愛情過多

roki 様




誕生日なのに風邪を引いた。

「38.5。熱があるな。今日は部屋から出ちゃダメだぞ」
「最悪ーー!!」

チョッパーの言葉に、ナミはベッドから思い切り叫んだ。叫ぶそばから、ゲホゲホと咳き込んでいる。
確かに熱はある。頭も痛い。身体もだるくて、身体を起こすのもキツイ。
「…だからって、なんで自分の誕生日に、ベッドで寝てないといけないのよ…」
枕にかじり付いて恨めしげに見上げれば、いつもは幼い顔をした船医が、真面目な顔で溜息をついた。
「しょうがないだろ。さぁ、眠って眠って」
「う〜〜〜!」
「いいか?大人しくしてるんだぞ」
チョッパーに言い含められて、ナミは横になったまましぶしぶと頷いた。熱のせいで目が潤んでいるため、なおさら悲しそうに見える。だからといって、部屋から出すつもりなどチョッパーには更々ない。
その時、女部屋の扉が開いて、ルフィやウソップ、サンジが次々と顔を覗かせた。
「ナミさん!大丈夫?」
「おい、どうなってるんだ?パーティしないのか?」
「ナミならダメだよ。こんな状態で甲板に上がらせられないよ。せめて今日1日だけでも大人しく寝かせて、様子みなきゃ」
「えぇー!?じゃあパーティーはぁ?」

私の体調より、パーティの方が大事かい。

と腹の中で黒々とナミは突っ込んだが、起きあがるのもキツかったので、インク壷をぶつけてやる事さえ出来なかった。いまいましい。
いまだ不満げに声を立てるルフィを、チョッパーが病人の身体に触ると追い出しにかかった。
「ナミ!薬持ってきてやるからな!それまで大人しくしてろよ!」
そう言うと、バタンと音を立てて、扉が閉まった。
途端に部屋の中は静まりかえり、寂しげな空気がナミを包み始める。
黙って天井を見上げる。2本の大きな扇風機が、部屋の中の重い空気をゆったりとかき回してるのが見える。
どうやら、今日は最悪な誕生日になりそうだ。



薬を飲んで少しウトウトしていたナミは、扉をノックする小さな音で目が覚めた。
「……はぁい…?」
だるそうにかすれた声を出す。と、「お邪魔しまぁす」の声と共に、サンジが静かに入ってきた。
手に盆を持っているようだが、上から白いナプキンがかけられていて中身が何か判らない。
「具合はどうだい?ナミさん」
「……わざわざ聞くわけ……?」
不機嫌そうにうめくナミに、サンジは軽く眉根を寄せて同情の色を示した。
「可哀想に。代われるものなら、代わってあげたいね」
「……サンジくんが風邪引いたら、こっちが大変でしょ…」
「え?俺が風邪引いたら、ナミさんが悲しむ?」
誰もそんなこと言ってない…と突っ込みたかったが、言う体力がなかった。おのれ風邪。
「ナミさんvイイもの持ってきたよv」
サンジはいそいそとベッドの側の椅子に腰掛けて、うふふと笑った。
「ほら。今日はナミさんの誕生日だろ?」
「……そうね…」
「俺はりきってご馳走たくさん作ったんだけど、その様子じゃ無理みたいだからさ…」
「…ああ…ゴメンね…」
「なあに、いいんだよvでもそんなナミさんの為に、ちゃーんと用意してきたからさ!」
「へえ」
なんだろう。そういえばイイ匂いがするな。ご馳走からより分けてきてくれたのかしら…少しぐらいなら食べられるかも…。と顔をあげたナミの目の前で、サンジがすっと背筋を正して歌い出した。
「ハッピバースデー♪ナミさんv♪ハッピバースデー♪ナミさんv♪」
歌いながら、ナプキンがかけられたお盆を取り上げる。

