と違って、色とりどりで綺麗だなあ。思わず綺麗なキモノだと口を滑らせたら(どうも今日は口の滑りが良すぎるな)ナミに思い切りどつかれた。実際、オレンジ色と緑色の鮮やかなユカタのナミと、シックな紫の柄のロビンは、二人揃うとさすがの俺も一瞬クラッとするほどあでやかで、ゾロもサンジも言葉を失って固まっているほどだ。

よ〜し、じゃあ、食事の前にひとっ風呂あびるか。微妙に俺サマが仕切ってるが、何てったって、今日のこの豪遊は俺サマの実力(運も実力のウチだ!)のお陰だからな。みんなきちんと感謝するようにな!って、コラ、待て、みんなタオルは持ってるか〜〜〜!!






風呂はもちろん楽しかった。混浴でなかったのは、それは、まあ仕方ない・・・でも、せめてアラバスタのみたく仕切りの上にすき間がちょっぴし開いててくれたら・・・いや、海の男たるモノ、そんな小せぇことをいつまでもひきずってちゃダメだダメだ。

両脚を石けんの上に乗せて、勢いよくつうるぅぅぅんと滑り、お約束通り湯船に盛大に飛び込んだのはルフィだ。まったくほかの客が少なくて幸いだった。湯船の中でブクブクと溺れるルフィを助け出しながら、ゾロがしっかり釘を差していた。ヤツの田舎では風呂場のマナーはすごく厳しいそうだ。オレだって風呂に浸かっていて、上からゴム人間が水しぶきと共に降ってくるのはゴメンだからな。

サンジは頭にタオルを載せ、煙草をくわえたまま湯に浸かっている。おいおい、それもダメだぜ、おめえらいい加減にしろって。それからチョッパー、子どもはサウナ禁止だ。その張り紙が読めないか。そんな悲しそうな顔をしてもダメだ。あとでナミにノサれちまうぞ。こら、サンジ、ゾロ!そこで素潜り勝負をするな!ルフィまで参加しようとしてまた溺れるじゃねえか。

んなわけで、幸せパンチアゲインが叶わなかったぶん、しっかり元を取らなきゃならねえ俺たちは、女湯から二人が出てくるまで、上がり場で腰に手を当ててコーヒー牛乳飲んだり、パコンパコンもぐら叩きをしたり、マッサージチェアで骨まで揉まれたりして思う存分盛り上がった。

そうしてかなり時間が経ってから、体中からほかほかの湯気を上げながら、ナミとロビンがノレンをくぐって出てきた・・・

これは強烈だぜ・・・

ナミのほっぺたはほんのり紅く染まって、おでこなんてツルツルでピチピチだ。日頃絶対酔わないナミだけに、この紅いほっぺたにはぐっさりとヤラれた。ぽっと目元を染めたロビンも、すごくそそる。いつもは陶器のように無機質な肌が、柔らかく匂い立つようだ。

「バカね、みんな、なに見てんのよ」
「あっ、ああ、ナミさん、ロビンちゃん!!今夜のお二人はまさに光り輝く天使だ・・・」
「そう?・・・あんまりじろじろ見てるとお金取るわよ」

珍しくナミがはにかんでいるようなのは、多分ゾロがナミに目を奪われているからだな。サンジの目がハートなのは別に今に始まったコトじゃないが、ゾロのがちょっとそれっぽい形になってるのは、こりゃちょっと見物だ。実に貴重なシーンだ。

ナミのこんな嬉しそうな顔はめったに拝めないからなあ。

なんやかやいっぱいそこら中に飛ばしながら、メ〜ロリンとあたりを漂っているサンジを引きずりつつ、俺たちはぞろぞろと歩き出した。わいわいと大騒ぎして、スリッパを引きずり、探検がてら広い館内をうろうろと歩き回る。

おみやげ売り場や、ゲームセンター。おっ、ピンボールやパチンコ台もあるぜ。おい、テメえら俺サマの奇跡のテクを見たくねえか?って、なんだなんだ、そりゃ、卓球台?

