12.24
roki様
当たりを夕闇が漂う頃。チョッパーは、1人甲板の所へ来ていた。
甲板は、昨日からの雪が、未だあちこちに残っている。端っこの方にはルフィが遊ぶ分。
そして、ウソップが徹夜で作り上げた傑作。
その前に立つと、チョッパーは顔のにやにやが止まらなくなる。
今朝、彼が起きた時、それはすでに出来上がっていたのだ。
***
「起きろ!チョッパー!!」
深い眠りは、ルフィの叫び声で、アッという間に破られた。
反射的に、ガバリと起きあがろうとして、ハンモックに角が絡み、おまけにぐるりとひっくり返った。
「ギャー!」
「なに遊んでるんだ、チョッパー!ほら来いよ!来いったら!!」
「待って待って!つ、つのが!角が絡まっているんだ!引っ張んないで〜〜!!」
反転したハンモックに宙づりになっている所を、強引にルフィが引っ張っていこうとする。
ハンモック事、引きちぎって連れて行かれうな所をやっとで引き留めて、絡まった角を何とかはずした。
「よし!取ったな?それいくぞ!」
「わわわわ!!!」
甲板へと上がるマストを、ドカドカと引きずられるように登らされ、上につく頃はあちこちに痣と瘤が出来ていた。
「……る…ルフィ……ひ、ひどいよ…」
「バァカ!ほら!見ろよアレ!すっげぇぞ!!」
「……うわぁ!!」
ぼやいていたチョッパーだが、そこにあったものを見て、丸い目をさらに丸くさせた。
甲板に、大きな雪像が7体作られている。
様々な大きさと形態をした雪像だが、どれにも必ず共通してるモノがあった。
全て、頭に×印のついた帽子を被っていたのだ。
「すげぇ!これ全部俺だ!ランブルで俺が変化したモノだ!!」
「そうだ!なぁー?スゲェだろ?」
チョッパーは大喜びで飛びはね、ルフィはチョッパーが望んだように大はしゃぎしてるので、満足げに大きく笑った。
そう、並んでいるのは全て、チョッパーが普段変化する3パターンと、ランブルによって変化する残りの4パターン。それらが、生き生きとした造形で、甲板を所狭しと並べられていた。
「スゲェなーー!スゲェなーー!」
「あぁ!チョッパー!あそこを見ろ!」
わざとらしくルフィが指さす方向を、それでもチョッパーは素直に驚いて視線を向ける。
船首に上がる階段の上に、誰か人が立っている。
ご丁寧に背中を向け、さっきからずぅっとスタンバイして待っていたらしい。
かなり長い間、同じポーズらしく、肩からかけているマントに、重そうに雪が積もっている。
「いったい…!!アレは誰だ!!!」
「誰だ!!」
変わらず芝居がかったルフィだが、やっぱりチョッパーは素直にビックリして訪ねた。
怪しいマントの男の、怪しい笑い声が静かに響き渡り始めた、
「ふっふっふっふ……天知る!地知る!人が知る!!……時代が生んだ世紀の天才アーチスト!!キャプテーーン!!ウソーーーップ!!」
何処かで高らかにファンファーレが鳴らなかったのが、不思議なくらいだった。
「ウソーーーップ!!」の「ウソーー」の所でマントを翻し、ウソップ・天才アーチスト(自称)が高らかにその姿を翻した!