「ハッピ♪バーースデー♪ナ・ミ・さぁーぁーん♪
ぽかんと見つめているナミに、チラッと視線を送り、盛り上がりの所で溜めてみせる。
「ハッピ♪バーースデー♪ナーミ・すわぁーーーんんvV♪」
歌いきると同時に、お盆のナプキンをばさりとはずす!
…と、そこに並べられていたのは、ほかほかと暖かな湯気が立つお椀に盛られた白粥と、梅干し。
そしてその白粥の上には、カラフルで華奢なロウソクが、林のようにずらりと並んで立っていた。数えてはいないが、恐らく19本あるに違いない。

「さあ!ナミさんvロウソクに火を点けるよ〜〜!待っててねV」
「…………」

二、三度目をしばたかせて、ナミはそのシュールな白粥をぼんやりと見つめた。
サンジがウキウキとロウソクの1本、1本に点火していくと、それは何か宗教の儀式めいた怪しさを漂わせ始めた。
おまけに密集しすぎていて隣同士でくっつきあい、その見かけのチープさとは裏腹に、轟々と高く燃え上がっているのもある。
「知ってるかい?一息で誕生日のロウソクを全部吹き消すと、その1年は幸せになれるんだって!」
知りたくない。少なくとも今ここでは。とナミは思ったが、サンジにその願いは届かなかった。
「さあ!ナミさん!」
どうぞ!とロウソクがぼうぼう燃えている白粥を差し出される。

「………」

無言で睨んだ。いや見つめたが、消さない事には唯一の食べ物さえダメになりそうな勢いである。
よろよろと身体を起こし、弱々しい息を吹き付けた。
「ふー……。ゴホゴホゴホ!!」
「ああぁ!大丈夫?ナミさん!」

大丈夫じゃないから、寝てるんだって。

「……いいからサンジくん……その火…消して……」
「え?でもナミさんの1年の幸せが…」
いいから、消して!!
ついでに人の幸せまで消えるような言い方するな!と怒鳴りたかったが、咳き込んで苦しくてそれどころではなかった。
しかし、残念そうなサンジを見ると、ちょっと悪いかなという気もしてくる。
「……ゴメンね。それより…ご馳走無駄にしちゃって悪かったわね…」
「え?あぁ、大丈夫だよV無駄にはしないから」
「無駄にはしない?」
「うん。今、甲板で奴らに食わせてるから」
「…食わせてる?」
「うん。ほら」
確かに甲板で騒いでるらしい声が響いてくる。気のせいか、歌まで聞こえてくるようだ。
「ナミさんの代わりに祝ってやってるらしいよ。ハハハ。いや、でも俺も今日は自信作でさー!」
「……そう……食べてるんだ……」
「え?あぁ…うん…。いや無駄にするのは俺のポリシーじゃないしさ…」
「ご馳走?たくさん作ったの…?」
「う、うん…まあね…いや、俺も張り切っちゃってVハハハ…」
「そうなのぉ…」
「ええと」
サンジは居づらそうにもじもじすると、お粥を抱えて小首を傾げてみたりしている。
「食べない?」
こういうサンジを見ると、「こうすれば女の子の母性本能を刺激する」という事を無意識に知ってるんだな…とナミは薄く思った。今は、どちらかというと棒でぶちたい気分だが。
「…食べるから置いておいて。それから出てって」
「えぇー?何なら食べさせてあげ」
いいから、出てけ!

しゅーんと耳を垂らして出て行かせたのは、確かに可哀想といえば可哀想だったのだが、ピントのずれ具合を甘受出来るほど今日は余裕がない。
お粥は美味しかったが、ロウソクの味もこびりついていた。