早速ルフィがしがみついて離れねえ。ゾロとサンジはラケット握ってまたもやガンの飛ばしあいだ。しゃあねえな、ナミ、ヤラしてやるか?わあったわあった、順番だって。じゃ、俺サマがクジを作るからヤリたいヤツは引けよ。じゃんけんってワケにはいかねえから、なっチョッパー。

最初のくじにあたったのは、ルフィとチョッパーだ。

ちょっと待てよ、チョッパーおめえ、台の上に顔が出なくてどうやって卓球するつもりだ・・・

チョッパーはひづめの間にラケットを挟んで、台の下の方で右往左往している。ルフィはゴムゴムのラケットー!で、初っぱなからフルスイングだ。危うしチョッパー!!・・・と思ったら、チョッパーの脚の下からさらにグニーンと膝が伸びて、すばやくボールを追いかけると、きれいに振りぬいてリターンエースを決めた。

ちょっとウインクして見せたのはロビンだ。チョッパーはすごく嬉しそうだ。一本決められたルフィは、すげえ意固地になって手を振り回している。伸びるぶんパワーがあるがノーコンで、ほっとくと自滅するタイプだな、こいつは。ロビンと組んだチョッパーのほうが、確実に返球するぶんはるかに分がある。

「ズリーぞお前ら、二人がかりで」

負けが嵩んできたルフィに対して、調子づいたチョッパーはいよいよ伝家の宝刀を抜いた。

「行くぞ、必殺!ランブルボー・・・」

ドン。

ナミのクリマタクトから拳骨が飛び出して、チョッパーの脳天に帽子ごと炸裂した。チョッパーはボールを握ったまま吹っ飛んだ。実際、こいつも情け容赦のないヤツだぜ。俺サマの超大発明をきっちり使いこなしているあたり、なかなかヤルもんだが・・・

「大丈夫か、チョッパー」
「ホントにひどいコトするのね、航海士さんたら」
「おっきくなったら拳骨よってちゃんと言ったでしょ」
「ゴメンよ、ナミ・・・オレつい調子に乗っちゃって・・・」
「次から気をつけてよ」
「うん、わかったよ」

試合続行不可能となって、続く第2試合はもちろん、闘志満々のゾロ対サンジだろうな、この分じゃ。ていうか、もう始まってるじゃねえか。

ゾロは最初は必ずチョキだから、サーブ権を取ったのはサンジだ。ニヤリと不敵に笑うと、流れるような身のこなしで鋭いサービスをたたき込んだ。

ゾロは力技でそれを返す。ビシッ。ゾロのリターンがサンジのコートを強襲し、そのままぴったりと動かなくなった。見るとピンポン玉の下半分が、ペコンとへこんで平らになっている。

「フン、オレがまず一ポイント先取だな」
「何だと!どうやってコレを返せっつうんだ。てめえのミスに決まってるだろうが!!」
「オイ、因縁つけるのもいい加減にしろよ。きっちりそっちに返した以上、そっちの問題だろ」
「何だと、このクソマリモ。馬鹿力っきりねえクセに」
「言わせておけば、エロコックが。ヤルってのか?」

おいおいおい。

オレは慌ててナミを見た。ナミはすでにその凶器を構え照準を合わせていた。

ドカン、バコン。

う〜む。見事な連続技だぜ・・・






ノサれた二人の脚を持って引きずりながら(さすがにロビンの能力に頼ると、ちょっとひと目がなあ・・・年寄りが心臓麻痺でも起こしたらコトだしよ)みんなで和気藹々と大食堂にむかう。ボールをぶっ潰しちまったし、ここは逃げるが勝ちだと思ったからよ。そろそろルフィの腹の虫が無視できないほど五月蠅くなってきてるしな。

料理の匂いでも嗅いだら、多分二人とも目がさめるだろ。

「晩御飯、バイキングだって」
「おおっ、うまそうな響きだな、バイキング」
「バイキングって何だ?」
「食べ放題ってことよ」

「「「おお〜〜〜〜
vvv」」」

「なあ、ナミ、何でバイキングが食べ放題なんだ?」
「ええと、それは、昔の海賊がね・・・」

オレはサンジの足首を握りしめつつ、考える。

ルフィのヤツが思う存分食えるほど、宿の調理場が剛腕だったらいいんだがな。まあ、ストップかけられるまで、せいぜい食いだめするっきゃねえか。いざとなったらまた、逃げるが勝ちって手もあるし。キャプテンともあろう者、いつだって仲間のことを考えておかなきゃならんものだ。

どうにかなるさ、オレたちゃ海賊だしな!







FIN

 

<管理人のつぶやき>
ウソップのパチンコのおかげで、海賊達は陸に上がって豪遊です♪
宿は日本式の旅館のようで、はしゃぐ彼らの姿がリアルに目に浮かびます。浴衣選び、大浴場、温泉卓球、豪勢な夕食(多分・笑)・・・ああ、なんだか旅に出たくなったよ(笑)。
ゾロの目がハートに近い形になってる・・・これはスゴイことですよ。それほど風呂上りのナミは悩殺的だったのか(ぐふふv)。

時間の澱様のサイト1周年記念のDLフリーSSを頂戴してきました。
のおさんにしては珍しいコミカルな作品。すごく面白かったです!
のおさん、どうもありがとうございました!

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