PARTY            

taka様






三月に入ったばかりのある日のこと。
昼食の準備に忙しいコックを除いた全員が、甲板で額をつき合わせていた。

「・・・でな、やっぱり俺はそれがいい案じゃないかと思うんだ」

ウソップが自慢げに話している。

「その、なんとか鍋ってヤツか?」

チョッパ−はわくわくとした気持ちを抑えきれずに身をのりだしている。

「やみ鍋だ」

「その鍋食えるのか?」

「いや、鍋は食えねえだろ。食うのは中身だ、間違えるなルフィ」

「おお!」

「そうね。サンジくんはどうせ自分の誕生日のごちそうなんて作らないだろうし、それに決まりね」

ナミが賛成し、ビビの方を振り向き同意を求めた。

「私もなんだか楽しみです。ところでミスター・ブシドーはそれを召し上がったことがあるんですよね」

「・・・ああ?まあな・・・」

「なあ、ゾロ。うまかったか?」

ルフィは既に、流れんばかりの大量の涎をたらしている。

「・・・・・・・・・・・・・ああ、まあな・・・」

さっきより間が空いたのは気のせいだろうか。

だが不安な空気は「メシだぞーー」というコックの声で、うやむやなまま忘れ去られてしまった。




昼食の席で、ナミによってその計画は発表された。

「ナミさんが俺のためにそんなパーティーを開いて下さるなんて光栄です」

早くもハートだらけの視線を飛ばしているコックに一同はつっこむ。

「「違うだろっ!!!」」

「まあ、とりあえずサンジくんはお鍋の準備だけしてくれれば、材料は各自で用意するから」

「はい、わかりましたっ。ナミさん」

コックには外野の声など、まったく聞こえてはいないようだった。




そしてパーティーの当日。

キッチンの明かりは当然のごとく最低限におとしてある。
コンロの上におかれた鍋の中に、順番に一人ずつ食材を投入していくのだ。
中にはあちらこちらにぶつかり、うおっとか、やべェとかぼやきつつ各自の席に戻ってくる者もいる。
しかしどんな表情をしているのかは、誰にも見えていない。