「よお。どうだぁ?具合は?」
「……」
次にやってきたのは、少しほろ酔いになっているウソップだった。
「……なんか、イイ匂いがする…」
「え?なんだろう?」
「……料理、美味しかった?」
「あーあ、美味かったぞぉ!特にあのマリネなんか最高!!…」
思い出して涎を垂らしそうになったウソップだが、サイドテーブルの小さなお椀を見て、慌ててこほこほと咳をした。
「あー。ごほん。ナミは何を食べたんだぁー?お!お粥かぁ!美味そうだなぁ!!」
「………アンタも寝込めば?サンジくんが素敵なサービスまでつけて持ってきてくれるわよ……」
「え?いやあ…その……気分悪そうだな……」
「悪いに決まってるでしょ…風邪、引いてるんだから…」
「あぁ…まぁ、そうだよなぁ…。しかしアレだ。風邪だからって何も悲観するこたぁない!例え風邪ッぴきでも勇敢に戦った海の戦士の話を俺は知っている!」
「………へえ」
「その男は年から年中風邪を引いてる男だった!とにかくそいつのくしゃみの凄まじさときたら『はっくしょーーん!』の一吹きで乗っている船が島から島へと横断できたぐらいだ!しかし、いくら何でもそう毎日風邪を引いてる訳にはいかない。男は、朝に夕なに完封摩擦をして、身体を鍛えようとしたもんだ。
だがある日!男が乗った海賊船は、海軍の軍艦20艘に追われたんだ。相手の船足は速くこのままでは追いつかれる。そこでどうしたと思う?」
「……………さあ……………」
「その男が突然、氷水を頭からかけだした!回りの連中がいくら止めても聞かない!みんな恐怖でそいつが狂ったと思った…。海風にさらされて何度も氷水をかけているうち、男の顔色はどんどん青ざめ、震えだした…。そして急に後甲板へと走り出し、海に向かってそれは特大のでっかいくしゃみをしでかしたんだ!
『はっっくしょぉぉぉんんんん!!』ってな!」
「………………………………………」
「その凄まじさで、名だたる海軍の軍艦はことごとく吹っ飛んでいく。それでも男は砲撃のようにくしゃみを止めない。あれよあれよという間に、全ての軍艦は海へと沈んでいった……」
「……………………それで?…………………」
「…仲間達は歓声をあげて、男の元へ走ってきた…なんせそいつのおかげで助かったんだからな…そいつは青ッ鼻のヒーローさ!ところが助け起こしてみると…そいつはすでに事切れていた…鼻水と涙で顔中グシャグシャだったが、満足そうに笑っていたらしい…」

……死にオチ!?

うっかり聞き入っていたナミが、あぼーんとなっているのを余所に、ウソップはぐすりともらい泣きをしてみせ、視線を遙か遠くに漂わせた。
「そいつこそ漢の中の漢だぜ…なぁ?ナミ!仲間の為にそいつは命を張ったんだぜ…!…お前もな、風邪だからって落ち込むこたぁない!例えどんな状態でもやれるこたぁあるんだ…お前も海の男としてそこを見習ってだな…」
見習わないわよ
風邪でかすれた声が地の底から響いてきて、ウソップはえっ?と振り返った。
「こんな風邪…いつまでも引いてないわよ。治すわよとっとと
「………まぁ…な…」
「それから誰が海の『男』なのよ」
「…………えーっと……」
「だいたい何で『死にオチ』なのよ。アンタ、私を殺したいわけ?」
噴火寸前のナミの様子を見て、やっとで自分の世界から戻ってきたウソップは、状況の不味さに初めて気づいたようだった。
きょときょとと辺りを見回して微妙にナミから視線をはずし、乾いた笑いを浮かべながら、座っていた椅子から腰を上げた。
「どうなのよ!」
「いやあ…まさかあ。だ、だってさ……」
「だってなによ」
「……大丈夫だって…だって…おまえ、そんな簡単に死にそうにないじゃん…?一番長生きしそうだし…」
その一言が余計だって言ってるのよ!!
「あーーっと!病人なんだから寝てなくちゃダメだぞー?安静にな?安静に…」
誰が安静にしてくれないのよ!!
怒りで思わずよろりと起きあがったナミに、ウソップはひぃと叫ぶと、慌てて階段へと走っていった。
「ほ、ほらあ…ダメだって…安静にだろ?安静に…」
うっさい!
どたどたとウソップが部屋を出ていく。
目眩がした。それはもうぐらぐらと。
そのままどさりとベッドに仰向けに倒れ込んだ。
大声を出したので、体力も消耗したらしい。ああ。
急にぶるうると寒気がし、ひくひくと鼻の奥がむず痒くなってきた。
「ハックション!!」
もちろん、船は飛んでいかなかった。