途端にその長く真っ赤にかじかんだ鼻から、つつーっと鼻水が垂れたが、幸い遠くだったのでチョッパーには判らなかった。
「わぁぁ!!スゲェ!スゲェ!天才アーチストだぁぁ!!」
何に感動してるかはいまいち判らなかったが(だいたいそれがウソップだと言う事は、判っている筈なのに)チョッパーは手が痛くなるぐらい、惜しみない拍手を注いだ。
ウソップは、ばさりとマントを払うと、割と優雅にチョッパーに手を振ってみせた。そして階段を降りようとし、最上段からこけた。
凄まじい音を立てて、天才アーチスト(自称)が転げ落ちる。
「ワーー!た、大変だッ!!」
「ギャーー!天才アーチストが落ちたー!」
「今のショックで『腕力』型が歪んだぞ!!」
「ギャアァァァア!!大変だーーー!!」
「………そっちかい…」
冷たい甲板に大の字に倒れても、天才アーチスト(自称)は、ツッコミを入れる事を忘れなかった。
「…つーか大概にして遅いんだよ!おめぇらは!!寒さで足が、かじかむっつーのッ!」
「ハッハッハ!まぁいいだろー。雪像は無事だったんだし」
「…あぁ、そうだな…って、やっぱりそっちかい!!」
再度、ウソップがツッコミを入れる。ルフィは、構わずケラケラ笑っていた。
「なぁー!これウソップが全部作ったのか?」
「当たり前だっての…ルフィは、全然手伝わねーで邪魔ばっかりするし、人の材料取って雪だるさん作るし、邪魔するし、壊すし、邪魔するし…」
「…なんか俺が、邪魔ばっかりしてるみたいだな」
「邪魔ばっかりしてたんだよ!実際に!」
今日のウソップは、突っ込みも激しかった。寝てないのでテンションが派手らしい。
寒そうにマントを身体に巻き付けて、ルフィと一緒に雪が払われている甲板に座って、雪像を見ているチョッパーを眺めていた。
1つ1つ、いかにも楽しそうに、チョッパーはそれらを眺めて歩いた。
飛力、毛皮、腕力、角。中央には、馴鹿型と人獣型、そして人間型が並んでいる。
一番真ん中にいる人獣型の胸の所には、文字が書かれている。
「Happy Birthday! Chopper!!」
「……あーーー!!」
「どうしたチョッパー?」
「俺の誕生日ーーー!」
「そうだぞ?忘れていたのか?」
「う、うん!」
チョッパーが、こくこくと頷いている。
「…そうかー。…え?……じゃあ、これはその為に作ってくれたのか?」
「あったり前だっての!まぁー、そこまで驚いてくれたなら『大成功』だな?」
「おう!」
ルフィも、嬉しそうにニシシと笑う。
ちょうどその時、倉庫の扉が開いて、ナミが寒そうにコートを羽織って出てきた。
甲板に出て、周囲の異様な光景に、途端にギョッとして立ちすくむ。
所狭しとずらりと並べられた、様々の馴鹿達。
「………」
「よっ!ナミーー!」
「どうだー!スゲェだろー!昨日言ってたのがコレなんだよ…」
呆然と立ちすくむナミに、ルフィとウソップがヘラヘラと笑って話しかける。
ナミの顔が、ギクシャクと2人を振り返り、驚愕の表情で見下ろした。
聞いた。確かに。
甲板の雪を撤去しなきゃと言うナミに、チョッパーの雪像を作りたいから1日待ってくれ。と言われ、それならばと許したのだ。
ただし、それはナミの中では、せいぜいチョッパーサイズの雪だるまが1個だけの計算だった。
こんな重さで船の前方が傾いているんじゃないかと思うぐらい限界まで作り倒せ!とは、言った覚えはない。
「……だ……」
「だ?」
「ダルマさん?」
「いや、ナミなら『ダイヤモンド』だろー!」
「あぁ、なるほどー!がめついからなッ!」
「おいおい(ツッコミ)せいぜい強突張りにしておけよ♪」
「そっちの方がヒデェじゃねぇか!」
「ハッハッハッ!!」
「ハッハッハッ!!」
「………」
ゲタゲタと呑気に笑い合う馬鹿2人を、それはそれは冷たい目でゆっくりと宥め、すぅーーっと息を吸った。
「いつまで馬鹿みたいに笑ってるのよこの馬鹿ども!!重量オーバーに、なりかけてるじゃないのっ!だいたい甲板の材木の痛みが早くなるでしょ!限度ってモノを知らないの?!!」
……とわめくだけわめいて、その長い鼻ッ面を普通の鼻に戻してやろうかと思ったその時、チョッパーがととと...と嬉しそうに駆け寄ってきた。
「ナミーー!見てくれよ!ほら!ウソップが俺の為に作ってくれたんだよ!」
「…………そう……もう起きていたわけね…チョッパー……」
振り上げた拳が、途中でピタリと止まった。
「なぁなぁ!凄いよ!見てくれよ!どれも俺なんだ!アーチストなんだよ!」
一生懸命ナミの腕を引っ張って、雪像を見せようとするチョッパーに、ナミは精一杯にこやかに笑ってみせた。
「そうなのー(笑顔)良かったわねーチョッパーv」
「うん!」
「もちろん後で、ゆっくり見せてもらうわーvちょっとそのアーチストに話があるから、ルフィと遊んでいてねv」