「よーし、みんな入れ終わったか?スープは俺の自慢のヤツを使っているからな。
どんな食材だって、たいていはうまくなるだろ」

サンジが鍋にフタをした。



まず最初に異変に気づいたのは、やはりチョッパーであった。

「・・・なあ、なんかすごくヘンな匂いがしないか?」

ヒクヒクと鼻をうごめかせ、顔をしかめているさまが目に見えるようだ。

「そうかあ?俺はわかんねえけど・・・ってことはもう食えるんだな?」

ルフィが手をのばす気配を察して、サンジが怒鳴る。

「バカ野郎っ、まだだっ」

「ちぇっ、つまんねーのー」

そしてサンジも気づいた。

「・・・・・こりゃあ・・おい、おめえら何入れやがった」

ウソップが恐る恐る口にする。

「いや、だからそれがわからないのがやみ鍋のいいところで・・・・」

「うわっ、本当にすごい匂いがしてきたわね」

「あの、これで大丈夫なんですよね・・・ミスター・ブシドー」

「だから、なんでお前はいつも俺に聞いてくんだよ」

「おいゾロ、ビビちゃんになんて口きいてるんだ」

周囲の喧騒をよそに、ルフィの腹の虫が大きな音をたてた。

「サンジィー、もういいだろ?腹へった・・・」

「ああ、わかったわかった。そうだな、じゃあそろそろ始めるか」

一時部屋の明かりが点され、サンジが鍋を運んできた。

「えと・・一応サンジくんの誕生日なんだから、まずサンジくんからどうぞ」

「ナ、ナミさん・・・なんて優しいんだ。でもせっかくですから全員でそろって食べませんか?」

「う、え・・・ああ、そうよね。わかったわ、そうしましょう」

ルフィを除いた全員が、冷や汗を流しながら周りを牽制しているような視線を交し合う。

再び部屋が闇に閉ざされた。
カタッとなべが開けられると同時に、えもいわれぬ匂いがクルーたちを直撃する。

「うおっ・・・」
「ぐえ・・・」
「ぎょわっ!」

声にならない声をあげて、全員がその場に固まった。
沈黙を破ったのはサンジ。

「・・・・・さあ、食おうぜ。飯を粗末にするヤツは許さねえからな。
ナミさんとビビちゃんにはとっておきのデザートをご用意しておきましたから」

「あ、ありがとね」

「サンジさん、ありがとうございます」

「エロコックが」

ゾロの呟きを無視し、サンジが各自の皿に料理を取り分ける。
暗闇の中でも手馴れたものだ。

「よーし、みんな行き渡ったな」

サンジの掛け声に合わせて、一斉に料理を口へ運んだ。

「・・・・・・・!」
「・・・・・・・!!」
「・・・・・・・!!!」

ガチャーン、どっがん、バッタンとけたたましい音とともに、我先にとシンクへ直行する。
そして真っ暗闇の中、怒号と悲鳴がしばらく続いていた。



ようやく明かりが点けられると、顔面蒼白、あるいは真っ赤な顔をした面々が
気まずそうな顔でお互いを盗み見ている。

「おめえら、料理ってもんを勘違いしてねえか」

さすがのサンジもこれを料理と呼ぶのは気がひけたのだろう。
そして鍋を覗き込み、自分が今食べたものを確かめ始めた。

「これは、どう見ても卵の殻だよな。いったいどこのどいつが殻ごと入れやがったんだ?」

「・・・・スマン。タバスコの蓋を開けたはずみについ落としちまって・・・」

ウソップはサンジから視線をはずしたまま答えた。

「タバスコだと?おまえ、まさかそれも・・」

「うわーーー、許してくれ、ついはずみで瓶ごと・・・」

「そうか、この辛さはそれが原因なんだな。で、このひでェ匂いはなんなんだ?」

「ゴメン。もしかしたらそれ、おれかもしれない」

「チョッパーは何入れたんだ?」

「薬草だ。胃薬と下痢止め」

「・・・そりゃ、感謝しなきゃなあ。まあ鍋に入れるもんじゃあねェがな」

「ねえ、サンジくん。私が何入れたかわかる?」

「えっ?ナミさんがですか?うーん・・・・・」

しばらく鍋の底をかきまぜていた手が一瞬止まった。

「・・・・・・みかん・・ですね」

「あったりぃー」

「おい、そんなもん鍋にいれるか、ふつう」

「あら、じゃあアンタは何入れたのよ」

「酒だ」

「お酒?アンタがよくそんな大切なもの入れる気になったわねえ」

「うるせえ、・・・持って行った金で全部酒を買っちまったんだよ」

ふてくされたゾロの足元から、サンジがボトルをひったくった。

「なんだこりゃ、見たことねえラベルだな」

わずかに残った酒を口に落とすと、とたんに顔をしかめた。

「!おめえ、こんなのよく飲めるな。こりゃ酒というよりは消毒液だな」

「ほっとけ!!」

「で、お次はこれだ。出汁とってんじゃねえんだからよ。こんなの食うヤツがいるってのか?」

サンジが鍋から大きな骨をつまみあげた。

「おい、サンジ失礼だぞ。それは俺が大切に取っておいた今朝の骨付き肉の骨だ!」

「「ルフィ!!!おまえは犬か!」」

全員が大きくため息をつく。

「あとは、と。・・・ん?これは・・・・」

「あっ、それは私です。この間サンジさんに作っていただいたロールキャベツがおいしかったから
キャベツなら煮込み料理にも合うかと思って」

「さすがビビちゃん。・・・でもこれレタスなんだけど・・・」

「ええっ!そうなんですか?!・・・やだ、私ったら」

ビビは頬を真っ赤に染めてうつむいてしまった。

「これで全部か。ったくとんだ料理になっちまったな・・・」

と言いつつ鍋底をさらっていたサンジが何かを見つけた。

「おい、一個だけまともな食材が入ってたぜ。誰だ、この
タコ入れたのは」



「・・・おれだ。さっき釣りしてたら、かかった・・・・」

ゾロがぽつんと呟いた。





チョッパーの薬のおかげで誰も腹具合こそ悪くはならなかったが

この鍋のおかげでルフィを除く全員が、どんな一晩を過ごすハメになったかは想像に難くない。



                                                   

END




 

<管理人のつぶやき>
一度はやってみたい(?)闇鍋。一体何を食べたのかのタネ明かしがちゃんとあって、こりゃ大変だ、とあらためて思ったり。
各キャラがそれぞれに相応しい食材を持ち寄っているのが面白いです。
また、一時ワンピで話題沸騰していた
タコを、ゾロが釣り上げていたのは実にタイムリーでした(笑)。

この作品は、「
seafood」様のサンジ誕祭の中での「宝探し」イベントの「お宝」でした。ダウンロードフリーとのことでしたので、戴いて参りました。
ふふふ、まさにお宝ゲットだぜ!
takaさん、どうもありがとうございました!

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