深く地の底までどっぷりと落ちるような眠りについていたナミは、「おい。起きろよ!どーした!」と言う声と、ガクガクと身体を揺さぶられる衝撃で目を覚ました。
目を開けると、ルフィがナミの肩を掴んで、前後左右と振り回している。
「やめ…やめて!起きた!起きたわ!」
「おう。なんだ、起きたか」
必死でもがくナミに気づいて、ルフィはあっけらかんと笑ってみせた。
「おまえ、うなされていたぞー。どーした?」
「そう……知らない…憶えてないし……」
やっとで解放されて、ナミはぜいぜいと息切れした。ただでさえ寝乱れた髪の毛がざんばらになっている。
「おお。何だか鬼婆みたいだな」
わざわざ何しに来たのよ!アンタは!
にしても、今度はルフィか…いっそ一度に来てくれないだろうか。
椅子に座っても落ち着きなさげに足をぶらつかせているルフィを見ると、こっちまで落ち着かない気分になってくるが、ナミはあえて無視して寝直す事にした。
ふいに、ルフィの掌がナミのおでこに当てられる。
普段ならナミの方が体温は低めなのに、今はその掌が気持ちよく冷えてるように感じた。
「熱いなーー!ナミ、熱があるぞ!」
「……だから、風邪なんだって……」
ふう…と溜息を漏らした。ルフィは片方の手でナミのおでこを、もう片方の手で自分のおでこを押さえた。
「こうすると、移らねぇかな?」
そう言って、何か一生懸命「むーん」と気合いを込めている。
あんまり一生懸命なので、流石にナミは笑みをこぼした。
「そんなんで移るわけないわよ……気持ちは嬉しいけど…」
「そうかあ?移らねぇのかー。ふーん」
つまらねーと口を尖らせていたルフィだが、ふと何かを思いついて瞳が光った。
「そうだ!!」
「……なに」
その妙に明るい声の響きに、何故か不吉な響きを感じて、ナミは思わず引いてしまった。
「手だから、ダメなんじゃないか?」
「…はあ?」
「だからさ、直接ぶつけ合わないとダメなんだよ!」
言うが早いか、ルフィが寝ているナミの顔を覗き込んで、にや〜っと笑った。
ルフィの広いツヤツヤのおでこが、部屋のライトをうけて不気味に光っている。
「…だから移らないってば」
「わからないだろ」
「いいわよ。遠慮するわ」
「遠慮するな。仲間だろ」

いや、だから。
どうしてたかがおでこをくっつけ合うのに、そんな高い所から振り下ろそうとするのよ。止めてよ。なに勢いつけてるのよ。あんたゴムの癖に石頭もいいところなのに、だから、なんで反動を


ゴッ!!