「へ?」
「うん!いいぞ!ルフィ遊ぼう!」
「よっしゃ!チョッパー、『チョッパー登り』しようぜ!」
「何だよ、俺登りって」
ゲラゲラ笑いながら、ルフィとチョッパーは、一番大きな人型チョッパーによじ登りだした。
「な、なんだ?ナミ。あっ、そ、そうか!アーチストのサインか?ははっ参ったな。本当なら会社を通してもらうんだが、他ならない仲間の為だしな!ここは1つ…」
「サインはいいから、ちょっと顔を貸してくれるぅ?(笑顔)」
「え?」
「何でもないわぁ。倉庫が空いてるからそこに入りましょう…」
「い、いや!話ならここでしろよッ!」
「うるさいわね!とっとと、お入り!」
「ギャーー!犯されるぅ〜〜!!(?)」
***
「でも、ビックリしたなぁ…昼食の時に見たら、ウソップの鼻が普通の大きさになっているんだもんなぁ」
いったいどうやったんだろ?と首をひねり、ナミに聞いたが、「アーチストへの特別報酬よv」と言って、ベリースマイルを浮かべるだけだった。
ウソップは何故か顔面を、ピクリとも動かさなかった。
ひょっとして、後頭部を叩いたら元に戻るんじゃないかと思ったが、面白いから今日1日はほっておけとルフィに頼まれた。
今は食堂は、パーティーの準備の真っ最中で、主賓はそれが終わるまでそこに居てはいけないそうだ。
それで、外で大人しく待つ事にしている。
雪が降る中を、チョッパーは、雪像を見上げた。
人型は、ルフィとさんざん登って遊んだが、意外に頑丈な作りでまだ無事だ。
どれもいかにも強そうに作っているが、何故か真ん中の1つ。人獣型だけは、どこかひょうきんな雰囲気を漂わせている。
馴鹿型は、今にも空へと駆けていきそうに、空を見上げて足を上げかけていた。
チョッパーは、ふと何かを思いついたようで、ふふふと嬉しそうに笑うと、残った雪を集め出した。
そうして雪を丸く固めて、小さな雪だるまを作り出す。
最初に作ったのは、頭の上に帽子を被せたような形をしていた。その顔の左に、傷跡をつけてやる。
次のにはもじゃもじゃの髪の形を作って、長い鼻をつけてやった。
その次のは、切り落とされた蜜柑の木の枝から、一番細いのを拾って、煙草替わりに口に刺してやった。
そうやって、次々と仲間達を象った小さな雪だるまを、作っていく。
ゾロには腹巻きを。ナミの後ろ髪は丁寧に跳ねらせて。ロビンには帽子を。
もう船にはいないビビとカルーを。冬島にいるドクトリーヌを。
もう今は居ないドクターを。
「出来たぁ……」
ふぅっと満足そうな溜息をついて、チョッパーは立ち上がった。
雪だるまはどれも意外なほどイイ出来で、チョッパーを得意にさせた。
これが、自分にとっての大切な人達全て。
それを1つ1つ取り上げると、雪像達の背中や手の上に乗せていく。
全て乗せ終えると、少し離れて出来映えを見てみた。
「いいんじゃないかな?」
人獣型の頭の上にルフィ。人間型の両手の上に、それぞれゾロとナミ。馴鹿型の背中には、ヒルルクとくれは。毛皮の上にウソップ。跳躍型の肩にサンジを。腕力型の盛り上がった腕にロビンを乗せて、角の上にビビとカルーが並んでいる。
そうしていると雪像が、小さな雪だるまを守っているように見えた。
それが何だか、いつもと逆のようで、チョッパーは面白いと思えた。
(でも…いつかそうなるんだ…俺がみんなを守ってやれるような……そんな強い男になるんだ…)
当たりはどんどん暗くなっていく中で、雪像の群れは不思議な迫力を醸し出している。
明日になれば、変わりやすい気候が全て溶かしてしまうかもしれない。
「でも俺の心は、溶けないから」
「チョッパーー!」
食堂の扉が開いて、ナミが呼ぶ声がする。
「…いま行くーーー!」
馴鹿は、呼ぶ声に飛び上がって、雪でつるつるの階段を上りだした。
自分の名前を呼んでくれる人がいるのは、もの凄くいい事だと想いながら。
雪像達が見守る中、馴鹿の姿が暖かい部屋へと吸い込まれていき、扉が閉まった。
やがて、聞こえだすはじける歓声と笑い声。
Happy Birthday!
END
<管理人のつぶやき>
CARRY ONさまのチョパ誕企画『RUMBLE BOMB!2』でのDLフリー作品をまたもや頂いて参りました。期間中のトップ絵が、このお話のチョパが仲間たちの雪像を作っているシーンだったんです。私は一瞬、「さびしそう」という印象を受けたんですが、実はこんな楽しい時間の中のひとコマだったんですねv チョッパー、あんたなら、きっとやさしくて強い男になれるさ。
ウソップはホントにスーパーグレートアーチストだよ!それなのにこの仕打ち(わはは)。
rokiさん、みんなの明るい笑い声が聞こえるような楽しい作品を、どうもありがとうございました!