それから気を失ってたから、よくわからないけど。
その間、ルフィがチョッパーの所に大慌てで飛んでいって
大変だーー!!ナミが!
ナミが死んだーーー!!(大泣)」とすがりついたり
ウソップが「さらばナミ!!お前は勇敢なる海の男だった…」と直立で敬礼して、サンジに蹴り飛ばされたり
チョッパーが大激怒して、「関係ない連中は部屋に入るな!!」と遅すぎる言い渡しをしたりしたらしい。
微熱と額に食らったルフィの頭突きが相まって、頭全体が割れるように痛い。
あのルフィに頭突きされて額が割れなかったのは、幸運かもしれないが痛い。
「痛い〜〜!」
「大丈夫?航海士さん」
ロビンがうなされているナミの顔を覗き込んで、小首を傾げた。
「うう……もう…ルフィの馬鹿たれ………後で、ただじゃおかないわ…」
「ああ…船長さんなら、コックさんに甲板から吊されていたわよ」
「いい気味だわ」
「でも本人は楽しそうだったけど…」
「……そのロープ、今すぐ切ってきて」
「まあ、落ち着いてよ。それより、おでこは大丈夫?」
「ちょっと…あんまり見ないでよ」
ロビンはぎしりとベッドに腰掛けて、嫌がるナミの腕をよけ、赤くなっているおでこをさらけ出した。
ルフィより更にひんやりとしたロビンの掌が、心地よい。
「大丈夫よ。別に瘤にはなってないわ」
「そう……あー…ロビンの手、冷たくて気持ちいいー」
「そう?じゃあ、しばらく押さえておきましょうか」
「ありがと……」
思わず目をつぶって、その感触に浸っていた。
そういえば子供の頃、熱を出した時もこうやってベルメールさんに額を押さえてもらった事があったっけ…。
「…喉が渇いたなぁ…」
「お水があるわよ。飲む?」
「あ…飲みたい…」
そういえば飲ませてぇとわざと甘えたりしたなぁ…と思い出した。
ベルメールさんに抱っこされて、グラスからこくこくと飲ませてもらっていると、ノジコが「なぁにー?赤ちゃんみたいー」とからかったりしたっけ…。
そう思い出し笑いして、起きあがろうとした途端、ぐいっと後ろに引き倒された。
「?!」
ギョッとして振り向くと、ベッドから伸びた腕がしっかりとナミの肩や腕を捕まえている。もはや見慣れてきたロビンの能力だ。
「な!なに!?」
慌てて見回すと、ロビンがサイドテーブルに置いてあった水差しからグラスに水を取り、何故か自分の口に含んでいる。

まさか

「えーっと。ちょっとロビン?」
呼ばれて、ロビンが「ん?」と見下ろす。
「…ロビンも喉乾いたの……よ…ね?(願)」
ロビンは不思議そうに目を見張り、「ううん」と首を横に振った。
言葉にしないのは、口に水を含んでいるためのようだ。
「……(だらだら)あ、あの…私も水が飲みたいから…この手をはずしてほ…」
じりじりと自分の上に覆い被さってくる影に怯えだしたナミの口は、しっとりとした唇でふさがれてしまった。


「……美味しかった…?」
美しい唇をぺろりと舌なめずりして、ロビンは荒い息づかいをしているナミの、唇から漏れた水を指ですくった。
「あらあら…零しちゃって…」
うふふと楽しそうに笑っている美女を、ナミは力一杯睨みつけた。だが
「何するのよ!」
と叫んだ声は、何処か力が抜けていた。
「なにを怒ってるの?わざわざ起きなくてもいいように、水を飲ましてあげたのに」
「水ぐらい、自分で飲めるわよ!!(泣)」
叫んだがいまいち迫力がない。なにせ相変わらず拘束されたままだし。
「いい加減、離してよ!」
「そんなに暴れたら身体に障るわ?」
誰のせいで、暴れたくなってるのよ!!
ぎゃあぎゃあと叫ぶナミをあやすように、おでこに張り付いた髪の毛をロビンは優しく指でよけた。
「汗で、ぐっしょりね」
「これは、冷や汗よ!!」
「どっちにしても、汗かいたまま眠ったら、よけい身体に悪いわよ」
「……何が言いたいの…?」
遠回しに持っていこうとするそのやり方に、はっとなって身を堅くした。
「今、拭いてあげるわねV」
いらない〜〜〜!!!(大泣)
ロビンはそれは優雅にニコリと笑うと、いつの間に用意していた湯を張ったバケツの中に、タオルを浸した。
「!いいわよ!それぐらい自分でやるから!!手を出さないで!!」
「あら…遠慮しないで?綺麗に拭いてあげるから…」
遠慮する!お願い遠慮させて!なんでそんなに嬉しそうに笑ってるのよ!や、やめてボタンはずさないで…あ あ!


いや〜〜〜〜!!!


※※※


全身剥かれて身体中の隅から隅まで徹底的に、それはそれは丁寧に拭われて、ナミは何度か背中を突っ張らかせては、シーツに皺を作った。
今は新しく着替えさせられてベッドにぐったりと横たわり、しくしくと泣いている。
ロビンは妙に満足した顔で、軽く汗ばんだ顔を手の甲で拭った。
「気持ちよくなった?」
「……犯された気分よ……」
「あら…良くなかった?」
「良いとか良くないとかいう事じゃないわよ!!(泣)」
何というか。
大切な物まで、一緒に拭われてしまったような気がする…。
「私は素敵だったのに…」
「アンタが何で素敵な気分になってるのよ!!(怒泣)」
「まぁ、そう興奮しないで…せっかくの誕生日だし…」
誕生日なんて、地に落ちればいいのよ!!
騒いでいるとドカンと扉が開かれ、眉間にシワを寄せたチョッパーがどすどすと降りてきた。
「なに騒いでるんだ?ロビンなにしてるんだ?」
病人がいるせいでピリピリしてるチョッパーに、ロビンは落ち着いて答えた。
「航海士さんが汗をかいていたから、着替えさせてあげたのよ」
「…なんだそうか。ありがとう、ロビンは気が利くなぁ」
言葉だけ受け取らないでよ!!
半泣きでわめくナミに、チョッパーはまた眉をひそめて見せた。
「ナミ。病人なんだから大人しくしてろよ…」
「大人しくさせてくれないのは、この船の連中よッッ!」
マジキレしているナミに、ロビンとチョッパーはキョトンとして顔を見合わせた。
「私達がここにいると、航海士さん落ち着かないみたい…」
「そうだな…上に行こうか。ナミ寝ろよ」
「寝かせてくれないのは誰よぅ〜〜!」
泣いているナミを余所に、チョッパーとロビンは並んで出ていってしまった。
「ところで私が風邪を引いたら、船医さんは看病してくれる?」
「当たり前だろう!俺は医者なんだぞ!」
「まあ、頼もしいわね」
とか何とか勝手に盛り上がりながら。


疲れた。
とにかく疲れ切った。
確かにロビンが着替えさせてくれたおかげで、身体はスッキリしたが熱は更に高くなった気がする。
(もうイヤ)
タオルで目元を覆い、布団を頭まで被りなおしてナミはベッドの中に深く潜り込んだ。
(もうお願い……誰も来ないで…眠らせて……)




どれぐらい寝ていたか判らない。
またうなされていた所で、誰かに揺さぶられた。
ハッと目を覚ますと、ゾロが不思議そうな顔で覗き込んでいた。
「………今度は、アンタなの……」
「…言いぐさだな」
心底疲れ切ったようなナミの態度に、ゾロは眉をひそめて見せた。
「うなされてたぞ」
「うなされたくもなるわよ……何よ、何の用よ…」
グッタリと額を腕で覆うようにしているナミに、ゾロはああと言って椅子に腰掛けた。
「思ったんだがな」
思わないで!!
それ以上は刺し違いになっても言わせぬ。というナミの勢いに、ゾロがぽかんと口を開けている。
「……なんだよ……?」
「さっきから何なのよ!入れ替わり立ち替わり…人が熱出してるのに側でわあわあと!お願いだからそっとしておいてよ!なんで1人にしてくれないのよ!」
「…そりゃ、つまんねぇからだろ?」
ナミが喚くだけ喚いた所で、ぽつりとゾロが呟いた。その言葉に思わずナミが顔を上げる。
「せっかくの宴会なのに、肝心の主役がいないからな…朝からずっと上で騒いでるぜ。お前がいないとつまらないってな」
「……私の方がつまらないもん……」
それを聞いてナミは、今度こそ本当に拗ねたようにベッドに転がり、布団を頭から被った。
「…誕生日なのに……プレゼント山のように請求してやろうと思っていたのにさ…」
「…お前が請求するのも、こええな…」
「……だいたい私がいなくても、美味しい物たくさん食べたんでしょ…」
「しょうがねぇだろ…せっかくの食いモン、捨てる訳にゃいかねえだろ」
「……そうだけどさ…」
「ああ、コックがお前が治ったら全快祝いも兼ねてもっと盛大にやるって言ってたぜ」
「………」

なによ。そんなの判ってるわよ。

どれだけピントがずれていても、どれだけよけいなお世話であっても。
「どうなんだ?」って覗き込んでくる瞳は、誰も彼も優しかった。
判ってるけど、それでも頭に来るじゃない!だって誕生日なんだもん!
子供を宥めるような態度しないでよ!

…と思っていても、今の自分は全く子供だと判ってる為に、ナミはゾロを振り向けなかった。
きっと、「しょうがねぇなぁ」という顔で、それでも黙って許してるんだろう。
いや、そもそも許すとか許さないとか、そんな事も考えてないに違いない。
「……なによ」
「なにがだ?」
「…さっき、言ったじゃない…『思ったんだが』って」
「ああ…」
「何なのよ。せっかくだから、聞いてあげるわよ」
「病人の癖に、偉そうだな」
ゾロが苦笑している。そして何か重い物を、サイドテーブルにごとりと置かれた。
のそのそとナミが布団から顔を出すと、そこにはゾロの好きなアルコール度の極端に高いウイスキーが置かれていた。
「……なに?」
「風邪ってのは、そもそも身体の中のばい菌なんだろ?」
「…そういう場合もあるわね…」
「だったら、酒で消毒出来るんじゃねぇのか?」
思わずゾロの顔を見返した。
真顔である。
本当にそうだと思っている。
レベル的には、ルフィと変わらない。遙か高みでバカを競り合っている。
(やれやれ)
それでも、だるい身体を起こしたのはさっきの言葉が残っていたからか……いや、違うわ…単純に酒でも飲みたい気分だったからだ。と自分に言い聞かせた。
それに、コイツもこうしてやってきた所を見ると、「つまらなかった」からなのかも。こんな無愛想な男だけど。
そう思うと少し気持ちも和らいだ。
「コップないの?」
「いるのか?」
「用意しておきなさいよ…それぐらい…」
「じゃあ、これどうだ?」
「それ、タライでしょ!止めてよ…ったく」
きゅぽんと栓を抜くと、芳醇な香りが鼻腔をつく。鼻が少し詰まっているので、ちゃんと嗅ぎきれないのが惜しい。
「…じゃあ…いただきます」
「おう…あ、待て」
そのまま飲もうとするナミの腕を軽く止めて、少し言いにくそうにぽりぽりと頭を掻いてから、やっとで言った。
「……誕生日、おめでとう」
「……ありがとう…」
そのぶっきらぼうな言い方がおかしくて、クスッと笑った。
それからウイスキーのボトルを、思いっきりグイッと開けた…途端。
「ゲホゲホッ!グフ…ゲホゲホッッ!!」
「お、おい!大丈夫か!」
喉を焼く強さに咳き込むナミの背中を、ゾロが必死で撫でる。しかし。
・体調不良。
・朝から殆ど食べてない。
が祟り、強いアルコールは一気にナミの身体を巡った。
「おい!ナミ」
「はにゃぁぁ〜〜(@@)」
ばったりとベッドからもんどり落ちそうになったナミを、ゾロが慌てて抱き留める。
後はどうしてもナミは起きず、結果的に本人が望んでいた通り、慌てるゾロの腕の中で今度こそ穏やかな睡眠を得る事が出来た。





END


 

<管理人のつぶやき>
よりによって誕生日に熱を出したナミ。安静のはずが、誰もナミさんを放っておいてくれません
 みんなナミに会いにゾロゾロと・・・(笑)。
サンジのバースデー白粥はある意味すごい。こんなの見たこと無いよ(汗)。オリジナリティあり過ぎ。
ウソップのお話の最後のオチはイタタタタでした(笑)。
ルフィのおでこで熱移し。発想は健気で良いのですが、やり方は命懸けです。
ロビンがやったこと。できればビデオ録画してそのシーンをこっそり私に見せてほしい・・・。
チョパは言葉を額面通りに受け取る素直な人ですね(笑)。
そして、ゾロ。言うことはルフィと同レベル。「次会うときは、バカの高みだ」
ナミ〜、お疲れ様でした〜。心から安眠をお祈りいたします〜。

CARRY ONのナミ誕企画『good Girl.2』のDLフリー作品です。
rokiさん、楽しい作品をどうもありがとうございました!

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